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ひとりたちの選択

「僕は……」


 融合するべきなのか。

 しかしちくわを助けられる自信もなければそもそも果敢に挑める気もしない。

 だったら……


「僕を殺してくれ」

「バカな!?」

「それこそこっちのセリフだよ!? どちらも自分でどっちかが死ぬしか無いなら、合理的に考えても今でも戦えるルナのほうが生き残るのが良い!」


 どちらにせよ権限は移る。

 そちらのほうが良い。

 しかしルナはさっと暗い顔をする。

 ほとんど同じ思考ならば……


「互いに、相手を殺したくはないのはわかる」

「だから、自分が死のうとするのも……」


 ルナが顔を上げた。

 想いが通じたらしい。


「そろそろ話は終わったか?」

「ぐふっ、うぐ」


 巨大烏賊人(ミューカー)の声にはっとしてそちらを見ると竜人(スケイナー)のちくわがボロ雑巾のように転がされていた。

 多少は剣が当たったようだがやはり種族相性が悪すぎてまともに効かなかったらしい。


「……『融合』は両者が融合承認を意識して手をつなぐこと。『殺す』はもちろん権限者の心臓が止まること。どちらかのみが優先される、はず」

「……どっちになっても」

「恨みっこなしで」


 烏賊人は余裕を持って腕を組んでいる。

 しょせん何をしようと負けることはないと踏んでいるから高みの見物らしい。

 だが次に起こることに烏賊人もさすがに驚愕した。


「ぐうっ!?」

「やあっ!!」

「なっ!?」


 ルナのクローが僕の心臓を貫いていた。

 同時にもう片方の手で互いに握手を交わしている。

 両方を同時にやった。


 どちらが生き残っても公開しないように。

 どちらになるかがわからぬまま眠りに落ち光に包まれて――





 1つの獣が目覚める。

 スキルビーストを使った変化技。

 さらにMPを消費して技を繰り出した。


「何、速い!?」


 白い獣が青白い光を纏って鋭利に素早く加速し懐に潜り込んで烏賊人の頭に突撃した!

 先程のまでの攻撃とは違ってダメージ数字が飛び出るのが見える。

 28と良いダメージだ!


「うおおおおおお!!」

「使いこなしている!? ということはリアルの方は死んだか!?」


 今度はビーストで人形に戻り爪を構える。

 さっきの技の付加特徴は自身の高速化。

 相手の出番は回ってこない!


 そして今度のスキルは……



「風斬り!!」

「ぐおお!!」


 爪を振るえば風の刃が発生して大きく斬り裂く!

 16、16のダメージで烏賊人の顔に大きく爪痕が刻まれる。

 思わず烏賊人も交代した。


 すたりと着地して身構える。


「ちくわ、起きろ! ()だ!」

「う……ど、どっちなんだ?」

どっちもだ(・・・・・)! 説明は後だ、今のうちに……」

「くそが、クソクソが!!」


 余裕こいていた烏賊人が怒りだして地面を何度も殴りつけている。

 地面が揺れる。

 無駄な事でダメージを喰らった自身への怒りも多大にあるんだろう。

 そしてそれを決して認めずにこちらに怒りをぶつけようとする魂胆も見える。


「こんの!! "ジャイアント・インパクト"おおお!!」


 烏賊人が飛び上がりそのまま地面ごと叩きつけようとしてきた!

 なんとかちくわと共に避ける。

 同時に烏賊人の身体が縮んだ。


 おそらくは巨大化解除の引き換えに放つ大技。

 外したのにニヤリと笑っている。


「このワザは殴るものじゃない! 地割れ技!」


 そういいつつ烏賊人は跳んで離れると地面から光を帯びた地割れがこちらに来ている。

 明らかに喰らったらダメージがあるやつだ!


「うおお、どうやって避け……」

「あっ!?」


 確かに地割れと光そのものはこちらに向かっていた。

 しかしココは元々崖際。

 僕らが隅に逃げ込んだ際に別の亀裂が発生した。


 ガタン!

 目の前まで迫っていた地割れとは地面ごと離れる事が出来た。

 つまり僕らが乗っていた地面は宙に浮いたわけで……


「「うわああああ!!」」

「はーはっはっはっ!? ん? 当たったか? 死んだ……な! よーしおそらく影下でグチャグチャだろうな! 見るのもめんど……おぞましい、早く傷を癒やしに戻らねば俺のイケ顔が……」


 僕らの悲鳴、崩壊音、着水音に混ざってそんな声が遠くから聞こえた。





 気付いたら僕らは川の近くで伸びていた。

 全身に濡れたあとがあるが少し乾いている。

 どうやら流れ着いたらしい。


 全身痛くて立ち上がれない……と言いたいところだが不思議なほどに身軽だった。

 すくりと立ち上がる。


 よく考えたらこのゲームに落下ダメージはない。

 この世界の住人になれた今ならば平気だ。

 地面の方が下だったから地形ダメージもないし。

 衝撃で気を失ったのは危なかった。


私信チャット

ルナ→ルナ:『まさかの、だったな』

ルナ→ルナ:『恐らくはバグ……だろうね。どちらも残るだなんて聞いたことはないし』


 はいといいえの2択を無理やり同時に選んだらエラーを起こしたらしい。

 元々難しい処理であるリアル世界の存在を単純な選択肢に狭める事で処理をしやすくしたところに異常な技。

 殆どチートコード使われたのと変わらない。


ルナ:「ただ困ったよな〜これ」

ルナ:「2人いて同化しているという状態が同時に存在している……ぽいな」


 僕らは互いに1人として分離している。

 それと同時に壊れ融合している。

 あまりに不安定でバグを引き起こす塊みたいな状態で安定しているのが奇跡的だ。


 互いにどっちがどっちだったかの記憶や知識はあるものの互いの記憶や知識を共有してもいる。

 心身同体とも壊れたデータ2つが融合しているとも言える。 

 あまりにも曖昧な境目だ。


 どちらかの自我がどちらかに食われてもおかしくない不安定な機動上にいる。

 双方壊れてもおかしくない。

 どちらでもない何者でもない僕という存在たち。


 まあそれもいいか。

 こうして互いに生きているのだから。


「ほら、起きて」

「むむ……もうゲソはいらない……。  ……ん?」


 寝ぼけていたちくわを叩き起こして移動し森の中で火を起こす。

 メニューを開いてアイテム欄を漁ったら一式がほぼ完成形で飛び出たのでありがたい。

 ログアウトを何度も試みたがうんともすんとも言わないどころかメニューからログアウトの項目がなくなっていた。

 ご丁寧なことである。


「かくかくしかじか……ってわけなんだよ」

「またご苦労なことだな……デバッグ※作業していたのか。……もうひとりの俺には、悪いことしたなあ」

「融合を選んだ選択は間違っていないし、誰も責められないさ」


 ちくわに現状僕が双方であり同一であることを説明した。

 ちくわは選択に悔やんでいたが不安定なバグ利用はオススメできない。

 偶然と奇跡にすぎないからだ。


 その日はすぐに眠る事にした。

 疲労を感じるわけではなくシステムとして眠ることをするのだ。


 このゲーム……今もゲームといえるのかは別だがともかくこの世界ではHPが自動回復しない。

 権限が無ければ自分のHPすら見られないと考えればさっきはかなりのムチャをした。

 システムとしてのコマンド『眠る』が出来ればHPとMPが全回復する。


「それにしても……さっきのやつに襲われないか不安だ」

「ん? いやそれならもう大丈夫だよ。ニオイは覚えた。次は倒せる」

「すごいな……」


 傲慢でもなんでもなくそう言い切れる。

 全快した状態でちくわと共にならば烏賊人が大きかろうが小さかろうが勝つ。

 正直そんなにレベルは高くなかったし動きは無駄だらけだったうえ気持ちもスキだらけ。

 まあここまで理解できるようになったのはルナとしての知識が手に入ったからだが。


 ちくわを安心させ『眠る』を選択。

 わずかな時間に感じる暗転が挟まれたが起きると外が明るかった。


「うーん……! こんなに清々しい朝は初めてだ!」

「この世界の利点だなぁ」


 ちくわに相槌をうちつつ身体の調子を確かめる。

 うん。

 何も飲まず食わずとは思えないほどに元気だ。


「とにかく街へ行こう。そこで今の情報を集めるんだ」

「そうだな! ようし、今度こそ俺もやるぞ!」

「まずは剣の振り方を覚えないとな」

「わかってるよ!」


 ふたりでそう笑い合う。

 これからの不安を振り払うように。

 朝日に包まれて駆け出した。


私信チャット

ルナ→ルナ:『絶対に生きて帰ろう、ルナ(・・)

ルナ:『誰でもない()と僕なら出来るさ』



 それがこの後僕らがこの世界を駆け抜ける第1歩となった。



※デバッグ

 コンピュータやプログラムのバグや欠陥を探し出す行動。

 1つ直すと2つ増えると言われるバグ潰し作業の前に見つける仕事。

 もちろんデバックしても見つからないバグもあるため……

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 異世界でケモノになっちゃった。
 その能力は無敵! ~けもっ娘異世界転生サバイバル~もよろしくお願いします!
 戦って強くなって生き延びての大騒ぎ!
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