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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 37: 晩祷 問題のナイフ

   37: 晩祷 問題のナイフ


 巨大キリスト像は、自分を見つめる第二次探査隊の意識が遠く離れ薄れ始めた為、その形を保持し続ける事が難しくなり、壊れる前のネオン管の様に点滅し始めていた。

 逆に言えば、四台のアタッカーは、キリスト像の呪縛から逃れられる、ぎりぎりの地点まで到達した事になる。

 黒木は、そのタイミングで四台の車を集合させた。

 2号車に乗り換えていた黒木は、そのポイントに全車を止め、そこで李と海渡の「審問」を始めようとしていたのだ。

 しかし皮肉な事に、もう一つの事件は、そんなタイミングで起こったのだ。

 この審問会の為の集合は、彼らがある死体を発見するきっかけに、変化してしまったのである。

 黒木によって、一号車を任されていたパスカル神父が鋭利な刃物によって惨殺されていたのだ。

 神父は、点滅するまがまがしいキリストの涅槃像のみもとで殺害された事になる。

 死体の第一発見者は、通信を送ってもパスカル神父が応答しないのを気にかけて、一号車に出向いた渦紋だった。


 パスカル神父の埋葬を終えた後、李・海渡に対する審問会は、急遽、パスカル神父殺害究明のそれに変わった。

 全員が集められた場所には、砂漠の砂の上に、高床式の軍事用グランドシートが引かれてあり、参加者達は黒木を中心にして思い思いの場所に座りこんでいた。

 黒木は全員にシュラフを持ってくるよう指示していた。

 腰を据えて事件の究明に当たるつもりらしい。

 たった一日の間に、李と海渡は狂態を演じ、神父が殺されたのだ。

 黒木には、隊に訪れた「狂気」の拡大を、早急に防ぐ必要があった。


 惑星浄土の壮烈な夕焼けが終わろうとする頃、渦紋による殺害現場の状況説明が終了した。

「李、海渡、白竜、そして俺は神父が殺された時間、二号車を離れなかった。」

 黒木はまず己のアリバイを説明してみせた。

 隊長である事だけで、事件解明の首座に付けるわけではない。

「探偵ごっこでもするつもりなの?私達は超常能力者の集まりよ。アリバイなんて関係ないわ。皆の頭の中を覗けば済む事じゃないの?」 

 海渡が黒木のプロテクトスーツの股間を見ながら楽しむように言った。

 そんな彼女を、大道がめねつけるように見つめている。

「黙っておれ、儂らはこの星では極力、力を使わんようにせねばならん。第一、力を使って覗けるものならば、同じように、力で防ぐ事も出来るのが道理だ。我らが、そのような心理戦をやればどうなるか、、無闇に猜疑心に走れば、全員があっけなく、浄土に取り込まれる。今は隊長の方法で、やってみようじゃないか。」

 渦紋が黒木に助け船を出す。

「そう言う事だ。後は神父が殺された時間帯だが、神父は此処まで一人でアタッカーを運転してきた。審問会の準備の為に、俺は二号車へ、渦紋、シグモント、キュリー、シャイニィの順で君たちを呼び入れた。渦紋が神父を呼び出すための無線に応答のないのを気にして、一号車に出かけたのはシャイニィが入って来てから十分後だった様に思う。そうだったな、渦紋。」

「ああ、間違いない。そして神父は、こいつでありとあらゆる関節を切断されて殺されていた。」

 刃渡り二十センチのサバイバルナイフを、全員に見せる様にして渦紋が言った。

 フローレンスは、神父のバラバラになった身体を集めて回った事を思い出して、口元を押さえた。

 従軍看護師としての経験は、豊富なつもりだったが、神父のバラバラ死体は、今まで見たこともない無残さでアタッカーの車内に散らばっていたのだ。

「問題のナイフだが、俺の独断で、最も犯人である可能性が低い李を各号車に出向かせ調べさせた。」

 黒木が、プロテクトスーツのブーツから同じサバイバルナイフを引き出して見せた。

「これは全員への支給品であり、常時携帯の標準装備であるはずだが、君達は残念な事に、所定の場所にこれを携行していない。ナイフは、全て各号車の共同ロッカーに転がっていた。」

「当たり前だ、そんな物をブーツに仕込んでいる奴は、あんたと死んだ若水ぐらいのもんだ。」

 シグモントはそう言ってから、若水の名前を出したのはまずかったと気づいて、白竜の顔をチラリと見た。

「死んだものには殺人は犯せんよ。誰かが若水を起こしてやらん限りはな。それよりナイフの話だ。李がそれぞれの号車で見つけたナイフは全て新品だったそうだ。ナイフは殺人に使われた物を含めて十一本。念の為、言っておくが、余分のナイフはない。浄土転送の為、装備品から君達の私物にいたるまで全ての重量は厳密に登録と照合がなされている。犯人は、直接、一号車に出向いて、一号車の共同ロッカーに置かれてあるナイフを持ち出し、神父を切り刻んだと言う事だ。しかし一号車のロッカーには無理矢理こじ開けた様子はない。なんだか主婦が自分の家のキッチンから食事の用意のために包丁を取り出した感じだな。」 

 そこまで黒木の話を聞いた時、渦紋にある表情が浮かんだ。

 渦紋は、その表情を周囲の人間に伺われまいと下を向いたが、その瞬間、海渡と顔があった。

 海渡は何のつもりか、ニヤリと笑った。

「で、隊長さんは一体、何が言いたいわけ?じれったいわね。貴方の彼氏は、ベッドでもあんな風にじらせて楽しませてくれるの?」

 海渡が何時までも、自分への刺すような視線をはずさない大道和音に毒づいた。

「俺は最初、この惑星浄土自体が殺人を犯した可能性も考えていたんだ。、、この惑星に到着して以来、生命体で人間らしい姿をした者には出会っていないがね。あのキリスト像を見ただろう、可能性としてはないわけではない。だが俺は、このナイフの件で感じたんだが、やはりこれは人間の仕業だと思う。浄土が俺達に干渉するなら、もっと派手な立ち回りをする筈だからな。俺達の中の誰かが殺ったんだ。時間的に可能性が最も高いのは、皆もそう思っているんだろうが、、、渦紋、君だ。」

「そういう事じゃろうな。」

 渦紋は平然と言った。

「しかし渦紋には、時間的な可能性はあっても神父を殺す動機がない。次は、、動機としては、、、これが一番難しいが、、、白竜だろう。白竜は、神父に役立たずと罵った事がある。神父が若水の死を悼んで十字を切っただけで、だ。その後も、白竜は神父と満足に口をきいていない。これは皆も知っているだろう?それに白竜は、」

 渦紋が、目をギラつかせて立ち上がりかけた。

 その渦紋の腕を掴んで白竜が言った。

「狂いかけてる。そう言いたいんだろう。確かに俺は狂いかけてる。だが、まだお前が出発前に言ったお守りの南無阿弥陀仏の呪文を唱えるつもりはない。神父を殺ったのは、俺じゃないよ。」

「俺も、そう思うな、白竜は本物の戦士だ。本物の戦士は、自分が殺すべき敵を知っているものだ。俺が一番怪しいと思っているのは、このシャイニィだよ。お前さんたちは、号車が違うからあまりこの男の事を知らんだろうが、こいつは俺達が困った状況に陥る度に、何時もニヤニヤ笑いながら見てやがるんだ。そんな奴なんだよ。こいつなら、放火犯みたいに楽しみの為だけで、それぐらいの事はやりかねんよ。」

 シグモントが、黒木にと言うより、黒木以外の者に言った。

 白竜を助けたいというより、シャイニィが気に食わないようだった。

 当のシャイニィは無表情のままだ。

 ただ、確かに笑えば冷酷そうに歪むだろうその薄い唇が、少しだけ震えたようだ。

「無口だからと言って疑うのも良くないし、まして自分の好き嫌いで、相手を疑うのは卑劣な事だよ。それにシャイニィは、、。」

「それにシャイニィは、なんだってんだ。」

 シグモントが気色ばって言うのを制止して黒木が続けた。

「我々の目的地は、もう目と鼻の先だ。此処で暫く足踏みをしても問題はないだろう。この件についてはじっくり調べるつもりだ。今夜はもう遅いし、色々あり過ぎた。ここでお開きにしよう。続きは明日だ。ただし寝るのは申し訳ないが、車じゃなく此処にしてくれ。ここならお互いがお互いを監視出来るからな。」



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