終端抵抗/未来モンスター・カリュド 50: 変貌 ミス・グリーン
50: 変貌 ミス・グリーン
響児が医療室から出て来た頃は、サブリナの野戦服も乾いていた。
サブリナは帰投直後、何処へもよらずに響児の元に駆け付けていたのだ。
響児が、派遣先のモンゴコクーンで負傷したと連絡を受けたからだ。
病院の待合い用のそっけない黒い長椅子から立ち上がったサブリナを見つけて響児は、わざと平坦な声色で彼女に声をかけた。
「君が言いたい事は判っている。場所を変えて話そう。」
響児は平然としていた、今は何処が負傷しているのかさえも判らない、『時の矢の種族』の超絶無比な回復力がそうさせたのだろう。
ただ友軍が「負傷した」と判断したのだから、カリュドが倒れた時点では、その身体は相当大きく損傷していたに違いない。
二人が歩く廊下の壁には、簡易ベッドが出口まで設置してあった。
そこには『時の矢の種族』の襲撃から、辛うじて生き延びた兵士達が横たわっていた。
病院中に響き渡るような大きな声で喋っている軽薄な見舞い客の中から、『喰い残し』という言葉を聞いて、サブリナは立ち止まった。
いかにも高級そうな仕立てのスーツを着たその男は、自分を睨み付けている野戦服を来た金髪の美女に戸惑っている。
響児がサブリナの腕を引っ張って、男の前から彼女を退けた。
「失礼。彼女、気が立っているんです。何か、聞き違えたんでしょう。」
響児は男に一礼して、そのまま自分の車までサブリナを連れて行った。
響児が運転する車の助手席でサブリナは拗ねたように言った。
「さっきの、聞き違えじゃないわ。あの男、軍の患者さんを指さして『チキンの喰い残し』って言ったのよ。」
「例えそうだとしても、君には関わりのない事だ。それに君の気が高ぶっているのは事実だ。落ちつけよ。」
「貴方、逢う度に、変わってゆくわね、、。」
「興味があるね。どんな風にだい?」
少しも興味がないように響児が聞いた。
「内面的には死ぬ前のお爺様そっくり、気むずかしくて、始終何かを突き詰めていて。」
「外面的には?」
「そのう、、。へんな表現だけど、とっても綺麗になったわ。まるで、、。」
サブリナは顔を赤らめている。
「まるで女性の様にか?判っているよ。俺はカリュドに近付き過ぎている。危険な傾向だ。」
そう言った響児は、暗い言葉の影に煌めきを宿している様に見えた。
「そんな風になるなんて、貴方、何をしたの!?」
「カリュドになって、時のジャンプの方法を探していた。」
対向車のヘッドライトが時折、響児の白い顔を浮き上がらせて行く。
サブリナはその顔に誇りと嫉妬をすこし覚えた。
響児は、繊細だが力強さを感じさせる手でメモリをカーステレオのスロットに落とし込む。
響児の好きな古典ジャズが流れだした。
「久ぶりに逢ったというのに、ちっともロマンチックじゃないな。詳しい話は必ずする。今は楽しもう。今でも君は、俺のマネージャーなんだろう?」
サブリナはこんな事になってから、響児と少しでも共通の話が出来る様にと、沢山の古典ムービーを、暇な時に見ていた。
結局は、その話題を楽しむような、二人でゆっくりと語り合える時間などはなかったのだが。
しかし今の響児の雰囲気を見ていて、ある映画を思いだした。
響児が東洋人だからだろうか?
その映画の題名は『特攻隊』。
片道の燃料しか積まず、自らの死で敵に攻撃を加える戦闘機乗りの話。
クレージーな攻撃法方法。
その映画の主人公の青年の思い詰めた表情に、響児のそれは似ている。
サブリナは不吉な思いを振り払った。
響児は、人類に残された守護神なのだ。
彼はそれを自覚しているはずだった。
彼は決して片道飛行や自爆などはしない。
「どうした、黙りこくって?君さえ良ければ、これからホテルに行こう。」
「、、、、。」
「心配するなミス・グリーン。君の身体は俺が制御してやる。人間同士として愛し合うんだ。」
ミス・グリーンだなんて、響児は私の融合した姿まで知っている。
サブリナはその事にもショックを覚えたが、もっと衝撃だったのは、そういった事を軽く口にする響児の無神経ぶりだった。
昔の響児はそんな男性ではなかった。
だがサブリナには、それを責める事は出来ない。
全ては、祖父の遺産を彼に引き継がせてしまった自分のせいなのだから。
「でも失敗したら、、。」
「それでも構わない。君と、一つになりたいんだ。」




