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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 34: 投影 赤い唇の地蔵

   34: 投影 赤い唇の地蔵


 惑星浄土に朝が訪れた。

 太陽がある。

 この惑星は、永遠に等しい光年距離を隔てながらも、人間達の星雲と同じ配列を持つ相似宇宙に有るのかも知れなかった。

 だからと言って、ニルス天文台と超時空ゲートによって地球に接弦した「浄土」と、この惑星浄土が同じ物だと言い切れるのだろうかと、フローレンス・キュリーは考え始めていた。

 フローレンスの母国では、特に浄土によるネーチャーアタックの影響が激しかった。

 燃え上がるような豊かな赤毛と、青磁色の瞳を持つ彼女は、持って生まれた神秘的な力を結晶体で加速させ、浄土の毒に犯された環境変化を局地的ながらも多数復元していた。

 例えば、意図的に発生させられた大竜巻の芽の幾つかを、彼女は未然に消し去って来た。

 彼女の国の政府も、この真実を知った時には、大いに驚いた事だろう。

 この春から政府はフローレンス・キュリーの所属階級を、現在の従軍看護師の地位から、上級職である病院看護師長に引き上げようとしていた。

 それは、彼女を、公に出来ない対浄土ネーチャーアタック専門対応の職員にする為の引き替え条件だったが、病院看護師長という地位が名誉である事には間違いはない。

 又、実際に、この国では病院看護師長という立場は医療現場に大きな影響を与える事が可能で、現状の医療実態に不満を持っていたフローレンス・キュリーには魅力的な地位だった。

 それを断ってこの計画に参加したのは、力というギフトを与えられた者は、人類救済を担うべきという彼女の強い使命感だけではなかった。

 彼女には幼い頃から神秘的な事象に対する、ある種の深い「傾倒」があったのだ。

 そのために、この美しい女性に近寄る男性は数すくなっかた。

 しかし、フローレンスはその事を殆どと言ってよい程、気にする事はなかった。

 第二次浄土惑星探査隊員、フローレンス・キュリーはそんな女性だった。



「どうかな?俺に出来る一通りの説明は終わった。この仕事には、古代のシャーマンに要求された様な力と能力が必要なんだ。すでに白竜と渦紋が名乗りを上げてくれているが、数は多い方がいい。やろうと思う者は、この場で手を上げてくれ。」

 フローレンスが真っ先に手を挙げ、続いて若水がおずおずと手を挙げた。

「よし、四名は十分後に一号車に集合してくれ。」

 その黒木の言葉で、四台のアタッカーに囲まれた空き地での朝のミーティングは終わった。

 大道和音は、黒木の一部始終をきつい目で見つめていた。

 パミータは朝一番に、黒木自らの手で和音の手からもぎ取られていた。



「手をあげたは良いものの、こいつは難儀じゃな。この作業、Gなら簡単にやってのけるじゃろうが儂らにはな、、パミータでもあれば四人で掛かれば何とかなるじゃろうが。、、いかん、いかん、あれは悪魔の薬じゃ。」

 身体に良くフィットしたプロテクトスーツを大儀そうに脱ぎながら渦紋は一人でぼやいている。

 白竜は渦紋に、大道和音がパミータを使用した事を伝えていない。

 もしそんな事を知っていれば、渦紋は大道と関係のある黒木を半殺しにするはずに違いないからだ。

「コンピュータの用意は出来た。そちらはどうだ?」

 黒木が、操縦席から引いてきた総合ナビゲーションコンピュータの端子コードを持って、四人が待つリビングスペースに屈み込みながら入ってきた。

「儂の此処に、それを接続してくれ。」

 渦紋は、筋肉質の上半身の裸をむき出しにしながら、肩を揉む様な腕の曲げ方で自分の首の裏側を示した。

 黒木は渦紋の首筋に開けられた小さな穴にコード端子を接続する。

「さあ、行くか。みんな儂の手を握ってくれ。若水君、君はそんなにつよう握らんでよろしい。キュリーさん、貴方は強く握って。」

 白竜は雰囲気を和らげようと、軽口を叩いている渦紋を好ましくみながら、ふと自分が渦紋が既婚者なのかどうかさえも知らない事に気づいた。

 この計画が終わったら、一度、酒でも飲みながら、渦紋と女性の事について語り合うのもいいかと、白竜は思った。

 と突然、酒場で杯をかわす渦紋と白竜のイメージが闇にとけ込んで、それが浄土第一次探査隊の悲劇の隊長、トルーマンの視界と意識に切り替わった。

 この時、白竜達は第一次探査隊の過去の残像にリンクしたのだ。



『ハギスよ、お前の元の名前はトルーマンと言ったのか。』

 白竜の頭の中で、渦紋が懐かしげに呟いている。

 渦紋は、ニルス天文台での戦いでハギスと出会っているが、その前身であるトルーマンの事は知らない。

 同時にフローレンスの胸の高まりの感情も、白竜の頭の中に流れ込んで来る。

 若水の気配はない。

 若水は、巧くΩスクワッドが残したデータ世界に、同調できていないのかも知れない。

 白竜の目の前に、切り立った崖に挟み込まれる様に黒く深い河の流れが横たわっている。

 白竜は今、トルーマンとして、彼のイメージの中で、Ωスクワッドと共に、黒いゴツゴツした穴だらけの岩が転がる河岸を苦労しながら歩いていた。

 やがて峡谷に発生した濃霧が彼らを包み込み、迫り来るハギスへの変貌に苦しむトルーマンは、仲間に追いつけなくなった。

 それでもトルーマンは、身体のあちこちを岩肌にぶつけながら必死に仲間に追いつこうとした。

 よろめいた時に、側にある岩に手を突いて身体を支えようとすると、シャーッという鋭い音がして、トルーマンの手を剃刀の様な切れ味で小さく傷つけて行くモノがあった。

 何か小さくて凶暴な生き物が、岩肌の穴に住んでいるようであるが、トルーマンには霧の為に、それが何であるのか確認できないでいる。

 河岸の岩の道は、やがて上に傾斜を帯び、トルーマンはどうしても岩に手を突く回数が多くなった。

 仲間の一人に濃霧の中でぶつかって、自分がようやく仲間達に追いついた事を知った頃には、トルーマンの両手は血だらけになっていた。


「あれを見ろ、ハギス。」

 Kがトルーマンをハギスと呼び、ひび割れた声を出した。

 Kはすでに、人間としてのKではないのか?

「あれを見ろと言われても、私の目には霧しか、、、」

 そう言った途端に、霧はスイッチを切ったように消滅して、眼下に広がる異様な光景を、トルーマンに見せつけた。

 河岸には、もう黒い岩は生えておらず、変わりに何千何万もの唇だけが赤い生白い「地蔵」がびっしり地面からはえだしていた。

 遠くに、けぶるように見える対岸にも、地蔵達は、はえており、その為、対岸は白く見えた。

 魅せられる様に、それらの地蔵群を見ていると、突然すべての地蔵の赤い口がばっくりと大きく開かれ、中から無数の赤黒い蚯蚓と青黒い蛭が吐き出された。

 見る間に、どす黒い赤と青のヌラヌラした塊は黒い河とひしめく地蔵群を埋め尽くし、トルーマン達の足元までせり上がって来た。

 トルーマンは、蛭と蚯蚓の塊に埋没しながら必死に手足を動かした。

 蚯蚓と蛭はトルーマンの身体のありとあらゆる穴めがけて潜り込もうとしてくる。

 トルーマンが、硬く堅く瞼を閉じようとした時、Kの思念が届いた。

「大丈夫か、皆。口を開けて、奴らを呑む込み食ってやれ、蛭や蚯蚓を噛み潰すんだ。そうすれば、奴らは逃げてゆくぞ。」

 トルーマンは、おそるおそる口を開けた。

 蛭と蚯蚓が口の中になだれ込んで来るのが判った。


「止めろ!止めるんじゃ!儂らは見ているだけだ。それを忘れるな!」

 渦紋の声が聞こえて、ようやくトルーマンは、白竜に戻った。

 渦紋の意識が強まったせいか、Kの気配が消えている。

「どうもトルーマン個人が残した意識に我々を投影するのはまずい様だ。再現精度は高いが、こっちのキャパが足りん。このままで行くと、儂らは元の世界に帰り着いた時には、身体も心もぼろぼろになっとるぞ。コピー精度は落ちるが、全体記録の中に、我々を投影しなおそう。」

 渦紋の声。

「でもデータは開いたままです。そんな形で中途半端なライド放棄をしたら、トルーマンさんの残したデータが、二度と使いものにならなくのじゃ有りませんか?」

 気丈な、フローレンスの声。

「構わん。どうせ儂らが成功しないのなら、トルーマン、いやハギスの残したデータは使えんのじゃ。そうじゃろう、白竜?」

 渦紋の声。

 未だにトルーマンとしての自分から抜け出せ切れない白竜は答える事が出来なかった。

 渦紋らと自分は力の桁が違うと痛感した。

 しかし俺でこうなら、若水はどうなんだ?

 まさか完全にトルーマンに上書きされた?

 その事を考えると、白竜は酷い動悸がした。

 渦紋に、この事を伝えなければと思うのだが、白竜には渦紋に意識を飛ばせる程の余力はなかった。



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