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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 49: 消耗 俺達はチキンじゃねぇ!

   49: 消耗 俺達はチキンじゃねぇ!


 サブリナを含む部隊は、その地点で大きなダメージを受けていた。

 冷静に振り返れば、部隊に攻撃をしかけて来た生命体の耐久力は脆いものであり、弓削軍という百戦錬磨の部隊であれば、此処までのダメージを受けることはなかった筈だ。

 だが彼らには、その「生命体」を殱滅する気力がなかった。

 彼らは確かにゴロツキだが、人間の赤ん坊を殺せる程の人非人ではなかったのだ。

 そして、危惧されていたダンボら先行部隊の音信途絶、、その結果は、変身したサブリナが現場に移動し確認を行っていた。

 全滅だった。

 その後、残存部隊は、一時間を待たずに撤退し始めた。


「弓削みたいな奴らが、コクーンなんてものを作るから、人間は檻から逃げられなくなったんだよ。」

 緑色のフードから少し覗いている黒い前髪、そこから滴り落ちる水滴を、うるさそうに払って愛鈴が唸った。

 酸性雨は、今、霧雨となっている。

 いくら手で拭っても、すぐに汗の様に体表にまとわりつく。

 サブリナもゴムの野戦服の下はグズグズに濡れていた。

 彼らは、ダンボが「ブルーチーズ」と名付けた黴だらけの丘を重い足どりで撤退していた。

「でも愛鈴。人間はコクーンなしでは、暮らせなかったのよ。」

「そんな事あるもんか。贅沢をしなけりゃ、人間は何処でだってやっていける動物なんだよ。学者はウラガエリゴキブリが、一番環境の変化に適応する生き物だって言ってるけど、それは違うね。一番は人間だよ。」

 サブリナは、胸が痛んだ。

 本当は、そうかもしれない。

 機械文明を必要としない『時の矢の種族』が、わざわざ何処かからコクーンの技術をひねり出してまで、それを人間に与えたのは、人間を彼らのチキンにする為だったのかも知れない。

 彼らの事は、何一つとして信用できなかった。

「どうでも、いいじゃねえか。俺達のやる事は一つだよ。早く帰って、シャワーを浴びる事だ。このままだと肺まで黴っちまう。」

 そう投げやりに言った李夏は、右足を引きずっている。

 生命体に脹ら脛を喰いちぎられて、あらかたない。

 太股の方が機械化されているから、痛みも出血も少ないのだと言う。

 確かに出血は少ない。

 けれど痛みの方は、、、サブリナは身を震わせた。

 この長い、コクーン外の汚染地帯における『時の矢の種族』との戦いの中で、部隊は一つの教訓を得ていた。

 奴らの前では、怖びえるな、例え肉を喰いちぎられても、悲鳴を上げるなと。

 例え、死ぬ事になっても、それ以上のものを奴らに与えるなと。

「俺達は戦士だ、チキンじゃねえ。この意味がわかるな?」

 ダンボの口癖を、サブリナは思いだした。

 そのダンボ自身は、自分が襲われた時、死以外のものは決して相手に与えなかったのだろうか?

 ダンボは、サブリナ達が生命体に襲撃された地点から、わずか五キロ先で、ウルフマンと接触していた。

 途切れ途切れに聞こえる通信からは、ダンボがウルフマン相手にそれなりの戦いを繰り広げていることが伺えた。

 しかしダンボの死んだ跡らしき場所には、金属の塊しか残っていなかった。

 ひょっとすると、ダンボらを皆殺しにしたウルフマンは、その後、闇に潜んで、サブリナ達人間の「赤ちゃん」達を相手にした、骨肉の争いを観戦していたかも知れない。


「サブリナ?私、あんたみたいになってもいいよ。これじゃ戦力が、足りなすぎる。」

 愛鈴は頭のいい娘だった。

 自分の体験と、部隊で交わされている噂話だけで、自分と人間が置かれている全体的な状況を、ほぼ正確に理解していた。

「こうなることが、どれだけ苦しいか判っているの?」

 サブリナは、響児と同じ黒い髪を持つ東洋の女性に優しく問返した。

 愛鈴が変わってしまった様に、サブリナも昔のサブリナではなかった。

「それは貴方の感覚でしょ。このままで行けば、どんな女の子も奴らとそっくりな子供を持つ事になるわ。私はダストキングに焼け火箸を突っ込まれて、もう使えないから関係ないけど、、。とにかく、貴方のようになってもいいという人間がいるなら、貴方は融合緩和剤を解放すべきだわ。」

 この娘は『焼け火箸を突っ込まれて』と言ったわ。

 事も無げに。

 酸性雨の薄墨の世界の中で、遠くにコクーンの半球形だけが、頼り無い光を内に灯しながら打ち震えていた。

「でも、そこまでして、最後に残るものはなに?」

 愛鈴は、サブリナの口から漏れた独り言を聞いて、ハッとした様な顔をした。

 愛鈴は、少し昔、自分がジャックに対して考えていた事を、思い出したのかも知れない。


「それにしてもよ。映画屋の奴は、何してやがんだ。言っちゃなんだが、今日の追撃にしたって、レディにゃ荷が重すぎたんだ。又、他のコクーンにかり出されてるのか?」

「馬鹿を言うな。俺達のコクーンを守るので、手が一杯なんだぜ。今ごろ、切り札を他に貸し出したりする余裕なんかない筈だ。」

 実際には、響児は弓削によって、破格の金額で他コクーンでの『時の矢の種族』対策として貸し出されていた。

 だが、この兵士のぼやきには意味がないのだ。

 どこのコクーンであっても、『時の矢の種族』に人間が食い殺される事実に、違いはなかったからだ。

 兵士達の話は、やがて響児の話から、空元気を付けようとコクーン軍隊のふがいなさを野次る方向になだれ込んでいった。


 それとなく、その話を聞いていた李夏が、思い出したようにサブリナに言った。

「ちらっと噂話で聞いたんだが、映画屋は、ケルベロスに自分の身体から融合緩和剤とやらを抽出させる事に同意したらしいぜ。そいつが出来上がったら、一番先に注射されるのは俺達なのかな?そうなら俺は除隊するぜ。化け物になるのはゴメンだ。本当の所は、どうなんだい?あんたなら知っているだろう?」

 愛鈴が目を吊り上げ、ライフルの銃座で、李夏の脹ら脛をこずく真似をした。

「俺、なんか、まずい事をいったか?」

 生命体の一咬みにさえ動じなかった男が、泣きそうな声でそう言った。

『響児が融合緩和剤を抽出させる!』

 サブリナは、この李夏の質問に含まれる新しい事実を知って、愕然とした。


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