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レジェンド オブ 転生  作者: 新名とも
第三章 魔導学園デザイア編
87/140

15 第一試験3



 クラウは、キラが首からさげている紙を数枚もらうと、これからやるべきことをてきぱきと仲間に説明していった。

「いいか?まず、君たち四人はこの付近に生えているはずの十二種類を先に見つけてもらう」

 そう言って植物の名前をずらりと紙に書きだしていく。

「キラ、この中で確実に見た目と名前が一致している植物はどれだ?」

『えっと…』

 クラウが書いた植物の名を確認しながら、キラは二つ以外はすべてわかると答えた。

「いいぞ、さすが優秀だな。レインゼル草は見た目が派手だからすぐにわかる。それからググの実は…、エドガー、君のすぐ後ろにあるから問題ないな」

「え?え?どれ?これ?」

 振り向いたエドガーは、木の幹に絡みついた小さな蔓になっているオレンジ色の実を手に取った。

「そうだ、運がいいな。じゃあ他の十種はキラに特徴を聞いてから、それぞれ手分けして探してくれ。キラは、皆が集めたものがちゃんと合っているか、最終確認を頼む」

『はい!』

「な、なんだかすごい…!」

 次々と指示していくクラウに感銘したエドガーが、興奮気味に鼻を鳴らす。やはり仕草のすべてがアナモグマに似ているなと、どうでもいいことに感心しながらクラウは話を続けた。


「次に、キラとガレシア、エドガーとカガチ二人ずつに分かれて探索してもらう。探す範囲はこうだ」

 クラウは頭の中にある地図をわかりやすく書き写していくと、今いる場所と最初の捜索範囲を丸で囲み1の番号を、それから東側を大きく囲むと2の番号をふった。

「まず森の南東、1番が現在地で、そのまま少し北東に行くと木が密集した場所に出る。エドガー、カガチの二人はこの2番の東側を担当してくれ」

 そして次の紙に二人が探すべき植物の名前と特徴をイラスト付きで細かく書いて、さらに生えていそうな場所も記してエドガーに渡した。

「おそらく全部で七種類だが、この範囲になければそのまま北上して探せ。必ずあるはずだ。いいか、方角が分からなくなったら、とにかく高い木に上って周囲の建物を見ろ」

 学園の闘技場が見える方が南西、モーモルンの教会の大屋根が見えるのが南東、さらに遠方で山が連なって見える方角が北になる。それらを目印に現在地を割り出せるようにと、クラウは地図に書き足していった。

「それから、植物の中にはいくつか見分けが際どいものがあるから、ちゃんと確認しろ」

 中でも一番注意しなければならないのが、アンドルゼウムと呼ばれる植物である。これは一つの種から二つの芽が生え、ねじれるように螺旋を描きながら成長する変わった植物で、それぞれの茎に一つずつ大輪の花を咲かせる。昔、染料として使われた花だ。

「この花の色が、薄紅色と橙色のものがアンドルゼウムだ。だが、良く似た植物で、ウンドルゼウムという植物がある」

「ええ??名前も似てる?」

「そうだ。名前だけでなく、見た目もほとんど一緒だ。だが、ウンドルゼウムの方は花が咲かない、ただの草だ」

「…なら、花が咲いてるやつを取ればいいんだろ?」

 簡単なことだというユウマに、クラウは首を振った。

「いや、アンドルゼウムが咲くのは四月、それもほんの一週間ほどの短い期間だからな。今はつぼみすら付いていないはずだ」

「えええ!?じゃあ、どうやって見分けるの?」

「見分け方は簡単だ。葉の裏をみろ。アンドルゼウムの方がうっすらと赤みを帯びているはずだ。これは花の色素が茎や葉の部分にも反映されているからだと言われている。少し掘ってみれば、根っこ付近の茎の色も違っているはずだ。いいな、ちゃんと確認しろ」

「わ、わかった」

 クラウはさらにいくつかの注意事項を付け加えて、書いたものをエドガーにまとめて手渡した。


「次は、キラとガレシアの方だが、君たちはここから少しだけ北西寄りに進んで、3番の湖周辺を担当してくれ。移動は西の端から東に向かって泉を半周し、最後は、エドガーたちと合流するように、北上するんだ。最終的にこの大岩で落ち合ってくれ」

 クラウはもう一枚地図を書き写し、湖周辺に3、北東にある岩に大きな丸を付けて、『集合』と書いた。また細かい植物の特徴も書き添えて、それらをキラに渡した。

「こっちは君がいるからな。十一種類と少し量は多いが、まぎらわしいものもないし、大丈夫だな?」

『うん、大丈夫』

「よし。あと残り時間は大体三時間だ。時計は二つあるからそれぞれ持って行け。比較的見つけやすい植物ばかりだし、範囲を区切った分、十分間に合うはずだ。まかせたぞ」

「おい、残りは?」

 今の説明では森の半分しか探索しないことになるが、どうするんだとユウマが怪訝そうな顔をした。

「残り二十種は僕が集める。地図の左半分を担当するから問題ない」

「ええ!?だ、大丈夫?クラウ君だけ一人で行くの?」

「ああ、さすがに時間がないからな。君たちに一つ一つ説明しながら一緒に行動していては、到底間に合わない」

 心配してくれるエドガーには悪いが、クラウの場合は断然、一人の方が効率がいいのだ。イアの力を借りられない以上、クラウも自分の足で走り回らなければならないので、みんなに合わせている余裕などなかった。


「それから、最後に一つだけ忠告だ」

 今から言うことだけは絶対に守れと、クラウは仲間に向かって言った。

「先生が言っていたように、不正行為はご法度だ。特にカガチ、誰に何を言われようと、絡まれようと、手だけは絶対に出すな」

「…わかってるよ、うぜぇな」

 名指しで忠告するなと、ユウマはクラウを睨みつけた。

「でもさ?この森、結界張るって言ってたよね?じゃあ先生は、どうやって不正を判断するんだろう…?先生たちもこの近くのどこかから見張ってるってこと?じゃあ…」

「いや、この森に大人は一人もいない」

 クラウはエドガーの言葉をさえぎって、そんな気配はないと断言した。

 ならば、どうやって生徒一人ひとりの行動を細かく監視しているのか―――


「別に、終始僕たちを見張っている必要はないんだ」

「どうして?」


「―――ここが聖獣の縄張り内だからだ」


「縄張り?」

「ああ?いつ入ったんだよ?…警告なんて、なかったぞ?」

 さすがに縄張りについての知識は持ち合わせているらしいユウマは、ここに来るまでの間、文様も見ていなければ警告も受けていないと怪訝そうに首をひねった。

「おそらく、警告はもともとされないようになっているのだろう。文様は、森の入り口の土が少しだけ盛り上がっていたところを見ると、わざと見えないように隠しているはずだ」

 しかし、縄張り独特のこの空気感だけはどうしようもないようで、クラウはこの森に足を踏み入れた時から確信していた。

「間違いなく、ここは縄張りの中だ」

「じ、じゃあ、縄張りの条件て…?」

「『常に、誠実に』―――まぁ、そんなところだろうな。そして何かしらの不正を行った時点で、即刻森から追い出されるか、あるいは試験続行が不可能な事態になるはずだ。それがこの縄張り内での『罰』ってことだろう」

 あくまで想像だが、教師の言葉から推測すればおおよそ見当がつく。

 縄張りだということをわざと隠しているということは、ここに住む聖獣と学園側が協力関係にあるということだろう。

『人間』という括りの中で生きている以上、縄張りの罰から逃れる方法はない。どんなに悪知恵の働く生徒でも、この優秀な監視を掻い潜ることは不可能なはずだ。



「なるほどな。…なら、こんな手の込んだ嫌がらせしたのも、俺たちが何かしらの不正をして、失格になるのを期待したってことか?」

「さてな。嫌がらせだと決めつけるのは早計だが、もし本当に五班の進学を面白くないと思う人間がいるとするなら、そういう狙いもあったかもな。だから、その思惑に乗る様な安易な行動は絶対に避けろと言っているんだ」

 あくまでも可能性の話だと付け加えるクラウに、ユウマは意外にも「わかった」と力強く頷いた。粗暴さが目立つ男だが、子供らしく素直な一面も持っているらしい。


「では、さっそく行動開始だ。東側は任せたぞ」

「おい」

「どうした?」

「俺たちの事ばっかり言ってるけど、てめぇこそ、本当に大丈夫なんだろうな?…信じるぞ」

「……」

「おい、聞いてんのか!?」

「…ああ、聞いているさ」

 まさか、ユウマの口から『信じる』なんて言葉が出るとは思わず、クラウにしては珍しく反応が遅れてしまった。

「本当に大丈夫かよ、お前。大見得切って、一つも集められなかったとか言いやがったら、まじで絞めるからな!?」

 それはそれで面白い絵図らになりそうだが、果たして、クラウが大人しくやられるかどうかは疑問である。

 当然ながら、ユウマはクラウがどういう人間かなど知る由もない。

 希有な魂がたどった複雑な経緯を知るものは、この世界ではたった一人しかいない。成長を傍で見守ってきたはずのエルフの民ですら、不気味さを覚えるほどの男なのだ。その行動原理を、出会って一月の子供たちに理解しろと言う方が無理だろう。

 そして、いつだってまっすぐで、ひたすら前を見つめ続ける実直な男は、どんな境遇に出会おうとも見栄や虚勢を張るような小さな人間ではなかった。


 

「確かに、お互いをほとんど知らないこの状態で信頼を前提に話すのは、難しいことかもしれない。だが――――」

「な、何だよ…?」

 真っ直ぐとユウマを見返すクラウの瞳の力強さに、ユウマが押され、たじろいだ。


「君が信じてくれるなら、己の持てるすべてをもって必ず応えよう。どんな約束であれ、最後まで誠意を尽くすと決めている。何があろうと、君の信用に応えるだけの結果を残すと、ここにいるすべての存在に誓うさ」


 だから、君も誠意を尽くせ――――


 最後にそう言い残して、クラウはイアと共にその場を後にしたのだった。





「…そんな真顔で言うことかよ、恥ずかしい奴だな…」

 残されたユウマはどんな反応をすればいいんだと、その頼もしすぎる背中を唖然と見送った。

「クラウ君、か、かっこよすぎる!!!」

 一方、すでにクラウ信者であるエドガーとキラは、感銘を受けていた様子で瞳を輝かせた。


「いや、かっこいい…のか?」

 言っていることは確かに素晴らしいが、あれで自分と同じ年かとユウマはつい隣にいたニトに確認してしまった。

「さすがに、気障すぎじゃね?」

「あれを計算無しで言ってるなら、相当の天然よ、彼」

「だよなぁ…」

 ユウマは、ニトだけでも自分と同じ感覚を持っていることにほっと安堵の息をついたのだった…。





 一方、一足先に飛び出したクラウは、仲間から噂されていることなど気づかぬまま、責務を全うするべく森の中を駆け回っていた。とりあえず、地図の左半分を下からジグザグに斜めに移動しながら北上し、最終的に北西にある洞窟を目指すことにする。

 南西はとにかく背の低い植物がわさわさと生い茂っていて、生息する植物の種類も多い。目当ての一つを見つけようと、地べたに這いつくばって葉をかき分ける他の生徒達を後目に、クラウは着々と必要なものを見分け採取していった。


「なぁ、確かこれであってるよな…?」

「うん、たぶん…。でも何か、あっちにも似たようなのあるけど…?」


 難しい顔をして植物と睨みあいをしている生徒の横から、クラウの腕がにゅっと伸びて、正しい方をかすめ取って行く。

「……ほ、ほら、やっぱりこれだよ!こっちのような気がする!」

「お、おう!俺もそう思う!」

 あまりにも迷いなく取っていくクラウの姿に、自信がなかった生徒達は便乗するようにクラウが持って行った植物と同じものを手に取って袋に詰めこんだ。危うく不正になりかねない行為だが、ギリギリ許されたのか、彼らは意気揚々と他の仲間の下へと戻って行ったのだった。

 そんな周りの様子など構うことなく、クラウの収集は順調に遂行された。

 ぬかるんだ土もなんのその、持ち前の体力を存分に生かして走り去る。もちろん、目当ての植物があれば目ざとく見つけ、かすめ取っていく様は、盗人もびっくりの早業であった。


「なぁ、そろそろ移動しようぜー」

「そうね。みんなを集めて…きゃ!」

「どうした?」

「な、なんか…、今、白っぽいものが通り過ぎなかった?」

「え、やめろよ!怖いんですけど!?」


 立ち話する生徒の横を目にも留まらぬ速さで通り過ぎていくクラウは、ある種のホラー的存在となっていた。地上の植物はもちろん、木になった実もサルが木々を渡り歩くように軽やかに飛び移り難なく入手していく姿は、人の目でとらえられず、ただ白い残像だけが残っていた。

 後程、生徒達の間で白い幽霊が出たという噂がまことしやかにささやかれるのだが―――もちろんクラウの知るところではなかった。



「―――ふむ、だいぶ集まったな」

 一時間ほど駆け回り、手元の袋に詰まった植物は全部で十七種類。あとは目当てだったモジナがあるはずの洞窟を目指すだけとなったクラウは、少しスピードを落として木々の合間を走りぬけた。

 しばらくすると、イアが後ろを気にするようなしぐさを見せた。


「つけられているな…。誰だ?」

  

 何か、後ろからものすごいスピードで追い上げてくる気配がある。

 それも二つ―――

 人気のない中をわざわざこちらに向かってきているところをみると、クラウに用があるらしい。だが、心当たりもなければこれ以上面倒事が増えるのは御免だったので、クラウは振り切ろうと決めた。

 即座に方向転換して、西へ直角に曲がり近くの木の枝へと飛び上がる。

 すると、後ろの二人も同じように方向転換して追ってくるではないか―――

 クラウは一度相手を確認しようと後ろを振り返った。

 そのわずか、一瞬の隙―――

 相手の一人が、ぐっと距離を縮めて加速した気配を感じ、クラウは咄嗟に斜め上へと飛び上がった。そこへ、まるで動きを予測していたかのように飛んだクラウの足首を狙って、しなやかな鞭のようなものが森の奥から伸びてきた。

 間一髪、飛び上がった状態のまま無理やり身体をねじり、腹筋を使って足を縮める。

 その足先ギリギリを鞭がかすっていった。


 ―――何のつもりだ?


 再び枝の上を走りながらクラウはまた冷静に考察した。 

 こんな試験真っ只中に喧嘩を吹っ掛けてくるなど、相手はずいぶん余裕があるらしい。

 しかもクラウの走りに付いてこられるということは、向こうもかなりの俊足である。反応も上々。しかし、一年生でここまでの身体能力を発揮できる生徒は限られているので、おおよその見当はついた。

 何となく二人の正体に思い当たったクラウは、相手がどういうつもりで自分の後を追ってきたのか興味が沸いた。


「イア、上だ」


 相棒に声をかけると、即座にイアが反応して、一際高い木の幹を駆け上っていく。クラウもそれに続くようになるべく音を立てずに枝の一つに手をかけると、ぶら下がった勢いと反動を利用し、腕の力だけで身体を持ち上げて真上へと飛び上がった――――



「あやぁ…姉ちゃん!逃げられただや!」

「不覚!」

「狙いは完璧だったはずだや。じゃけぇ、向こうの反応の方が早かったと…」

 小さいながらすらりとしたスタイルのシルエットが二つ。長い耳をぴくぴくと動かしあたりの物音を警戒するのは、双子のラットルフェイン姉弟であった。その手には巻き上げられた鞭のような武器が確かに握られていた。

「ウムム…。どうするだや?姉ちゃん」

「情報、逃した。ボス、失望!」

「しょうがないけぇ、これ以上派手にやれば掟に反するだやぁ。試験がパァになったら、それこそボス、カンカンだや…」


「僕に何か用か?」


「うお!?あんちゃん、どっから出て来ただや!?」

 突然、背後に降り立ったクラウに、弟のマーチが驚き、大げさなそぶりで振り返った。

「びっくりしたじゃけぇ。驚かすなだや!」

「そっちこそ、どういうつもりだ?君たちにストーカーされる覚えはないが?」

「すとーかぁ…?それなんと?うまいんか?」

「お前、クラウ・オーウェン?」

 不思議そうに聞き返すマーチを押しのけ、姉のサーチがぐっと身を乗り出しクラウに顔を近づけた。

「ああ、そうだ」

 間近で見ると、本当にかわいらしい顔つきである。見た目の小ささも相まって、マスコットのような姉弟だが、姉の口調はなぜか片言で、弟はひどいなまりがあった。

「ボス、お前に用ある。付いてこい」

「ボス?」

 どこのヤクザだと呆れる。だが、大体の察しがついたクラウは、特に抵抗もせず双子の後をついて行った。





「ただいまだや~」

「ボス、戻った」

「おう、案外早かったな」

 北へ抜ける道を進むこと十分ほど。ついた場所は崖下にある、グレイスの白い花が咲き乱れる場所だった。


「やはり君か…」

 どこか甘い花の香りが風に乗って届く中、クラウはその白い絨毯に埋もれるようにして寝ころんで寛いでいる男―――リオを見つめた。

「相変わらず愛想ねぇな、オーウェン」

 対して、出迎えたリオはすこぶるご機嫌らしい。いつも以上ににやにやと笑っていた。


「…君は何をしているんだ?」

「何って、こいつらが花かんむり作ったことないって言うから、教えてやってたんだよ」

「…できた」

 寝ているリオの隣に座り込んで、グレイスの花を手に何かを作っていたらしい生徒は、出来上がったそれを自慢げにリオに差し出した。

「おお、さすが器用だな。最初にしては上出来じゃん」

 リオがほめると、相手の生徒――ノエル・ユグライトは自分で作った花かんむりを自分の頭に乗せて、じっとリオを見つめた。クラウ並の無表情ではあるが、どこか嬉しそうな様子である。灰色の瞳に期待を乗せて、彼は子供のようにリオの言葉を待っていた。

「仮にも男が花かんむりで喜ぶってのも、あれだけど。ま、似合ってるんじゃね?」

「私も、できた」

 反対隣りでももう一人、同じように花かんむりに挑戦する生徒がいた。最後の星組一班のメンバー、コハクである。彼女は自分が編んだ花かんむりを満足げに見つめると、ずいっとリオに差し出した。その深紅の瞳はほめろと言わんばかりの自信があふれていた。

「うお…あはは!いやお前、やっぱ不器用だなぁ。剣の扱いはあんなにすげぇのに、なんでこんな花の向きがぐちゃぐちゃになるんだよ。あーあ、ほら、結びが緩いからほどけてるだろ」

「……」

 コハクがムッとする。

 リオはケラケラと笑いながら花かんむりを受け取りもう一度結び直すと、それをコハクの小さな頭に載せてやった。

「おお、やっぱあれだな。女の子の方が似合うな」

「ボス、私も欲しい!作って!」

「あ!姉ちゃん、ずるいだや!おいらも欲しいだや!」

「えー面倒くさい。ノエルに作ってもらえって、すげぇうまいから」

 周りでじゃれ付く仲間を適当にあしらいながら、リオは立ち上がるとクラウの方へとやってきた。


「意外だろ?」

「君に保育の才能があったとは知らなかった」

 冗談とも本気ともつかぬ無表情でクラウが返すと、リオは、

「俺もしらなかったよ」

 と、楽しそうに笑った。

「あいつら、今までそれこそ鍛錬鍛錬で、遊びらしい遊びを何もしてこなかったらしくてさ。俺がやることなすこと興味持って、一緒にやりたがるんだよ。ほんと、飽きない面白い奴らだぜ」

 一度武器を握れば、大人顔負けの気迫と集中力で圧倒する彼らが、花かんむり一つで騒ぎ合う姿は確かにクラウも想像しなかった。こうしてみると彼らも年相応の子供に見える。

 だが、リラックスして遊びを遊びとして楽しめるのは、他でもないリオという存在がいるからだろうとクラウは勝手に納得した。


「君はいつも楽しそうだな」

「ま、実際楽しいしな」


 ニッと屈託のない笑顔で言ってのける男の言葉は、確かに嘘偽りのない本心なのだろう。

 自由に、のびのびと生きているように見えるのに、それでいて誰よりも強く、上へと上り詰めるだけの力があるのだから底が知れない。リオを見るとまぶしさを感じるのは、決して日の光のせいだけではないはずだ。そして、ここにいる星組のメンバーも、クラウと同じようにリオの人柄に惹かれ、こうしてともに過ごす時間に酔いしれているのだろう。それがたとえ一時の限られた時間だとしても、きっと四人には必要な出会いだったのだ。


 ―――やはり、不思議な男だな


 クラウは改めてリオディアス・ライラックという男を評価した。




「―――それで?結局僕に何の用だ?」

「あ?ああ、そうそう!お前に聞きたいことがあったんだ」

 ついつい本来の目的を忘れていたらしいリオは、にんまりと含み笑いしながらクラウをじっと見つめた。その目は好奇心で一杯だった。


「オーウェンなら知ってるだろうと思って」

「何のことだ?」

「ほら、あれだよ。特別課題の『謎の実』ってやつ」

「学年一頭のいい君が知らないものを、何故、僕が知っていると思うんだ?」

 そもそも本来の試験の方はどうしたんだとクラウが問うと、リオは開始三十分であっさり終わったとつまらなそうに答えた。だから、暇つぶしに『謎の実』を探そうとしているのだが、誰も情報を持ってないので、持っていそうな奴に目をつけて情報交換をしようということになったらしい。

 そこで、白羽の矢が立ったのが、クラウだったというわけである。


「だから、何故僕に聞く」

「なんでって、聞いたぜ?お前、薬学科の試験、満点だったらしいじゃん」

 にやにやとしたり顔でいうリオに、クラウはそんな情報を誰から仕入れたのかと問い返した。本来、あの学力試験は総合点の順位しか発表されていないし、個人がどの教科でどれぐらいの点数を取ったかなど、本人が言わない限りわからないはずだ。


「星組の指導員の一人に聞いたんだよ。ま、基本いい人なんだけど、ちょっと口が軽いんだよな」

 その指導員が何故か星組一班には人一倍親切らしく、試験が始まる前に助言をくれたらしい。

「もしどうしてもわからないことがあれば、花組のオーウェンに協力してもらうといいってよ」

「………」

 何とも、はた迷惑な助言である。

 クラウは呆れたため息と共に、話は大体分かったと頷いた。


「それで、君は僕に何をしてくれるんだ?僕がただ情報を与えるだけでは不公平だろう」

「ってことは、知ってるってことだな?おい、お前ら、見つけたぞ!」

 リオがまだ花かんむりで遊んでいる仲間を呼ぶと、彼らはそれまでのほのぼのとした雰囲気をがらりと変えて、リオの下へと駆け寄ってきた。



「―――さて、オーウェン。お前の持ってる『謎の実』についての情報を知りたい。代わりに、お前が知りたい情報は何でもくれてやる」

「特にないな」

 クラウがにべもなく返事をすると、リオは脱力したようにため息をついて見せた。

「お前……ほんと、空気よめねぇ奴だな?なんかあるだろ?試験は?もう全部集めたのか?」

「そこの双子に執拗につけまわされてここで君と対面していなければ、今頃は僕の担当分は終わっているころだろうな」

「…いや、うん、悪かったって。じゃあ、他になんでもいいから。なにか一つぐらいあるだろ?」

 よく考えてみろと言われてしばし思案してみるが、結局クラウは思い浮かばなかった。

「じゃあ、キラの誕生日は?どうだ?知りたいだろ?」

「知りたければ本人に聞く」

「じゃあ、キラの好きなものとか」

「取り立てて今すぐ知りたい情報でもない」

「なんでだよ。誕生日の贈り物考えるのに役に立つだろうが。…じゃあ、あいつが今嵌ってるものとか?これなら会話の話題提供に役立つじゃん?」

「……何故、キラのことばかりなのだ?」

「なんでって、最近おまえらいつも一緒にいるだろうが」

 自分の知らないうちに仲良くなって面白くないとすねた言葉とは裏腹に、にやにや笑うリオはここ一番楽しそうで、嬉しそうでもあった。


「まぁ、茶化しておいてあれだけど。本当は感謝してるんだぜ。最近のあいつ、すげぇ楽しそうだからな」

「別に僕は関係ない」

「…それ、本気で言ってるのか?ああ、お前だもんな…。わかった、じゃあこうしようぜ。お前が知りたい知りたくないに関わらず、将来絶対役に立つであろうキラの情報を渡すから、『謎の実』について教えろ」

「……」

 そんな一方的な情報交換があるのかと疑問に思うものの、クラウはこれ以上自分の探索時間が削られるのは避けたかったので了承することにした。


 さすがにリオも後ろめたい気持ちがあるのか、キラの誕生日に始まり、好きなものから嫌いなものまで、果てはそんな情報に意味があるのかと思うことまで教えてくれたのだった。


「中でも、あいつ、お芝居が好きなんだよ」

「芝居?」

「そう。特に歌劇の『白騎士と愛の奪還』てやつな。好きな女が他の男と結婚させられるのを、白い甲冑を纏った主人公が颯爽と現れ連れ去るっていう、くそ甘ったるい恋愛劇。あいつはそれさえ見せとけば機嫌よくなるから、喧嘩した時なんか絶対役に立つ情報だぜ?」

 リオはにんまりと含み笑いしてクラウを見つめた。

 これまで自分もそうやってご機嫌取りをしてきたのだろう。押し問答しながら二人で劇場に入っていく姿が簡単に想像できる。


「他にもキラに関することで聞きたいことがあれば、いつでも聞きに来いよ。俺からはこれぐらいだな。今度はお前の番だぜ」

「早く教えるだや~」

 待ちきれないと唸るマーチをリオが焦るなと抑える中、クラウは口を開いた。


「―――謎の実というのは、そのままナゾの実のことだ」


「ど、どういう意味だや?なぞなぞ?姉ちゃん、わかると?」

「マチ、うるさい、黙る!」

「あいたっ!」

 一人うんうん唸る弟を、姉は非道にもその頭を叩いて黙らせた。

「謎の実はなぞの実…か。なるほど、つまりそういう名前の実が実際にあるってことだな?」

「そうだ」

 さすがに理解が早いなと、クラウは頷いた。

「そもそも、『ナゾ』という植物は、聖獣ナグゾニア・ゾールの足跡に似た形の葉をしているからそう呼ばれるようになった古代植物だ」

「へぇ、聞いたことないな。市場でも見たことないし」

「だろうな。アイゼクラウン同様、生息条件が厳しいと聞く。ナゾの実が『謎の実』と呼ばれるもう一つの理由も、その条件が極めて特殊で未だ解明がされていないからだと言われている」

「特殊?」


「ナゾの実は、水の上でしか実らない」


 それは、地球の蓮が花開くように、大判の葉が折り重なった中心に一つ、大きな飴色の実をつけるのだ。

 特別何かの効用があるわけではないが、一口食べればみずみずしい果肉から甘酸っぱい蜜が垂れ、極上の味を楽しめると言われる珍味らしい。以前、ミネアヴァローナのギルドに寄せられた採取依頼をみて、クラウも興味がわいて調べてみたのだが、水の恩恵を受けたオーガスト領でも手に入れられなかったほどだ。



「水の上、か。なるほど、確かに珍しいな」

「じゃけぇ、泉にはそんな実成ってなかっただや!なぁ、姉ちゃん!」

「同意。嘘、ダメ!」

「信じないのは勝手だ。だが、僕が知るナゾの実はそういうものだ。先生が言ったものが別の実なら知らないがな」

「いや、それだけきければ十分だ」

 リオは満足げな笑みを浮かべて頷いた。

「自信がありそうだな」

「ちょっとな。一か所、思い当たるところがある」

「ボス、ほんと!?」

「なら早く行くだや!謎の実!謎の実!」

「まて、ちゃんとオーウェンに礼を言ってからだ。お前ら、さきに事情を話して同意を得てから連れて来いって言ったのに、また無茶やらかしただろ」

 下手なことして失格になったらどうするつもりだとリオに説教されて、双子はそっくりの顔でふてくされた。

「否!あいつ逃げる、悪い!」

「そうだやぁ、あんちゃんがあちこち飛び回って移動するじゃけぇ、追って捕まえよう思ただけだや」

「そりゃ、いきなり後ろに張り付かれたら逃げるだろうって。だから、ちゃんと話を先にって…はぁ、言っても無駄か。オーウェン、悪かったな」

 どうも血気盛んな双子は口より先に行動に出てしまうところがあるらしく、リオはクラウに向き直ると代表して謝った。

「別に構わん。もう、僕は行くぞ」

「ああ。助かったよ」


 仲間に囲まれ去っていくリオを見送って、クラウもようやく最終目的地へと急いだのだった。








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