第11話 封印されし力?
「ま、待ってくれ!命だけは助けてくれ!」
「盗賊の命を助けるなんて愚の骨頂だよ。お前達は今まで命乞いをする人々を容赦なく殺してきたのだろう?今度はお前達が死ぬ番だよ。」
「そ、そんな!助けてくれ!奴隷になる方が死ぬよりはマシだ!頼むよ!」
『は、春ちゃん…ブルースさん、盗賊さんたちを殺すつもりなのかな?』
御者席の後ろから顔を出した美優が春翔に小声で問いかけた。
『仕方ないよ。ここで見逃したら他の人が殺されるかもしれないだろ。ここは盗賊が出る世界なんだ。甘い判断は命取りになるよ。』
『う、うん…。』
美優は青い顔をしつつも春翔の意見に頷いた。
レオンたちも前方での戦闘を終えて戻ってきた。
「おう、ブルースさん、前にいた盗賊5人は殺したが、何人かに逃げられたよ。こっちは6人生け捕りか。どうする?街まで連れて行って衛兵に突き出すか?」
盗賊達が期待を込めた目で話し合う2人を見ていた。
「そうだねぇ、子ども達の見てる前で殺すのも何だしね。街へもすぐだから連れていこうか。ちょっとした臨時収入になるしね。」
「おおっ…。」
盗賊達からほっとしたような声が漏れた。
「じゃあ、手を縛って竜車に繋ぐか。おい、お前ら。大人しくしろよ。抵抗すれば殺すからな。」
盗賊たちを繋ぎ終えると、一行は街に向かって出発した。
(フン、ここで殺さなかったのが運のツキだな)
(しばらく大人しくしてりゃ逃げたやつらが仲間を呼んでくるだろうぜ)
(ガキが2人いるからどっちかを人質にすりゃ逃げられるだろ)
盗賊達はレオンたちの目を盗んでコソコソと逃亡計画を立てていた。
「ギャオォーーーン」
「お、やっぱり来たか。ブルースさん、さっきのやつらの仲間が来たらしいぜ。」
「まったく、もうすぐ街だっていうのに。子ども達が怖がるじゃないか。レオン、殺るならなるべく子ども達に見えないように頼むよ。」
「おう。」
4~5人の盗賊が木の陰から姿を現し、切りかかってきた。
前方の戦闘に気を取られているうちに後ろからも2人現れ、仲間が繋がれている縄を切ろうと剣を振るってきた。
「アリシアさん、うしろにも盗賊が2人います!なわを切られそうです!」
春翔の警告で、盗賊の一人を捕らえたが、もう一人の盗賊は竜車に乗ったアリシアから目視できない場所にいた。
「こんのクソガキが!邪魔すんじゃねえ!」
激昂した盗賊が春翔に切りかかってきた。
「うわっ!危ない!」
あわてて首をすくめ上半身を自転車のハンドルの上に倒すと、剣が頭上でビュンと空を切った。
「ちょろちょろするんじゃねぇ!」
今度は胴体を袈裟懸けに切り捨てようと剣を振り上げ襲い掛かってきた。
『春ちゃん!危ない!逃げて!』
逃げなければ殺される。
それは分かっていたが、自転車に跨っていたことが仇となり、とっさに避けられなかった。
「うわーーっ!」
今にも殺されようとしている状況に激しく動揺し、春翔の目の色は赤に変わっていた。
もうダメだ、と目を瞑ったとたんにガキン!と剣をはじく音が響いた。
「えっ?」
「な、なんだ!?このっ!」
盗賊は一瞬ひるんだものの、再度切りつけてきた。
だが、再びガキン!と剣がはじかれる。
双方が呆気に取られている間に、後ろに回りこんだエヴァンスが盗賊をばさりと切り捨てた。
「ハルト!大丈夫かよ?」
『春ちゃん!大丈夫?怪我はない?』
「だ、だいじょうぶです…。ケガはしてません。エヴァンスさん、助けてくれてありがとうございました。」
「おう!」
ニカッと白い歯を見せて爽やかに笑うエヴァンスだったが、身に着けている皮鎧からも剣からも返り血が滴り落ちている。
春翔は、自分と2歳しか違わないエヴァンスがためらい無く人を殺すのを見て、やはりここは日本ではないのだと改めて思った。
初めて人が死ぬところを目の当たりにして鼓動が早くなるのを押さえ切れなかったが、助けてくれたエヴァンスの前でみっともなく取り乱すようなことはしたくないとぐっと堪えた。
「それにしても、さっきのガキンていう音なんだったんだ?最初は剣同士がぶつかった音かと思ったけど、ハルトは剣持ってないよな?」
「ハルトにもよくわからないです。切られると思ったけど、ハルトの周りのなにかにぶつかった?でも何も見えないです。アリシアさんのまほう?」
「アリシアはもう一人の盗賊を閉じ込めてたから、アリシアではないよ。アリシアの精霊は一度に二つのことは出来ないんだ。」
『じゃあ一体誰が助けてくれたんだ?目には見えなかったけど、なんかバリアみたいになってた気がする。』
『春ちゃん、どうしたの?』
『さっき剣で切られそうになった時、なんでか分からないけど助かっただろ?』
『ああ、うんうん、見た見た。なんだろね?日ごろの行いがいいから神様が助けてくれたんじゃない?雷にも打たれたと思ったけど、それも助かったし。』
『そういえば、雷にも打たれたよな?どうなってるんだ一体…。はっ、もしかして俺の目に封印されし力が今解き放たれた!?』
『……』
『そうだ!きっと俺は魔法が使えるんだよ。だから俺の目はこんな色なんだ!目が青の時は水魔法、緑のときは風魔法が発動するとかそんな感じでさ!さっきのは俺が無意識に張った結界だよ!』
『……えぇ……』
『見てろ、美優!俺の真の力が覚醒する時がついに来た!よおしっ!』
春翔は一通り”ぼくのかんがえたへんしんポーズ”をキメたあと、人差し指を天に向けて突き上げながら呪文を唱えた。
『古からの契約によりハルト・ラファエル・ジョーンズが命ずる!結界よ、我を守れ!プロテクション・マキシマム!』
「エヴァンスさん!剣でハルトを叩いてみてください!」
「はあ?何だよ、いきなり。」
「はやく、はやく!!」
「ほれ。これでいいか?」
そう言って鞘に収めたままの剣で春翔の頭をポコンと叩いた。
『うっ。』
『………』
「………」
『痛い…。なぜだ…。』
あっさりエヴァンスに叩かれ呆然とする春翔に、菩薩のような顔をした美優が追い討ちをかけた。
『春ちゃん…。今頃中二病発症したの?私達もう中三なんだし現実を見ようね?古からの契約とか、いつ誰としたのよ。そんな、どこかの映画で聞いたような適当な呪文で結界なんて張れる訳ないよ?目の色だって、セラパパも海翔もその色じゃない。だいたいその人差し指はなんなの?』
『これは…魔法の杖の、代わり…的な……。くうっ!つらい!』
羞恥でその場にくずおれる春翔だった。




