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第43話 アクティース公爵家の再興



見舞いの品を手渡し最初の村を後にすると、一行は残りの2つの村も順番に訪ねて行った。

着いた先では、予想していた通りやせ細った村人達が途方にくれる光景が広がっていた。


最初の村と同様に精霊の力を借りて、それぞれの村の食糧事情を改善し終える頃には、すっかり日が暮れてしまっていた。


3つ目の村はセラフィムが獅子竜を退治した場所でもあり、セラフィムの顔を知る村人達には夜道は危険だからと村に泊まるよう勧められたが、アレス叔父を村に泊める訳にもいかない。

光の精霊ウィルに協力してもらい、一行は何とか旧アクティース公爵領の宿場町にたどり着くことが出来た。


「セラフィ、今後のことなんだがな。」


宿の食堂で夕食を取りながら、アレス叔父は真面目な顔で切り出した。


「ーーーアクティース公爵家を再興する気はないのか。」


春翔と美優は、セラフィムが何と答えるのかと、興味津々といった様子で視線を送っている。


「アレス叔父様。アクティース公爵領は、私の両親も含めて、先祖代々アクティース公爵家が必死に守ってきた領地です。私もアクティース公爵家の一員として、不当に奪われたこの領地を取り戻したい気持ちはあります。代官の悪行に苦しむ領民の姿を目の当たりにした今となっては尚更です。しかし……。」


セラフィムはそこで言葉を切った。


「しかし、なんなのだ? セラフィ?」


「ーー私は、私の家族がまた同じ目に会うことになるのではないかと、それを恐れているのです。私がアクティース公爵家の生き残りだと名乗りを上げ、この領地を取り戻すとしたら、それは襲撃事件の真犯人を捉えてからと考えております。」


「そうか。うむ、うむ。セラフィの気持ちはよく分かったぞ! それでは、我らの次なる目標は真犯人を捉えることだな! おお、それにウンディーネの行方も探さなくてはならぬ。ううむ、なかなか忙しくなってきたぞ! はっはっはっ!」


セラフィムにアクティース公爵家を再興する気持ちがあると知ったアレス叔父は、満足げに豪快な笑い声をあげた。

そこへ、パンテレイモンがアレス叔父に思い出させるかのように小声でささやいた。


「アレス殿下。セラフィエル様がアクティース公爵家当主になられるのでしたら、王位継承はどうなさるのでしょうか?」


「ううむ。まったく、頭の痛いことよ……。現王には御子がおられぬ上、長患いしている身ではこれから御子が出来る望みも薄い。私が現王の代わりに神儀を執り行える間は良いが、私の後を引き継げるものは今のところセラフィとハルトしかおらぬ。」


アレス叔父は渋面を作って腕を組んだ。


「だが、私もまだまだ後10年はやれるつもりだ。10年あればハルトも大人になる。そうすれば、セラフィが国王でハルトが公爵家当主になれば問題ないだろう! はっはっはっ!」


「なんとまあ。10年など瞬きする間に過ぎ去ってしまうような時間ではないですか。私など、余命は後50年ほどしかないだろうと思い、儀式をエウフェミアに引き継ぐために今からこうして教えているのですよ。わずか10年しか猶予がないのであれば、一刻も早く備えねばなりません。」


パンテレイモンは長きに渡り神儀を執り仕切ってきたが、800歳を過ぎて一気に体の老化が進んだため、自分の跡を継がせるために孫のエウフェミアをエルフの集落から呼び寄せていたのだ。



『余命50年って。いくらなんでも備え過ぎじゃない?』


『やっぱりエルフって時間の感覚が違うんだな。50年なんて、俺だって生きてるかどうかわからない時間だよなあ。』


春翔と美優は、50年後のために今から引き継ぎをしていると言ったパンテレイモンの言葉に、まったく共感できずに首を傾げた。




「アレス叔父様。私は王位になど就きたくはないのです。神儀は私が行うとしても、誰か別の方に王位を継承していただくことは出来ないのでしょうか。」


「別の方なあ。ううむ。我が国は建国以来、神力を持つ者のみが王位に就いている。しかし、今は神力を持つものがほとんどいない。たとえ僅かに神力を持つものを探し出して、その者が王位に就いたとしても、次代の子どもに神力が引き継がれないほど弱くては意味がない。」


アレス叔父とセラフィムは唸り声をあげて考え込んでしまった。


「おとうさま、なぜ王になりたくないですか? ハルトなら王になります。」


王位を継ぐことの重大さをあまり理解していない春翔は、軽い気持ちで口を挟んだ。


「なにっ? ハルト、それは本当か? それはよい! では住まいを王宮に移して、私と共に王都へ帰ろう。教えることが山のようにあるぞ!」


アレス叔父は喜々として今後のことを語り始めた。


「ハルト、その言葉は本気なのか? 王になどなったら、顔も知らない貴族令嬢と政略結婚させられるぞ。平民との結婚は許されない。」



『『ええーーーーーっ!!!』』



『春ちゃん、断って! 早く!』


憤慨した様子の美優に急かされ、春翔はアレス叔父に言った。


「まちがえました。ハルトよりも、ハルトのおとうとのカイトが王にむいています。」


怒る美優も怖いが、嬉しそうなアレス叔父を落胆させるのも忍びなく、春翔はとっさに弟を人身御供に差し出した。


「ハルト、お前な。お前が勝手に言い出したことの尻拭いを弟にさせようとするな!」


ごちん!

久しぶりに父からげんこつを食らった春翔は、涙目でセラフィムとアレス叔父に謝った。


「ごめんなさい。もうしません。」


「ははは。まあよい。それより、ハルトに弟がいるとは朗報だ。弟にも神力はあるのか? 他にも子どもはいるのか?」


「いいえ、私の子どもは二人だけです。目の色が私と同じですので、おそらく神力を持って筈です。妻と下の息子はまだこの国にはおりませんが、もう間もなくご紹介できるかと思います。」


「そうか! それはよい! 10年経つ頃にはいろいろ状況が変わっているだろう。王位継承についてはゆっくり考えるとよい。」


「はい。そうさせていただきます。」




一夜明け、一行はエリミアの街を目指して出発した。

朝は遅めに出発したが、エリミアの街のすぐ近くの宿場町に泊まっていたため、昼前にはエリミアの街の街門へ到着した。


一行はいったん検問を待つ列の最後尾に並んだが、セラフィムはそのまま検問官の元へ馬を走らせると、高貴な方がエリミアの街を来訪したことを告げた。


そして、あらかじめ王都からの翼竜便で来訪の知らせを受けていた検問官は、どうぞお入りくださいと言って一行を検問せずにそのまま通してくれた。


「失礼ですが、エリミアの街での滞在先はどちらに? もしお決まりでなければ、代官から旧アクティース公爵邸へご案内するよう申し付かっております。」


検問官はセラフィムに滞在先を尋ねた。


「アクティース公爵家の別邸にお泊りいただくことになっておりますので、どうぞお構いなく。」


「そうですか。かしこまりました。」


検問官はそういうと、一礼して下がった。




一行がアクティース公爵家の別邸に到着すると、馬車のガラガラという音を聞きつけたケイラとマルクが迎えに出てきた。

見知らぬ二人の若い女性も一緒だ。


「ジョーンズ様、お帰りなさいませ。」


「「「お帰りなさいませ。」」」


「ただいま、ケイラ、マルク。翼竜便で知らせた通り、我が家に客人を迎えることになった。その二人は頼んでおいた手伝いの娘さんかな? 部屋と食事の用意を頼みたいが大丈夫だろうか?」


「大丈夫でございます。この二人は私達の親戚の娘です。よろしくお願い致します。お部屋は掃除してありますが、お客様は何名でしょうか?」


「男性二名、女性一名だ。一番広い部屋は客人の一人に使っていただく。俺はハルトと同室でいい。」


セラフィムが言った「ハルトと同室」という言葉に、春翔は一瞬げんなりした表情になったが、使用人部屋が何部屋もあったことを思い出し、アレス叔父たちの滞在中はそこに泊まることに決めた。


御者のエイダンが馬車の扉を開けると、アレス叔父とパンテレイモンとエウフェミア、そして美優が次々に降りてきた。


「「「いらっしゃいませ。」」」


「ようこそお出で下さいました。どうぞ、中へお入りくださいませ。」


使用人一同は馬車から降りて来た一行に向かって頭を下げると、屋敷の中へと招き入れた。





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