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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 47: 暗殺 時を飛ぶレッスン

    47: 暗殺 時を飛ぶレッスン


 昆コクーンの首相官邸では、パーティが開かれている。

 響児と愛鈴は壁際に立って、バラデュール首相に接近出来る機会を伺っていた。

「こんな状況になっていても、この人たちはパーティを楽しむ事が出来るのね。」

 今夜の愛鈴は、「可愛い東洋娘」だった。

 白いパーティドレスの上に、小麦色をした健康的な小さな顔で、笑顔を周囲に振りまいている。

 四階にある豪華なパーティ会場には、この夜の為にコクーンが調整した「爽やかな風」が流れ込んでいた。

「俺達の派遣費用は、このコクーンの反首相勢力から出ている。幾ら出ているか、知ってるかい?それで、中規模コクーンの入れ物が一つできる。弓削は、こんな情勢でも、俺達で莫大な金を稼いでいるんだ。それと同じ事さ、人の営みに、絶え間はない。それに、此処の依頼者も、相手の正体が『時の矢の種族』だから、殺しを頼んでいる訳じゃない。利害が一致していれば、奴らは悪魔とでも手を組む。」

「私、時々、依頼者に騙されて、本当の人間を殺してしまう夢を見る事があるわ。」

 俺達、殺人部隊の人間は、大きな意味で人間と『時の矢の種族』を区別する必要はない、と言いかけたが、響児は違う事を喋った。

 ふいに、自分自身が映画屋だった頃から、あまりにも「遠く」に来すぎたと感じたからだ。

「その点は、心配ない。俺には彼らを確実に見分ける事が出きる。匂いでな。そら来た。打ち合わせ通り、バルコニーに出よう。」

 響児はそう言いながら、自分の鼻の先をちょんと弾いて見せた。

 響児は余程の事がない限り、例のマスクを使わなくても『時の矢の種族』との共鳴制御が出来るようになっていたのだ。

 手はずでは、内通者である反勢力の一人が、首相をバルコニーに誘い出してくれる事になっている。

 よくて数分の短い時間だったが、響児にはそれだけあれば十分だった。

 響児がバラデュールを抹殺し、愛鈴がその協力者を保護する。

 各コクーンの要人達の間には『時の矢の種族』の知識がある程度頒布してあるから、響児達の戦いも「下ごしらえ」さえ弓削が綿密にやっていれば、依然と比べて、ずいぶん楽なものになっていた。

 しかも弓削は、首相付きの護衛者たちさえ買収する力を持っている。


 自分の波動を殺しながら、響児はバラデュール首相を観察していた。

 室内とバルコニーを区切る植え込み越しに見えるバラデュールは、老年に差し掛かった上品な女性に見えた。

 時は来た。

 響児は密かに考えていた自分だけの計画を実行する気持ちになっている。

 もし彼女がジャンプ前の『時の矢の種族』だったら、「それ」をやってみよう。

 響児は音も立てずに、バラデュールの背後に忍び寄り、バラデュールを羽交い締めにして、そのままバルコニーから飛び降りた。

 「なんのつもり!」

 置き去りにした愛鈴の驚いたような顔が目に焼き付く。

 バラデュールから思ったほど抵抗がなかったので、響児は冷やりとした。

『まさか、填められて、本物の人間を、、。』 

 そう思った瞬間、羽交い締めにしたバラデュールの身体から馴染みの波動がモゾリと伝わった。


 後は愛鈴がうまくやってくれるだろう。

 落下するコンマ何秒の世界で、自分の腕の中のバラデュールが変態して行くのが判る。

 波動を送って、その場で倒してしまうのが手早い方法だったが、まだこのコクーンではバラデュールは大多数の人間に、首相と信じ込まれている。

 弓削の契約の中には、スムースな政権交代を可能にする暗殺という条件があった。

 首相官邸の中庭に、怪物の無惨な屍骸を残すわけにも行かないし、それは響児の「計画」とも違った。

 響児はバラデュールを捉えたまま出来るだけ遠くへ移動するつもりでいた。

 カリュドの腕の中でバラデュールは激しくもがいたが、波動を送り続ける事で、かろうじてその動きを止める事が出来た。

 カリュドの波動が弱まるにつれ相対的にバラデュールの力が強まり、爆発的な腕力でカリュドが弾き飛ばされたのは、深夜の遊園地に十五度目の跳躍を終えた時だった。

 カリュドは四肢を全部使って、地面に叩きつけられるショックを緩和した。

 側にあった回転木馬がバラデュールの発生する波動を受けて勝手に動き始める。

「『時の矢の種族』よ。お前の本性は女か?」

「妙な事を聞く。カリュドよ、お前こそ、男に融合して何とする。」

「試してみたい事があるんだよ。」

 擬態を解いたバラデュールの頭部は、伝説の麒麟の姿をしていた。

 身体は、恐竜の獰猛な尻尾以外、まだ人間性を止めていた。

 その姿をみて響児は、余り酷いタブーを犯さないで、実験が行える事に安堵感を覚えていた。

 姿形の上とはいえど、獣姦には抵抗がある。

「少し早いが、私は故郷に帰る。お前との戦いで、無駄なトシュタットの力を使いたくない。」

 バラデュールが言った。

 カリュドの力は、この世界に在住する『時の矢の種族』達に広く知れ渡っているらしい。

 そしてカリュドが、未だに時をジャンプする事が出来ないでいる事も。

 響児はカリュドに融合することによって相手のトシュタット器官が何処にあるのかを見つけ出す能力を新たに得たが、その代わり、トシュタットが満ちても、時を超える方法を見失っていた。

 カリュドの死の手から逃れるのには、時をジャンプするのが一番確実な方法だった。

「そうかい、俺にとっちゃ、お誂えむきだ。」

 バラデュールは、酷く人間くさい仕草で麒麟の鼻をフンと鳴らした。

 と同時にバラデュールの身体が薄れ始める。

 カリュドが跳び、バラデュールの身体を正面から組み敷く。

 麒麟の瞳に恐怖の色が浮かぶ。

 カリュドは、バラデュールのトシュタット器官が、左胸の隆起の下にある事を『見つけ』だすと同時に、自らのトシュタットを集中させた。

 カリュドの右脇下から、鋭い突起が急速に伸び始め、バラデュールの左胸を突く。

 バラデュールとカリュドのトシュタットがつながった。

 響児は急速に押し寄せて来る快感に必死に耐えた。

 バラデュールの方も、ともすれば引き込まれて行きそうな快楽の淵から、時空を超える機能の方にトシュタットを傾けるべく努力をした。

『いい娘だ。それでいい。俺に時を跳ぶ方法を教えてくれ。』



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