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第75話 新たなる使命…?



襲撃事件から数週間が過ぎ、国中を走った激震もようやく収まりを見せ始めた。


エルジェーベトは塔に幽閉、31年前および今回の襲撃事件に加担した者たちは罪人として拘束され、裁きを待つ身となった。

ヘリオス先王は、自分が事件の引き金となった責任を取り、おそらくは死罪となるだろうエルジェーベトと運命を共にする覚悟でいるという。



平和を取り戻したジョーンズ邸の居間では、美優が父親に何度目かの文句を言っていた。


『あの時パパさあ、姿が見えないからどこに行ったのかと思ってたら、フローラさんと二人で隠れてたんだよね! 娘を置いて! なに? パパは、人でなしかなんかなの?』


『お前な、身を隠すのはテロリスト対策の三大原則なんだぞ! Run, Hide, Fightって言ってな、逃げる、隠れる、戦うが原則なんだよ。』


『パパ、戦ってないじゃん。小学生の海翔だってみんなを守ったのに。』


美優は冷めた目で優士を見た。


『Fightはどうしようもなくなった時の最後の手段なんだよ!』


『美優ちゃん、仕方ないよ。僕たちには神力があるんだから、優士おじさんを責めるのはかわいそうだよ。』


心優しい海翔は、言い合う二人を何とか取り成そうとする。



「どうかなさいまして?」


「ミユのおとうさまは、ミユをみすててにげた!」


むくれる美優に優士が言った。


「ミユ、まもる、ハルト! フローラ、まもる、ユージ!」


優士はビシッと指を突きつけて言い放った。

どうやら美優は春翔が守るだろ、俺はフローラを守ると言いたいらしい。


つたないながらも優士の言葉が嬉しかったらしく、フローラはほんのり頬を染めている。

フローラの表情に気付いた優士も、照れくさそうに頭をかいた。

あの襲撃を二人で切り抜けたことで、今まさに優士とフローラにまさかの吊り橋効果が進行中なのだ。


『……まあ、いいけどさ。パパには幸せになってほしいし。』


甘い空気を漂わせる二人をジト目で見ながら美優はつぶやいた。





照れ合う優士とフローラの様子に興を削がれた美優は、春翔に話しかけようと春翔の方を振り向いたかと思うと、急にぱくぱくと口を動かしはじめた。


『なんだよ、美優。おかしな顔して。さては魚の顔マネだなっ!? よーし、オオサンショウウオ!』


美優はブンブンと勢いよく首を横に振る。


『お兄ちゃん、女の子にオオサンショウウオはないよ……。』


『ええー、違うの? お前まさか、自分をカクレクマノミとか思ってないだろうな? ずうずうしいぞ。』


『魚から離れてよっ! 後ろ、後ろっ!』


『え?』


春翔が振り向くと、そこには哀愁を漂わせる神の姿があった。

心なしかいつもより草臥れており、髪のツヤも悪いようだ。


『……やあ、ハハハ……。久しぶりだね。』


『あっ、神様、こんにちは! なんか元気ないですね? っていうか、その赤ん坊はっ!?』


よく見ると、神は小脇に赤ん坊を抱えていた。

乳児に見える大きさの赤ん坊を、そんな抱き方でいいのかと見ている方がひやひやしてしまう。


『あうー。』


『はは、僕の子なんだけどね……。子ども産まれたばっかりなのに、僕の奥さん出て行っちゃってさあ……。ほんと困ってる……。』


『ええっ!? 神様の子どもなんですかっ? えっ、奥さんてあの女神様でいいんですよね?』


まだ仲直りして間もないというのに、なぜもう子どもが生まれているのだろうかと春翔は首を傾げた。


『うん……、そう……。なんか僕が浮気してるって誤解? 疑惑? 不信感? なんかよくわからないけど、そんな感じでさ……。あなたが子どもの面倒見なさいよーーー!って怒鳴って出て行った……。』


『えぇ……? 本当に誤解なんですか? 信用していいんですか?』


女の勘で何かを察した美優が畳みかける。


『いや、それは。子どもにはわからないかもしれないけど、大人にはいろいろ事情があるんだよね。あれやこれや辛い日常を忘れるための癒しが必要なんだよ。だからあまり突っ込まないでほしいというか。』


『神様、浮気したんですね!?』


美優に冷たい視線を送られ、神はついに白状した。


『ハイ……。』


『ちょっとーーーー! 何やってんの!? あんなに苦労してやっと女神様に許して貰えたのに!!』


美優は頭を抱えて蹲った。


『いやあ。だって、女の子たちがさ、かわいくてさ。あれは誘惑されちゃうのも仕方ないと思うんだよね。』


『それで何しに来たんですか? まさかそんな話を聞かせるために来たんじゃないですよね?』


また仲裁役に駆り出されるのはたまらないとばかりに、春翔が用件を尋ねる。


『いやあ。僕、赤ん坊の面倒なんて見れないから。セラフィムに面倒見てもらおうと思って連れてきたんだよね。』


『『はあっ!?』』


春翔と美優は呆れかえって責めるような声をあげた。





『おい、お前たちうるさいぞ。何を騒いでるんだ?』


騒ぎを聞きつけたセラフィムと莉奈が居間へとやってきた。


『ああ、神様。いらしてたんですか。』


『あら、こちらがあの神様? 初めてお目にかかります。セラフィムの妻の莉奈と申します。主人と子ども達が大変お世話になったとか。その節はありがとうございました。』


莉奈が礼を言って深々と頭を下げる。


『ああ、うん、そうそう。大変お世話したんだよね。だからお礼にこの子の面倒見てくれるかな? セラフィム、ほーら、お前の弟だよ。』


『はあっ? なんで俺の弟なんだっ!』


セラフィムは、差し出された赤ん坊を受け取るのを断固拒否した。


『この子は僕の子だし、セラフィムも僕の子どもである初代国王の生まれ変わりなんだから、兄弟じゃないか。』


『いや、違うだろ!』


『そんな固いこと言わずにお願いー。おーねーがーいー。』


『莉奈ママ、この神様って莉奈ママが怪我したとき助けに来てくれなかったんだよ! 私、必死で呼んだのにさ。だから、そんな薄情な人のお願い聞いてあげることないと思う!』


自分勝手な神にイラついた美優が告げ口をする。


『は? 何を言っているのかな? キミ、ただのそんじょそこらの小娘でしょ? 神であるこの僕が小娘の呼びかけなんて聞くわけないじゃん。僕に用事があるならセラフィムか、セラフィムの子ども達が呼ばないと聞こえないよ。変な言いがかりをつけるのは止めてもらおうか。』


神は高慢な態度で美優の恨み言をはねつけた。


『むむむ!』


小娘呼ばわりされてむくれる美優は、ぷくっと頬を膨らませたハコフグのようだった。


『あのー、神様、私これから高齢出産する身なんです。この年で二人の赤ちゃんを同時に育てるなんて、とても無理です。この世界の子育ては、おむつを洗うのも、お風呂に入れるのも、トイレトレーニングだってきっと大変な苦労だと思うんです。』


『え、年が問題なの? なーんだ、それじゃ10歳若返らせてあげるよ。お風呂とトイレはこの階に作ってあげる。水でもお湯でも24時間いつでも使い放題、掃除いらずの優れものだよ。いやあ、すぐに問題解決してよかったなあ。』


『待て! 解決してないぞ!』


『いいの、セラフィ!! よく考えてっ! 私たち5年も離れ離れだったのよ? 二人でいられる時間は後どれくらい残っているの? それが、10年! 失った時間の倍の時間が取り戻せるのよっ!』


いつの間にか莉奈は、神の提案に大乗り気になっていた。


『なるほど……。それはアリかもしれん。神様、それじゃあ、妻がこう言ってますので。』


セラフィムは妻に言われるがまま、あっさりと手の平を返す。


『神様、子育てには優士さんの協力も必要不可欠です! ついでに優士さんも10歳若返りをお願いします!』


莉奈がなぜか優士の若返りもねじ込んできた。

急に名前を出された優士もエッと驚いている。


12年もの間男やもめを貫いていた優士が、最近フローラといい雰囲気なのを見ていた莉奈は、これを機に優士にも新しい幸せを手にしてほしいと願ったのだ。


『はいはーい。よかったあー。もー、奥さんが家出してから30分も一人で子どもの面倒見てたからさあ、僕ヘトヘトだよ。はい、じゃあ、よろしくね。』


神はそう言って小脇に抱えた赤ん坊を、ひょいっと莉奈に手渡した。


『えっ、自分の子どもなのに、たったの30分で音を上げて他人に押し付けるって……。ほんと、こんな大人になりたくない。』


神は美優の辛辣なセリフを綺麗に無視すると、さっさと指をぱちんと鳴らして約束のものを揃え、退散の態勢に入った。


『その子、力が安定したら自由に大きくなったり小さくなったりできるから、手がかかるのはほんと最初だけだよ。じゃあ、気が向いたときに迎えに来るから~。』


そう言い残して神は消えてしまった。


『気が向いたとき迎えに来るって……。聞きしに勝る自分勝手さねえ。この子の名前すら言っていかなかったわ。』


『まったくだ。生まれたばかりの自分の子をよくもまあ他人に預けられるな。』


『あぶー。』


『ふふ。この子も呆れてるみたいな顔してる。それにしてもかわいいわね。本物の天使みたい!』


ぷくぷくのほっぺたをつつきながら、莉奈は赤ん坊の愛らしさに頬を緩ませた。





セラフィムは莉奈と赤ん坊をソファに座らせると、莉奈の手のひらに神力を満たした公爵家の指輪をそっと乗せて言った。


『莉奈、これを受け取ってほしい。』


『これは……、あなたのご両親の形見の品でしょう? 小さい頃から肌身離さずずっと持っていたじゃない。こんな大切なもの、とても受け取れないわ。』


莉奈は首を振って固辞した。

セラフィムは指輪を摘まむと、莉奈がつけていたネックレスの留め金を外して、指輪をペンダントヘッドのようにして鎖に通した。


『いいんだ。この指輪が莉奈とお腹の子どもを守ってくれる。持っていてくれないか? もう二度と、あんな思いはしたくないんだ。』


セラフィムは矢に射抜かれる莉奈の姿を生々しく思い出し、ぞっとした様に身を震わせた。


『ーーわかったわ。大切にするわね。どうもありがとう。』


莉奈は夫に優しく微笑みかけると、胸元の指輪をぎゅっと握り締めた。





セラフィムは近々アステール王に謁見し、正式に名を取り戻すと同時に公爵位を拝命する運びとなった。


ウィルの力によって快癒したアステール王は、内々に正当な王位継承者であるセラフィムへ譲位を申し出たが、セラフィムはアクティース公爵領の建て直しに専念させてほしいと言ってこれを辞退した。


アステール王は残念そうに了承してくれたが、すぐにではなくてもいずれそうなることを考えておいてほしいと言い含めるのも忘れなかった。


対処しなければならない問題は山積みだったが、これからはきっといい事ばかりが起こる、そんな漠然とした予感があった。


明るい希望を胸に、一つ一つ問題を解決していけばいい。

まずは愛する家族を守るところから始めよう、家族の存在が俺を強くしてくれるのだ。

セラフィムは幸せを噛み締めながら、心の中でそうつぶやいた。





最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

以前に投稿した分で、改行が消えてしまっているページが複数見つかり、気付いたところは修正させていただきました。

修正前にお読みいただいた方は、読み辛くなってしまい大変申し訳ありませんでした。

この読み辛さを乗り越えて最後まで読んでくださった方には、本当に感謝の気持ちでいっぱいです!


この後は本編に書けなかったエピソード、アレス叔父様の秘密や氷・風・土の守護精霊の話、神の子とこれから生まれてくる子どもの話などを、番外編として不定期更新したいと思っています。

そちらもぜひお読みいただけると嬉しいです!

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