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第52話 待ちわびた再会②



ぼやけていた意識がだんだん明確になり、莉奈は自分を覗き込むセラフィムの姿に気が付いた。

目の前にいるのは何年も探し続けていた夫その人だと認識した莉奈の目に、みるみる涙が溜まっていった。


話したいことはたくさんある筈なのに、唇が震えるだけで言葉にならない。

ただ、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。


『莉奈…、莉奈…っ!』


セラフィムの方も言葉にならず、莉奈の名を繰り返し呼びながら涙を流すだけだった。

二人は夢ではないことを確かめるようにお互いの顔をじっと見つめ、それからきつく抱き合った。



(とーちゃん、かーちゃん、よかったな。)



春翔は二人の邪魔をしないようにと、声をかけずにそっと傍で見守っていた。

美優も気を使ってしばらく黙っていたが、あまりに抱擁が長い。

かれこれ5分は抱き合ったままだ。

春翔と美優はしびれを切らして、こっちはこっちで海翔と優士を起こすことに決めた。


『おーい、海翔! 起きろ!』

『パパ! パパ! 起きて!』


春翔と美優は、ソファに座ったまま気を失っている二人をゆさゆさと揺さぶった。


『ーーん……。お兄ちゃん?』

『起きたか、海翔! 久しぶりだな!』


春翔はニカッと笑って、ぼーっとしている弟の頭をぐりぐりと撫でた。


『パパ! パパってば! 起きてよー!』

『うーん……、あと5分……。』


優士は寝ぼけているのか、日本の自宅で寝ている気になっているようだ。


『会社に遅刻するよ! もう8時だよ!』

『なにっ!』


遅刻と聞いてがばりと身を起こした優士は、目の前にいる娘の顔を見てハッと状況を思い出した。


『美優っ! みゆ、うううーーーっ!』


思い出すと同時に、優士の両目からダーッと涙があふれ出た。

ある日突然、亡くなった妻の忘れ形見である愛娘が学校帰りに行方不明になってしまった。


学校にも警察にも連絡し八方手を尽くしたが、安否は分からなかった。

食事も喉を通らず、莉奈から美優が見つかったと電話がかかってくるまで、優士は半ば生ける屍のような状態になっていたのだ。

だが、大事な一人娘はこうして生きていた。


電話を受けたときは半信半疑だったが、海翔のスマホの写真を見せられて希望が湧いた。

あの時信じたおかげで、こうして再び愛娘を腕に抱くことができたのだと、優士は幸せをかみしめた。


『パパっ! ううっ、うわーん!』


今まで明るくふるまっていた美優だったが、父親の顔を見て安心したのか、優士につられたのか、大声で泣き始めた。



『『……。』』



両隣で繰り広げられている感動の再会劇から、春翔と海翔はすっかり置いてきぼりになっていた。

父と母の頭からは、子どものことはすっかり抜け落ちているようだ。

春翔は兄として、ぽつんとしている海翔がかわいそうになり、父の背中をツンツンつついて子どもの存在を思い出させようと務めた。


……しかし、完全に二人だけの世界にどっぷり浸かっているセラフィムには、そんな健気な子どもの気持ちはまったく伝わらない。


『とーちゃん、いつまでやってんだよ! 海翔もいるんだぞ!』


春翔にバシバシと背中をたたかれて、ようやく顔をあげたセラフィムは海翔の方に顔を向けた。


『ズビ……、おお! 海翔っ!』


涙で顔がぐしゃぐしゃの父にいきなり抱きすくめられて、海翔は目を白黒させていたが、5年ぶりの父との再会に海翔の目からも涙があふれ出た。


『お父さん……、お父さんっ! わああーーーっ!』


春翔はあちらでもこちらでも大泣きしているカオスな状態に少し笑いながらも、その目にはやはり涙が光っていた。





『それにしても、すごい荷物だなあ。』


春翔はソファを見て、よくこんなに持ってこれたものだと感心した。

ソファの背もたれとアーム部分にまで荷物が山盛りに積み上げられて、梱包用の紐で厳重に括り付けられているのだ。


『あ、うん。最初はカバンに詰め込んでたんだけど、やっぱりそんなには入らなくてさ。それに、三人手を繋いだだけだと、手が離れちゃったら置き去りになるかもしれないから、ソファに座ってた方が安定するって言われて。ソファごといけるなら荷物を積めるだけ積もうってことになって、それでこうなった。』


海翔は得意そうに笑った。


『へえ? あの神がそんな親切なアドバイスしてくれるわけないよな。フェニックスが教えてくれたの?』


『え? フェニックスって何?』


『何ってお前の精霊だろ? フェニックスなんだよな?』


『精霊?』


春翔と海翔は、会話がかみ合わないことに揃って首を傾げた。


『あれ? 神が日本にいた海翔の精霊のフェニックスに連絡してくれた筈なんだけどな。今ここにいるってことは、写真とかメールとかちゃんと届いてたんだろ?』


『あ、うん。届いたよ。もしかして、フェニックスってスカーレットのことなの?』


『スカーレット?』


やはりかみ合わない。

見かねたように、海翔と同じくらいの年齢の女の子がフッと現れた。


『春翔、私のことはフェニックスって呼ばないで。私には海翔がつけてくれたスカーレットっていう名前があるんだから。』


『あ、こんにちは。君がフェニックスかあ。俺のこと知ってるの?』


『当たり前でしょう。今まであなたに見えなかっただけで、私はずっと傍にいたわよ。』


赤い髪の女の子はツーンと顔を背けた。


『えっ、お兄ちゃん、スカーレットが見えるのっ? 急になんでっ?』


『お前こそ、いつから見えてたんだよ?』


『え、僕は物心つく頃にはもう見えてたけど……。』


『はあ!? なんでだよ? 俺ととーちゃんはものすごくつらい修行を乗り越えて、やっとの思いで神力を発動できるようになったのに!!』


海翔は何の修行もせず、幼い頃から精霊が見えていたという。

つまり、生まれつき自由に神力を発動できていたのだろうと思い至った春翔は、不公平だとばかりに弟に食って掛かった。


『神力って何?』


『かーっ! そこからかよ? お前、何の苦労もしてないってずるいぞ!』


『ちょっと、春翔。海翔に変な言いがかりつけないで。生まれつき出来る人は出来るんだから仕方がないでしょ。』


スカーレットは恨みがましい目で海翔を見る春翔を叱り、あからさまに海翔をえこひいきする。





『あなた、さっきから子ども達はスカーレットだとか精霊だとか、何を言っているの?』


隣で涙を拭きつつ子ども達の会話を聞いていた莉奈だったが、精霊の姿が見えない莉奈には話している内容がよく理解できない。

ところどころ会話が飛ぶのは何故なのだろうかと首を傾げていた。


『んー、まあ、そこらへんの込み入った話はおいおい話すよ。とりあえずは今から俺の叔父と客人のエルフに紹介することになるから、心の準備をしておいてほしいな。おい、優士もだぞ。おーい、聞こえてるか?』


『ああ、聞こえたよ。叔父さんとエルフさんていう人に会うんだろ?』


『エルフは名前じゃなくて種族だぞ。失礼のないようよろしく頼むな。』


セラフィムは、どう見ても理解していない様子の優士に釘を刺した。


『ええと、種族ってどういう意味だ?』


案の定通じていなかったが、無理もない。


『ファンタジー小説や映画に出てくる美形で長命な種族、わかるよな? 自分の目で見るまでは信じられないだろうが、そのエルフが俺の叔父と一緒にこの屋敷に滞在中なんだ。』


『そうか……。まあ、お前の家のリビングにいたのに、気付いたら全然違うところにいる時点でファンタジーだもんな……。うん、うん、エルフに挨拶するんだな。理解した。』


『お前はアレクサンドロス語を話せないのに悪いな。』


セラフィムは眉を下げて詫びた。


『何言ってんだよ、俺もちょこっと分かるよ? 美優が小さい頃は、お前に習ってきたアレクサンドロス語にさんざんつき合わされたもんだ。アレクサンドロスに呼ぶって連絡があってから、日常会話を三人で特訓したしな!』


『そうだったのか、それはよかった。じゃあ、さっそく自己紹介してみてくれ。』


優士は頷くと、得意満面な顔でアレクサンドロス語を口にした。


「こんにちは! おなまえは、ユージ・カヤマ! ユージは39さい!」




「…………たのむ、冗談だと言ってくれ……。」







本日もう1回投稿します。

ジョーンズ邸間取り図です。

※第53話ではありません

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