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第45話 呼び寄せ計画



夕食を終えて自室に戻ると、春翔は足早に窓辺に近づき充電していたスマホを手に取った。

午後からの時間で充電出来ただろうかと心配しながら電源ボタンを長押しすると、無事に果物マークが浮かび上がる。


『おお、やったー! 充電できたぞ。これなら今夜日本に連絡できるな!』


春翔はスマホを片手に、喜び勇んでセラフィムのいる2階へと駆け下りていった。


『とーちゃんー!』


『春翔、家の中を走るんじゃない。アレス叔父様が驚くだろ。』


セラフィムはバタンと扉を開けて飛び込んできた春翔に、廊下を走るなと学校の先生のような注意をした。


『スマホ、充電できたー!』

『本当か! じゃあ今から莉奈に連絡できるな!』


二人は扉を開けっ放しで大声で話していたため、話し声を聞きつけた美優も部屋にやってきた。


『春ちゃん、充電できたの? やったあー! じゃあ早速メールの文章入力しようよ。』


『よし! 持ってきて欲しい物は米と醤油と肉だったな! どれくらい持って来られるのかなあ?』


『いやいや、それより先に迎えに行く日をちゃんと伝えてよね。』


呆れ顔で釘を刺す美優だったが、春翔の耳には入っていない。


『春翔、スマホを貸せ。長い文章は送れないのに、食べ物で埋め尽くされたらかなわないからな。』


そう言ってセラフィムは春翔からサッとスマホを取り上げた。


『ああっ、俺のスマホなのにー。じゃあ、せめて醤油だけでも……。』

『必要事項を伝え終えて、それでもスペースが余ったらな。』

『ちぇーーー。』


セラフィムがスマホに表示された日付を確認すると、今日は地球の火曜日だということがわかった。

メール画面を開き、5日後の日曜日に迎えに行くので三人揃って家で待っていてほしいこと、持ち込みたい荷物はリュックのように体に密着する鞄に入れてほしいことを入力していった。


そして、春翔の希望の食べ物類についてと、中世ヨーロッパ程度の文明しかないため、家庭の医学や物の作り方等の役立ちそうな本類も持ってきてほしいと書いた。


『本なんか必要なのかな? 俺、こっち来て教科書なんか一回も開いてないんだけど。』


『色々な物の作り方がわかれば便利だろ? 醤油の作り方なんか暗記してこれる筈ないからな。』


『あ、そうか。醤油の作り方は絶対に必要だ! ”物の作り方”の前に”醤油等の”って入れたほうがいいと思うな!』


セラフィムは和食にこだわる息子のリクエストに苦笑しながら、メール文章に醤油の文字を追加した。


『セラパパ、ちょっと長すぎて一画面に収まりきらなくない? 箇条書きにすれば? あと、改行もスペースがもったいないから一文字だけ空けたほうがいいんじゃないかな?』


『それもそうだな。--よし、こんなもんだろ。春翔、美優、どうだ?』


セラフィムからスマホを受け取って文章を読み終えると、美優は時間を指定しなくていいのかと尋ねた。


『時間なあ。あの神がこっちの決めた時間に呼び寄せてくれるのかな? まあ、それを言うなら日曜日って言うのも聞いてくれるかどうか分からないがな。』 


『『ああー……。』』


春翔と美優はいいかげんで自己中な神を思い浮かべて、がくりと肩を落とした。


『まあ、そう気を落とさず、頑張って交渉してみよう。』

『そうだね! じゃあ、早速神様を呼ぼうよ!』

『よーし!』


『待て待て。3階の春翔の部屋に移動しないか? 人目がないほうが良いだろう。2階は使用人が上がってくるかもしれないし、アレス叔父様たちもいるからな。』


春翔と美優は頷くと、セラフィムの後に続いて階段を上がって行った。




ぱたんと春翔の部屋の扉を閉めると、セラフィムと春翔は神力を発動して神に呼びかけた。


『神様、話があります。来て下さい!』

『神よ、私たちに与えられた使命は達成された。姿を現わし、私たちの願いを叶え賜え。』



シーン……



『また来ないね?』

『なんか、いっつも最初無視するよな? 悪口は聞こえるんだから、最初から聞こえてるとしか思えないんだけど。いい加減ワンパターンだよ。』

『確かにな。』


三人は顔を突き合わせて、呼びかけに応じない神への不満を口々に言い合った。


『『神様、ワンパターンだよーーー!!』』




『誰がワンパターンだッ! 僕は美しいだけでなく忙しい身なんだよ。我がまま言わないでほしいな、まったく!』


そんなセリフと共にぷりぷり怒りながら現れた神は、なぜか腰に布を纏っただけの半裸であった。


『おい、何で裸なんだ。服を着ろ服を!』


『どうせ脱ぐんだからこのままでいいよ。僕は取り込み中だったんだ。良いところだったのに邪魔してくれちゃってさ、早く帰らないとエラちゃんに怒られちゃうよ。』


神は片手を腰にあて、もう片方の手で金色の髪をサラッとかき上げた。

半裸で無駄な色気を振りまく神を、美優が白い目で見ている。


『おい。子どもの前で変なことを言うなよ? 教育に悪いだろう!』


『あーはいはい。ガミガミうるさいな。それで何の用? ていうかさあ、この部屋狭すぎて息苦しいよ。ちょっと広くさせてもらうからね。まったく、僕に相応しい場所かどうか考えてから呼んでほしいものだよ。』


神はそう言ってパチッと指を鳴らすと、部屋は一瞬で30畳ほどの広さの豪華な部屋に早変わりした。

勝手に何部屋分もの壁をぶち抜いてリフォームしたようだ。


神の趣味と思われる黄金の調度品がまばゆく輝く室内は、どこの宮殿かと思うような豪華さだ。

激変した部屋に一瞬あっけに取られたセラフィムだったが、気を取り直して交渉を続けることにした。


『ごほん。女神のことを解決したら家族をこっちに呼んでくれる約束だった筈です。』


『えー、そんなこと言ったっけ?』


『---まさか、神ともあろう方が、約束を反故にする気ではありませんよね?』


こめかみに青筋を立てて静かに怒るセラフィムに、神はシャキッと姿勢を正して慌てて言い繕った。


『やだなあ。ちゃんと覚えてるし、きっちり守るから! こう見えても僕は約束は守る男なんだ。信用してくれたまえ! ははっ!』


ほんとかよと言いたい気持ちをぐっと堪えて、日曜日に家族を呼んでほしい事と、迎えに行くことを家族に連絡してほしい事を伝えた。


『はあー、めんどくさー。さっさと終わらせるよ。まずは連絡ね、じゃあ画面見せて。』


『はい! これです!』


春翔が神の前にさっとスマホを差し出すと、神は面倒くさそうに画面を一瞥した。


『ーーーあ、フェニーちゃん? 今からイメージ送るからさあ。また鏡に映して海翔に見せてやってー。そんじゃーねー。』


前回の連絡よりも明らかに投げやりである。

神は火の精霊フェニックスに一方的に用事を言いつけると、春翔たちに向かって言った。


『じゃあ、僕は帰るからね。もう邪魔しないでよね、まったく!』


『あっ、神様! 日曜日よろしくお願いしますね? 日曜日は5日後ですよ!』


『フン! 気が向いたらねッ! 最初からちゃんとやるつもりだったのに、イチイチうるさく言われるとやる気なくなるよ! じゃーね、バイバイ!』


やるつもりだったのに先回りして言われるとやる気をなくすとは、宿題をやりたくない小学生のような言い分である。


半ば予想していたとは言え、やはり交渉の余地がなかったことに少し落胆したものの、日曜日に呼び寄せてくれる約束は取り付けられたと言えるだろう。


……と思いたいが、去り際の『気が向いたらね』という言葉に一抹の不安を覚える三人であった。






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