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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 44: 変転 天舞神祭の夜

   44: 変転 天舞神祭の夜


「ここまでだな。俺の猿芝居も幕を降ろす時が来たようだ。」

 ふいに、今まで黙っていた海渡の顔をした女が喋った。

 同時に、女の着ていたチナドレスも、女の顔も頭髪も弾けるように消え去る。

 後に残ったのは、全裸の蚊龍だった。

 蚊龍の姿を見るや否や、白竜は渦紋に怒鳴った。

「渦紋!結界だ。同時に、俺達を地上に転移させろ!」

 渦紋はぼんやりした頭で、懐かしい白竜の声を聞いた。

 そして本能的に、その指示に従った。

 渦紋の力の発動は、商業ビルのあらかた半分が、蚊龍の放出したエネルギーで消し飛んでしまうのとほぼ同時だった。

 渦紋の力によって地上へ送り届けられた三人の男女と渦紋は、地面に力なくへたり込んだ。

 若き白竜のプロテクトスーツからも、白竜の身体からも煙が燻っている。

 それは彼ら二人が、蚊龍の放った強大なエネルギーからフローレンスを庇いながら転移した現れだった。

 渦紋の結界をもってしても蚊龍を完全には遮断出来なかったのだ。

 渦紋は力を使い果たして、とうとう仰向けになって地面に倒れた。

 ただ大の字に広げた手足の先からは、まだ揺らめく「気」の揺らぎがあって、この男のタフさを物語っていた。


「あれを見て、、。」

 最初に気づいたのはフローレンスだった。

 フローレンスは商業ビルがあった空間に浮かぶ、Gと蚊龍の姿を見つけていた。

 遠くでサイレンの音が聞こえ、やがて数台の救急車や、パトロールカーが集まって来る。

「軍のトラックも来てる。」

 蚊龍のエネルギー攻撃によって、役立たなくなった機動スーツを脱ぎ捨てながら、若い白竜が言った。

「小さい時に、こんな場面の映画を見たな。あれにそっくりだ。あれは確か(地走り神対、天舞神の戦い)だ。」

 軍のトラックから投光器が運び出され、空中の二人が照らし出された。


「どうも、地上がうるさいな。」

 蚊龍がそう言った途端、先ほどから地上から沸き上がるように聞こえていたサイレンの音やホイッスルの音が絶ち消えた。

「これでゆっくり喋れる。久ぶりだな、G。それがウマーの鎧ってやつか?Kの奴が大げさに喚いていたから、どんなものかと思っていたが。お前、そうしていると、まるでアダルトショップに飾ってある革人形みたいだな。」

「Ωのメンバーは、どうしている?」

「ああ、奴らか?奴らは、この星そのものになっちまったよ。」

「お前が、殺したのか?」

「勘違いするな。言った通りさ。奴らはこの星に同化した。今、吹き抜けていった風も、グルューネワイトの砂漠の砂も皆、Ωさ。Ωは、涅槃を求めて時空を遡り、ここの間抜けな連中が、地走りと呼んでる存在になったんだ。」

 Gには聞けないものが、蚊龍には聞こえるのだろうか、蚊龍は何かに耳を傾けるように目を細めた。

「そう、せかすな。」

「なんの事だ?」

「Ωが俺に囁いてるのさ。早くお前を殺して、俺達の特異点を取り戻せとな。あれを弄くる権利は俺達のものだと言ってるのさ。だが、すぐにはお前を殺さない。じっくりいたぶって、お礼をしないとな。」

「なんの礼だ。」

「そう尖るなよ。俺は、これでもお前との再会を喜んでいるんだぜ。礼とは、この俺を特異点から救ってくれた事に対してだよ。俺はΩのようになりたくないんでな。特異点を使って渦紋とフローレンスを此処に連れ込み、お前達に新しい趣向の地獄を見せてやろうと思ったまでは良かったんだがな。実を言うと、そのせいでこの俺まで特異点に取り込まれ掛けていたんだよ。俺は俺でいたいんだ。」

「、、お前は、海渡という女として、そのまま死ねば良かったんだ。」

「言う様になったじゃないか。このオカマ野郎が!」


 渦紋の世話を焼いているフローレンスを横目で見ながら白竜は、若い白竜に話しかけた。

「上のどちらが地走り神で、どちらが天舞神なんだ?」

「、、やあ、あんたか。あんたとは昔、何処かであったかな?」

「毎朝、鏡の前で会ってるさ。」

 白竜はニヤリと笑いながら答えた。

 若い白竜は、しぶい笑い方だと感心して、何時になったら自分自身がこんな笑い方が出来る男になれるのか、考えてみた。

「もう俺には、出番がなさそうだからな。じっくり教えてやるさ、旅の人。」

「ほう。どうして俺が旅をしているのが判る?」

「第一にイントネーションが違う。第二にあんたは、地走り神の事も、天舞神の事も知らない。ここじゃぁ、小さなガキでも知ってる神話だぜ。あんた、相当、遠い所から来てるな?」

「ああ、宇宙の果てからだ。」

「まったく。冗談の好きな男だ。」

 若い白竜は、自分が地面に座り込みながら、白竜に座る様に促してから、空中で向かいあったままの二人を見て言った。

 この白竜は、本当に映画のワンシーンを見ているつもりになっているのかも知れない。


「天舞神と言うのは、大昔、この星が生まれたての頃に天から舞い降りて来た神さまの事だ。言い伝えによると、俺達はその神さんの子孫だそうだ。この国の人間たちは、天舞神の加護を得て、長い間、平和な暮らしを続けたそうだ。所が、世間で良く言うだろう。(法輪と林檎は腐って落ちる。)その通りさ。天舞神がちょっと留守をした間に、他の世界から地走り神達がやってきて、この星を自分たちが、住みやすい世界に変えてしまった。ただし、この国だけは、天舞神が年に一度舞い降りる土地だから、地走り神も手を出せなかったと言う事さ。それからこの国では、年に一度こうやって天舞神のご来光を祝うのさ。あんたの国では、どうだい?そんな神話があるんだろう?」

「あんたの国って、君らにはヘリコもそんな機動スーツもあるじゃないか?それで此処から、外に出た事がないのか?」

 そう言いながら白竜は、この質問自体が、目の前の若者や今いるこの世界を、消滅させてしまうのではないかと恐れた。

 だが、目の前の白竜は、幻の様に消えたりはしなかった。

「ヘリコや機動スーツじゃ。闇宇宙には、飛び出せない。闇宇宙を泳げるのはグレートトータスだけだ。あんたはどのグレートトータスからやって来たんだい?」

「グレートトータス?」

 白竜が初めて聞く単語だった。


「グレートトータス。巨大な円盤型世界を甲羅の上に乗せた年老いた亀の事じゃよ。ここの国の人々は、精神的にも物理的にもどこへも行けない。動かず封鎖された場所・世界の代名詞が、グレートトータス。それが、ここでの特異点の形だよ。」

 渦紋が起き上がり、彼らの背後から声を掛けた。

 若い白竜が信じられないような早さで、大型拳銃を抜き出す。

 それを白竜が、いとも簡単に、手で押さえた。

「大丈夫だよ。彼は、もう改心した。実を言うと、彼と俺とは古い友人なんだ。」

 改心という言葉を聞いて渦紋がにやりと笑う。

 既に、自分自身の完全な記憶を取り戻したらしい。

「そんな事を信じる俺じゃないが、あんたが言うと、何故か、逆らえないな。」

 若い狂い犬と呼ばれる白竜は、大型拳銃をホルスターに仕舞い込んだ。

「で?どちらが地走り神で、どちらが天舞神じゃ?」

 ついさっきまでの白竜らの会話を聞いていたのか、渦紋はそう問うた。

 そんな渦紋を用心深く見つめながら、若い白竜が答える。

「姿形で言えば、悪魔じみたあの革女が地走り神だが、あの中には、俺を助けてくれたあの彼女が入っているんだろう?俺の気持ち的には、彼女を応援したいね。あれはいい女だ。」

「おいおい、そういう話かよ。」

 白竜と渦紋は、笑いながら、お互いの顔を見合わせた。



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