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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 31: 到着 全ての者が震える

   31: 到着 全ての者が震える


 黒木は、第一次浄土調査計画でその任に当たった特選特殊部隊Ωスクワッドが、まだ正常を保っていた頃の探査記録を手に入れていた。

 Ωスクワッドが、浄土の影響をまったく受けなかった地点は、一つしかない。

 黒木は、その地点付近を惑星浄土における着地点と、トレジャーのオートパイロットに設定していた。

 不干渉地点は、小高い岩礁状の丘に洞の様にうがたれた大洞窟である。

 惑星探査船トレジャーは、今、その丘の麓に着陸していた。


 十一人の男女はその夜、トレジャーから離れ、大洞窟の中で思い思いのグループに分かれて、浄土の第一日目を終えようとしていた。

 ゲート転送の人体に及ぼす影響は、予想以上に大きく、男女の動きは疲労の為、緩慢だった。

 『度を過ぎた時差ボケ』と、言ったところだ。

「のう、白竜、起きているか?」

「ああ、、。」

 ビームハンドガンのよく使い込まれたグリップエンドから延びたコードに、接続された簡易ランプの青白い光源を見ながら、白竜は気のない返事をした。

「この計画が始まってから、此処まではΩの邪魔がはいらなんだな。奴らの棲む闇からは、こちらが見えんのだろうか?」

「いや、奴らは、こちらの様子を見ているさ。」

「何の様子ですか?」

 丸い顔を、やや、やつらせた若水が、二人の会話に割り込み、いかにも興味深そうに聞いた。

「俺達、十一人が、この星で奴らの仲間になっちまうのを待っているんだよ。」

 若水の顔が青ざめるのが判る。

 Ωスクワッドの変容の実態を目の前にしている若水に、この言葉は少々きつすぎたかと思い直して、白竜は話題を変えた。

「若水、君はどうして、この計画に参加したんだ?正直言って、打ち合わせの席で君の顔を見た時には驚いたよ。この俺でさえ、あのニルスみたいなのは、もうこりごりだと思ってるんだが。」

「いえ、紗緋寺の人間なら、総てこの計画に参加したかったと思いますよ。ただ皆、さきの戦いで神経がすり減ってしまった。あの出来事について言えば、あなた方と私達とでは、とらえ方が違うのです。」

「そうか、、でも、済まなかったな。紗緋の僧達には、バックアップだけと言っておきながら、実際には無理をさせてしまった。みんなこの渦紋のような、怪人ばかりじゃない。この坊主は特別だ。それは、後で判った。」

 渦紋は苦笑いを浮かべている。

「いいんですよ。渦紋さんや、白竜さんのサポートをやっていなくても、どの道、我々は、蚊龍の毒気にあてらていた。皮肉な話ですが、我々の力は、我々がそれを実在する法力として認識した時点で枯渇する運命にあったのです。我々は、あの時、仏に仕える身であることを忘れてしまっていた。」

「、、正直に言って、俺はあんたら紗緋寺の僧が何に拘っているのか、未だによく判らない。いや理屈は判るんだが、人は理屈だけでは動かんものだしな。」

 若水は、それには答えず、穏和に笑って違うことを言った。

「私は、此処に来るため体の三十パーセントまで、改造しました。他の僧達の年齢では、耐えられません。」

 若水にいつ今回の招集が掛かったのかは判らないが、いずれにしても急なサイボーグ手術だった筈だ。


「若水君といったな、君は浄土に復讐にやってきたのか?」

 渦紋には白竜のような遠慮はない。

 ただ、今は捨てた宗門といえど、自分が過去に対抗していた汎真言宗の僧侶から、こうやって浄土の地で話掛けられる立場にいるという不思議を渦紋は感じていた。

「そこは、私にも良く判りません。確かに、私は老師の付き人でしたし、あの蚊龍の面倒も、兄のよう気持ちで六年間みてきたつもりです。私を裏切るような真似をして、しかも老師を殺した蚊龍に対して憎しみがない訳ではない、、、。」

「渦紋が、君に言いたいのは、この星では憎しみを捨てろと言う事だ。この星で君が蚊龍に出逢う確率は低いとは言い切れない。君には、文字通り、釈迦に説法だろうが、君がもし憎しみを持ち続けるならば、君はそれを浄土に取り込まれΩスクワッドのように変質してしまうだろう。」

 若水の表情が暗くなる。

「さあ、話はそれくらいにして、もう寝ようぞ。君らは黒木隊長殿の言葉を聞いていなかったのかね。明日から、本気でやるそうだ。」

 渦紋が話を締めくくった。



 惑星浄土にも夜昼の区別はあるようだった。

 朝日の差し込む洞の中で、十一人は黒木を中心にして座りこみながら携帯食の簡単な朝食を取っている。

「食事が終わったら車に乗って貰う。車は4台用意した。こちらに運べるぎりぎりの台数だ。1号車には俺と白竜にパスカル神父、2号車、李・海渡・若水。3号車には大道・シグモント・シャイニィ、4号車には渦紋とキュリーだ。それぞれの車の責任者は李・大道・渦紋にする。乗り込んだら三十分おきに、それぞれの責任者が俺に定時連絡をする事。水晶体を使ってのテレパシーは、よほどの事が無い限り使うな。この星に干渉されるからな。回線は、どの号車もオープンにしておくから幾ら傍受しても構わない。気になる事は、何でも言ってくれ。以上だ。五分後に出発する。」

「五分って、ちょっと待ってよ。それじゃ歯も磨けないわ。」

 海渡と呼ばれる女性が文句を言うのを李がたしなめた。

「お嬢ちゃん、歯を磨きたければもう少し早起きする事だ。ミーティングの時間は、昨夜指示を聞いていただろ。はやく身繕いをしなさい。」


 十一人が従列を組んで丘を降りた。

 砂漠の平坦地に、恐ろしく旧式だが、四台の良く磨き挙げられた二十五型八輪駆動装甲車が待機していた。

 トレジャーのメインコンピュータが配車をしておいたのだろう。

 通称サバイバルアタッカーと呼ばれる旧式の装甲車である。

 最新装備の車両は、なんらかの理由でトレジャーには積み込めなかったらしい。

「運転してくれないか、白竜。進行方向は、パネルに表示される。」

 アッタカーの昇降台の前で、黒木は他の乗車状況を見ながら言った。

 二号車が、もたついているようである。

「、、立候補制も大変だな。街でたむろってるようなお嬢さんまで、参加できるからな。」

 無論、厳密な意味で、浄土への転送チームは立候補制などではない。

 白竜は、このチームの多様性を皮肉ったに過ぎない。

 そう言いながら白竜は、十年この車を運転しているという動きで運転席に潜り込んだ。

「神父は、後ろの席に、」

 昇降台が自動的に降りてくる車の出入り口を、神父と呼んだ初老の男に指示して、黒木が補助席に乗り込む。

 白竜が始動操作をしながら、黒木にインカムを手渡す。

「海渡の事か?彼女は見た目ほど出来の悪い女じゃない。あれでもBBCのトップレポーターだぜ。それに生まれついてのサイコキネシスだ。」

「君は昔から女に甘いようだな。俺が亜蘭大学に教えにいくたびに、君の周囲には、必ず女達が纏わり付いてた。」

「西海教授、本当に女に甘い男は、もてないものなんだぜ。さあ、行こう出発だ。」

 黒木は白竜の表の顔の名を呼んで、軽口を言った。

 だが白竜は、そんな黒木が隠している緊張を見て取っていた。

 ここは惑星浄土だ、全ての者が「震える」。

 そして、彼ら十一人はその最深部に入り込もうとしていたのだ。






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