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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『私』と【私】

※注:あとがきまでしっかりとお読みください

 子どもの頃、『私』と【私】は一つの存在だった。

 寸分たがわぬ容姿を持ち、趣味趣向も全く同じの同一存在。『私』は【私】であり、【私】は『私』だった。

 どちらも同じ私なので、名前で呼ぶ必要もない。お互いを呼ぶときは『私』と【私】だけで通じ合えた。


 毎朝学校に行く前に“鏡”の前に立つと、お決まりのように声をかける。

「おはよう『私』、今日も可愛いね」

「ありがとう【私】。どこかおかしいところはない?」

「うん、大丈夫……あっ!」

「……どうしたの?」

「もう、『私』ったら髪留めが反対だよ?」

「あっ、ごめんごめん。ありがとう、【私】」

 そんな調子でいつも身だしなみをチェックしていた。


 学校では私達は気味悪がられ、避けられていた。無理もないことかもしれない。だけど『私』には【私】がいつもそばにいてくれたのでちっとも寂しくなかった。

 『私』には【私】さえいればいい、そう思っていた。

 何かにつけて『私』と【私】はぎゅうっと互いを抱きしめ合い、互いの存在を確かめ合っていた。

「ずっと一緒にいてね、【私】」

「うん。死ぬまで離れないでいようね、『私』」

 そういって永遠の愛を誓い合ったものだった。


 しかし、『私』と【私】の関係は、ある日あっさりと崩れてしまった。

 あまりにも『私』が【私】に、【私】が『私』にべったりなので、将来を危惧したのかもしれない。

「今日からは一人でも生きていく努力をするのよ」

 母親は無慈悲にもそう告げた。両親は、分かちがたく結びついていた『私』と【私】をべりべりと引きはがし、それぞれをはるか遠くへと追いやってしまった。

 かくして鏡は砕かれてしまった。この時に初めて『私』はマキに、【私】はミキになった。


 ミキ……いや、【私】のいない生活は本当に苦しかった。

 朝起きても声をかけてくれる人はいない。それに、今までは『私』と【私】の中で完結していた世界だったが、友達というものをつくらなければならなかった。

「わっ、わたし……早坂マキです……」

 慣れない名前を、初対面の人に言わなければならないという行為はとても怖いものだった。でも、負けたくなかった。ミキ……じゃない、【私】だって同じ環境の中で過ごさなければならないのだ。だとしたら『私』は【私】に恥ずかしくないように頑張るしかない。いつか逢うかもしれない、その日のために。




 ――そうして幾年かの歳月が流れた。私は大学生になり、マキとしての生活もだいぶ様になってきた。そのころになると、自分のことに手一杯で、愛しい半身であるミキ……ではなく【私】のことも忘れがちになっていた。

 そんなある日、

“ピンポーン”

「はぁーい!」

 ――“鏡”が、私のところに戻ってきた。

 信じられなかった。もう逢えないものだと思っていたのに。


 髪型や服装は今流行のかわいらしい感じで、昔からは想像もつかないほどおしゃれだった。

 ミキは……いや、【私】は、『私』の目をしっかりと見据えていった。

「久しぶり。逢いたかったよマキ……ううん、『私』」

「私もだよ、ミキ――じゃない、【私】!」

 そういって泣きながらお互いに抱きしめあった。

 ……ああ、ミキも【私】に戻りたかったんだね。私もだよ、私も『私』に戻りたかったの!

 お互いに全然変わっちゃったけど、また一緒になろう?数年間のブランクは、これから埋めていけばいいから……。

 そんなことを思いながら、しばらくの間抱きしめ合い、口づけを交わした。




 こうしてまた、『私』と【私】の暮らしが始まった。

 ご近所さんは今迄との違いにはまだ気づいていないみたい。そりゃそうか、『私』は【私】で一つの存在だもんね。

「行ってきます、【私】」

「気を付けていってきてね、『私』」

 愛しい人に手を振って、今日も『私』は元気に出かけていく。 

――さて問題です。この二人の関係は?

ご意見、ご感想お待ちしております。

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