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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 26: 攻防 『空の部族』

    26: 攻防 『空の部族』


 惑星探査船トレジャーの機体周辺で、防護気密服を着込んで活動していた回収班は、あらゆる所で起こる異変を目撃し、極度のパニックに陥っていた。

 ある者は、6機の軍事用ヘリが次々と爆発四散するのを見、その方向の空から蜻蛉人間としか言い様のないモノが飛来するのを見た。

 ある者は、金属で出来たメッシュのフロアを、のたくりまわりながらにじり寄って来る巨大な半人半魚を見た。

 ある者は、彼らの雇い主であるゴドーが気密服も付けずに、トレジャーの機体の上部にある搭乗口に取り付いているのを見た。

 が、彼らのパニックは、程なく納まった。

 パニックを感じるべき目と頭が、彼らの胴体を見捨てて、血だらけになってフロアに転がったからである。


 キキが血塗れの甲羅を、照りつけるコクーン巨大天蓋の輻射光に浴びさせながら、寝むたそうな目で次の獲物を探している。

 嘴状の口には、最後の回収班員の簡易ヘルメットがぶら下がっていた。

 トレジャーの側では、カローンとビッツェが異端者を取り囲んでいたが、それにはキキは興味を示さなかった。

 自分に与えられた任務より、人間を殺す快楽の方が、はるかに重要だったのだ。

 キキは気ぜわしい警報サイレンをまき散らす鉄塔をどんよりした目で見上げた。

 そこから恐怖に怖びえた人間の波動が大量に伝わって来たからだ。

 キキの腹部の甲羅の下に生えた無数の節足がもの凄いスピードで、ぜん動した。

 キキの一見、亀の様な鈍重なスタイルとは裏腹に、その移動スピードは、驚異的なものがあった。

 しかし瞬く間に、鉄塔に近づいたキキなのだが、その身体は次に、フロアに串刺しになったように停止した。

 いや、「様」にではなく、事実、串刺しになったのだ。

 恐らく人間の通常兵器では、掠り傷一つ負わす事の出来ないキキの甲羅が、ストッキング販売用のモデルになるために生まれた様な美しい脚にぶち抜かれていた。

 その脚が抜き取られると、次に踵に生えていたヒールのような長く鋭い突起物がするすると踵の中に格納された。

 キキは自分の頭上を事もなげに飛び越えてゆく、黒光りする白昼夢の様な女の裸体を見送りながら、トシュタット器官の死が与えてくれる最上の快楽に打ち震えていた。


 カリュドは、いとも簡単にキキを屠ると、二体の『時の矢の種族』に包囲されている探査船の搭乗口に立つゴドーに近寄っていった。

 響児が懸念していたトレジャーの搭乗口のハッチは開いたままだった。

「遅かったな、カリュドよ。それにお前の戦い方は、なっちゃいない。前に教えただろう?相手の肉体の破壊から来る快楽に溺れるなと。一流の戦士は、本能を制御して、波動だけで相手を殺す方法を選ぶんだ。」

 ゴドーはそう言いながら、正対したビッツェを睨みつけ、鼠がするように鼻のまわりに皺を寄せた。

 その途端、ビッツェは、電撃を浴びた様に瞬間的に収縮しながら、2メートルほどフロアーから飛び上がった。

 ゴドーの目には見えぬ波動に押されたのか、回避行動なのか、それとも死の予感に身体が痙攣したのか。

 次の瞬間、ゴドーの目の前の空間で、二つの影が交差した。

「ほう、気持ちがいいのう。死のシャワーじゃ。ビッツェめ、良い思いをしおって。」

 ビッツェがフロアに横倒しに落ち、触手を痙攣させ、その束の中心あたりから大量の白い粘液を吐いて生き絶えた。

 カリュドは、自分のすべらかな左腕にかかったビッツェの白い粘液を、黒い革手袋を密着させたような指先で掬いとって嘗めた。

 赤いエナメルラッカーを塗った様な唇がつり上がり、真っ白な犬歯がそこからグロリと覗く。

 カリュドとゴドーに挟まれた形のカローンはその場を動けないでいる。


「必要なものは手に入れた。カローン、お前の部族長は能無しだ。いろんな意味でな。私はもうジャンプできる。転移が終わったばかりのお前には手が出せまい?しかもここにはカリュドもおる。」

 転移し始めるゴドーを見つめながら、カローンは深海魚の顔を笑いらしきもので歪ませた。

「異端者ゴドーよ。やがて『空の部族』が来るぞ。『空の部族』は、転移中の身体を捕らえる事が出来るのを忘れたか?」 

 その時、フロート上の空気が、屈強のカリュドの膝を付かせる程に強く震えた。

 次に、空から飛来した六本の巨大な昆虫の腕が、ゴドーの胴体を包み込むようにして捉えた。

 更に間を於かず、消えかかるゴドーを空中に浚っていく。

 カリュドがそれを認めて、その場で跳躍した。

 40メートルは飛んだ。

 それでも蜻蛉人間に浚われたゴドーの足首に手が届く寸前に、カリュドの加速力は失われ、落下し始める。

 その時、響児は見たのだ。

 落下するカリュドをあざ笑うかの様に、空中で振り向いた蜻蛉人間の顔を。

 それは両眼に昆虫の複眼を埋め込まれてはいるが、紛れもなくジャックの顔だった。


 カリュドが、落下の衝撃によって出来たフロアの凹みから飛び出した時に、カローンが歓喜の声を上げた。

「見ろよカリュド。ゴドーの末路をな。奴さんツンリマに生殖管をぶち込まれて苦しんでるぜ。ツンリマの部族は、時の移動の際には浮き出て見えるトシュタットに、直接、卵を産みつけるんだ。いくら代謝が終わってジャンプ出来る時期に入っても、あれじゃ一たまりもない。ざまを見ろ!」

 カリュドは牙を剥いて、深紅のルビーの眼を光らせた。

 轟と息を吐き出す音が、カリュドの喉奥から絞り出される。

 その途端、空中で細長いブヨブヨとした胴体をゴドーを巻き付かせていたツンリマこと、ジャックが数メートル後方に見えない力で跳ね飛ばされた。

 「飛ばし」の生体武器機能は、ツンリマの専売特許ではないのだ。

 その後、ジャックは推力を失って、ゴドーを巻き取ったままフロアに落下した。


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