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番外編 アレスの秘密②


ロッテンマの先導で、一行はアレスの離宮から王宮本殿へとやってきた。

セラフィムはアレスに伴われてヘリオス先王の自室へ出向き、衣装を借りる必要のないフローラと優士は庭園を散歩、子ども達と莉奈は衣装部屋へとそれぞれ別れた。


「こちらが王宮の衣装部屋でございます。ここにある衣装は代々の王族の皆さまがお召しになられたものですが、今は持ち主がおられません。どうぞお好きなものをお選びくださいませ。」


「わあ! すごくキレイ!」


美優はいち早く豪華絢爛なドレスに目を奪われたようだった。


「あぶー。」


エンジェルもぱっちりと目を覚まして、機嫌よくきらきらの衣装に手を伸ばしている。


「あの、ロッテンマさん、わたしにもかしていただけますか? じつは、あかちゃんができて、ドレスがきつくなってしまいました。」


「まあ! それはおめでとうございます。確か妊婦用のドレスが奥の方にあったかと。ご案内いたしますわ。」


「ありがとうございます。」


莉奈はロッテンマに連れられて、衣装部屋の奥へと移動した。


「いつ頃お生まれのご予定ですか?」


「まだにんしん二ヶ月ほどなので、らいねんのはるごろでしょうか」


「えっ? まあー、そうなのですか」


ロッテンマは妊娠二ヶ月でドレスがきつくなるのだろうかと首を傾げたが、個人差があるのだろうと思い直した。


「あうあー、あぶぶぶぶぶ。」


エンジェルは莉奈に抱かれながら、時折目線を下げて莉奈のお腹と会話をするかのような仕草をしている。

莉奈とロッテンマは愛らしい赤ん坊を微笑ましく眺めていた。





『わー! すごーい! ……って、デカっ! 何これ、どれもこれもデカすぎじゃん!』


美優は手に取った一着を自分の体にあてがって、あまりのサイズの違いにガッカリしている。


『ほんとだなー。美優がこんなの着て歩いたら、床がピカピカに掃除されるな。ププッ!』


『ちょっと春ちゃん、失礼なんだけど! もっと小さい服ないのかな?』


『美優ちゃん、あっちにある服はサイズが小さそうだよ? 見に行こう。』


紳士な海翔は、美優の手を取り目当ての場所へとエスコートして行った。

そこには子ども服がたくさんあり、デザインが子どもっぽいことを除けば、サイズ的には美優に合いそうなものがたくさんあった。


『……うーん……、どう見ても子ども服、だね……。』


『美優ちゃんには大人っぽいドレスより、可愛いデザインの方が似合うと思うよ? 僕も可愛いドレスの方が好きだな。』


『えっ、わたし可愛いかな? えへへ、海翔がそう言うなら可愛いの選ぶねっ。ふんふんふん~』


美優が可愛いとは言っていない。

しかし、海翔のナイスフォローに気を良くした美優は、鼻歌交じりにドレスを見繕い始めた。


『俺、どれがいいか分かんないし、ロッテンマさんに任せるわー。任せとけば間違いないってアレス叔父さんも言ってたし。』


『僕も、どれでもいいかな。』


早々に衣装選びを放棄した春翔と海翔は、ロッテンマに丸投げすることにしたようだ。


『よし、じゃあ、ロッテンマさんのところに行こうぜー。』


さっさと移動しようとする二人を、美優はあわてて呼び止めた。


『えーっ、二人とも行っちゃうの?』


『かーちゃんに手伝って貰えよ。自分の服でさえ分かんないのに、お前のドレスなんて俺に分かるわけないだろ。』


『そういえば私も、どんなドレスが相応しいとか分からないんだった……、やっぱり私もロッテンマさんにお願いする!』


うっかり白鳥ドレスのような珍ドレスを選んでしまった日には、悪い意味で注目の的になってしまう。

歴史に残るワーストドレッサーの称号だけは何としても避けねばならない。

ここは冒険するのは止めて、手堅く行こうと心に決める美優だった。





その頃セラフィムとアレスは、ヘリオスが蟄居している一室へと出向いていた。

実のところ、蟄居とは言っても、どうしても自分を許せないヘリオス先王本人が自らを自室に閉じ込めているに過ぎない。

ヘリオスの温厚な人柄を慕う者も多く、大臣達の間でもヘリオスの責任を問う声はほとんどないに等しいのだ。


室内に招き入れられた二人は、ヘリオスの向かいの席に座った。


「兄上、今日はセラフィエルを私の離宮へ招きましたので、兄上にご挨拶に伺いました。久しぶりに私たちの甥とゆっくり語り合おうではありませんか。」


アレスは意識して明るい表情を作りながら切り出した。

一段とやつれた様子のヘリオスは、セラフィムの顔をしばらく見つめてから弱々しく口を開いた。


「セラフィエル……。お前は、お前の父によく似ているな。目や髪の色はセレーネにそっくりだ。セレーネは、私たち兄弟の中で一番神力が強かった……。」


「先王陛下……。」


ヘリオスは昔を懐かしむように目を細める。


「セラフィエルが幼い頃は、私のことをヘリオス伯父さまと呼んでいたな。あの幼子がこんなに立派になって……。セレーネも、アドニスも、一目その姿を見たかったことだろう。セラフィエル、本当にすまない。お前にも、犠牲になった者にも、なんと詫びればよいのか……、私には、わからぬ……。」


セラフィムは、ヘリオスの心からの謝罪に静かに耳を傾けていた。


「ーーーまた、昔のようにヘリオス伯父さまと呼ばせていただいても?」


ヘリオスはセラフィムの問いかけにコクリと頷く。


「私には、妻と男の子が二人、それから妻のお腹の中にもう一人これから生まれてくる子どもがいます。私は、父と母との約束を守ることができました。しかし、問題がないわけではありません。」


「何か問題があるのか?」


順風満帆そうに見えるセラフィムにどのような問題があるのかと、ヘリオスは首を傾げた。


「はい。私は幼い頃より外国で暮らしていましたので、この国についての理解が足りません。ましてや、私の家族はこの国に来て日も浅いため、右も左も分からないような状態なのです。それなのに、私や子ども達が王位を継がなくてはならない可能性が高い。」


「ふむ……。」


「ヘリオス伯父さまは先ほど、どう詫びればよいのか分からぬとおっしゃいましたね。いかがでしょうか、先王としての様々な知識を私たちに授けるというのは? それが償いにはなりませんか?」


「セラフィエル……。」


セラフィムの提案に、ヘリオスは信じられないというように頭を振っている。


「死を持って償うことも一つの方法ではあるでしょう。しかし、私たちはそれを望んではおりません。私の子ども達の祖父代わりとして、どうか、生きて償う方法を選んではいただけないでしょうか?」


「く……っ、ううっ、私のようなものにまで深い慈悲の心を持つとは、お前はなんと優しい子なのだ。」


ヘリオスの目にみるみる涙がふくれあがった。

アレスがスッと差し出したハンカチを受け取り、目元を拭うと、ヘリオスはセラフィムに尋ねた。


「父と母との約束とは何なのか、聞いてもよいか?」


「ーーはい。父と母は、最期の力を振り絞って私を転移させる前に、たとえ一人になっても必ず幸せになると約束してほしいと言いました。両親のその言葉があったからこそ、私は復讐心だけに囚われることなく、自分の幸せも掴むことが出来たのだと思っています。」


セラフィムは目を閉じ、あの日の両親の姿を思い出していた。


「……っ! そうか、そのような約束を……。ーーーわかった。私は、生きて償う道を選ぶとしよう。お前の両親の代わりに、お前たちの幸せを見届けさせてくれ。」


「ヘリオス伯父さま……、これからもよろしくお願いいたします。」


「おおっ! 兄上、セラフィ! よかった、よかった!」


感極まったアレスは、がしりとセラフィムとヘリオスの手を掴むと、三人の手を重ね合わせた。

二人のやり取りを固唾を呑んで見守っていたアレスの目には、安堵の涙が光っていた。





離宮に招かれた一週間後、アダマース神殿にてアレスの結婚式が執り行われた。

広い聖堂はたくさんの花で美しく飾り付けられ、大勢の招待客が華やかな衣装を纏って詰め掛けた。

敏腕侍女長ロッテンマの活躍により、春翔たちもどこからどうみても貴族そのものといった風体に磨き上げられ、周りの貴族たちに違和感なく溶け込んでいる。

そして、祭壇近くの柱の影になった目立たない場所にはヘリオスの姿もあった。



タタタターン……



聖堂の中にピアノの音が響き渡った。

ザワザワとおしゃべりに興じていた招待客たちは、驚いてぴたりと口を閉じる。


通常であれば、貴族の結婚式であっても式の最中に音楽が流れることはない。

しかし、今回はフローラのたっての希望で、莉奈とのピアノの連弾を披露することになったのだ。



タタタターン……



厳かな聖堂に美しいピアノの音色が響く中、アレスと花嫁のマリアローラが入場してきた。

絹のような光沢のある生地に金糸の刺繍が施された、さすがは王族と思わせる煌びやかな婚礼衣装を纏っている。

お互いを見つめて微笑みあう二人は、とても幸せそうな表情を浮かべていた。


二人は一歩一歩ゆっくりと歩を進め、音楽が終わると同時に祭壇の前で立ち止まった。

息を詰めて一挙手一投足を見守っていた招待客たちから、まるで一枚の絵のような美しい場面にほうっとため息がもれた。


一同の視線が集まる中、式典用の豪奢な衣装を身に着けたパンテレイモンは、まずはアレスに、ついでマリアローラへと問いかけた。


「病める時も健やかなる時もーーー」


アリシアとレオンの結婚パーティに参加したフローラは、初めて見る異国風の結婚式にとても感動した。

両親にもぜひと熱心にプレゼンした結果、こうして二人の結婚式に結婚行進曲と異国風の宣誓が取り入れられることになったのだ。



聖堂が感動に包まれる中、美優はニヤリと笑ってその場に似つかわしくない呟きをもらした。


「これは……、儲かるっ!」


この後、アレクサンドロス王国に爆発的な異国風結婚式ブームが巻き起こることとなる。





本日、新連載を開始しました!

「辺境伯令嬢はペンタブの魔法使い」というタイトルです。

ぜひお読みいただけると大変嬉しいです。


こちらの番外編については、不定期で更新を続けるつもりです。

よろしくお願いいたします。


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