第26話 日本への連絡手段②
春翔とセラフィムは、美優をウィンタースティーン商会へ送り届けると、春翔の武器を購入するために武器屋へ向かった。
『春翔はどんな武器がいいんだ? 春翔はまだ体が細いから、あまり重たいものじゃない方がいいな。』
『俺は剣がいい! 片手剣か、日本の刀みたいなのもかっこいいな。色は黒で!』
『春翔は黒ばかりだな。なんでそんなに黒が好きなんだ?』
『だって黒は強そうだろ? 色の威圧感で相手の自滅も誘えそうだし。これがピンクだったら逆の効果があるな。相手が怒って切り掛かってきそうだ。』
『ははっ、人間相手ならそういうこともあるかもしれないな。竜や魔物は色なんか気にしないだろうがな。お、ここだ。』
そう言ってセラフィムは、冒険者ギルド近くの裏通りにある一軒の武器屋の扉を開けた。
店の中はシンとして誰もいないようだった。
「すみません、剣を見たいのですが。」
セラフィムが店の奥の方に声をかけると、熊のような大男が奥からのそりと出てきた。
「おお、いらっしゃい。どんな剣がいいんだ?」
「息子の剣を探しているんだ。まずは片手剣を見せてくれ。」
店の男は、セラフィムの顔を見て顎に手をやり、考えるようなそぶりを見せた。
「うん? あんたは見たことある顔だな、もしかして英雄か?」
「まあ、一応そういうことになってるな。」
「おお! 英雄が来たとあっちゃあ、値引きしねえわけにはいかねえな! 安くしとくぜ!」
「ははっ、そいつはありがたいな。ハルトどれがいいんだ?」
セラフィムは、ずらりと並ぶ剣の中から、好みの剣を選ぶように春翔に言った。
「ハルトはくろい剣がいいです!」
「黒? なんで色で選ぶんだ? まあいいが、好きなのを選んで振ってみろ。」
店の男は首を傾げたが、春翔の前に数本の剣を出してくれた。
その中から、春翔は目についた一本の黒い剣を手に取った。
鞘から抜いて、剣を両手で構えてぶんと振ってみた。
…が、良し悪しがさっぱりわからなかった。
気を取り直して別の剣を手に取り、またぶんと振ってみた。
…やはりわからない。
春翔は若干焦りながらセラフィムに尋ねた。
『とーちゃん、どんなのがいい剣なの? 振ってみたけど、良いか悪いか全然わからないよ。』
『そうだなあ、手になじんで重すぎないのがいいんじゃないかな。重い剣は攻撃力はあるが、体力を奪われるから戦いが長引くと不利だ。黒い剣の中から俺が選んでやろうか?』
セラフィムは、混乱気味な春翔を見かねて提案した。
『うん、それがいい! とーちゃんが選んだ剣なら間違いなさそうだ!』
『はは、責任重大だな。』
セラフィムは数本の剣を振って確かめた上で、一本の剣を春翔に勧めた。
春翔はパアッと顔を輝かせ、自分でも振ってみてから、納得してその剣を購入することに決めた。
夕方になり、美優が屋敷に戻ってきた。
『ただいま~。春ちゃん、セラパパ、お土産持ってきたよ!』
『お帰り、美優。』
『おー、お帰り! お土産ってなんだ?』
美優はルシアが貸してくれたバスケットから、次々と品物を取り出して見せた。
『ブラウニー焼いたんだよ。それと、グラノーラとシリアルバーは、旅に持って行ってってルシアさんが持たせてくれたよ。』
『おお、ありがたいな。美優、よくお礼を言っておいてくれ。』
『うん。』
『ブラウニーかあ。じゃあ早速一つ…、イテッ、なんだよ。』
『旅に持ってってほしいのに、今食べないでよ!』
ブラウニーに伸ばした手を美優にペチッとたたかれ、しょぼんとうなだれる春翔だった。
三人は夕食を終えると、神を呼び出せるか試してみることにした。
春翔が考えた、スマホの画像を送る案を受け入れてもらえるか確かめるためだ。
『神様! お願いです! 来てください!』
『神様、お願いします! 話があるんです!』
『神よ、我らの願いを聞き入れ、我らの前に姿を現し賜え。』
美優、春翔、セラフィムの順に神に呼びかけたが、何の反応も見えない。
『…気が向かないのかな?』
『だいたい、気が向いたらって何なんだよ。いい加減にもほどがあるだろ。』
『ほんとだよね、向こうがお願いしてきて、こっちはそのお願いを聞いてあげる立場なんだから、連絡ぐらい取れるようにしといてよって感じだよ。』
『そうだよな。いくら神だからって傍若無人すぎだろ。』
『『ほんとサイテー!』』
『----君たち。もっと僕を敬うことはできないのかな?』
春翔と美優が神への不満を漏らしたその時、神はいきなりパッと姿を現した。
『あっ、神様。こんばんは。』
『神様、こんばんは。実は日本への連絡手段を考え付いたんで、ちょっと話を聞いてもらいたくて来てもらったんです。』
『あー、スマホで連絡ってやつ? いいんじゃないかな。それなら3分もいらないし、僕も助かるよ。』
『ええっ!! 何でもう知ってるんですか?』
『神様がスマホ知ってるの!?』
春翔と美優は、神が既に事情を把握していることに驚愕した。
『もちろん、美しい全能の神であるこの僕が知らないことなんてないのさ。フフッ。』
神はそう言って、これ以上出来ないというくらいに胸を反り返らせた。
ちなみに今日の衣装はラベンダー色の生地に、おなじみの金糸の刺繍である。
実際は、昨日の春翔たちの会話を、その時たまたま聞いていたから知っているだけのことであった。
春翔たちを常に見張っているわけではないので、本当は知らないことの方がずっと多い。
『それで? 送るものを僕に見せてごらん。』
『あ、はい。これです。この写真と、こっちの文章です。』
春翔はスマホの画面をスクロールしながら神に説明した。
『写真はいいけど、文章は長すぎる。この画面に収まる長さに削ってよ。』
『あ、はい。けずる、けずる…。えーっ、どの部分を削る?』
春翔はスマホを手に、あたふたとしていた。
『春翔、貸してみろ。まず、絶対外せないのは、俺たちが生きてアレクサンドロスにいるということと、近いうちに三人を迎えに行くから準備をしていてほしいということだ。その他の、こっちに持ってきてほしいものなんかは削っていい。身一つで来れたら十分だからな。』
セラフィムが春翔からスマホを受け取り、メールの文章を短く削っていった。
『はい! はい! 神様、質問があります!』
美優が挙手をしながら神に質問した。
『連絡時間として与えられた持ち時間の3分は、分割で使えますか? 今日の連絡で30秒使ったとして、残りの2分30秒でまた連絡できますか?』
『おお! 美優、良い質問だぞ!』
『ええー、めんどくさいよ。もう終わりだよ。』
いいかげんな神が案の定いやそうな顔をしている。
『でも、少なくともあと1回、こっちに呼ぶ正確な日を伝えないと、3人がバラバラに学校や会社に行っちゃうかもしれません! だからせめてあと1回お願いします!』
『お願いします!』
『俺からも頼む!』
三人に揃って頭を下げられて、神は渋々了承することにした。
『あー、わかったわかった。しかたないね、あと1回だけだよ?』
『『『ありがとうございます!』』』
『それじゃあ、いま海翔に送るね。』
そういうと、神は集中するかのようにふうと一つ息を吐いてから静かに目を瞑った。
『ーーーあ、フェニーちゃん? オレオレ~、今から送るイメージを鏡に映してさあ、海翔に見せてあげてくれるかな? じゃ、そゆことでー。よろしくね~。』
『えっ?』
『はっ?』
『フェニーちゃんとは誰なんだ?』
予想外の第三者の介入に、三人は揃ってぽかんと口を開けた。
『えー、やだなあ。守護精霊だよ。ずっと君たちの傍にいたじゃないか。』




