【超短編】バーチャル恋人(モテない男と謎のセールスマン4)
モテない男と謎のセールスマンの第4弾です。今回はいつもと違い、主人公は松竹梅の松を選びます。
おんぼろアパートのおれの部屋に、あのセールスマンがまたやってきた。
「もうこりごりだ。頼むから帰ってくれ。あんたはおれにとって疫病神だよ」
おれはそう言って塩を撒き、さらに十字架とニンニクをかざした。
「わたしはドラキュラじゃありませんよ。今回はどんな不器用な人でも
へまをしない安全な商品をお持ちしました」
男はそう言うと、何やら電子機器のようなのを取り出した。
「これはバーチャル恋人といいまして、ゴーグルとヘッドホンを装着し、
本体のスイッチを入れると、目の前にバーチャルな恋人が現れるのです。
一種の催眠効果で、ヴァーチャルですが体に触れますし、キスや性交もでき、
味わえる感覚は実際にやっているのとまったく変わりません」
おれは興味をそそられたが、警戒した。
「ふん、どうせ松や竹は高額だし、梅だとやっぱりひどい目に遭うんでしょ」
するとセールスマンは意外なことを言った。
「今回は違いますよ。一週間のレンタルで、松竹梅の三種類ございますが、
松は一万円、竹は千円、梅は十円という超特別大サービスです。いかがですか」
おれは耳を疑った。これまで梅しか選べず、さんざんな目に遭ってきたのだ。
今回は松も選べる。これなら大丈夫だ。
さっそく機器を装着しスイッチを入れると、目の前に絶世の美女が現れた。
「島田渚といいます。よろしくね」
女はそう言うと服を脱ぎ、抱きついてきた。おれも服を脱いで抱いた。
ものすごい快感だった。あっという間におれは五回もイッた。
「ああん、もっと、お願い」
女は満足せず、おれはさらに三回もやらされた。翌日も、そのまた翌日も……
気がつくと、おれは病院のベッドで寝ていた。瀕死の状態で倒れているのを
管理人のばあさんに発見され、救急車で運ばれたのだ。
医師の診断では極度の疲労で、一週間の入院となった。
朦朧とする意識の中で、女の名前が逆さに思い浮かんだ。
シマダ・ナギサ……サギナ・ダマシ……詐欺な、騙し……
瀕死の状態になってもいいから、こんな体験をしてみたい、とちょっとだけ思ってしまいます。