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レジェンド オブ 転生  作者: 新名とも
プロローグ
2/140

2  誕生


 

 肉体を離れた魂がどこに行きつくのか。

 誠吾はもちろん死んだのは初めてなので知るはずがない。俗にいえば閻魔様の審判を受け、天国だか地獄だかに送られることになるのだろうが、実際そんな話を信じる性格でもなかった。

 誠吾の魂はただ流されるまま、どこだかわからない空間を彷徨っていた。

 

 どのくらいの時間が経っただろうか。

 あいまいな時間の流れの中で、誠吾はふと何か温かいものに包まれるような感覚を覚えた。

 光だ。

 誠吾の魂を淡い光の幕がそっと包み込んでいった。そして、ゆっくりと何かに導かれるかのように時の中をある方向へと進み始めた。

 さらに時間が流れる。

 一分、一時間、あるいは何十年かもしれない。

 徐々に光の輝きが増し、誠吾は強烈なまぶしさを感じた。


 ――― …まぶしい?


 死んだ自分が何故まぶしさを感じるのだろうかと疑問に思った次の瞬間、誠吾の意識は唐突に覚醒した。



 最初に目に映ったものは、白く光るなにかであった。まぶしかったのはこれか、と納得するが、それが何か誠吾には判断できなかった。

 なぜなら、あまりよく見えないのだ。視界が全体的にぼんやりしていて、見づらい。しかし、そのまぶしい光の塊がせわしなく動き回る様子は何となく理解でき、さらに何か喋っているのでおそらく人間だろうと推測する。

 誠吾は周りの状況を把握しようと耳を澄ましたが、あいにく聞こえてくる言葉を理解することができなかった。

 その事実に少しばかり驚く。

 言葉に関して言えば誠吾はかなりの勉強をしている。英語はもちろんのこと、フランス語、ドイツ語、中国語はネイティブ並みに喋れるし、ほかの言語に関してもそれなりの知識を持っていた。にもかかわらず、理解できないのだ。


 ――― 自分はいったいどこの辺境の地へ飛ばされたのか。そもそも俺は死んだはずでは…?


 疑問はさらに疑問を呼ぶ。

 状況がなに一つわからず、誠吾は混乱した。

 数十秒後、徐々に視界がクリアになり、光の塊の輪郭がはっきりし始めると、誠吾の疑問はさらに倍増した。

 人だと思った塊はやはり人間だったようで、一人の男が誠吾の顔を心配げに覗きこんでいた。

 キラキラとまぶしいぐらいに光る銀の髪、切れ長の青い瞳、すっと通った鼻筋と彫の深いその顔立ちを見れば、一目で日本人ではないとわかる。さらに、薄い唇にとがった耳。それらのパーツが完璧に配置された超絶イケメンの男が自分を覗き込んでいるのだから、誠吾でなくてもびっくりするだろう。さらに、誠吾から見たその人間は驚くほど大きく感じられた。


 わきから別の人間が顔をのぞかせる。

 その姿に誠吾はさらに頭が混乱し、あまりよく動かない瞼を限界まで見開いた。

 声の感じから察するに女性のようだが、問題はそんなとことではない。

 長い深紅の髪を三つ編みにし、年齢はどのくらいかわからないが、そばかすが散らばった撞顔のかわいらしい顔。やはりこちらも不安げな様子で、誠吾と隣のイケメンを交互に見つめながら必死に何かを喋っていた。

 しかし、問題はそんなことでもないのだ。


 耳が、ついている。


 人なのだから当たり前である。しかし、それがついている場所と形が問題だった。

 そう、彼女の耳は頭についていたのだ。しかも「犬のような耳」が、頭に生えていたのである。

 一瞬、何かのコスプレか?と誠吾は考えるが、ピコピコと動くその様子は本物のように見えた。

 いったい、これはどうしたことか。

「―!-----!?」

 ―― なんだ?何を言っている?

 必死で男の言葉を聞き取ろうとするが、やはり理解できない。

 誠吾の眉間にしわがよる。それと比例するかのように、徐々に周りの空気が緊張したものに変わっていった。


 突然、誠吾は頬に軽い衝撃を感じた。

 何を思ったのか、イケメンがぺちぺちと誠吾の頬を叩きだしたのである…!


 ―― 痛い、やめろ…!


 咄嗟に抵抗しようと手を伸ばして、はたと気づく。

 手が、小さい。

 あまりにも小さすぎる。

 持ち上げた手は、必死に鍛え上げた筋肉質な太い腕ではなく、色白のぷにぷにとした腕に、紅葉のような小さな手がちょこんとついているのだ。

 これが自分の手かと、誠吾は信じられない思いで見つめた。開いて握って、また開く。確かに自分の意志で動くそれ。しかし到底信じられない。


 ―― 何がどうなっている?


 そんな誠吾の思いを無視して、イケメンのぺちぺち攻撃は地味に続いていた。

 うっとうしい嫌がらせのようなそれに抗議しようと口を開く。が、またもや口から出たのは誠吾の思っていたものとは全く違うものであった。

「おぎゃあ、おぎゃあっ」

 叫ぼうとして出した声は、「やめろ」でも、「痛い」でもなかった。

 響き渡ったその「叫び」は、誰が聞いてもわかる、生まれたばかりの赤子が発する産声であった。

 緊迫していた周りの空気が緩み、ほっとした雰囲気が漂う中、誠吾だけは自分が発しているらしい声に唖然とする。


 そうして、ようやく気付く。




 ――― どうやら自分は、見知らぬ土地で、赤ん坊に、転生したらしい…。







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