終端抵抗/未来モンスター・カリュド 45: 帰還 地走り神と天舞神
45: 帰還 地走り神と天舞神
「ウマーの鎧か。いい物を手にいれたな。そいつは形は、かわっちまってるが、天舞神の乗り物だな?地走りになったΩ達に、持って帰ったら、さぞかし喜ぶだろうぜ。奴らなら、地の果てまでも、そいつを使って天舞神をおっかけていくだろう。なにしろ、地走りと天舞神とは、大昔から深い因縁があるからな。だが、俺がそれを手にいれたら違う使い道をする。お前とは、違ってな。」
「ウマーの鎧は、僕を選んだ。お前じゃない。」
Gは静かに言い放った。
「、、そういう事か?」
蚊龍が問い直す。
「そういう事だ。」
「お前は前の戦いの時、コンロゥの頂上で、俺に何度も考え直せと言った。余計なお世話だったがな。今度は俺がチャンスをやろう。お前、記憶がないとき、自分が何をしていたか調べたんだろう?お前は長い間、人間の欲望処理の為の生き人形だった。」
「、、何故、それを知ってる。」
「俺は神だからな。全ておみとうしさ。お前が本当は母親を怨んでいるのも知ってるぜ。人間なんてのは、所詮その程度よ。人との軛から解き放たれた俺の仲間になれば、楽になるぞ。仲間になるというのなら、今までの事は全て水に流してやる。」
「母親?君はその程度か。何時までも、ぐずぐず言ってるんじゃないぞ。答えはノーだ。」
「、、、馬鹿めが、勝てるつもりか?俺は、その鎧の弱点を知ってるぞ。ため込んだエネルギーをすぐに放出出来ない事だ。それに俺には、地走りとなったΩのエネルギーがついているんだ。」
蚊龍の瞳が赤く輝いた。
「お前の腹を、俺のエネルギーではらまして、ぶち破ってやる。」
そういい終わると、蚊龍の男根が猛々しく勃起した。
人々は、サーチライトに照らし出された夜空の一点で、神々しく輝く裸身の天舞神と、黒い地走り神が激しく抱擁し合っているのを見つめていた。
「下から見ておると、あの蚊龍が天使のように見えるの、、。儂は、この世界に取り込まれている間に、天舞神と地走り神の事を随分調べて、おったらしい。この光景を見て、今、少しずつその記憶が蘇っておる。」
フローレンスが、自分のショールを渦紋の幅広い肩に掛けてやっていた。
フローレンス・キュリーは、戦乱の絶えない母国が珍しく平和だった時期に成長している。
ただし幼少期に見た、戦後の社会混乱は良く覚えていた。
そして成長すれば、する程、この世界には様々な格差がある事を知った。
母国が戦渦に喘いでいた時も、文化が腐乱するほどの平和を維持していた国は幾つもあったし、逆に彼女の国以上に、悲惨な状況下に置かれた国も多くあった。
彼女は、なぜ、自分が平和な国に生まれず、この国に生まれたのかが、不思議だった。
その感情は「不平不満」というものではなく、純粋な疑問として芽生えたあのだ。
これが「運命」?
私が私として、この世に現れ出でるのは、「運命」なの?
「確率」なの?
もしかして、戦争のセの字も知らないフローレンス・キュリーが、何処かの国に生まれ育っていても不思議じゃない筈だったのに、、。
それがフローレンス・キュリーの最初に抱えた「ワンダー」だった。
そしてそんな彼女に「ギフト」が与えられたのは、それよりもう少し後の事だった。
後に一人の「偉人」として称えられる事となった、この女性は、そのワンダーこそが、彼女の思想の中核だった事を、最後まで気付くことはなかったのだが。
「貴方、あまり無理をしないで、私が貴方を無理矢理この世界から引き抜いたから、貴方の心の幾つかは、この世界に残ってしまっているのよ。」
フローレンスが、このパラレルワールドに埋め込まれた渦紋を引き抜き、そして彼女に助けられた渦紋が、フローレンスと「二人の白竜」をビルから転移させ、結界で蚊龍の攻撃を防いだのだ。
見事な連携プレィだった。
二人ともつい先ほどまで、蚊龍によってこの世界に塗り込められていたのだ。
その事を考えると、彼らのような力の強い超能力者でなければ、これは成し遂げられない脱出行だったに違いない。
あの時、チナ・タウン世界に埋没していた渦紋を引き抜いたのが、力の弱い自分だったら、今頃、渦紋は、どうなっていただろうと白竜は思った。
渦紋は自分の肩に置かれたフローレンスの手をなぜながら話を続けた。
「儂の調べでは、地走りと天舞の関係は、白竜青年が語ってくれた伝説に代表されるような土着神と後からやってきた神との関係ではないようだ。」
それを聞いた若い白竜の顔の表情が固くなる。
無理からぬ事だった。
先ほどまで自分が麻薬組織の王として追いつめていた男が、自分を助けた上に、誰もが知っているこの世界の神話についての新講釈を垂れようとしているのだ。
「地走りと天舞、もとは同じあり様の神だったものが、彼らの進化の分かれ目で、袂を分けたようだ。一つの神は、この惑星に留まり、もう一つの神は天に昇った。人々は天に昇らず今までの通り地上世界で跳梁する神の様子を地走りと呼んだのだろうて。地走りと天舞、この名前はそこから由来する。これで天舞神祭の元になる神話では説明できない(地走り)の語源がはっきりするわけだ。」
「ここにいる白竜は、この国の人間は、天舞神の子孫だと言ったが?」
「、、それは違うじゃろうな。白竜君らの先祖は、元からこの星に住んでおって、地走りと天舞が同じ神であった時と、彼らが別れていった時の様子を見ておったのじゃろう。残った地走りは、この星を改造、いや元からいた人間にとっては改悪じゃろうが、、した。、、そんな地走りに、好感を持てなかった彼らは、去って行った天舞の方を崇めた。それが、彼らの天舞神末裔論にすり代わって行ったのだろうな。」
「この星と、あの(現象)とは、関係がありますの?」
フローレンスは、自分と白竜が最も知りたかった事を聞いた。
「あると言えばある。もっとも、これからは儂の想像じゃが。」
「想像でもいい。言ってくれ。その秘密に関わって、何人もの人間が死んだんだ。」
白竜は、黒木や若水達の事を思い起こしながら言った。
「地走り達は、天舞を憎んでおった様な気がするのじゃ。その事は、この国の他の神話の随所にも良く出てくる。はっきりした理由は儂にはわからんが、もしかしたら地走りは、この惑星に留まる事を望んだのではなく、天舞に置き去りにされたのかも知れん。地走り達は、この惑星に留まりながら毎日、天に昇る事を考えた。この惑星は、地球の人間の想念を吸収して強くなる。元からそういう性質だったのか、地走りらがそうしたのかは、判らぬがな、、。ニルス天文台を思い出してくれ。この星全体が、やりようによっては精神存在を加速・変質させられる巨大なブースターになるんだ。彼らは、自らの欲望を満たす為に、考えた。自分に力を与える為に、この星をもっと強くするにはどうすれば良いかをな。」
「餌を与えて、双子世界にいる人間達の欲望を加速させればいい。こことは人口が圧倒的に違うし、距離の問題はあのゲートで解決策済みだ。地球に現れた(現象)は、まさにその役目を果たした。この世界の力欲しさに、最悪の発明を生んだニルス天文台はその頂点だったわけだ。しかし、これだけの超文明があるんだ、そんな事をしなくとも、地走りとやらが、宇宙に飛び出すぐらい簡単な筈なんだがな。」
白竜は苛立った様に拳で自分の額を何度も打った。
全てを解き明かす筈の渦紋の推理が、でっち上げのように聞こえた。
「白竜、お主、天の意味を取り違えておるぞ。天舞神は宇宙に飛び出したのではないのだろう。より高次の存在に昇りつめたんだ。お主、昨日まで、友人だった男がある日、全知全能の神になったら、その神の足元にひれ伏せるか?」
「そうなってみないとわからんな。」
白竜は頭を振りながら言った。
「白状しよう。儂が処置を受ける前、儂の親友で愚空という男がおった。愚空は即心仏になりおった。この時代でじゃ。儂はその愚空に嫉妬しておった。嫉妬じゃよ、地走り達を突き動かせたのは。もっとも醜悪で下らない感情だ、、。」
そういった渦紋も震えていた。
渦紋は「僧」だ。
彼にとってこの告白は辛い物だったに違いない。
フローレンスが背後から渦紋を抱きしめた。
「時空を操り、もはや魔法の領域に近いこれだけの文明を持ってしまった存在は、自分自身を高めて行く事でしか、自分の存在意義を保持出来なくなるのではないかと、儂は思う。天に昇るとはそういう事だ。」
「、、すると地球は、地走り神たちが、復讐を果たし、より高次な存在になるまで、解放されないのか?しかし、それなら何故、ネイチャーアタックなどの攻撃を仕掛けてくるんだ。」
「それは地走り神の仕業ではなく、蚊龍や、Ωのような人間たちの仕業だろうな。この星が地球に接触を図った時点で、こちらに吸い込まれた人間が、実は沢山おったような気がする。」
「そうだとして、そいつらが何故、地球を怨むんだ?元は人間なのだろう。」
「人間だからじゃろう、、、いや、そやつらの気持ちなど、わからん。儂はΩを憎んでおる。奴らは仏敵じゃ。だがもう、あやつらの事はなど、もうどうでも良い。それにこの星で、地走り神相手の戦いに、人間が勝てるとも思えん。、、、幸いなことにパミータという手みやげを得た。アレの使い方は、このフローレンスさんの協力を得て、充分解ったからな。虫の良いことを考えずに、地球がもとの姿に戻るまで、我々自身が地球に適合し、変わればいいんだ。生き物は、みな進化する。それを受け入れれば、良いことだ。もっとも、それを決めるのは、儂ではないがな、、。」
「、、ああ、そうだな。Gの戦いを見届けたら、帰ろう。俺達の星へ。」
「あのパミータで、人間の運命を変えるんですね。」
フローレンスが、渦紋の手を強く握った。




