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第3話 アレクサンドロス語を話しますか?




アレクサンドロス語。

それは、春翔の父親のセラフィム・ジョーンズが幼い二人に教えてくれた言語だった。

幼い頃はセラフィムの母国語だという言語に何の疑問も持たずに習っていたものだが、成長するにつれ、インターネットで調べてもアレクサンドロス語が見つからないのはなぜなのか不思議に思っていた。


一度セラフィムに尋ねたことがあったが、もう帰れない生まれ故郷の言葉だよと悲しい顔をしていた。

いつも強い父親の悲しい顔を見て春翔まで悲しくなり、それ以上その話は聞けなかった。


不思議ではあったが、アレクサンドロス語は、春翔、セラフィム、母親の莉奈、弟の海翔、幼馴染の美優だけが話せる特別な言葉には変わりなかった。

たとえ大声で内緒話をしても誰にも理解できない、暗号のような、春翔達だけの秘密の言葉だと優越感を持っていたほどだ。



『何で…?』

「あ、あの。あなたはアレクサンドロス語を話しますか?」



春翔は、馬上にいる髭面の大男に尋ねた。



「はぁ?俺はアレクサンドロス人だからな。そりゃアレクサンドロス語を話すよ。」

「アレクサンドロス?どこにありますか?」

「どこにありますかって、お前がいるここがアレクサンドロスだろう。」

「ここがアレクサンドロス…、ここは日本ではないですか?」

「ニホン?それは国名か?聞いたことがないな。」と、大男は首を傾げた。



『は、春ちゃん。私達、セラパパの故郷にいるってこと?』

『そうとしか考えられないよな…。俺達以外にアレクサンドロス語を話す人なんて初めて会ったよ。』



気を失って意識を取り戻せば、見たこともないような平原の真ん中にいた時点でおかしいのは分かっていたが、まさかセラフィムの故郷にいるとは思ってもみなかった。


小声で話し込む二人が外国語を話していることに気付き、納得したように男が言った。


「何だ、お前達外国人か。道理で質問がおかしいと思ったよ。道に迷ったのか?親はどうした?」

「ハルトとミユは迷いました。おとうさまとおかあさまはいない。」

「ミユとハルトを助けてくだしゃい!」

「んん?ミュウとハルト?お前達の名前か?」

「おなまえはミユ!ミユ・カヤマ。」

「ハルト・ジョーンズです。」

「おう。ミュウとハルトだな。俺はレオンだ。よろしくな。」


『おじさん、ミュウじゃなくてミユだよ…。』

『諦めろ。』



「あ、あの。レオンさん。さっきは助ける。ありがとうございました。」

「おう。いいってことよ。子どもを助けるのは大人の役目だからな。」

「「ありがとうございました!!」」


春翔と美優は保護してくれそうな人に出会えた幸運に安堵し、二人そろって深く頭を下げ、もう一度お礼を言った。


「おう。向こうに商隊がいるから一緒に行こう。」


レオンの指差す方向を見ると、遠くに馬車らしきシルエットが見えた。


「俺はあの商隊の護衛チームのリーダーをやってる。今日はここで野営をするから食料を狩りに来たんだよ。」

「食料をかる?」

「この平原は兎がたくさんいるから2~3羽狩ろうと思ってな。ここは兎を狙う狼が出るから子どもだけでは危ない場所だぞ。」


「おおかみ…狼!?」

「そうだよ。さっき追いかけられてただろう?」

「あれ、犬じゃない?ミユはおおかみ見たの初めて!」

「緑色の犬なんていないさ。あれはフォレストウルフっていう種類の狼だよ。毛皮が売れるからあの死体も回収しておこう。」


そう言ってレオンは馬をおり、狼の死体に近づいた。


『狂犬病じゃなかったじゃん!』

『フォレストウルフなんて見たことも聞いたこともないもの分かるわけないだろ。』

「なんだ?もう暗くなるから戻るぞ、お前ら歩きながら話せ。」


狼の死体を馬に乗せたレオンは、自分も馬に跨りながら、日本語で話し初めた二人に歩くよう促した。


「緑はびょうきの犬かとおもいました。」

「ははは。しかし、フォレストウルフを見たことないって、お前ら街の子か?」

「ミユとハルトはまちに住んでたよ。ミユはなんでここにいる?」

「ブハッ、なんでここにいるって、そりゃ俺のセリフだろ。本当に子ども二人でなんでこんなところにいるんだ。それにお前らが乗ってるソレは一体何なんだ?見たことねえ乗り物だな。」



天然ボケの美優のセリフに、レオンは堪らず吹き出しつつ自転車の存在に首をかしげた。

馬車の車輪を二つ繋げたような形で、車を牽く動物もいないのに進んでいることがレオンには不思議に見えた。


「これは、『自転車』うーん、、『bicycle』うーん、、言葉がわかりません。」

「おう。気にすんな!そのうち言葉も上手くなるさ。外国人がそれだけアレクサンドロス語を話せたら大したもんだ。」


野営準備をしている商隊にだいぶ近づいたころ、美優が声を上げた。



『は、春ちゃん、あれ…あれ…!』

『うん?どうかしたのか?』

『イグアナ?サイ?なんかトゲトゲした大きいのがいる!』

『ほんとだ…なんだあれ…ステゴザウルスに見えるんだけど…。』


突然興奮しだした二人を怪訝な目を見ながらレオンは問いかけた。


「なんだ?どうかしたのか?」

「レオンさん!大きい生き物がいる!危ない?食べられちゃう?」

「大きい生き物?ああ、剣竜のことか?」


「「けんりゅう?」」


「ああ。背中のトゲが剣先が並んでるように見えるだろう?でも、物騒な名前とは違っておとなしい草食竜なんだよ。力が強いから一匹で大きな荷車を引けるし、餌はその辺に生えてる草を自分で食べるから手間がかからないんだ。」


「「へぇー」」


「おっ、あれが俺達の雇い主、ウィンタースティーン商会の会頭だよ。温厚ないい人だから

きっとお前達の面倒見てくれる。おーい!」

「ーーん?レオンか。なんだいその子達は?」


振り向いた雇い主だという商人は、レオンよりも10歳ほど年上見えるが、商人らしからぬ体格のいい大男だった。

こちらも髭面で濃い茶色の髪をしていた。


「迷子だとよ。こんなところに子ども二人じゃ危ないから連れてきたぜ。お前ら挨拶しろ。」


「「こんにちは。」」


「はい、こんにちは。親はどうしたんだい?」


商人は人のよさそうな笑顔を返し、親はどうしたのかと尋ねた。


「死んだのかはぐれたのか分からないが、一緒にはいなかったな。こいつら外国人で、難しい言葉はあんまり分からないみたいなんだよ。」

「外国人かい。外国からの船が遭難でもして子ども達だけ助かったのかね…。」

「おじさん、ハルトとミユも一緒につれてってください!」

「おじさん、ミユもお願いちます!」

「ハルトとミュウが名前かい?おじさんの名前はブルースだよ。」

「お名前はミユ!」


『諦めろ。』






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