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第40話 裏切りの代償



神は情けない悲鳴をあげて春翔の後ろに回り込むと、春翔をぐいぐいと前に押し出した。


『ちょっと! 春ちゃんを盾にしないでよ!』

『神のすることかよ!』


あまりに非道な神の行いに、春翔と美優は抗議の声をあげた。


『子どもたちの言う通りです。その姿はなんですか、みっともない!』


『だだだ、だってさあ。エラちゃん、すごい怒ってるみたいに見えたからさあ。あれ? 僕の勘違いだったかな?』


『勘違いではありません! 怒っております!』


『で、ですよねー。あはは……。』


この期に及んで一切の謝罪をせず笑ってごまかそうとする神に、成り行きを見守る一同は冷たい視線を送った。


『神様、女神さまに謝ってないって聞きましたよ! ちゃんと謝った方がいいです!』


美優はそう言って、神に謝罪と反省を促した。

しかし、そんな美優に向かって、神は驚きの一言を言い放った。



『えっ、なんで? なんで僕が謝るの?』



信じられないことに、浮気して子どもまで作っておきながら、神には悪いことをしたという認識が一切ないようだった。


『ええ!? 女神さまという奥さんがいながら浮気したんじゃなかったんですか??』


『そうだけど。』


『じゃあ謝りましょうよ!?』


『いや、なんで? だってさあ、僕はみんなの僕なのに、独り占めしようって方が罪っていうか極悪じゃない? そんなことをしたら世界中の女の子が悲しむよ。そんなひどいことは僕にはできないな。すべての綺麗な女の子を愛するのが僕っていう男なのさ、フフッ。』


神はそう言うと、金髪をサラリとかき上げた。


ゾゾゾゾゾ……ッ。


不幸にもこの発言を聞いてしまった、春翔、美優、セラフィムの背中に悪寒が走った。

理解できなかったアレス叔父たちは幸運だったと言う他ない。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーー



突然起こった地響きのような音と共に黒雲が立ち込め、瞬く間に辺り一面が真っ暗になってしまった。


『きゃあっ、何!?』

『なんでいきなり真っ暗?』


春翔と美優ばかりでなく、突然の展開にアレス叔父たちからも驚きの声があがった。


「いったい何ごとなのだ!?」

「わ、わかりませんが、あの雰囲気から察するに、神様の言葉が女神様の怒りに触れたのでは……。」



ドスドスドスドスッ!



暗闇の中、何かが地面に突き刺さるような音が響いた。


「な、何の音だっ!?」


音のした方に目を凝らすと、地面に氷柱のようなものが突き刺さっている。

こんなものが体に突き刺さったら命はない。

逃げ場を探して一同が右往左往していたその時、ポウッと小さな光が暗闇を照らし出した。

その光はどんどん大きくなり、やがて春翔たち全員を包みこむほどに大きな光になった。


ドスドスドスッ! カンッ、カンッ!


氷柱はその光にあたると、光を破ることなく跳ね返された。


バリバリバリバリ!


そして突然の雷光が、地上から空へというありえない角度から黒雲へ向けて放たれたかと思うと、黒雲は小さく分裂してそのまま霧散してしまった。


『な、なんなんだ?』

『一体何がどうなってるの?』


「ウィル! ソール! おお、私たちを助けに来てくれたのだな!」


春翔がアレス叔父の声に振り向くと、そこにはいつの間にか二人の男性が立っていた。

一人は白金の髪をした美しく儚げな顔立ちで、もう一人は濃い金髪の堂々たる偉丈夫だった。

ウィルとソールと言えば、ずっと自分たちを守ってくれていた守護精霊の名前だ。

春翔は、とうとう噂の守護精霊に会えたことに嬉しくなり、勢いよく自己紹介した。


「あの! ハルトです。こんにちは!」

「ふふ、知っているよ、ハルト。やっと僕たちと話せるようになったんだね。」

「ははは、ずっと傍にいたんだぞ。」


春翔と親し気に話をする守護精霊たちに、セラフィムも緊張しながら話しかけた。


「貴方たちが、ウィルとソール。私と一緒に日本に行って、ずっと31年間も守ってくれて、本当にありがとう。貴方たちのお陰で、私は生きながらえることができました。」


「なんだよ! 水臭いな!」

「そうだよ、ずっと一緒にいたのに、今更他人行儀にしないでほしいな。」


美優は、春翔とセラフィムが、自分には見えない守護精霊と話している様子をうらやましげに見守っていた。


『いいなあ……。って、それより今は、神様だった!! 神様、おかしなことを言ってないでキチンと女神さまに謝ってください! 謝るどころか、より一層怒らせてどうするんですかッ!!』


『ええ? 僕のせいなの?』


『他に誰が悪いっていうんですか!?』


『んー、じゃあ誰も悪くないってことでいいんじゃないかな?』


神との会話にいい加減イライラしていた美優は、ついに怒りを爆発させた。


『ふざけないでください! 愛する奥さんを二千年も苦しめて、全然悪いと思わないってどういうことですか? たった一人の女の人も幸せに出来ないで、苦しみも理解しないで、僕はみんなの僕なのさなんてふざけたこと言うなーーーーー!!!』


『ひいいいいいい!』


美優のあまりの剣幕に思わず腰を抜かした神は、お尻をつけたままズリズリと後ずさった。



『うっ……、ううううううッ、ううーーーーッ!』


突然の激しい泣き声に、一同が声が聞こえた方に目をやると、女神が両目からぽたぽたと大粒の涙を流していた。


『女神さま、大丈夫ですか?』


美優はいち早く女神の元へ駆け寄ると、優しく背中をさすった。

女神は美優の肩にもたれると、グスグスと鼻を鳴らしながら訴えた。


『そうなのじゃ。わたくしは、わたくしの苦しみを夫にわかってほしいのじゃ。だが、そなたはわたくしの気持ちをよくわかってくれる。それだけでも苦しみに捉われていた心が楽になった気がする。』


『ええ、ええ、わかります! そうだ、こういうのはどうでしょうか? 謝罪の言葉すらないのなら、代わりに一発殴ってスッキリしたらどうでしょう?』


美優は、にっこり笑って物騒な提案をしてきた。


『おお、それはよい! そなたは本当に気が利く娘だ。』

『ちょうどそこに座ってますから、渾身の一発をお見舞いしてあげてくださいね。』


神は青ざめた顔で立ち上がると、目をきょろきょろ動かして逃走の機会を探りながら言った。



『えっ、冗談でしょ? 一発ってまさか、顔じゃないよね?』


女神は返事をしないままいい笑顔を浮かべると、腕を大きく振りかぶり、神の顔面に強烈な右ストレートを打ち込んだ。


『ぐほおおおおっ………!』


神はあまりの衝撃に立っていられず、どさりと後ろにひっくり返った。

女神は神のその無様な姿に満足したようにふうっと息を吐くと、自分の手を見て言った。


『あら、血が。』

『女神さま、その泉で手を洗われてはいかがですか?』

『そうじゃな、そうしよう。』


そして女神が身を屈めて聖なる泉に手を浸した瞬間、まばゆい光が女神の手を包みこんだ。

驚いた女神が慌てて手を引き上げると、女神の手はまるで10代の少女のように若返っていた。


『こ、これはっ!』

『えっ、すごい! 手がつるつるピカピカですね?』


呆然と自分の手に見入っていた女神は、さっと立ち上がったかと思うと、そのままどぼんと泉に飛び込んでしまった。


『ええっ、飛び込むんですか? 頭まで浸かっちゃって大丈夫なのかな。ねえ、春ちゃん、大丈夫かな?』

『俺に聞くなよ。それにしても美優、お前いろいろすご過ぎるな……。俺は展開に付いていけてないぞ。』



ザバアッ!



先ほどとは比べ物にならないほどの眩い光が収まると、水中から大量の水しぶきと共に女神が現れた。

そこには18歳くらいの若く美しい女神が立っており、先ほどまでの怨霊じみた姿はきれいさっぱり消えていた。


『『うわあー! すごい!』』


『わたくしの胸に刺さっていた結界の破片は溶け、破片と共に長年の恨みの気持ちも溶けました。まるで生まれ変わったような爽快な気分です。ありがとう、これも皆そなたたちのお陰です。』


女神はそう言ってほほ笑んだ。

今までの姿からは想像も出来ないくらい、光り輝くように神々しく美しい姿だった。


『女神さま、お綺麗です!』

『ふふ、誰かに褒められるのは二千年ぶりです。ありがとう。』


円満な結末を迎えられたことにその場がほっとした雰囲気に包まれる中、場違いな声が割って入った。



「え、エラちゃん! ごめん、僕が悪かったよ! 僕を許して!」





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