ようこそこの世界へ!
それから数日は少しずつゲームを進めていった。
やっとちくわこと友人にもゲーム内で会えたのだが……
ルナ→ちくわ:「デカ」
ちくわ「そういう種族だし……てかお前が小さいんだぞ」
出会った赤い竜ことちくわは2mをゆうに超えていた。
130cmの僕と並べばそれは顕著。
主観で見ればもはやそれだけで怖い。
そんな彼と合流し少しずつ行動範囲を広げていく。
目的は都会へ行くこと。
中継宿を拠点にしつつちくわとともに魔物たちを狩っていく。
ルナ:「ほら、新スキル」
ちくわ:「ほ〜、それ具合どうなん?」
ビーストというスキル。
獣人から獣へ、獣から獣人へ切り替えるものだ。
四足で武装もなしで攻める。
数値としては反映されているのでちゃんとクローの攻撃ダメージが入るのだが。
タックルしたり飛びかかったり噛み付いたりする。
味はしないものの噛んで攻撃は肉を食べた時のようで感触が面白い。
ルナ:「わりと動けるしなじんでる。今のVRすごいな」
ちくわ:「昔は似たようなことがあったらすぐに錯乱しかけたり、身体がわけわかんなくなったり大変だったよな〜」
そう言いつつちくわもスキルのドラゴンを使う。
こちらも変身し竜人から4足の竜へ変わるものだ。
翼が巨大化して低空を飛べるようになるのが特徴。
ちくわ:「そら、ふれいーむ!」
ルナ:「うわ!」
ちくわが炎を吐いて敵を丸焼きにしていく。
驚いたが別に味方には当たらないんだった。
ルナ:「いいな、竜は火も吐けるのか」
ちくわ:「種族ワザはそっちもレベルが上がればそのうち覚えるだろ」
それもそうか。
どんな技になるか今から楽しみだ。
とは言えリアルの生活もあるのでそんなに連続してはやれない。
来る日も来る日も戦って喋って少しずつ行動範囲を広げていった。
今は集落のような所を拠点にしている。
おそらく近いうちに街へ行けるだろうというちくわは話していた。
今日もログインしよう。
VR機器を身に着け身体に埋め込まれな補助チップと連携。
血液中ナノマシンが稼働をして安全に肉体を保存しつつ擬似的な眠りへ。
感覚的には世界が歪めば……
……あれ?
こない?
「おっかしいなっ――」
VR機器を取り外そうとしたその時に。
いきなり落下した。
なんだ!?
「う、うわあああ!?」
落ちる。
浮いている。
引きずり込まれている!?
慌ててどこかを掴もうとして何もないことに気づく。
おかしいおかしい!
周囲が極彩色の渦に包まれている!
こんなのはVRにももちろん自分の部屋にもない!
一瞬バグを疑ったがこんなバグ見たことも聞いたこともない。
それにVR機器としては絶対起こらないことが今起きている。
「現実!? VR!? どっち!?」
確かに景色や起きていることはVR映像のようだがそれにしてはVRだと認識でしない。
『リアルだな』とは思っても『リアルかリアルじゃないか、わからない』と思うだなんておかしい。
それにこのVR機器はリアルの姿を認識する機能はないのに僕は僕の身体のままだ!
つまりココはげんじ――
うわっ!?
「景色が!?」
渦を抜けた先に木があった。
ぶつかると思い自然に身体をまるめて防御姿勢。
すぐに強い衝撃!
「ウッ! ガッ! グッ!?」
何度も枝に当たっては落ちるを繰り返す。
そのまま最後の枝に支えられて転がり落ち地面へ落ちきるころには息を吐ききっていた。
「……。……。……グッ、いったぁ……」
全身打撲だ。
空から落ちて助かったとしたら奇跡的軽症だろう。
身体を動かすたびに痛むが骨は折れていないらしく動けないほどではない。
ジクジクといつまでも痛む身体を引きずり樹木へ身体を預ける。
……ここ、とても見たことがあるんだが。
だがそれだと説明がつかない。
この痛みや自身の姿がそのままという点を含めまるで理解が出来ない。
僕の姿がとても浮く世界……
それはアニメ調にデフォルメされた最近遊んでいたVRMMO。
そのものだった。
確かこの森は昨日ログアウトした場所の近くだ。
少し休んで痛みが引いてきたら周りを確認する余裕が出てきた。
おかしいな……このあたりは雑魚魔物が無限にPOP※していたはずだが誰もいない。
ガサリ。
草葉が揺れて音を立てる。
き、きたか!?
近くにあった木の枝を拾う。
さっき落ちてきた時に叩き折ったやつだな……
ないよりはマシだ。
フラつきを抑えて構える。
ガサリ、ガサリと音が近づいてきた。
なるべくなら来るな!
そして影の中から光る双眼と共に何かが飛び出してきた!
き、きた!!
「わああ!! ああぁぁ……あれ?」
「あ、やはり来たんだ!」
テキストメッセージではない生声。
脳内で思い描いていた少女らしくもハツラツとして元気な声。
そして目の前にいるのは白い毛並みの獣人。
「初めまして。僕。僕だよ」
僕のアバターであるルナだった。
「よし、ここなら落ち着いて話せそうかな」
昔は生きていたであろう大樹のうろ内部に腰を落ち着ける。
確かにここは雑魚魔物がPOPしない。
僕らがさっきまでいた地点はすでに魔物がうろついていた。
「ええと、ルナ? で良いのかな」
「まあ同じ人間同士だしなんでもいいんじゃない?」
自分より小柄で獣人で見た目はまったく違うが彼女は僕のアバター。
だから同じ人間同士という理屈はわかるがどうもこうまで見た目が違うと……
「まあ徐々に慣れれば良いから。慣れてもらわないと困るし」
「う、うん。うん? どういうこと?」
「まあまずは知識共有からかな」
そう言って彼女(僕だが)は僕の知らない時間におきた出来事を語ってくれた。
「僕がログアウトしたあと……多分リアルの方の日付変更線をまたいだあたりで僕は目覚めた。
記憶としてはログアウトした直後あたり。
当然かなり驚いた」
「ああ、そのレベルで僕なんだ」
「まあね。ただココからが本番だった。混乱していたら知識が流れ込んだ。
まず自分はアバターであり本物ではないこと。
それと同時にこの世界ではキャラクターとして本物であるということ。
やがてログインしてきたリアルの方の僕がそのままやってくること」
話がわかりにくくならないように言葉と同時に地面に文字を書いていく。
「この世界は既に独立して動き出している。それぞれが自我に芽生えて勝手に動き出している。
僕にもこの世界での自我が成立してリアルの方の人というよりはこの世界の住人という気分かな。
生まれてからずっとこの身体だったという実感みたいなものをなかば無理やり持たされた」
ルナことこの世界の僕を見ると気恥ずかしそうにマズルをかいていた。
ああなるほど。
彼女は僕であるという意識は持ちつつも『ルナ』であるという意識を持っているのか。
ちょっと混乱はしそうだが。
……だから鉄爪にうっすら血痕があろうが気にしていないのだろう。
「そこでこれからが大事。落ちてきた人はこの世界の住人に比べて個人ならばとても脆弱。よほど鍛えていてもせいぜい熊を追い払える程度。だけれどもアバター管理権限はある」
「アバター管理権限?」
「僕……つまりルナ単体ではメニューを開いたりアイテムを呼び出したりチャット昨日やパーティ作成などなど、一部以外の多くのシステムを使えない。これは致命的だ」
ルナがメニューを開くしぐさをするが無反応。
肩をすくめる。
「そして僕はこれらを開く権限を持っている。ただし……」
「……ん、あれ、どう開くんだっけ」
「この世界の感覚がないから開けないんだ」
ガックリと肩を落とした。
僕は鍵を持っている。
そして彼女は鍵穴と中身入りの箱を持っているわけか。
「でもだからって、どうするんだ?」
「それが最後に流れ込んできた知識になる。リアルの自分を見つけた場合に『殺す』か『融合』すればシステムを使えるように、なるってね」
ゾワリ、と背に冷たいものが走った。
※POP
ポップ。ゲームでは敵が発生することを指す。
ザコ敵のPOPは多すぎず少なすぎず常に行われている。
レアな敵のPOPは激しい争奪戦に鳴ることも。