生きるためにころすことを選べ
「僕を『殺す』かルナと、アバターと『融合』するか……」
「そう。あえて攻撃は出来るようにしておいたあたり、黒幕がいるとすれば、何をさせたいかはわかりやすい」
ルナの顔も嫌そうにしていた。
僕とほぼ同じ思考を持つから僕と同じ結論に至ったのだろうか。
「ちなみに『融合』というのは?」
「アバター側の自我を消し普段のVRのようにリアル側の人物が入り込む。つまりはこの世界の住人になるということ。いつ帰れるのかはわからないけれど、いつかはリアルに戻れる方法も見つかるんじゃない無いかな」
そこまで徹底的にやられているのか。
アバター側がせっかく得た自我が消えてしまうということはアバター自身にとっての死とほぼ同意義。
つまりは……
「そんな選択肢、多くのアバターは……」
「殺すだろうね、死にたくないし『自分が自分を殺しても自分が残る』から問題ないという理屈も出来る。説明なんてせずに出会い頭に首を跳ねれば、権限が手に入るしね」
それはそうだ。
そして僕のアバターであるルナがそのことを親切丁寧に説明するということは。
「それでルナは……融合を選ぶのか?」
「そりゃそうでしょ。これは逆の理屈もつけられるから。自分が結局は生き残っている。それに明らかに答えを誘導している感覚で、黒幕がいるのならば、そいつの意志には反した方が良い」
そう言うルナは自分に言いきかせるようだった。
拳を作っているが僅かに震えている。
当たり前だ。
僕だって死にたくないのならもうひとりの僕であるルナも同じ思いなのだろうから。
「さあ、『融合』には互いの承認がいる。ちゃっちゃとやって生き残ろう!」
そう言って急かすようにルナは立ち上がり両腕を広げた。
「いや、やるわけない! だってルナ自体が消えてしまうのなら!」
「……死にたいの?」
彼女が鉄爪を出して突きつけてきた。
これは……
「もうこの世界はVRMMOのようで違う。人同士で殺し合えるし、何より管理者権限の無いものは死んだら魔物のように消える。
復活が出来ない。
最低限の生存権限を得るには『殺す』か『融合』するしかない」
彼女はそう言って大きくため息をつき鉄爪を下ろす。
殺気はなかった。
それでもただ刃物を向けられるだけでこれほどまでに心臓が高鳴るだなんてここもまたひとつの現実だと認識させられる。
「復活も……ムリなのか」
「復活もシステムだから。僕が知っている範囲のアバターたちはみんな必死だったよ。ちくわも『融合』を選ぶって」
「そ、そう言えばちくわと同じところでログアウトしたから……」
最初に合っていたのか。
ルナは頷く。
「うん。手に入れた知識を話し合って、結論を出した後広く探すためにわかれて動いていた」
「それで僕を見つけれたと」
「近くの魔物を狩っておいて良かったよ」
やはりいなかったのはそのせいなのか。
かなりの負担を強いてしまったようだ……
「さあ、いい加減わかったら『融合』を……うん? この気配!?」
「え? 何?」
「そうか、僕は聴こえないのか」
ルナの獣耳がピクピクと動いている。
そうか本物並の聴覚があるのか。
僕もしばらく耳を済ましていればその音にさすがに気付いた。
「こっちに来ている。逃げよう!」
木のうろから出て近くの茂みにしゃがみ込む。
音は足音だった。
重い足音とやたら複雑な足音。
そして茂みの向こう側で走り込むのは……
「「ちくわ……!?」」
赤い竜人が必死な形相で走っていた。
その後ろを追いかけるのは確か絵で見た烏賊人だ。
顔はイケメンながら多足多手なのか特徴の人。
しかし……デカイな。
烏賊人はそんなに大きい種族じゃないはずなんだが竜人で2mをゆうに超すちくわよりも大きい。
人と言うよりもはやボスモンスターだ。
「誰かー! ああちくしょう、戦い方は教えてもらってなかった!」
「ふはははは!! リアル側の人間は抹殺する!! もっと逃げて仲間を呼び給え!!」
なんだかワケアリを感じる。
それとちくわは『融合』を済ましていたらしい。
そのせいで戦えないのは本末転倒だが。
だがそれよりも種族特攻があるのがマズいかもしれない。
竜人は烏賊人にあまりダメージは与えられず逆は大きい。
せめてレベルが見れれば勝てるかどうかもわかるのだが……
「助けなきゃ!」
「あ、待って!」
そうこうしているうちにルナは影から突撃を開始した。
僕も慌てて後を追う。
「そうか、戦い方は盲点だった! その場で教えるから見てて!」
「ええ!?」
そう言うと僕に見せるように鉄爪を出し入れする。
なるほどあそこを握ると仕掛けが……
ってやっている場合じゃない!
「ん!?」
「やあ!!」
ルナが烏賊人の伸ばした腕に斬り掛かる。
飛び込むようにいったけれどちょっとマネできそうにないよ!?
腕が弾かれちくわに襲いかかることはなくなったがルナは大きく背後に下がる。
「ふむ! その動き、この感じ。貴様未だ権限のない野良アバターだな!」
「悪いか!」
「えっルナ!? ええと? あっ!?」
ちくわが混乱している中に僕もやっと追いついてだんだんと理解しだしたらしい。
「ふん! スキルも使えん、道具も使えん、魔法も出来ない分際で人助けとは良い度胸だ。む、そこのお前は権限者だな! 死ね!」
「うおお!?」
少しは驚いたり戸惑ったりするかと思ったらよどみなく僕に攻撃を加えてきた。
どんな目的があるかはしらないがこいつはやばい!
僕の前にルナが立ちふさがる。
「ぐっ!?」
「あー、そうか!」
しかし大きな腕のなぎ払いはルナをすり抜け僕に直接当たった。
こ、これは!?
「スキルで庇えなくては、護ることもできんようだな?」
「権限が有るもの同士ならともかく、権限がなくちゃシステムに縛られて……うわっ!?」
僕が転がっている間にも改めてルナに攻撃が加わる。
システムが利用できないというのが想像以上に不利過ぎる。
ちくわは困惑している。
「ふむ! 巨大化魔法は良い具合だな! 武器を使わずともなぶり殺せるのは実に好みだ!」
こいつ完全に遊んでやがる。
おかげで骨は大丈夫だ。
ギリギリだがまだ立ち上がれた。
一方ルナも立って僕らに合図を送る。
それはもちろん。
「逃げよう!」
「逃がすと思うか!」
「あー! ちくしょう! 権限がありゃいいんだろ権限が!」
そうちくわは言うと背中にあったおかざりの大剣をついに引き抜い……
「あ、あれ!?」
「身体をひねるように!」
先が引っかかって抜けなかったところをルナが指示を飛ばす。
そうしてやっと引き抜いた。
明らかに重そうな鉄の塊を片手で持てたあたりやはりこの世界の住人には素の人間では対抗しようがないのを悟らされる。
そして大きく振りかぶって……!
「うおおおおっ!?」
ブンブン。
ブンブン。
ひ、ひどい。
子どもが棒を持って突撃するかのようにデタラメに振りまわしつつ突進していった。
思わず烏賊人も動きが止まる。
「今! だ!」
「「あ、ああ!」」
僕は走り出そうとするとルナが僕を抱える。
明らかに身長も体重も僕のほうがありそうだが軽々と持ち運び駆けた。
後ろから悲鳴が聞こえる。
長くは持たないだろう。
ルナが走っていたら崖際についた。
下は川だが飛び込むには高い。
ルナが僕をおろして肩を掴む。
「良い? ちくわを助けるには『融合』するしかない。冷静にスキルを使えば引かせる事はできるはず。油断している今が最後のチャンスだ!」