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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 29: 人形 黒猫は嗤う

   29: 人形 黒猫は嗤う


「それにモニター記録の件については、もう、報告済みの筈ですが?」

『そうだよ、あれは俺がモニターを切ったんだ。貴様らにGを見られてはGをいじりまわされ、挙げ句の果てに、Gをお釈迦にされてしまうのがオチだからな。貴様らには、判らんだろうが、Gはこの世界存続の為の切札なんだよ。』

 白竜は強い調子で、海蔵の揶揄を断ち切った。

「まあ、そんなにトンがりなさんな。君は、何と言ってもゲート保守機構の実力ナンバーワンだ。私は、君の事を信用している。話が横に反れたな。、、それで黒木氏が指定してきたのは、西海白竜、君なんだよ。君は承知するかね?」

 超時空ゲートは、距離だけでなく時間や次元にも作用を及ぼしている。

 その中に入り込む者は、「自分」という座標軸を持たないと、あっと言う間に押し流されて、「何者でもない存在」になってしまう。

 「自分」と言葉にするのは簡単だが、「自分」を時空ゲートのシステムに当てはめた時、その座標軸は何を示すのか?どんな因子といえるのか?

 哲学を物理学に還元するようなものだ。

 白竜には、未だにそれが判らなかったが、黒木が周囲の人間に説明した「いやいや入った者は、心まで狂ってしまう」は、その謎に関して、ある側面を言い当てているのは確かだと思った。


「一民間人の立場で、ですか?」

「それは困る。浄土には機構の人間として行って貰いたい。」

「お国のメンツですか?」

「そうだ、それの何処が悪い。ゲートへの道を開いたニルス天文台があるのは我々の国だぞ。それに浄土に行くには、ゲートの他に強力な特別製の結晶体が必要だ。君も知っている筈だぞ。あれがないとゲートは通過できん。君は我々の指示下に戻りたくないのだろうが、浄土にはまだ関心がある筈だ。だが、機構の人間でない君が、一人で、結晶体を準備出来るのかね?いやゲートにさえ近づけない筈だ。これは君にとっても良いチャンスだろう?」

 そう言われれば、白竜に逆らえる材料は何もなかった。

「貴方は、商売上手な黒猫だ。買う気のない相手にも品物を売りつけてしまう。」

「この作戦には、渦紋君も参加してくれるそうだ。詳しい打ち合せは三日後だ。その時までには、その頭に付ける鬘でも準備しておいて付てくれたまえ、私は坊主頭が生理的に苦手でね。」

 海蔵は猫の様な笑い声を上げながら上機嫌で言った。

 少しは白竜を、やりこめたという気持ちになったのだろう。



「済まなかったな。嫌な思いをさせて。」

 機構からの帰りのエヤータクシーの中で、渦紋が身を小さくして詫びた。

「馬鹿をいうな。俺にいやな思いをさせたのは、あんたじゃなく、あの官僚主義の黒猫野郎さ。いつか尻尾をつかんで、ぎゃふんと言わせてやる。それより、どうする?」

「なんだ、鬘の事か?鬘の事なら、儂が知り合いに頼み込んで、なんとか早急に、、」

「どうして、そんなにアンバランスなんだ?あんたは!人が良すぎると言うのか、、」

 白竜は諦めた様に、声の調子を落として言った。

「鬘じゃない、Gの事だよ。Gに今度の浄土の件を伝えていいのかどうか。」

「駄目じゃ!もうこれ以上、Gを苦しめてはならん。今回の件を話せば、彼はきっと儂らに付いて来るぞ。」


 しかし、二人の悩みは、既に解決していた。

 渦紋が自宅の寺についた頃には、Gは転移アーマー「ウマーの鎧」と共に失踪していたからだ。


 Gは渦紋の寺から離れて、浄土エリアの地球侵攻の後に打ち捨てられた赤国国立遺伝子研究所の赤煉瓦の建物の屋上に座り込んでいた。

 ここはイシスが、自らの復活の為、百三十年ほど前に、Gを「人形」の身体から、「人間のG」としての意識を目覚めさせた場所でもある。

 無論、建物自体は、幾度も作り変えられて元の面影はない。

 Gは、渦紋の寺に引き取られていた期間中に、機構のネットワークに侵入し、辛うじて残っている自分の中のイシスの存在を知り、養父の四谷からは、自分自身の生育歴を聞き出していた。

 あのニルス天文台事件が、Gの境遇の全てを激変させたのだ。

 養父の四谷から聞き出した所によると、Gは(生きている男の子人形)として、好事家達の間を八十五年間に渡り点々と売り買いされていたそうである。

 その男の子人形は、ある時は何処かのうらびれた倉庫の中で埃を被っていたかも知れないし、又、ある時は化粧を施されて好色で裕福な男の秘密の部屋に飾られていたのかも知れない。

 養父の四谷にしても、新しく開こうと計画していた風俗店の飾りにと、闇市でGを手にいれたのだ。

 (生きている男の子人形)のGが、初めて口をたどたどしく開いた時には、四谷は彼を捨ててしまおうと何度も考えたそうだ。

 結局、四谷は自分の子供の代わりにGを育ててくれたのだが、、。

 それが回り回って、実験体として赤国国立遺伝子研究所に捕らわれる事になった、、。

 そんな経過を考えると、この建物自体が、Gの第二の故郷と言うことになる。


 出来損ないであるにしても人形から人間として目覚めたGは、過去において自分が「何者」であったのかが、判らないのだ。

 まさか生まれた時から「人形」だったわけではあるまい。

 それでは、自分の中にあるイシスの説明もつかない。

 時折、Gの長く伸びた金髪を、研究所の近くにある海が運んでくる潮風がもてあそぶ。

 勿論、養父の四谷が、Gの過去を簡単にGに語ってくれた訳ではない。

 そしてそれは、人間以外のイシスとしてのメンタルも、同時に取り戻したGであっても辛い認識だった。

 だがGは「振り返って」いられる状況には、なかった。

 何かがGを、せき立てていた。

 この流れていく風が、全てを押し流してくれればいい、

 Gは、そう思った。

 Gは空に流れる雲を見つめならがら、渦紋の寺での二日間という長い眠りの中で見た夢が、ある一つの天啓となって自分の中に力の発動として形づくられるのを辛抱強く待っていた。

 夢は、ニルス天文台事件で手に入れた転移アーマー「ウマーの鎧」に関するもので、二つのパターンがあった。

 「ウマーの鎧」は、惑星浄土に向けて設置された大規模転送の超時空ゲートに対して、個体を移送するための探査艇として創造されたものである事は判っている。

 大きさや見てくれの素材など、超時空ゲートの作動原理には何の関係もなかった。

 要は、移動させるべき「存在」を密封できれば良いのだ。

 それらの夢は、おそらく、「ウマーの鎧」の特質を顕したものだろうと思えた。

 Gは、夢の中で手の甲にかゆみを憶える。

 それを掻こうと思って、Gの手に張り付いている黒いハードレザーのような革手袋を引き剥すと、革手袋はスポリと抜け落ちて、中から手の形をした宇宙が現れる。

 良くみるとその宇宙には暗黒星雲が渦巻いている。

 それが一つめのパターンである。

 二つめは、もう一人のGが、「ウマーの鎧」を着た女性としてのGの腹部を断ち割ると、なかは虚無の空間で子宮にあたる部分にビッグバンが見えるというものだった。

 白竜は、ニルス天文台のバビル戦で「ウマーの鎧」をもちいたGの戦法を、「ブラックホール爆弾」と冗談混じりに呼んでいた。

「蚊龍、、こうしてみると、僕も君もまるで別の存在に操られているピノキオだね。君は自分で糸を切った。ピノキオは幸な人間になったけど、、、君と僕はどうなんだろう?」

 Gは頭の中で、ニルス天文台事件で闘った旧敵の蚊龍を想って、膝頭に頭を埋めた。

 そして暫く化石の様に動かなかったGは、何かを決心したように、急に立ち上がって「ウマーの鎧」の革の全頭仮面を被り、両手を高く掲げ、上空のにび色に輝く太陽めがけて飛び上がっていった。



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