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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 46: 推移 新生児

   46: 推移 新生児


 東桃源コクーンでの戦いの後、時の矢の種族からの侵攻そのものは、沈静化し、戦いは単発的な衝突に変化していた。

 人間への宣戦布告の為に送ったカリュドが乗っ取られ、大侵攻の為の先遣隊も思った程の成果を挙げなかった事が、彼らの戦略変更を促したのかも知れない。

 あるいは、惑星探査船トレジャーが運んで来た「もの」が、その変化の決定的な原因であったかも知れない。

 弓削の私設軍隊は、今の所、大規模な軍事行動を停止していた。

 そしてサブリナは、軍事顧問的な位置けを保ちながら、なし崩しに弓削軍の隊員扱いになっていた。

 もちろん、それはあの融合のせいだった。

 そんなサブリナと響児の間には長い「沈黙」の期間が生まれた。

 任務に必要な最低限の会話こそ、交わされはしたが、そこにはどんな些細な感情も含まれてはいなかった。

 二人の間の距離が、開いたのではない。

 むしろ事実は逆だった。

 彼らの様な「存在」は、時の矢の種族の中にも、無論、人間の世界にもありえなかった。

 純粋な意味で、彼らはこの世で、「二人きりの恋人」だったのだ。

 ただ、二人が触れ合えば、どんな事が起こるか予想が付かない。

 一瞬でも心を開けば、両者の精神と肉体は、性急に次の展開を望むだろう。

 肌を合わせる事にでもなれば、予期せぬ「変態」がすぐさま起こるのは目に見えていた。

 異形の者同士のSEX。

 響児達には、完全に人間としての感受性が残されている。

 愛し合う者同士が、SEXをするのは異常ではない。

 がしかし、それはあくまで「人間同士」に許された行為だ。

 サブリナは、響児の少し、カーブし濡れた様な黒髪が好きだった。

 今でもその髪を自分の指に巻き付け愛撫する事を夢想し続けている。

 サブリナもかっては、恋人の姿形で、愛を左右される同年輩の娘達を馬鹿にした事があった。

 しかし今は理解していた。

 それは人間同士に許された贅沢であることを。

 人間の美的感覚からだと、外見的にカリュドの姿は、まだ魅力的と言えた。

 けれど抱擁の最中に、サブリナが変態を起こして、響児が嫌悪のあまり彼女を突き飛ばしても、サブリナは彼の無礼を詰ることさえ出来ないはずだ。

 それでも何時か、二人は、全てを振り切って、抱き合う瞬間が来るのを予感していた。

 、、今の二人の「沈黙」は、大河をダムでせき止める行為に似ていた。


 乱望は、そんな二人の危険性を予見していた。

 可能な限り、二人を、違う任務に割り当て距離を置かさせていた。

 サブリナには、人間を次の階梯に進化させるという惑星探査船トレジャーが運んできたトシュタット・ウィルスの事後処理を。

 この任務は、幸いにも海洋に面したコクーンが東桃源しかなかったことが幸いし爆発的なトシュタット・ウィルスの拡散が押し止められてはいたものの、感染経路を完全に断ち切る為に、精密で困難な作業が必要だった。

 獅子吼には、ウィルスの密かなる拡散によって、地滑り的に起こり始めた各コクーンでの様々な「異変」の対応を当てた。

 そんな「異変」の中で、一番大きなものは人間世界に潜り込んでいる時の矢の種族達が、白昼堂々と人間の姿である事を止め、コクーンの外に出ていった事だった。

 彼らは、コクーン外の環境に充分適応出きる能力を持ち合わせている様であった。

 つまり彼らは、大規模侵攻が中止された今、コクーンの中で潜伏し続けている事に、飽き始めていたのだ。

 コクーン外での彼らとの戦いは困難を極めたが、全体的な事態は、それ以上に深刻だった。

 潜伏していた時の矢の種族の種族の多くは、各コクーンの実力者ばかりであったからである。

 各コクーンの運営は、混乱の極みにあった。

 更に、この事に加えて、最近特に顕著になった奇形児達の出産率の増加が、混迷した各コクーンの人々に衝撃を与えていた。



 蛸蜘蛛屋敷で、東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武の四隊長が集まって、月に一度の会合が行われている。

「ケルベロス。このコクーンで、生まれた新生児の内、約三十パーセントは奇形で生まれてる。おまけに、このベビー達の生存率は九十八パーセントだ。やっぱり、俺達の世界は、化け物の時代になるんだろうか?」

 ダンボの角張った顎から、思いもかけず気弱な声が流れ出す。

「喜ばしい数字ではないのかね、ダンボ君?この子供たちの生命力は強い。彼らが手術に耐える年齢になれば、人間らしい外見に戻す事は可能だ。第一、その技術が無ければ、我々身体改造兵士は、地上をさまよい歩く亡霊に過ぎなかったんじゃないのかね。」

「しかし、ケルベロス。我々は、人間の行く末を心配するほど、高邁な精神は持ち合わせていません。問題は、この事を含めて、我々の戦いがどんどん不利な方向に進んでいると言う事です。確かに、具体的な局面としては、軍部と警察の協力を取り付けただけでも、随分楽になった。だがそんな我々にできる事といったら、奴らを獅子吼かハリーハウゼンの前に誘き出す事ぐらいのものだ。獅子吼は鼻歌を歌いながら一匹始するのに、我々は一匹相手に百人の仲間達を犠牲にしなくてはならない。軍も警察も俺たちも、奴らと戦うには、勝手が違い過ぎる。所詮、人間相手に作られた組織なんだ。奴らの侵攻をくい止められないのに、人間の中から、奴らの仲間が出たら、手も足も出なくなる。」

「、、アンソニー。君は生まれて来る子供達を、我々に殺してまわれと言うのかね?子供には、人生を享受する権利がある。我々、大人は、その権利を守ってやらねばならぬ筈だが。」

 乱望がダンボの本名を呼ぶのは、彼の「真剣さ」を相手に判らせるためだ。

「私は、この世界がまだ輝きを放っていた時代を知っている。そしてそれを取り戻したい。だがそれは私の為ではないぞ。我々の子供たちの為だ。」

「だったら、尚更、あの小さな化物共を駆逐する許可をください。」

「ならん。あの子らは人間の母親から生まれて来るのだぞ。あの子らも、未来の光である事には違いはない。」

「そんなお為ごかしを、我々は、あなたを見損ねていたようだ。」

 黙って二人の会話を聞いていた玄武の隊長が吐き捨てるように呟いた。

 乱望の最後の一言に、奮然と席をたった四人の頼もしい部下を見送りながら、彼は昨夜の弓削との会話を思い出していた。


「なあエド。奴らは何故、手をひかんのだ。儂らの赤子が、奴らにそっくりになって来ておる事は判っておる筈だ。何人かの赤子は、トシュタット器官の原型まで備えて生まれて来ておるという事ではないか?奴らが、それに気づかぬ筈がない。」

「始祖とやらが作りだした教義が、彼らにとって非常に強力なのかも知れませんな。彼らは、未だに我々の世界が異次元にあって、我々が彼らと似通った進化の道筋を辿っていると思いこんでいるのかも。」

「我々が進化して、奴らの世界を脅かすと言う例の理屈か、、、。馬鹿な奴らよ。」

「弓削様もゴドーの言う様に、我々は時の矢の種族の先祖であると?」

「エド。お主も儂もさんざ悪行を重ねて来たではないか?判るだろう。悪のヴァイブレーションだよ。奴らは間違いなく儂らの子孫だ。」

「そういう事でしょうか、、。しかし、彼らが我々の子孫だとすると、人間は未来において先祖帰りを起こしているのではないかと、時々思えますよ。まるで空に向かって投げ上げた石だ。いくら高くほり投げても力が弱まれば墜ちてくるだけだ。未来においてでさえ、とても我々に、コクーンを与えるだけの科学力が生まれるとは思えない。」

「儂は、随分長い間、コクーンを弄り回して来て思うことがある。お前が言うように、コクーンは彼らの科学力ではないとな。生命体としては、あの巨木の方が高度だからな。細胞を操れる奴らが、どう言うわけか、あの木の能力を取り込めずにいる。生命体としてのレベルが違いすぎるんじゃ。その背景にある知性もな。彼らは、どこかからあれを引き出して来たんじゃろう。人間様の便器を与えられた未開人が、それをそのまま横流しして、もっと程度の低い未開人に、それを洗面器だと言って売りつける。どうだ?だが、程度の低い未開人には、それはそれで役にたつのさ、、。わしらの戦いは未開人同士の戦いにしか過ぎんということだ。」

「、、弓削様、私は疲れてしまいました。」

「エド。儂もじゃよ。おまえさんの例えではないが、儂には、もう石を投げ上げる気力はない。」

 乱望との打ち合わせは、実りのないままに終わった。



 廊下を歩く四人の部隊長の顔には焦りが伺える。

 彼らが密かに誇りにしていた自らの「冷酷非情さ」が、あざ笑って来た「大義名分」に侵略され始めていたからだ。

 この戦いは、どう足掻いても『人類の存亡を賭けた、ご立派な戦い』だったのだ。

 それが嫌なら、今までため込んだ小金を使って、隠居を決め込めばいい。

 そうとは判っていても、機械化傭兵としてのプライドが、彼らの戦線からの離脱を許してはくれなかった。

「ケルベロスもかわっちまった。今じゃ人類愛の権化だ。化け物どもの予備軍など、こちらが手を焼かない内に皆殺しにすればいいんだ。」

 ダンボが、唾を吐きながらいった。

「アンソニー。この間、俺の弟に子供が生まれてな。弟の奴、年くって生まれた子供だから、大層な喜びようだったんだが、、。」

「水臭えな、ベニーよ。そうと言ってくれりゃ。プレゼントの一つも用意したのに。」

「俺の甥っ子が、あんたが言う、その化け物でもプレゼントを送ってくれるのかい、アンソニー?」

 彼らの会話は、それ以上、進まなかった。



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