第21話 帰るべきか呼ぶべきか
『君たちがこの国に残ればいいのさ。』
『俺たちが?』
セラフィムは、自分たちが残ることと、この国を救うことがどう関係するのか理解できず、訝し気に目を細めた。
『セラフィムの魂は僕の子どもと同じだからね。初代国王の生まれ変わりといったほうが分かりやすいかな?』
『初代国王の生まれ変わり!? 俺が?』
『そうだよ。だから君の神力は強いのさ。それに、僕の子どもの生まれ変わりでもなければ、わざわざ会いにきたりはしないよ。』
神は、慈愛に満ちた表情を浮かべてほほ笑んだ。
しかし、どことなく白々しく演技っぽい印象を受けるのは何故だろうか。
ヒソヒソ…(あの神、自分の子どもの生まれ変わりと分かってて女神と戦わせるって…、ドン引きだな。)
ヒソヒソ…(愛情をもってるかのように見せ掛けて死地に追いやるって、神というより悪魔って感じだね。あの神よりセラパパのほうがよっぽど神っぽいよ。)
『そこ! 子ども達、聞こえてるからね!?』
『ともかく、俺たちが帰るんじゃなくて、莉奈たちを呼び寄せることも考えたほうがよさそうだな。』
神は、こちらに呼び寄せるには日本にいる海翔の神力を同調させる必要があるという。
神力を持たないものが単独で転移することは出来ないため、莉奈と海翔、そして美優の父親の優士の三人を呼び寄せたいのであれば、海翔の神力を使って三人同時に転移させなければならない。
セラフィム、春翔、海翔の神力を集め、それを神がうまく調整して日本から三人を呼び寄せるといっているが、本当にこの神にそんなことができるのか甚だ疑問が残る。
『同調といっても、電話もメールも通じないのにどうやって海翔に知らせればいいんだ?』
『んー、仕方ないなあ。それじゃあ、特別サービスで1回だけ海翔の意識に繋げてあげるからさ、チャチャッと説明してよ。』
『こんな込み入った話、チャチャッと説明できるか! どれくらい繋げられるんだ?』
『んー、3分くらいかなぁ?』
そんな短時間ではいくらなんでも短すぎて、説明どころではない。
夢か妄想か、もしくは幽霊と間違えられて終わってしまいそうである。
『そんなカップラーメン作るくらいの時間で何ができるんだ! もうちょっと長くできないのか?』
『そう言われてもさあ、かなり神力を消費するんだよね。ここで力を使い果たして、残りの家族を呼び寄せる力がなくなるんじゃ本末転倒だよ。いくら僕が美しい全能の神でも、そう長くは持たないのさ。』
そう言って髪をサラリと手で払いながら、神は遠くを見つめるような目をした。
どこまでも胡散臭い神である。
ヒソヒソ…(美しさって今関係ないよね。)
ヒソヒソ…(つか、美しいとか自分で言うか?)
ヒソヒソ…(全能とか信じられないんだけど。)
ヒソヒソ…(ビッグマウスっぷりが詐欺師っぽいよな。)
『そこ! 子ども達、聞こえてるからね!?』
『まあ、帰るにしても呼び寄せるにしても、まずは女神の破片をどうにかしてからだよ。』
神が何度目かの念押しを重ねてくる。
何としてでも押し付けたいようだ。
『そうだな。海翔への説明内容は追々考えるとして、まずはそっちに集中するか。』
『よし! そうと決まれば早いとこ抜いてこようぜ!』
『がんばるぞっ! おー!』
美優も気合を入れているが、美優は一体何を頑張るつもりなのか不明である。
『じゃあ僕はそろそろ帰るよ。僕に会いたいときは呼んでね。気が向いたら来るから~。』
そう告げると、神の姿は透き通るように薄くなっていった。
『えっ、気が向いたらなの? 連絡取れないと困るよ!』
『ちょっと待て! せめてどこに行けば女神に会えるかくらい教えてから帰れよ!』
美優と春翔が慌てて呼び止めた。
『ダイジョブダイジョブ~、もうそろそろこの国に災いが降りかかるから~。その時に会えるよ~。じゃ、そういうことで~。』
いい加減な言葉を残し、神はそのまま消えてしまった。
災いが降りかかるという予言の、一体どの辺りを大丈夫と思えというのだろうか。
『…行っちゃったね。』
『どうするんだよ。どう考えても大丈夫じゃないだろ? とーちゃんを殺しに来るかも知れないんだぞ?』
『災いが降りかかるって…、どんな災いかな?』
『過去の例では、女神の災いは主に天災だな。日照りによる不作。大嵐による洪水被害。火山の噴火なんてのもあったらしい。直接危害を加えられるよりも、不作での餓死者が多かったらしいな。』
『なんかどこかで聞いたことある話…。アリシアさんが言ってた、12年前の大嵐も女神のせいなんじゃない?』
『身近なところにも被害者がいたんだな…。この国にはもう何人も知り合いがいるんだ。俺もやっぱり、この国を見捨てるなんて出来ないよ!』
最初に助けてくれた、ブルース、レオン、アリシア、エヴァンス、ランス、それにウィンタースティーン商会の皆や、院長先生を助けるために働いていると言った小さなアンディの顔が次々に浮かび、春翔は決意を新たにした。
三人はしばらく女神対策を話し合っていたが、何しろ女神に関する情報が不足しているため、建設的な意見が出ることはなかった。
人間が力技で女神に勝てるとは思えないため、出来ることなら話し合いで解決したいが、理性を失っている女神相手ではそれも難しいだろう。
いい案が浮かばないまま遅い時間になってしまったため、三人は順番に風呂に入って寝ることにした。
春翔と美優は、転移後はじめて念願の湯船に浸かることができたというのに、せっかくのお湯はぬるくなってしまっていた。
朝になり、朝食のいい匂いに空腹感を覚えた春翔と美優は、部屋から出てきたところで鉢合わせた。
『春ちゃん、おはよう。』
『おはよ。あのさ、美優。すっかりスマホの存在を忘れてたんだけどさ、俺ソーラー充電器持ってたんだった。』
『あ、私も存在忘れてた! 日本にいた時は1日たりとも手放せなかったのに。』
『こっちでは毎日生きるのに必死だったもんなあ。そんでさ、今日充電器を太陽にあてて充電出来るかやってみるよ。もし充電出来たら、かーちゃんと海翔の写真見せてあげられたら、とーちゃん喜ぶかなと思って。』
『それはぜったい喜ぶに決まってるよ! もし使えたら私のスマホも後で充電してね。』
『いいよ。でもまだ充電できるかどうかわからないから、とーちゃんには言うなよ。ぬか喜びさせたくないから。』
『うん、わかったよ。』
春翔と美優が廊下で立ち話をしていると、セラフィムの部屋のドアが開いた。
『おはよう。お前ら、そんなところで何してるんだ? 朝食食べに行かないのか?』
『セラパパ、おはよう!』
『とーちゃん、おはよ! 俺、腹ペコペコだよ。早く食べに行こう!』
三人連れ立って階段を下りて食堂へ入ると、そこには既にケイラと、昨日挨拶できなかったケイラの夫マルクが控えていた。
「おはようございます。ジョーンズ様。昨日はご挨拶出来ず申し訳ありませんでした。こちらのお屋敷の庭師を任されております、マルクと申します。よろしくお願いいたします。」
「ああ、私の到着が遅かったせいなので気にしないでください。こちらこそよろしく。これは私の息子のハルトと娘のミユです。」
「「よろしくおねがいします。」」
テーブルには、卵料理、厚切りのベーコン、籠に入った数種類のパン、果物の盛り合わせ、ピッチャーに入った果汁、紅茶のポットなどがおいしそうに並んでいる。
セラフィムが食事中の給仕は不要だと伝えると、使用人夫婦は外で仕事をすると言って食堂を出たため、三人は朝食をとりながら昨日の話し合いの続きをすることにした。
グラスに注がれたブラッドオレンジジュースのような赤い果汁を飲みながら、セラフィムは思い出したことがあると切り出した。
『ゆうべ一人になってから思い出したことがあるんだ。俺が小さいころ、母方の叔父、俺の母の弟だな、その叔父が神力術の家庭教師をしてくれてたんだ。』
『へぇー、そうなんだ。』
『俺は、王都にいる叔父に会いに行こうと思う。』




