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第5話 初めての竜車はなかなか辛いです




春翔は、朝の日差しの眩しさで目が覚めた。

一晩経ってもまだ平原だ。

やはり自分たちが日本からアレクサンドロスに来てしまったことは現実のようだ。


「おはよう、よく眠れた?」

「アリシアさん、おはようございます。」

「早いのね。もう少し寝ていてもいいのよ?」

「太陽がまぶしいです。」

「ふふ、眩しくて寝てられないのね。じゃあ朝食の支度を手伝ってくれる?」

「はい!」


朝食の匂いにつられたように、皆が続々と起き出してきた。

剣竜と馬はとっくに起きて、もりもりと草を食んでいる。

食事を終え、出発の準備を整えると、一行は領都へ向け出発した。


春翔と美優は汚れることに備え、今日も学校指定のジャージ姿であった。

レオンとエヴァンスは馬に乗り、竜車の御者席にランス、その隣にブルースが座り、竜車の後ろにアリシアと美優が乗っている。


春翔は今日も自転車だ。

春翔も竜車乗ってみたかったが、自転車を乗せるスペースがないので仕方がない。


「わぁ、動いた!ミユはりゅうしゃに乗るのはじめて!」


美優がきゃっきゃとはしゃいでいる。


「ハルトもりゅうしゃに乗りたかった…」

「その乗り物置いてく訳にいかないじゃないか。俺が乗れれば代わりに乗っていくけど。それ、俺も乗れるのかな?なんで動くのかほんと不思議だよなぁ~。」


しょんぼりする春翔をエヴァンスが慰めつつ、ちゃっかり乗ってみたいアピールをしていた。


「エヴァンスさんは乗れると思う。かんたんです。でもここは草がたくさんだからちょっとむずかしいです。」

「ハルトは馬に乗れるのか?乗れないなら俺が教えてやるよ。だからその乗り物の乗り方教えてくれ。」

「はい!」


「ミュウ、あまりはしゃぎすぎて落ちないでね。」

「はーい!」


「はは、やっぱり子どもがいると賑やかだぜ。」

「本当だね。早く家に帰りたくなるよ。」


年少組のやりとりに目を細める年長組であった。





数時間が経つころ、美優に異変が起きた。


「ミュウ?どうしたの?さっきから静かだけど。」

「おしりが…おしりが…」

「尻がどうしたー?割れたか?」


美優とアリシアの会話が聞こえたようで、エヴァンスが茶化してきた。


「いたいーーーー!」

「おわっ、なんだよ。急に叫ぶなよ。馬が驚くだろ~。」

「竜車に初めて乗るって言ってたものね。でも、馬車に比べたら竜車のほうがずっと振動が少ないのよ?」


美優とアリシアは荷台の板に直接座っていたのだが、日本の車や自動車に乗り慣れた美優にとって、クッションのない板の上で竜車の振動に耐えるのは至難の業だったようだ。


「昼にはまだ早いが、この辺で少し休憩しようか。」


ブルースが涙目になっている美優を見かねて休憩を提案してくれた。



「ううーーー、いたいよう。」

「何か下に敷いたほうがいいわね。私のマント貸してあげるわ。小さくたたんで座れば少しは楽よ。」

「アリシアさん、ありがとう。」


美優はお礼を言ってマントを受け取り、小さくたたんだ。そして自分のレインポンチョをかばんから取り出して、マントが汚れないように包んでお尻の下に敷いた。


「ミュウ、それは布なの?つるつるしてるし、何かの皮かしら?昨日は暗くてよく見えなかったけど、そんなに鮮やかな綺麗な色だったのね。」

「これ?これは雨の日にきるものだよ!ぬれない!」


そういって、せっかく設置したクッション代わりからポンチョを引き剥がして広げて見せた。


「こうやってきる!」


頭からズボッと被り顔を出して見せた。


「へぇ~、かわいいわね!」

「おお、これはきれいな布だ。」

「あの柄はどうやって染めたんだ?」


皆が集まってきて口々に言った。


『そんな、かわいいなんて~照れるぅ~』

『お前…ポンチョがかわいいって言われたんだぞ。分かれよ。』


クネクネする美優に冷静なつっこみを入れる春翔であった。


「そろそろ出発しようか。」

「はーい。あ、うさぎだ!」


美優がブルースの方に目をやると、ブルースの後ろにうさぎがいるのが見えた。


「あら、ほんと。あのうさぎを囲んでちょうだい。」


アリシアがそういうと、うさぎの周囲に一瞬で水の檻ができた。

そこへレオンが歩いて行き、上から剣で一刺しして殺した。


「今日の晩飯にするか。」

「「ななななな!」」


一連の流れるような作業についていけず、春翔と美優は混乱していた。


『えっ、うさぎ殺しちゃうの?』

『それよりあの水の檻だろ。あれなんだよ?』


「相変わらずいい腕だな。」

「そんな、私は精霊にお願いしているだけよ。」


レオンに褒められてはにかむアリシアの頬が少し赤い。


『んんっ!?なんか甘い雰囲気が漂ってる?』

『そうかぁ?』

『間違いない!アリシアさんがレオンさんを見つめるあの目!あれは恋する目だよ!』

『ふうん…。そんなことより、うさぎからダラダラ血が流れてて怖いんだけど…。』

『そうだね…。血まみれで甘い雰囲気を醸し出せるとは上級者だね…。』


レオンはアリシアと話しながら、血抜きのため首を切りつけたうさぎの足を縛り、竜車の横に括り付けていた。



「おーい、もう出発するぞー。」


再び竜車がガタゴトと動き出した。

春翔は竜車の淵に手をかけて、ちゃっかり自転車ごと剣竜に引っ張ってもらうことにしたようだ。

美優は待ちかねたようにアリシアに問いかけた。


「アリシアさんはレオンさんがすき?レオンさんもアリシアさんがすき!」

「ええっ、急に何を言い出すの?」

「さっきなかよしだったね!」

「え、ええ。そうね、仲良しよ。私とレオンは同じ村の出身なの。

レオンのおかげで私はこの仕事につけたのよ。レオンがいなければ今頃私は…。」


そしてアリシアはウィンタースティーン商会の仕事をすることになった訳を語り始めた。






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