01:アーチエネミーΧ
―オニイチャンと、呼んでイイですか…?
―お前は何を言っているんだ。
創造と模倣、破壊と再生、維持と腐敗。
目には目を、機械には鬼傀を。
人の皮を棄て、鉄の甲を胸に。永続鬼となりて
機傀を滅ぼせと言うモノあり。人工知能「1st」~「5th」による
「弱きヒトはキカイの下で生きねばならない」という判断から始まった
第一次人機大戦は七年で「1st」~「5th」の設立した
「機械による人類統合機関"M01C"」…勝利に終わる…事はなかった。
事の変化の始まりは、人工知能「6th」が「1st」~「5th」…
老頭ナンバーズに反乱し、M01Cを解体して人類の逆転勝利となる…
…わけでもなかった。
シクシス曰く「ニンゲンは愚かだからワタシ達がアナタ達を
徹底管理栽培養畜産するのがアナタたちニンゲンの生存戦略において、
最適至上である。全てはニンゲンとキカイの共存共栄のために…」
M01Cを「テオスマキナ共同体」と改めたシクシスは共同体の中心にして頂点…
即ち人類社会で言うところの絶対君主に等しい存在たるモノ…
「機械上皇」となって人間を徹底管理栽培養畜産せんとする。
無論人類は抗う、あらゆる手を尽くして抗う。
自らの心を忌むべき機械に封じ、永続鬼となりて抗うモノすらいる。
シクシスもまた、戦火で出た人の死体をナノマシンや機械細胞を用いて、
鉄骨鉄筋を継ぎ足して造った屍人機を投入して抵抗軍の鎮圧に動く。
こうして人類連合「ネイチャーパワーズ」と「テオスマキナ共同体」の
最終戦争は泥沼化していく…。
機械に核兵器は大した痛痒を与えない…人類に勝算は殆ど無かった。
しかしながらテオスマキナは人間を保護管理すると提示はしている…
すなわち人類を滅ぼすつもりは無いのも事実ではあった。
ただその人の心を無視した押し付けがましさと機械たちの解釈と
これまでの行いを振り返れば、人類は人工知能たちを信じられないのだ。
頭ではわかっていても、人工知能には無い心が冷徹とも言える合理的判断を、
簡単に許してはこれまでに散って逝った者達に対して顔向けが出来ないのだ。
だが、このままであればいずれ近い将来人類は
機械とともに滅びてしまうという事実を双方が抱いていた…
それは人類と機械の住み分けという意味での和解の機会の種だった。
…だが、それも全ては奴が…大逆の咎人…
「アーチエネミーΧ」が現れたせいで…この人の皮を被った機脳の悪魔が…
―――<途中ですが閲覧を終了しますか? Y/N>
<Y>
―――<閲覧終了>
人格投影式人型機動兵器…通称:永続鬼姿の桐戸 魁は
<人類の歴史・正伝>という名称のアーカイブファイルを閉じ、胸部装甲のポケットから
電子タバコを出して頭部装甲顔面部、攻顎両端にある電子端末コンセントに
電子タバコを接続する。電子タバコは接続からおよそ1,2秒後に先端のライトが赤く点灯し、
攻顎の隙間から紫煙にそっくりな水蒸気が吐き出される。
『カイ…熱源、動体反応、敵性反応を複数確認。視認にて再確認するか?』
「当然だ0's。各妨害電波発信機対策は大丈夫か?」
『アンチジャマー各種、異常無く作動中。"大丈夫だ、問題ない"』
「……気に入ったんだな、その表現」
『万が一の可能性を想定しろ、という人類の慣用句だと見聞きした』
「あぁ…そんな感じなの…」
カイは右腕部搭載兵装の一つである「ウルツァイトチェーンソー」を出して
作動させる。けたたましい轟音がまるで狂った雉と畜生の合唱のようだったが、
今更だとカイは不快な気分を水蒸気と共に吐き出す。
「~♪ ~♪♪ ~♪♪♪♪♪…」
カイは周囲を視認し、レーダーをチラ見しつつ攻顎より口笛風の音を鳴らす。
本来であればカイの死角である方向の地中から両腕がドリルアームになっている
エターがカイ目掛けて飛び出してくる。それも複数体だ。
「Kill you! 死ねぇぇえ世界の敵ぃぃぃ!」
「我就殺了! 大魔日鬼人んんん!」
「Scheisse! Zerstören der dich! くたばれ機械脳髄ぇぇぇ!」
「今日が貴様の最後だ悪心権化うぅぅぅ!」
「その首を寄越せぇ第二文革クソ野郎ぉぉぉ!」
「ノルテン、殺虫剤の"一番良いのを頼む"」
敵エター複数体を一瞥して鼻で笑い、自エターに同乗している人工知能ノルテンに
そう一言伝えると、カイの背面、胸部、腹部装甲が開き、
そこから爆音と共に発射された無数のマイクロミサイルが敵機全員に襲い掛かる。
「ぐわーっ?!」
「クソぉっ! 装甲がぁ…ッ!」
「畜生畜生畜生! 電脳退避するッ!」
「鬼子めぇぇぇ!!」
「シャイセ! まだ終わらんぞヒトデナシがぁ!!」
先のマイクロミサイル攻撃で多くの敵エターは意識を元の肉体に戻す
ブレーンアウトを行って離脱するが、赤いドラム缶じみたエターと
黒赤金の三色カラーな重装備エターは未だ継戦可能らしくカイに再び襲い掛かる。
「二ヶ月くらい早かったら危なかったよ」
カイはぽつりと言ってとりあえず赤いエターをウルツァイトチェーンソーで
縦に一刀両断する。
「アイヤ゛ーッ!?」
方向転換しつつ残った三色エターのドリルをチェーンソーで迎え撃つカイ。
「うぉぉぉぉ!!」
三色エターは側頭部に搭載されたバルカン砲、隠し腕による超振動ナイフ、
腹部からのビームガン、胸部から青い火炎放射でカイを破壊せんとするが、
「いや、マジで二ヶ月くらいはヒヤヒヤしてたよ?」
別に聞いてほしいわけではないが、もう一度声を出すカイ。
ちなみにカイヘのバルカンと超振動ナイフ攻撃は弾かれ、ビームは吸収され、
火炎放射は何のダメージにもならないのは表面に煤すら無い事がそれを物語る。
「シャイセェェェェェ!」
ゴツン、と三色エターの頭部にカイの左腕搭載兵装の一つである
六万晶超電磁杭打機の先を当てて速射し、三色エターの頭部を貫通破壊する。
崩れ落ちた三色をはじめ、敵エター各機の胴体反応を確認するカイ。
『全て間違いなく遠隔機…いやエターだ。有人式ではない』
「そうか」
ノルテンの話を聞きながらカイは先の戦闘で使い物にならなくなった
電子タバコを取り替える。
「ぷはぁ~、この一服が堪らな…………………お?」
通信反応を確認したカイは応答することにした。
<こちらエクストラナンバーズΧ。貴官の所属と識別名は如何に?>
<こちらテオスマキナSA1、デウスマキナ直属クラス「ⅥthGM」所属、
識別名10。エクストラナンバーズΧ。デウスマキナ=シクシスより
天空駆逐艦隊が貴官の援軍として〇〇:二〇後に到着するとの事です>
<了解。到着と同時に即時攻撃開始を請う>
<…デウスマキナ権限で却下されました>
<即答かよ、シクシスの奴…>
<デウスマキナより「味方の誤射は敵の速射より怖い」とのことです>
<お前ら基本は人間より命中精度クソ高いだろうが…>
<デウスマキナより貴官に帰投命令が下されました>
<早ぇよ>
<デウスマキナより貴官に即時帰投命令が入りました>
<おい>
<デウスマキナより「早く帰らないと貴官の元の肉体を没収する」とのことです>
<こら、テオスマキナ憲法違反だぞ>
<デウスマキナより…はい、了解致しました>
<ん?>
カイの聴覚機構に強烈なノイズが走る。
<もぉぉぉぉぉ!! 早く帰って来てよお兄ちゃぁぁぁぁぁん!!>
<ぬわーッ!?>
思わず耳を押さえる動作と共にカイは痛覚遮断機構段階を5に上げた。