凶悪な敵には数こそ力
私信チャット
ちくわ:『で、また死んだとw』
ルナ:『雑魚たちの10倍は強いって〜!』
僕はまたベッドに転がされた。
通常攻撃に2発耐えれても3発目でやられるのなら多少道具回復してもジリ貧なのが判明した。
それと乱撃というワザを使ってきて一気に体力を削りきられ死んでしまう。
これは個人の限界を感じる……
というわけで。
仲間チャット
ルナ:「よろしくお願いしますー」
わんこ「よろしく〜」
ねこさん:「がんばりましょ〜」
からたけまる:「よろしくでござる」
パーティ※を組んだ。
4人までの自由編成が可能のシステムで全員プレイヤーだ。
みなレベル8や7でボス相手に向かおうとしていたものたち。
仲間チャット
からたけまる:「一度挑んで見たけれどアホみたいに強かったでござるよ」
ルナ:「乱撃がエグいね」
わんこ:「そ、そうなんですか!」
ねこさん:「4人いればよゆーよゆー」
全員姿形は違えど獣人だ。
からたけまるさんが刀使い。
わんこさんが弓使い。
ねこさん(ここまで名前だ※)さんが剣使い。
この○○使いという職業は最も基礎的な職業らしい。
みなそのうちそれぞれの職業へ派生していくのだ。
全員の準備を整えていざボス戦3回目へ!
いざ戦闘が始まればみなチャットしている余裕がなくなった。
VRで肌でも感じる巨大ボスはその威圧感は恐怖そのもの。
必死に打ち勝とうとするのは必然だった。
とはいえみなやることは[戦う]か[道具]から回復薬を殴られた人に投げるかのみだ。
本人たちは必死なのに周りから見たら地味なんだろうな……と思いつつ爪を振るう。
8、6とダメージが入りお返しにぶん殴られる。
身体全面に激しい衝撃を受け下げられつつもなんとか耐える。
すぐに隣から回復薬が飛んできて身体が光に包まれる。
半分近くまで減っていたHPが治った。
からたけまる:「来るでござるよ!」
敵を見ると[乱撃]を使ってきた!
ランダムに3回誰かを殴りつける!
ドカドカ! バン!
ルナ:「あっ」
わんこ:「うう……力が抜けていく」
ランダムということはひとりに集中する可能性があるということ。
この中では自分に並んでもろい弓使いのわんこさんが2回殴られて死んでしまった。
全滅しなければ扱いは勝ちだが……戦況が悪化している。
3回目はからたけまるさんが当たったがすぐに回復してことなきを得た。
ねこさんが剣で突っ込み斬り裂く。
ねこさん:「これ」
ねこさん:「たいりょく」
ねこさん:「ぜんかい」
からたけまるさん:「全快させたのを維持していないとすぐに落ちる※でござるな」
ねこさんがVRMMO慣れしていないのに対してからたけまるさんが逆に慣れすぎている。
チャット余裕もそうだがロールプレイングということで変な口調も維持している。
爪と剣と刀を振るい徐々に追い詰めつつも乱激を警戒して体力を常に満タン近くにする。
しかし……
からたけまる:「やっべ回復薬切れたでござるよ」
ねこさん:「おなじく」
ルナ:「残りわずか!」
道具は無限ではない。
使い続ければ回復薬のストックが切れるのは必然だった。
もはやみな必死の思いで早く倒れろと武器を振るう。
ザクッとクローの鉄爪が刺さるたびにその硬さに怯みそうになる。
返ってくる手応えが雑魚魔物たちと違って岩でも切っているかのようだ。
そんなシステムはないと知りつつもいつ腕がしびれて上がらなくなったり鉄爪が折れるかが不安になる。
そして[乱撃]が表示される!
全員な1度ずつ殴られる。
衝撃を受けつつも耐えはした。
だが次に[乱撃]されれば……
向こうのHPもわずかだ。
この残り1つしかない回復薬は誰に使う。
からたけまる:「うわっ!!」
ここでからたけまるさんが通常攻撃で3回も連続で襲われて刀が吹き飛ぶ。
からたけまるさんも死んでしまった。
からたけまる:「薬は自分に使うでござるよルナどの!」
死んでてもチャットはできる。
死人に口あり。
結局薬はそうなるか。
ここで自分が殴られる。
HPが減り尽くしそうになったが何とか回復薬を自身に投げる。
30しか無いHPだからこれでも全快した。
回復は身体が軽くなって気持ちがいいから良いがこれで回復薬は尽きた。
ねこさんが剣を振るい15のダメージ数字が飛び出る。
敵の様子が変化してギリギリのHPだというのが分かる。
ねこさん:「いける」
[乱撃]。
ここまでキレイにフラグ回収しなくても良いのにというほどねこさんさんが2回殴られ吹き飛び死んだ。
僕にも1撃があたり10のダメージでのこり20。
爪でお返しに斬り裂く。
からたけまる:「今のはキレイな回収でござったな〜」
ねこさん:「つらい……」
わんこ:「がんばれー!」
僕が倒れれば全滅で使った回復薬は返ってこない。
ここまで削ったHPもパーだ。
爪を振るいザクザクと斬ればお返しに殴られる。
12のダメージ。
のこりHP8……本当にギリギリだ。
自分のターンがやってくるがもう回復薬は無い。
[戦う]で飛びかかるように鉄爪でアタック。
た、倒れない!
まだか!
このままでは負ける!
みんなもそれを察したようにチャットが止まる。
相手が攻撃モーションに入り……
殴る!
その時僕は衝撃を感じなかった。
代わりに軽やかなステップで殴りを回避する僕のアバターと[ミス!]の表示。
やった、たまたま避けた!!
ねこさん:「おお!!」
ルナ:「やあ!」
爪でザク! ザク!
相手は倒れ……ない!
嘘だろ!
もうわずかなはずなのにこちらの火力も少ないせいで最後のひと押しが決まらない。
ここまでやって死ぬとしたらつらすぎる。
その時の[乱撃]の文字が……3回も偶然避けられない!
グッと構えて力を溜めて――
[戦う 道具]
来た!
早いという特性が働いた!
速攻で[戦う]を選択し相手が動く前に腕を前に突き出す!
ルナ:「やああ!!」
からたけまる:「ルナどの!」
ねこさん:「おお!?」
わんこ:「やっ……」
確かな手応え。
快感な程に爪が深く入りえぐる感覚とともに相手が後ろへ倒れ込む。
ドシンと倒れれば振動と共に入手経験値とお金の表示が流れてきた。
ルナ:「勝った!」
わんこ:「やったー!」
ねこさん:「一時はどうなることかと……」
からたけまる:「我々も生き返るみたいでござるよ」
ボス戦だっただからか自動的に死んでいた者たちも生き返った。
いやー良かった。
今のでレベルも10に一気に上がった。
その後はイベントが始まる。
それぞれがそれぞれの主役として映るためのイベントだ。
だからみんながみんなふわふわなマルちゃんに飛びつかれ喜ばれただろう。
その後は町まで帰りパーティは解散。
互いにフレンド※登録もしておいた。
長老の元へ行きお礼と報酬をもらい別の場所へ行くための許可やら話もされる。
これでいわゆるチュートリアル終了である。
久々なVRでの戦闘は疲れた……
リアル時間を表示したら良い時間になっていた。
私信チャット
ルナ→ちくわ:「チュートリアルボスまで終わった」
ちくわ:「乙※! んじゃー次の町までは大変だしそろそろ合流するかあ」
ルナ:「つーかもう寝るわ」
ちくわ:「あいよー。最初のボスは疲れたかw」
ルナ:「リアルの方の身体の心臓が持ちそうになかったわ」
正直デカい邪悪なやつに立ち向かうというのはなかなか負担がデカかった。
とりあえず終わるとしよう。
ログアウト※しよう。
メニューを開いて選択すればゆっくりと世界が閉ざされた行く……
そして世界が歪む。
気づいた時には元の身体へと意識が戻っていた。
なかなか初日から面白かった。
また明日もやろうっと。
※パーティ
ゲーム内で同時に戦うために相手と組むもの。
基本はプレイヤー同士で組む。
NPCとも組めるゲームもある。
※ここまで名前だ
名前は自由なため、○○さん、○○くん、○○ちゃん、などの名前をつけるプレイヤーも多い。
そういう点もMMOの自由さのひとつになる。
※落ちる
この場合は死ぬということを表す。
死ぬと書くとチャット上では伏せ字になってしまう規制が厳しいものに使える便利な言い回し。
※フレンド
ゲーム上での友好関係がある相手のこと。
互いに登録することでフレンドとして認められる。
いつでも遊びに誘いたい相手なんかに申請を出したりする。
※乙
『お疲れ様』の意味。
略して乙。
気軽に言いたい時にネット上では使うがリアルで使えば引かれる。
※ログアウト
VRMMO内から抜け出してリアル世界に意識帰還をすること。
逆にVR内に意識を移動させるのはログイン。




