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第12話 エリミアの街へ



「さて。やはり盗賊に情けをかけるのは愚かなことだったね。生き残りも殺してしまおうか?」


ブルースの言葉に、レオンが剣を片手に一歩前へ踏み出した。


「ま、待て!待ってくれ!殺さないでくれ!」

「そうは言ってもね。さっき情けをかけた結果がこの襲撃だ。お前達を生かしておけば、お前達を取り返そうとしてまた襲撃を仕掛けてくるかも知れないからね。」

「逃げた仲間はいない!これで全部だよ!」


「…お前達の言葉など信じられないが、まあ、護衛たちの臨時収入がなくなるのは可哀想だ。」

「首だけにするよりも、生きて突き出すほうが報酬がいいからな。」

「仕方がないな。だが、今度何かあれば問答無用で首だけにする。それをよく覚えておくことだね。」

「わ、分かったよ…。」



ランスが出立の準備を整え、ブルースとレオンが盗賊達と話をつけている頃、残りのメンバーはお互いの無事を確認し合っていた。


「ミュウ、ハルト、怖かったでしょう?大丈夫だった?」

「だいじょうぶです。エヴァンスさんが助けてくれました。」

「あら、エヴァンスが?エヴァンス、お手柄だったわね。」

「へへっ、まあこの程度の盗賊どもは俺の敵じゃないぜ~。」


アリシアに褒められて調子に乗ったエヴァンスは、胸を反らせてニカッと笑った。


「エヴァンス、確かにお手柄だったが、あんまり無茶するんじゃねえぞ。お前に何かあったら俺は母ちゃんに殺されちまうよ。」


竜車の準備を終えたランスが春翔達に近づいてきて、エヴァンスを心配そうに見ながら言った。


「なんだよ、父ちゃん。俺も大分強くなっただろ?」


「「とーちゃん?おとうさま?」」


「そうだ。エヴァンスは俺の息子だ。」

「えぇっ!そういわれれば、2人ともかみと目がおなじいろ。にてる。」

「父ちゃんは心配性なんだよな。俺はもう成人してるのに。」

「せいじん?おとな?なんさいですか?」

「成人は16歳だよ。」

「はやい!16さいはこどもです!ハルトの国では20さいでおとなです。」

「へ~、20歳まで子どもでいられるなんて、ハルト達の国は裕福な国なんだなぁ。」


春翔と美優が意外な親子関係に驚いていると、ブルースから出立の合図がかかった。


「おーい、そろそろ出発しよう。」





しばらくガタゴトと竜車に揺られるうちに、遠くに街壁が見えて来た。


「おーい、ハルト、ミュウ、見てごらん。エリミアの街が見えて来たよ。」


ブルースに呼ばれ、竜車の前方に移動した美優は幌から顔を出した。


「わぁ!あれがまち!」


春翔も自転車でブルースの傍に寄り、一緒に街の方向を眺めた。


「ハルト、ミュウ、街に入るときに検問があるからね。私達は街を出た時に5人で申請しているから、ハルトとミュウは2人で検問を受けることになるよ。もし何か困ったことになったら大声で私を呼ぶんだよ。」

「えっ、ブルースさんといっしょじゃない?ハルトはしんぱいです。」

「ミユはがんばる!」

「ハハ、頼もしいな。でも何かあったら遠慮しないで呼ぶんだよ。いいね?」


「「はい!」」


ようやく長い旅を終え、街の入場門まで辿り着くことができた。

門前には検問を待つ人々の長い列が出来ている。

1時間程待つと、春翔達の番になった。


「じゃあ、いっています。」

「がんばるんだよ。検問が終わったら街に入ったところで待ってておくれ。」

「はい。」


厳つい顔をした兵士の前に進み出ると、身分証明を出すよう指示される。


「みぶんしょうめい?それはなんですか?」

「なんだ、役場のない村の子どもなのか?それなら街に入ってから役場に行って手続きしてもらえ。お前達の名前と年齢は?」


「ハルト・ジョーンズです。15さいです。」

「ミユ・カヤマ。14さいです!」


「…ミュウは14歳じゃないだろう?10歳位じゃないのか?」

「おなまえはミユ!」

「よしよしミュウだな。名前はわかったが、年が違うだろう?」

「あの、ミユは本当に14さいです。ハルトより1さいしたです。」

「なに!?お前達1歳違いなのか?そんなに大きさが違うのに?ミュウは碌に食べさせてもらえなかったのか?」

「ちがう!ミユはまいにちおなかいっぱい食べる!」


ぷくっと頬を膨らます美優はますます幼く見える。


「そ、そうか。それは良かったな。ところで、その金属の車輪はなんなんだ?なぜ車輪だけで動くんだ?」

「これはのりものです。こうやって乗ります。」


言葉で説明できそうもなかったので、実際に乗って短い距離を走って見せた。


「おおっ、すごいもんだな!いやでも待てよ?役場もないような貧村出身の子どもが、なんでそんな見たこともないような高価そうなものを持っている?」

「これはおじいさまが買ってくれました。」


「怪しいな。貧村の老人がそんなものを買えるわけがない。盗んだんじゃないだろうな?盗人は街へは入れないぞ。」

「ちがいます!ぬすんでません!」


「盗品ならその乗り物は没収する。」

「そんな!ぬすんでません!ブルースさんたすけて!」


数少ない財産である自転車を取り上げられそうになり、慌ててブルースに助けを求めた。


「ちょっと失礼しますよ。私はブルース・ウィンタースティーンと申します。ウィンタースティーン商会の会頭をしております。」

「ウィンタースティーン商会の会頭が何用だ?」


「その子ども達は外国出身で、乗ってきた船が難破してしまい親と逸れてしまったのです。港町には辿り着けず、大平原近くのどこかの海岸に流れ着いたのでしょう、大平原で狼に追われているところを私達が助けてここまで連れて来たのです。


高価な持ち物を持ち、物腰が柔らかく礼儀正しいところを見ると、良家で育った子ども達と思われます。どうでしょう、私が身元保証人になりますので、街に入れてやっていただけませんか?ここで子ども達を街の外へ放り出せば、きっとすぐに死んでしまいます。もしそうなったらあなたの手でこの子たちを殺したも同然ですよ。」


「う…人聞きの悪いことを言うなよ。俺は別にこの子達に死んでほしいわけじゃないぞ。そうか、外国人か。道理で見たこともない服を着ているわけだ。」

「わかっておりますとも。親と逸れてしまい心細い思いをしている哀れな子ども達に、どうか情けをかけてやってはいただけないでしょうか。」

「…仕方がないな。まあ、ウィンタースティーン商会の会頭が保証人になるのなら問題ないだろう。通行税は一人銀貨1枚だ。」


「「ありがとうございます!!」」




通行税を払い終え門をくぐると、そこにはヨーロッパ風の街が広がっていた。

門の前には広場があり、多くの馬車や竜車で賑わっていた。

門の正面の大通りには切り出した石が敷き詰められ、馬車などが通り易いように舗装されている。

大通りの両側には商売をしていると思われる立派な建物が並び、色とりどりに塗られた壁や屋根が街を明るい印象にしていた。


『うわぁ!かわいい!いっぱいお店があるみたい!何があるのかな?色々観光したいね!』

『観光ってお前な…。どうやったらそんなに暢気になれるんだよ。って、おい!どこに行く気だよ!ここでブルースさん達を待つ約束だろ!戻って来い!』


春翔はそのままふらふらと大通りに向かおうとする美優を慌てて呼び止めた。


『えへへ、ごめんごめん。あ~早く見て回りたい!なんかワクワクするね!』

『はぁ…お前のその性格が羨ましいよ。』




しばらく待っていると、ブルース達も検問を終えて門を出てきた。


「待たせてごめんよ。それじゃあ私の店に行こうか。」


「「はい!」」


「ブルースさん、俺とエヴァンスは警備隊の詰所に行って盗賊どもを引き渡してくるよ。」

「ああ、頼むよ、レオン。」


「ブルースさんのおみせは何をうりますか?」

「うちは食品を扱っているよ。港町で南の島から届いた砂糖や木の実、豆なんかを仕入れてきて、それをそのまま小売りもするけど、加工したものが人気でね。店に着いたら色々見せてあげるよ。」


「南のしまのきのみー。おいしいかな?」


「ははっ、ミュウもきっと気に入ると思うよ。」








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