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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 43: 覚醒 ピカレスク

   43: 覚醒 ピカレスク


 「渦紋」は、商業ビルの最上階フロアに、25メートルプールが一つ入る程の空間を専有しており、更にその中でも、最も大きな部屋を彼のオフィス兼、書斎として使用していた。

 いや、もう少し現実に即して言うと、そこが彼の根城だった。

 そして、その根城の中には、沢山の蔵書があった。

 それらの背表紙には、どれも共通して「天舞神」や「地走り神」という文字が見受けられた。

 おおよそ、その蔵書だけを見るならば、蔵書はそれを所有する暗黒街のボスたる「渦紋」のイメージを大きく裏切り、彼が深い知性の持ち主である事を示していた。

 しかし、当の渦紋は、この部屋の窓の前でチナドレスを着た女の舌を、浅ましくもズルズルと音を立てむさぼっていた。

 しかも、先ほどから渦紋に報告に来た部下を十分近くドアの側で待機させたままでだ。

『、、ここの渦紋は、なかなかやるじゃないか。』

 白竜は、この様子をGの意識を通じて、彼らの転移先である飾り壺の中から見ていた。

 渦紋が、先に女から離れた。

 女は物足りなげに、部下を手招きする渦紋の首に巻きく。

 その時、今まで渦紋の陰に隠れて見えなかった女の顔が見えた。


『おい、あの女は海渡だ。海渡そっくりだ。海渡が生き返ったのか、、。』

 狭い陶製の大壷の中で、白竜に身体を密着させたままのGが答える。

『大蜘蛛の糸に巻かれて逃れたものは、いません。』

『だとすると、これは、いよいよ本物のパラレルワールドだな。』


「それで?トスカーニを唄わせたのは、科技機構の誰だ?」

 重厚な渦紋の声が響いた。

 これは肉声だ。

 声自身が持ついかにも悪辣なニュアンスは、白竜の聞き覚えのないものだったが、不思議なことに声の響き自体は、他人や若返った渦紋のそれではなく、白竜が知る渦紋のものだった。

「それが、赴任したばかりの白竜って若造で。」

「噂は聞いている、狂い犬の白竜と言うらしいな。若造は鼻薬が効かないから厄介だ。機構の海蔵に、いつもより多い目にパミータを送ってやれ。代わりに狂い犬を始末しろとな。おお、そうだ。出かける前に、お前も、あれを見物していかんか?今日辺りが、最後の仕上げになりそうだ。見ものだぞ。」

 部下の男は何を恐れるのか、渦紋の言う(あれ)を辞退して、真っ青な顔で部屋を出て行った。

 Gは、その男の意識を盗んで、パミータについての知識を白竜に送ってやる。

 このパラレルワールドでのパミータの役割は、白竜の知っているものとは、少し違うようだった。

 それは麻薬と言うより、ウィルスの様なモノに近い気がした。

 この世界の住人達は、その「ウィルスの様なモノ」を、どうにかして飼い慣らしているようだった。

 ただこのパミータは、その効果の「持続性」という点で強力な麻薬であるという点では、白竜の知るパミータと同じようだ。

 だが、この世界のパミータは、連続投与など処方「期間」に間違いを起こすと、人体組織に想像も付かない変容をもたらすようだった。

 それに加えてパミータは、量に比例して至福感が強まる性質があるようだ。

 つまりパミータに溺れた人間は、人間の姿を維持できなくなるのだ。


 海渡の顔を持った女は、渦紋の(あれ)と言う言葉を聞いて、目を輝かせていた。

(あれ)を見た後の渦紋のSEXは、濃厚になるのを、女は知っていたからだ。

 そう、渦紋は人間の身体が変容する様を見たくて、人間を薬漬けにしていたのだ。

「今日で、この女にパミータを注射するのが丁度、十回目だ。日を空けずにやっているから、さぞかし、見事に融け崩れるだろうよ。最後にどんな姿になるか、わくわくするな。」

 渦紋が海渡にウィンクしてから、注射器を持ってソファに移動する。

 ソファには、燃えるような赤毛の美女が後ろ手に縛られて眠らされていた。


『そんな、馬鹿な!あれはフローレンスだ!』

 制止の為に、思わず己の思念を渦紋に送ろうとする白竜。

『渦紋さんに、声を掛けないで!』

 このGの咄嗟の思念の声も、もし次に現れた機動スーツの男の登場が遅れれば、白竜には効かなかったかも知れない。

 機動スーツの男が、ビルの最上階の壁ガラスを、外から突き破り転がり込んで来た。

 中腰に体勢を立て直した男の手には、大型軍用拳銃がしっかりホールドされている。

 破れた壁には、夜空が広がり、そこに黒い機影のサポートヘリが部屋をのぞき込むように静止していた。

 機動スーツの男が、ヘルメットのシールドをはね上げる。

 ヘルメットの中に若き白竜の精悍な横顔が見えた。

「お楽しみを、邪魔しちまったかな?」

 若き白竜が悠然と渦紋に問うた。

「いや、新しい楽しみが増えて嬉しいよ。お前、名前を何と言う?」

 渦紋の何処か、楽しんでいるような声の響き。

「俺の名は白竜。お前らは、俺の事を、狂い犬と呼んでいるらしいがな。」

「そうかお前か、噂をすれば、なんとやらだな。」


 その時点でGは、彼らの前に己の姿を現す事を決意した。

 若い白竜は、この闘いの場に一般人であるフローレンスがいる事を忘れている。

 機動スーツの装着者と、超能力の巨人がぶつかれば、フローレンスが巻き添えになるのは必定だった。

 又、たとえ渦紋が闘いを避けて、フローレンスを人質に取る作戦にでようとも、若い白竜がその事によって引き下がるとは思えなかった。

 「狂い犬」とは、そこから来たあだ名だった。

 どちらにしてもフローレンスは、危機に晒される。

 フローレンスを助けようと、彼女の側に突如出現したGと、白竜の姿を見て、若き白竜は驚くどころか、嬉しげな声を上げた。

「あんた!さっきレストランで俺を助けてくれた人だな?」

 それに対して、渦紋と、海渡の顔を持った女は不思議そうな顔で、突然現れた白竜とGの二人を見つめている。


『白竜さん。フローレンスさんを、貴方の力で目覚めさせてください。彼女は、まだこの世界に完全に埋め込まれていない。それに彼女は、渦紋さんと強い親和力があるみたいだ。彼女なら渦紋さんを、この世界から取り戻せる。』

『って、この渦紋は、本物なのか?』

『そうです。』

 そう白竜にテレパシーを送ると、Gはウマーの鎧の頭部を装着した。

 美しいGの顔が、革細工で作られた妖異な仮面に取って変わった。

 これに一番驚いたのは、若い白竜だった。

「なんだ?どうしたってんだ。」

 渦紋がその隙に、腰を落として力の光球を両掌に集めた。

 渦紋が若い白竜へ光球を放ったのと、その軌道の間に、Gがその身体を滑りこませたのは、同時だった。

 Gの衣服は一瞬にして蒸発したが、渦紋の放った光球は、ウマーの鎧に吸い込まれて、消えた。

 ほう。という顔をした渦紋だったが、まだ自分の攻撃には自信があるらしく、両手を顔の前で合わせ合掌の形を取った。


「貴方!止めて!」

 白竜によってパミータの眠りから解放されたフローレンスが鋭く叫ぶ。

 精神を強く蝕むパミータを大量投与されていた直後にしては、信じられないほど、しっかりした口調だった。

 しかも激烈な勢いで、自分の身体の解毒作業を同時に行っている。

 やはりフローレンスも又、渦紋と同様に超能力の巨人だったのだ。

 そして恐らくフローレンスが与えられた「ギフト」の本質は、全ての「傷ついた事象」に対する、「治癒」だったのだろう。



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