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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 28: 復帰 第二次浄土調査計画

   28: 復帰 第二次浄土調査計画


 赤国科学技術管理機構本部の廊下を歩く二人の英雄と、すれ違うこととなった所内の人間達は、それぞれの各部署に戻ってから、様々な噂話を撒き散らしていた。

 その多くは、今は退官している伝説の調査官・白竜の機構復帰の可能性と、その動機に付いてである。

 伝説は伝説を呼んでいた。

 しかし白竜の伝説は、決して明るいものではなかった。

 空間転移ゲート、通称「無間地獄門」の開閉に立ち会う男、白竜。

 白竜と共に門を潜り、旅をした人間は、己の人生という「貌」を失う。

 彼の伝説には、常に深い陰影が刻まれていたのだ。


「随分、薄暗くなったもんだな。」

 白竜が本部長室に通じる廊下を懐かしげに見渡して、自分の隣に並んで歩く渦紋に言った。

 今日は二人ともスーツを着込んでいる。

 白竜は剃髪のままにも関わらず、スーツ姿が板に付いている。

 対して渦紋は、あいも変わらず、いかにも丸刈りの田舎のおじさんという風体である。

「ああ、あてにしてた原発がアウトで、海も川も森も腐り果て、電力の供給が制限されているからな。おまけに、表沙汰には出来ないが、こっそり浄土からのネーチャーアタックだ。国の機関は、せめてエコで国民の見本にならんとな。」

「相変わらず、表面だけは、おめでたい、、。」

 渦紋にいったのか、政府にいったのか判らぬ口調で白竜が呟いた。


 それを無視して、本部長室のドアの前で渦紋は、ネクタイを結び目を調整しながら「失礼します。」と大声で言った。

 やる事、全てが田舎くさい。

『怪僧渦紋は最高だが、役人渦紋は最低だな。』

 渦紋に続いて本部長室に入りながら、白竜は、自分が渦紋をこの世界に連れ込んだ事を後悔していた。

 確かに僧籍にありながら、己の超常能力については。まったく宗教性はないと言い切り、自らを宗教人とすれば最低レベルの生臭坊主と言い切る渦紋は荒事には向いてはいる。

 しかし渦紋の超常能力は凄いが、かって自分がやっていたような国家間レベルの暗闘やスパイ活動もどきに適した人物ではない。

 そんな彼を、この世界に連れ込んでおきながら、先の事案の成り行きとは言え、自分はさっさと身を引いている、そういう引け目が白竜にはあった。


 本部長の海蔵黒猫は、憔悴しきった顔で二人を迎え入れた。

『黒猫と書いて、こくびょうと読ませる。何度、聞いても、ふざけた名だ、おまけにあだ名が黒猫とくる。あんたの名付け親はどんな人間だ?』

 白竜は在職中、そりの合わないこの上司に会う度に、何時も感じていた事を、もう一度思いだしていた。

 今はそれさえも、懐かしくはあるのだが。

「よく帰ってきたな、西海君。」

 あだ名通りのよく光る目で海蔵は言った。

「別にまだ復帰すると決めた訳じゃありませんがね。ここには、渦紋がどうしてもと言うんで、ついて来ただけだ。」

「そうか?私は、君ならこの話を聞けば、間違いなく復帰すると思っているのだがね。」

 海蔵は本部長室の壁に埋め込まれてあるスクリーンをオンにしながら言った。

 二人はスクリーンの前に置かれた椅子に座った。

 スクリーンには、白竜にとってなじみ深い、国連本部に設けられた超時空ゲート対策機構本部の作戦室と、そこに集う人々の姿が映し出された。


「これは国連での国際浄土問題対策委員会の諮問機関の活動の様子を撮影したものだ。ここであるプロジェクトが生まれた。提案者は、諮問機関の一員、黒木俊介氏だ。若いが、切れ者だと聞いている。」

 大写しになった黒木の顔を見て、思わず白竜は吹き出し、渦紋の顔を見た。

 渦紋は返事をせず、そっぽをむく。

「黒木俊介氏ね、奴は、いや失礼、彼はどうやってその諮問機関とやらに潜りこんだんですか?」

「この諮問機関は、実質を重んじる。惑星浄土のエキスパートなら誰でも構成員になれる。彼は何処で入手したのか、惑星浄土についての情報を、我々よりも多く持っている。それに彼は黒木民間警備会社の若き総帥だ。」

 少し責める口調で、海蔵は白竜に言った。

 海蔵にしてみれば、西海白竜は機構に在官中も不透明な部分が多かった男だ。

 特に空間転移ゲート、通称「無間地獄門」の担当になってからは、彼の報告書にさえ、虚偽が含まれているように海蔵は感じていた。

 この黒木俊介にしても、白竜が関わったあの「ニルス天文台事件」の重要参考人であるにも関わらず、今は諮問機関の構成員になっている。

 先ほど白竜が海蔵に問うた疑問は、海蔵自身が問い返したい疑念だった。

 黒木が機構の取調べから解放されたのも、諮問機関の構成員になれたのも、「ニルス天文台事件」に関する白竜の証言が大きかったのだから、、。

 しかし実際の所、黒木俊介の機構入りの訳は、現在、警備会社として世界の四十パーセントのシェアを誇る黒木コンツェルンの圧力にある。

 だが、そういった圧力自体はよくある事で、大きな問題ではない。

 問題があるとすれば、超時空ゲートの存在と密接に関わっていた「ニルス天文台事件」の方だった。

 そして海蔵は今でも「ニルス天文台事件」には隠された部分が多くあると睨んでいた。

 問題なのは、黒木俊介ではなく、目の前にいるこの男と、未だにその全容が解明されない「ニルス天文台事件」だ。


「お主が山篭している間に、世の中は変わったんだよ。今じゃ、黒木警備会社は世界のパワーバランスのちょっとした鍵的存在だ。黒木警備会社に手を引かれたら、契約国はその日から自国軍事費のやりくりに頭を悩ますことになる。今じゃ国連科技機構も自国軍隊もお呼びじゃないと言うことさ。黒木の事を、裏世間じゃ浄土成金といっている。たしかに浄土から引き出せたテクノロジーは、たったあれだけでも、今の人間には桁が外れているからな。」

 渦紋がいまいましげに追加説明をした。

「それで黒木は、どんな提案をしているんです?」

 白竜は繊細さと力強さを合わせ持った長い指を顔の前で組みながら訪ねた。

「彼は、ネーチャーアタックで加速された地球環境の度し難い荒廃という今の我々が置かれた立場を打開するには、一つの方法しかないと言っている。直接、惑星浄土に入り込み、あの攻撃システムそのものを解明し、逆構成しなおしてこの地球に利用する事だとね。そうすれば、地球は再生できると。」

 ネーチャーアタックの存在が、判るまでは、我々は何故、これ程速いスピードで地球の環境破壊や異常気象化が促進されるのか、頭をひねっていたものだが、、考えてみれば、空恐ろしい話だと黒猫は思った。


「地球の自然に干渉できるなら、逆方向にもそれは出来る、、ごもっともな話ではある。それにリスクは伴うが、浄土はゲートを使えば宇宙船で行ける距離というか、位置関係にある。今まで自力でそれをやった国はないんですか?」

 白竜は人ごとのように言った。

 今は超時空ゲートにも惑星浄土にも関心はない。

 いや、関心はないと決めている。

「沢山有る。ゲート自体は世界の共有財産だからな。我が国もやった。言ってはなんだが、君らのお陰で、昔とは違いニルス天文台が作り出したような装置に頼らなくとも、ゲートはいつでも開いている。しかし成功例は皆無だ。考えられうるあらゆる方法が試されたが、側までは行けるが、いずれも浄土の前で弾かれる。、、浄土エリアと惑星浄土とは別のものなのかも知れん。とういうか、ああいう力を発動させる浄土そのものの正体が判らない。」

「黒木には、それが出来ると?」

「ああ、この件に関して、全権を彼に委譲し、制圧後の浄土エリアの使用権利を認めるなら、惑星浄土のあのエリアに行く方法を教えるというのだ。」

「それで、国連はそれを認めた?」

「ああ。背に腹は変えられんからな。」

「浄土に手を出して、火傷をしたニルスの二の舞だ。しかし、確かに、それしか方法はないか。」

 白竜はそう言って、うめいた。

 あの時、Gに助けられて、みんなが公園に避難した後、黒木の全身は、機構の人間に依って隈なく調べ上げられた筈だ。

 そういった部下達への指示も、白竜は瀕死の状態でやり遂げていた。

 彼が何も所持していないと報告を受けたからこそ、Gの頼みを聞いて、機構には、ニルスに関与する黒木の所行を、ぎりぎりの所で伏せてやったのだが。

 あの時点で、機構の精密探査を受け、ニルスのデータを隠し持つのは不可能な筈だが、とにかく黒木はそれをやってのけたのだ。

 白竜には、スクリーンに映し出されたままの黒木の顔から、妙に明るい高笑いが聞こえた様な気がした。


「それで彼は、浄土エリアに侵入する為のメンバーを指定してきた。指定された相手の参加意志を最優先にするという条件付きでね。彼に言わせると、浄土エリアに、いやいや入った者は、心まで狂ってしまうそうだ。それは君が送ってくれたあの悪鬼達のモニター映像でもある程度の予測は付くがね。我々としても、あの映像を最後まで確認出来ていれば、この件の主導権をもう少し握っておれたと思うのだが?映っていて良いはずのものが、何故か、なくなっている。」

 映像をカットしたのはお前だろう、という表情で海蔵は白竜の顔を見た。

「悪鬼とは、冷たい言いぐさですな。彼らも元は我々側の人間だった。貴男はもうお忘れですか?」




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