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第4話 商人さん達に同行することになりました




商人は、現在地から竜車で2日ほど離れた港町で荷を仕入れ、自分の店があるエリミアの街に帰るところだと言う。

ここから竜車で3日ほどのところにあるエリミアの街まで同行させてもらえることになり、春翔と美優はほっと胸を撫で下ろした。


『竜車で3日って見当もつかないんだけど、100kmくらいかな?』

『馬の代わりになるくらいなんだから、それなりのスピードが出るってことだよな。一日50kmはいけるんじゃないか?』


この世界の常識がないのだからいくら考えても答えが出るわけがないのに、不毛なことを論じ合う二人だった。


「どうしたんだい?うちの商隊の者を紹介するよ。」


「「はい。」」


「護衛リーダーのレオンはもう会ったね。レオンの隣の女性も護衛で名前はアリシア。その隣も護衛でエヴァンス。こっちは御者のランスだよ。」


アリシアは真っ白な肌に白金の髪をした儚げな美人で、とても護衛には見えない。年の頃は20代半ばに見えた。


エヴァンスは明るい栗色の髪で茶色の目をした人懐っこい笑顔の18、19くらいの青年だった。

ランスは一行の中で一番年上で、白髪交じりの茶色い髪に茶色い目の40代くらいの厳つい顔をした男だった。


元々は護衛だったが、数年前の任務で利き腕の方の肩を痛めたため今は御者をしているそうだ。

それにしても、男連中は揃いも揃って軽く190cmを超えているだろうと思われる長身で、体格がいい。

女性であるアリシアも170cmはありそうだった。


「ハルトです。」

「ミユです。」

「「よろしくお願いします!」」


皆口々に挨拶を返してくれる。

いい人ばかりで安心した。




「それじゃ、ミュウ、ハルト。いまから食事の準備をするから手伝ってくれる?お手洗いに行きたかったら、あっちに川原があるわよ。」

「「はい。」」


春翔と美優はアリシアの手伝いをすることになった。

荷車から少し離れだところに枯れ木がつみあがっている。どうやら焚き火で食事を作るようだ。

アリシアは金属の枠のようなものを木を囲うように置き、その上に鍋を置いた。


アリシアは鍋の上に手をかざすと、「この鍋を水で満たしてちょうだい。」と言った。

春翔と美優が、自分たちへの指示だろうかと首を傾げている間に、どこからともなく水が湧き出て鍋いっぱいに溜まった。



「「えっ!?えええーーーー!」」



「きゃっ、いきなり叫ぶとびっくりするわ。どうしたの?」

「みみみ、水が!」

「みずはどこからきた?」

「ああ、精霊魔法を見たことがないのね。私は水の精霊が見える性質で、お願いすると水を分けて貰えるのよ。このおかげで私も護衛として雇ってもらえたの。」


「「せいれいまほう……。」」


精霊魔法とは一体何なんだと思ったが、アレクサンドロスで目覚めてから色々なことがあり、すでに限界を超えていた二人は考えることを放棄した。

そして、自らの欲求を優先することにした。


「「み、みずをください!」」


二人は水筒に水を入れてもらい、ごっきゅごっきゅと喉を鳴らしながら勢いよく飲み干した。

ぷっはぁと満足げに息をつくと、アリシアが二人を痛ましげに見ていた。


「そんなに喉が渇いていたのね。かわいそうに…。」


二人が水を飲んでいる間に、アリシアは一口大に切った兎肉と野菜を鍋に入れ、煮込んでいった。

まったく役に立っていない春翔と美優を気にする様子はなかったが、美優ははっとして謝った。


「ごめんなさい!ミユお手伝いしてない!わるいこ!」

「フフッ、いいのよ。もうエヴァンスが狩ってきた兎をさばいてあったし、野菜も切ってあったから、あとは煮込むだけだったの。」

「でも…。」

「うーん、じゃあステラ達に果物あげてきてくれる?」


「「ステラ?」」


「あの剣竜の名前よ。女の子なの。おとなしいし人懐っこいのよ。果物が大好きだから、あげると懐いてくれるわ。レオンが乗っている馬はジェットで、エヴァンスの馬はアンバーという言う名前よ。」

「はい!ハルトがあげたい!」


手を上げて元気よく立候補する春翔に、『春ちゃん、ずるい!』と膨れる美優を見て、アリシアは「二人で行ってきていいわよ。」と果物を持たせてくれた。




荷車から100m程離れたあたりで、剣竜は2頭の馬と仲良く草を食んでいた。


『ステラー!ごはんだよー!』

『草がごはんで果物はデザートじゃない?』

『どうせ言葉は通じないんだから何でもいいんだよ。』


春翔が名前を呼ぶと、グルゥと返事をするように声を上げて剣竜がこちらにやってきた。


『わあ、呼んだら来た!かわいい!自分の名前が分かるんだね、賢いな~。』

『うおーーー、これが恐竜か。近くで見ると意外と小さい?馬の方がでかいな。』

『でもステラのほうが長いよ!』


馬は体高が春翔の身長ほどもあり、頭までの高さは2.5m程であった。

剣竜は背中の一番高いところでも春翔より低く1.8mほどだったが、頭から尾までの長さは4mほどあるかと思われた。

赤茶色の体色に、背中に整然と並んだ2列のプレートが美しい。体の両脇には大きく突き出した角のようなものがあった。


『よーし、よしよしよし。さー、ごはんだぞー。』

『下に置くのかな?手から食べるかな?』

『お前・・・チャレンジャー過ぎるだろ。いくら草食でも相手は恐竜だぞ?咬みつれたら手が千切れるんじゃないか?』


『そうだよねー、残念だなー。あ、馬も来たよ。果物食べたいのかな?』

『お、頭突っ込んでいったな。すげえ、恐竜から食い物奪う馬っているんだな…。』

『赤の他人の恐竜じゃなくて、仲間のステラだから分け合えるんじゃない?奪うとかじゃなくて。』

『そうか…。恐竜と馬の間にも友情は芽生えるんだな。』


正解かどうかも分からないのに、うんうんと納得しあう二人であった。




空の入れ物を回収し、アリシアのところに戻ると、ちょうどスープが出来上がったところだった。

スープのおいしそうな匂いに刺激され、二人のおなかはぐぅと鳴った。


春翔は皆を呼んでくるようアリシアに頼まれて、張り切って走っていった。早く食べたいらしい。

ミユは黒パンをスライスして籠に盛り、食器を用意した。

皆が串に生肉を刺したものを両手に持って集まり、鉄の枠に串を立てかけて肉を焼き始めた。

レオンが倒した狼を捌いたので、肉は串焼きにして食べるそうだ。毛皮は売り物にする。


「狼は食べられるところがあまりないから、あの大きさでもこれくらいの串肉にしかならないんだよな。

それでも一人2本はあるぜ。今日の狩りは上々だったな。」


「それでは、いただこうか。」


ブルースが食事の開始を宣言する。


『『いただきます!』』


おなかがペコペコだった二人はものすごい勢いで食べ始めた。


「アリシアさん、おいしいです!」

「ミユもおいしいです!」


スープの味付けは塩のみで、兎肉から出汁が出てそれなりにおいしくなっていたが、いかんせん獣臭さが残る。

黒パンは硬く、正直に言うと日本の食べ物とは比べ物にならなかったが、空腹に勝る調味料はなかった。


「たくさんあるからね、ゆっくり食べなさい。」


「「はい!」」


「ふー食った食った。それじゃ俺は先に寝るから、エヴァンス、交代の時間になったら起こしてくれ。」


レオンはそう言って、火から少し離れたところにゴロリと横になり、顔に帽子を載せ、マントを被った。

春翔と美優はその辺にそのまま寝転がって寝るのか、とレオンの寝方を眺めていたが、空腹が満たされたため眠気が襲ってきた。


「君たちも疲れただろう?明日も早いからゆっくりお休み。」


ブルースに促されたため、休ませてもらうことにした。


『歯磨き…歯磨きしないと。』

『俺も歯磨きしたい…美優、歯ブラシ貸してくれ。』

『えぇ…歯ブラシの貸し借りははきついよ…。』

『俺達はこのアレクサンドロスでたった2人の日本人、いわば運命共同体だ。助け合って生きていかないといけないだろ?』

『うぅー、もう、わかったよ。もう眠いし早く歯磨きして寝よう。』


アリシアに頼んで水筒に水を入れてもらい、交代で歯磨きをした。

そして人生初の野外トイレを済ませ、寒さ対策としてレインコートを着て寝た。







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