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第54話 贅沢な通学手段



「もー! おとうさま、ミユははずかしい! おなまえは、パンテ、レイモン、さん!」


美優は優士に聞き取りやすいように、ゆっくりとパンテレイモンの名を口にした。


「わかった! パンテー・レイモンー・サーン!」


「ふっ、くくくっ、よろしければ私のことはレイモンとお呼びください。」


「レイモン!」


アダマース神殿の高位聖職者、それも神儀を取り仕切るほどの立場の者をいきなり呼び捨てて良いのだろうか。

セラフィムは頭を抱えたくなった。


「……アレス叔父様、言葉と礼儀作法などを教えてくれる家庭教師がいればと思っているのですが、どなたか口の堅い方をご紹介いただけないでしょうか?」


「家庭教師か。うむ、将来のことを考えれば、貴族として最低限の礼儀作法は身に着けておくべきだろう。子ども達は学校でも学べるが、大人たちにはやはり家庭教師が必要だな。よし、私の知り合いに打診してみよう。ちょうどこちらにピュウがいるから手紙を託せる。」


「ありがとうございます。」


この国で暮らす以上、やはり子ども達を学校へ通わせるべきだ。

勉強のみならず、人脈を作る上でも学校へ通うことは決して無駄にはならない。


それは分かっていたが、しかしエリミアの街には平民向けの学校しかなく、貴族としての教育を受けるためには王都の学校に通う必要があった。

やっと5年ぶりに家族揃って暮らせるというのに、またすぐに離れ離れになってしまうのは何としても避けたい。


しかし、いずれアクティース公爵家を再興すると心に決めたからには、代官の横暴を放置して家族揃って王都へ移り住むこともできない。

この領地と領民を守るのは自分の役目なのだ。

セラフィムは、傍らに寄り添う家族の顔を見ながら、物憂げな表情を浮かべた。


「セラフィ、浮かない顔をしてどうしたのだ?」


「ーーはい。子ども達を王都の学校へ通わせるべきだとは思うのですが、また離れ離れになってしまうと考えるとどうしても躊躇してしまうのです。」


セラフィムの発言に、当事者でありながら学校問題のことは初耳だった子ども達が驚いた顔をしている。


『え、俺たち王都の学校にいくの?』


『ええーっ! そんなの嫌だよ。あんな遠いところに行ったらなかなか帰ってこれないじゃない! 私は行きたくない! この街で皆と暮らしたい!』


馬車での長旅に辟易していた美優は、断固拒否の構えだ。


『僕は王都に行ってみたいなあ。どんなところか興味ある。』


どれ程遠いかを知らない海翔は、のほほんとした顔で王都へ行ってみたいと言った。


「カイトは王都へ行きたいの? カイトが行きたいならいつでも連れて行ってあげるわ。他の国にだって行けるわよ。」


海翔のそばにパッと現れたスカーレットが、海翔の行きたいところに連れて行ってあげると言いだした。


『えっ、海翔だけ連れてくのかよ?』

『春ちゃん、どうしたの?』


『海翔の精霊が王都に連れてってあげるって言ってる。外国にも行けるって。』

『えっ、そうなの!? だったら、王都の学校にここから通えるじゃない!』


「そうか、その手があったか! スカーレット、子ども達を王都の学校に通わせたいんだ。ここで皆で暮らせるように、送り迎えしてくれないかな? 頼むよ!」


セラフィムは目の前でパンと手を合わせてスカーレットに頼み込んだ。


「別に。いいけど。」


「スカーレット、大丈夫なの? 毎日送り迎えなんて大変なんじゃない?」


海翔はスカーレットを心配そうに見た。

海翔に心配されたことが嬉しいのか、スカーレットは頬をピンクに染めてはにかんだ。


「私は大丈夫よ。ここには神力が有り余っているから毎日でも問題ないわ。」


「そうなの? スカーレット、すごいよ! 一瞬でいろんなところに行けるなんてわくわくするなあ。」


「フフッ、どこにだって連れて行ってあげるわ。」


スカーレットはキラキラと輝くような笑顔を海翔に向けた。


海翔とスカーレットのやり取りを聞いていたアレス叔父は、転移話に便乗して家庭教師も転移で呼べないかと思案していた。


「フェニックス、その転移なのだが、王都から家庭教師を連れて来て貰うことは可能だろうか? その人物は王都から出たことがない女性で、馬車での長旅に耐えられるか分からないのだ。それに道中の危険も避けたい。」


「……。」


スカーレットはアレス叔父に返事をしないばかりか、そちらを見ようともしない。


「フェニックス? おかしいな、聞こえないのか?」


「……フェニックスって呼ばないで。私はスカーレットよ。カイトが付けてくれた名前なんだから。」


スカーレットはアレス叔父をじろりと見て、文句をつけた。


「そ、それは失礼した。スカーレット、それで家庭教師をーー」


「いやよ。」


無情にも話の途中でばさりと切り捨てる。


「えっ、スカーレットだめなの? 僕のお母さんや優士おじさんには家庭教師が必要なんだ。この国に住むからには、いろいろなことを勉強しないといけないから。」


「だめじゃないわよ。そうだ、カイトも一緒に王都へ行きましょう。行きたいって言ってたわよね。」


海翔が頼むと、スカーレットはあっさりと二つ返事で了承した。


「は、ははは……。なかなかこういう対応をされることはないな。貴重な体験だ……。」


スカーレットの塩対応に、少ししょんぼりしながら乾いた笑いを漏らすアレス叔父だった。


精霊の姿が見えないどころか存在すら知らない莉奈と優士は途中から話についていけなくなっており、突然会話が飛ぶのはなぜなのかとしきりに首を傾げている。

セラフィムはそんな二人に、後で屋敷を案内しながら説明するよと言ってにこりと笑った。




ふとテーブルの方に目をやると、ケイラと手伝いの娘達がテーブルの上に莉奈たちの分も食事の支度を整えてくれていた。

それを見て、セラフィムはケイラに食事をする人数が増えたと伝えていなかったことを思い出した。


「ケイラ。突然人数が増えてすまない。私の妻のリナと、下の息子のカイトと、ミユの父親のユージだ。ついさっき到着したところなんだ。」


セラフィムは美優を自分の娘と紹介していたことも忘れて、優士を美優の父親と紹介した。

ケイラは内心首を傾げたが、美優とよく似た優士の顔を見て、本当の父親は優士なのだろうと納得した。


「まあ。奥様とお坊ちゃまと、お嬢様のお父様でいらっしゃいますか。私はケイラと申します。どうぞよろしくお願いいたします。夫のマルクはただいま庭の木の始末をしておりますので、後でご挨拶させていただきます。


こちらは臨時で手伝いに来ている私の親戚の娘たちです。さあさあ、お食事の用意が出来ておりますので、こちらのお席へどうぞ。」


「よ、よろしくおねがいします。」


莉奈は使用人らしき女性陣に驚きつつも挨拶を返した。


「ケイラさん、庭の木がどうかしましたか?」


パンテレイモンが席に着きながら尋ねた。


「はい、先ほど突然数本の木が折れてしまいまして、それを片付けているところなのです。」


「ああ…、そう言えば木が折れるような音が聞こえましたね。」


「あら。私の精霊が手当てをすれば直るわ。切り倒さないでそのままにしておいて。」


エウフェミアは折れた木の手当てが出来るという。

丹精して育てた木が突然何本も折れてしまったことで落ち込んでいたマルクを見ていたケイラは、エウフェミアの提案にぱっと表情を明るくした。



一同が席に着くと、テーブルの上に肉をソテーしたもの、スープ、パン、果物などシンプルな昼食が並べられた。

日本でもよく見るようなごく普通の洋食だ。


『かーちゃん、醤油と米持ってきてくれた?』


『持ってきたわよ。作り方も調べてきたけど、醤油なんて手作り出来るのかしら?』


『そこは気合で! なんとか作ってくれ! あと俺、和食たべたいから作って!』


春翔は早速、母親に和食を作ってくれるようねだっている。


『私も食べたい!』


『俺も食べたいな。何しろ5年ぶりだからな。』


美優やセラフィムも口々に和食を食べたいと言い出した。


『そうよね、5年も食べてなかったら食べたくもなるわよね。わかったわ。今日の夕食は私が作るわね。でもキッチンの使い方がわからないから美優も手伝ってよ。』


今夜は和食が食べられると聞いて、わあっと歓声があがった。

日本語の会話が分からないアレス叔父達が不思議そうに見ている。


「なにやら嬉しそうだが、どうしたのだ?」


「はい。今夜は私の妻が故郷の料理を作ってくれることになったので喜んでいたのです。私の妻は料理が上手いので、皆さんも期待していてください。」



悪気なくナチュラルにハードルを上げるセラフィムだった。






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