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VRのゲームは『なりきれる』から楽しい

 VRMMORPG。

 バーチャル・リアリティ・マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲーム。

 仮想現実系大規模多人数同時参加型オンライン式役割演劇遊戯。


 今、僕はその中にいる。

 先行した友人に進められて予定より早く買うことになったこのゲーム。

 VRそのものはそこそこ昔から知っているがそこそこ斜陽気味なMMOははじめてだ。


 これは意識移動型VR。

 まるで意識そのものがゲーム内に入り込んだかのような錯覚に陥れるのが大きな特徴。

 細かいことは技術期には違うが。


 昔のヘッドマウントディスプレイ型とは大きな違いだ。

 いやまあヘッドマウントディスプレイ型も今やだいぶ進化したが……元年※と呼ばれた年のものと比べたらね。


 さあキャラメイキングだ。

 ここは事前に決めていた通りに組んでいく。

 僕はめちゃくちゃ迷うから公式サイトにあったお試し機能で決めていた。


 これは決まったパターンで組んでいくタイプのキャラメイキング。

 メイキングしたものが自分のアバター※2となる。

 微調整型に比べれば組み合わせ数は最大でも100万通り以上ほどになるがそれでも十分だ。


 なおカラーリングによる数値の水増しは多め。

 とはいえ色は大事な要素だから十分うれしいが。

 それと決まったパーツを組み立てるタイプだとどれもそれなりにカタチになるのが良い。


 種族は4種類。

 これはさらっと決定。

 性別スタイルは2種類。

 男か女かは明記していないのは昨今の情勢でも流行りでもあるしVRでは大事な部分。

 このVRは感覚もある程度あるから『異種異性別の身体に適用される事による精神の悲鳴』※3を避けているらしい。

 初めのころはその対策やっていないゲームが多くて地獄を見た……


 一気に進めて身長。顔。目の色。体格。全体カラー。

 髪の毛と髪の毛の色も決めて……よし。

 僕の目の前には事前に考えていたとおりのものが出来ていた。


 このゲームは最初からアニメチックでなおかつファンタジー寄りに描写された世界。

 当然出来上がったキャラもそのとおりになる。

 決定をVR用仮組みポリゴン手でタッチする。


 歓迎のテキストと共に。

 世界が歪んだ。





 

 僕はどこかの知らない家の中でベッドに横になっていた。

 意識移動型VRの始まりはほぼ寝転がった姿勢からと決まっている。

 そして起きて歩けるようになるまでイベントは起こらない。


 僕は意識移動型は初めてではないから『全く別の入れ物に入ったさいの混乱症状』※4は起きなかった。

 それでも感覚がにぶく追いついていない。

 何もかもが違うせいだ。


 まず視点。

 僕を見下ろしている。

 第三者視点カメラというわけだ。


 意識すると普通に目から見る景色になり自由に切り替えられることがよくわかる。

 VRは確かに目の視線で見る事はとても大事だ。

 しかしそれがゲーム性を損なう※5ことは多いので切り替える。


 これも慣れのひとつ。

 自分で自分ではない身体を見て動かすというのは想像以上に苦労した覚えがある。

 まあもう僕は慣れたから第3者視点に直してパッと立ち上がった。


 全身を動かしよくチェックする。

 第3者視点カメラは意識してもグルグルと動かせるし自動である程度自分を追う。

 これは3Dゲームならではだね。


 僕の身体は……

 130cmあるかないかの小柄な体型。

 全身を毛皮に覆われ尾と大きな外耳が頭から生えている獣人系種。

 素朴な[ファーマーの服]と呼ばれるものを上下に着ているだけだ。


 なお名前は視界に表示されているチュートリアルに従ってメニューを開き装備欄から見た。

 指で操作すれば着脱も一瞬で可能。

 まあここは普通に着ておくけど。


 そして僕の顔は獣のマズル含めてもかわいらしい少女だ。

 尾を振る感覚を確かめたり獣型の脚の具合を確かめてつつ歩く。

 真っ白な毛皮な真っ白な髪に白い瞳。


 んあと口を開けば犬歯が生えそろっている。

 ここに指を入れようとすると……

 何かに当たるような感覚。


 いや実際に見えない壁※6に当たっているのだろう。

 作り込む側も面倒な内部判定まで作り込みたくないだろうし無駄に指を噛まれても困るだろう。

 なのでこのゲームに必要のないものは作らないし触れないことでレーティング※7も下げている。


 例えば装備欄から服を全て剥ぎ取り全身を触ってもどこを触ろうと毛皮の感覚。

 眼球は触れない。

 男だろうが女だろうが上にも下にも例のそれらしいものは存在自体がない。


 まああっても困るが。

 エロを目的としたもの以外。


 ひと通りゲームとしての能力チェックを終えて服を再度装備し空中に見える案内矢印の通りに扉に手をかける。

 いっしゅんロードが挟み込まれ暗転。

 強制的に主観に変わる。


 この時は身体も大きく自由には動かせなくなる。

 イベントだ。

 開けようとしていた扉が勢い良く開かれ外側から同じ種族らしい獣人の少女が飛び込んできた。


 いや目線の高さはほぼ同じだし僕も肉体的には少女なのだが。


????:「あ! 目覚めたんですね! よかった……どこか痛むところは? 昨日の夜中、外で倒れていたから心配しました」


 というテキストメッセージが出て来る。

 いやまあこのゲームはボイスないから。

 そうこうしている間に僕は自動的に首をひねる。


 そして意識移動型VRの特徴である『意識そのものへの介入』※8が始まる。

 具体的に言えば自分の脳内で『何だっけ』『何も思い出せない』と言ったことが浮かんでは消えていく。

 ちなみに自身の冷静な部分ではちゃんと偽モノだと分かるようにされているので錯乱に陥ったりしない。


 自動的に僕の身体が口パクして目の前の少女にそのことを伝えた。


????:「えっ!? 何も覚えてないのですか!? 記憶喪失……というもの、なんですかね? ええと、本当に何も覚えていませんか? 名前とかは……」


 そして名前入力欄がメニューのように表示される。

 実に王道な導入だ。

 小さく[ほかのひとにしられても大丈夫なニックネームにしてください]と書かれている。


 オンラインのゲームだからここで本名入力はやってはいけないということだ。

 もちろん良識的な、と言うのも含まれる。

 名前欄に[ルナ]と入力した。


????:「ルナ……さんですね。良かった。名前は覚えていらしたんですね! 私の名前はマルです。よろしくお願いしますね!

マル:「早速で悪いのですが、長老から起きたら来させるよう言われているので、ぜひついてきてください」


 そう言って彼女は外へ向かってあるき出した。

 ここを出たらオンラインへの接続か……

 光が溢れる向こう側へ一歩踏み入れる。


 右上に小さくネットワーク同期完了したマークが表示された。

 それと同時に広がるの深い森の中と多くの木造住宅。

 息を吸い込めばちゃんと森林のかおりもする。


 どこまでも広がりそうなリアルとは違ったファンタジーでアニメチックな世界にVRをやっているんだと実感した。

 そして同時に周囲に同じ服だったり全裸だったりする同種族がウロウロしているが僕と同じプレイヤーだろう。

 さっきの女の子はNPC※9だ。


 さて早速マルちゃんを追いかけようとして……


私信チャット

ちくわ:『よう! 聞いてた名前検索したら引っかかったからお前かと思って!』


 ……オンラインに誘ってくれた友人がお構いなしに私信チャットを飛ばして来た。

 赤いドラゴンのような顔と共に吹き出しで文字が出るタイプらしく視界の端に写り込んだ。

 見なかったことにできないかなあ。


ちくわ:『楽しんでるかー?』

ルナ:『まだ始めたばかりだよ!!』


 仕方ないので返信する。

 このVR世界のどこかにいる友人が私信を飛ばしてきたらブロック※10しておかない限りどこからでもこうやってチャットが飛んでくるわけだ。


ちくわ:『なんだ! まあしばらくはチュートリアルだし楽しめ!』

ルナ:『こっちには来ないのか?』

ちくわ:『いくらなんでも最初の楽しみから全部レベ差で消し飛ばすほど鬼じゃねーよww』


 レベ差……レベル差か。

 僕はレベル1でちくわこと友人は少しは上のレベルだろう。

 強ければそれだけあっさりあらゆる戦いが終わってしまうからな。

 と言うかなんでちくわなんだ名前。


ちくわ:『ていうかお前会社でも言ったがルナって! それにそのキャラ、少女だからルナってそういうことかよ、制服着る気か!』

ルナ:『うるせー。アバターは人の勝手だろ! ドラゴンでちくわとかいう意味のわからん組み合わせのくせに!』

ちくわ:『なんでや! ちくわ美味いやろ!』


 ちくわ好きなのは知っているがそれを名前にするのがよくわからない。

 まあ周りを見渡せばプレイヤーたちの名前は思い思いだが。


 そんな感じにチャットしながら歩みを進めだす。

 ……そいや素足で靴ないんだけど。

 まあ肉球だから大丈夫だろってことなのかな。

 草が少しこそばゆい。



※元年

 2016年に宣言された事。

 それより前からVRそのものはあったが本格的に普及させようという業界意思表明に近い。

 かなり混沌としていたらしい。


※2アバター

 自身の分身の事。

 ゲーム内で操作するキャラクターを作る。

 自分に1ミリも似てなくても大丈夫。


※3『異種異性別の身体に適用される事による精神の悲鳴』

 擬似的にではあるが、性同一性障害に似た事が発生した。

 これを疑似体験に利用しようとしたが体感に大きな個人差があり断念された。


※4『全く別の入れ物に入ったさいの混乱症状』

 例えば身長50cmのペンギンをVR主人公とする。そこを主観で55cmのペンギンが現れると「人間サイズの超巨大ペンギンが現れた」と混乱する。

 そのほかにも意識移動型だと肉体の動かし方1つとっても人間としての知識と意識が邪魔をしてパニックに陥りやすい。

 解決システムとやり方が確立されるまでかなり混沌としていた。


※5それがゲーム性を損なわせる

 主人公の個人の感想ではありつつも主観と第3者視点が得意な事が違うのは明確である。

 どちらの利点をとるかはゲーム次第。


※6見えない壁

 壁 という当たり判定がついているのに何もないところに使われる表現。

 侵入してほしくないが物を置くと不自然な場所に配置される。

 世界の端に置かれることが多い。


※7レーティング

 年齢基準のことを指している。

 全年齢対象からR18まで。

 この作品はVRによる影響保護観点から12歳以上対象。

 

※8『意識そのものへの介入』

 表層的な思考を誘導する事。

 個人によりある程度左右されるがどう思うかを変化させれる。

 あくまで表層的なので催眠術めいたことや深層心理の変化は難しく本人はVRでの思考だと簡単に理解出来てしまう。


※9NPC

 ノンプレイヤーキャラクター。

 中の人がいないキャラ。

 オンラインゲームでは主に中に人がいるプレイヤーと区別される。


※10ブロック

 ブラックリストという名前の場合もある。

 その相手とのやり取りを拒否するための方法。

 快適生活の第1歩。

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 異世界でケモノになっちゃった。
 その能力は無敵! ~けもっ娘異世界転生サバイバル~もよろしくお願いします!
 戦って強くなって生き延びての大騒ぎ!
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