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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 20: 再会 尖ったピンヒール

   20: 再会 尖ったピンヒール


 東桃源コクーンに到着した横断列車は、ダスダの巨大ステーションで数百人の乗客達を吐きだした。

 弓削軍の第一・第三部隊は、その乗客達の群れにバラバラに混在している。

 弓削軍の人間達には、よく躾られた兵士に特有の臭いがない、その代わり隠し切れない犯罪者すれすれの臭いがあった。

 誰が見てもヤクザまがいの人間にしか見えなかった。

 だが各人が各の個性を、前面に押し出せば、中途半端な彼らは、職業人としての「やくざ」にも見えない。

 そして往々にして、人々は、この種の人間を「一匹狼」、あるいは「自由人」と感じ、彼らは決して群れる事がないと信じている。

 半端者の集まりである弓削軍は、今回の様に、他のコクーンに分散した形で組織立った戦力を持ち込むには、最適の姿をした部隊と言えた。


「よう、映画屋、久しぶりだな。」

 響児とジャックが、駅のホームで出会ったのはルーディだった。

 ルーディは、響児達のいる白虎から、欠員補充の為に第一部隊青龍へ配置転換されていた。

 それがこのミッションで再び、響児と再会する事になったのだ。

「無視しろよ、こんな場所で、騒ぎになるのはゴメンだ。」

 ジャックが自分なら、絶対にしない、出来ないことを、響児に言った。

 もちろん響児は、ルーディに関わるつもりは全くなかった。

 入隊当時の、ルーディとの虐め虐められの力の関係では、とっくになくなっている。

 今、白虎の中で、響児を侮る人間は一人もいない。

 だが青龍に移ったルーディは、まだそれを知らない。


「おい無視かよ。やっぱ、まだジャックに尻の穴貸してやって、庇ってもらってるのかな?」

 ジャックの眉が、ルーディのその一言で、ひくついている。

「元気そうだな、、。何よりだ。」

 仕方なく響児は、立ち止まってそう答える。

 だが、そんな響児の冷静な反応が、返ってルーディの気持ちを逆撫でしたのかも知れない。

 ルーディも響児と同じように、昔の粗野でただ身体が大きいだけのルーディではなくなっていた。

 弓削から出る報酬を、すべて自分の身体の改造の為に注ぎ込んでいたのだ。

 自分は、青龍では一二を争う実力を持つ人間だ、というプライドがあった。

 従って、弓削軍の兵士達は、すべて自分に敬意を払うべきだとルーディは思いこんでいた。

 ましてや、今目の前にいる相手は、昔、自分が虐め倒していた、頼りない映画屋だった。


「お前と同じ隊にいない分、空気が爽やかだからな。これは、健康に良い。」

「そうか、それは良かった。だったら俺は、今すぐここを退散しないとな。あんたの大切な空気を汚してしまう。」

 響児はジャックの肘を持って、この場を移動しようとした。

 自分より先に、ジャックがルーディに飛びかかると思ったからだ。

 身体の10パーセント前後を機械化した戦闘マシーン同士が、ホームの真ん中でいざこざを起こしたらどうなるか?

 そして、この二人はそんな結果などを考えない連中だった。

 その時、どこからか少年が飛び出して来てルーディの脇をすり抜けようとした。

 恐らく、ルーディの向こう側に、自分が見失った母親かなにかを見つけたのだろう。

 ルーディは、五月蠅そうに、その少年を蝿を追い払うように手で押しのけた。

 勿論、子供は軽く弾き飛ばされてしまう。


「おい、ルーディ!今のは、あまりいい格好じゃないぜ!」

 ジャックがそれを、見咎める。

「てめえみたいな悪党ズレに言われる筋合いはねえな。」

「その子に謝ってやりなよ。あんたの事、睨んでるぜ。」

 響児が言った通り、少年は尻もちを付きながらもルーディを見上げて睨み付けている。

 気が強い子だった。

 子供心にも、自分がぞんざいに扱われたのが分かるのだろう。

「ははぁ?このガキ、涙目だぜ、お前みたいだな。響児よ。」

 ルーディが響児に一歩踏み出した時、少年がルーディの脚にしがみついた。

 恐らく腹立ち紛れに、ルーディの脚に噛み付こうとしたのだろう。

 ルーディが、五月蠅そうに少年を振り落とそうとする。

 ルーディは今、興奮状態だ。力の制御など忘れてしまっている。

 そんな事をすれば、少年は吹き飛んでしまうだろう。

 その時、響児が動いた。

 その動きが、速すぎて見えない。

 次の瞬間に、響は少年を担ぎ上げて、ルーディから離れた場所に少年の身体をそっと置いた。

 ルーディは、何が起こったかを、理解すると、顔を真っ赤にして響児に掴みかかった。

 ただし、これも尋常のスピードではなかった。

 そして強靭無比な両腕を振り回してくる。

 それに対して響児は、手を出そうとしない。

 代わりに、左脚を軸にして右脚を面白いように回転させた。

 その操作の器用さは、ほとんど腕を動かす感覚に近い。

 腕の先に付いた手が、何も意識しないで物を掴むように、空中を風を切って移動する脚が、ルーディの顔面に飛び、その踵を打ち込んだ。

 ルーディも、ブーストアップされた反射速度で、その攻撃をL字に曲げた両腕でブロックする。

 が、その瞬間、響児の靴の踵から、何か細い先の尖った黒い物が突き出て、それが伸びた。

 カリュドの「ピンヒール」は、ルーディの腕を貫通し、やがてルーディの強化胸郭にぶち当たると、ルーディの身体そのものを、後ろに吹き飛ばしていた。

 周囲の殆どの人間には何が起こったのかさえも判らない早業だった。


   ・・・・・・・・・


 サブリナを伴って、乱望が一等車両からプラットホームに降り立った。

 乱望の服装は、何処から見ても中規模のケーブルTVの重役と言った所である。

 すれ違う人々は、乱望の喜劇役者の様な風貌に顔を緩め、サブリナの腰に張り付いたミニスカートで顔面崩壊の止めをさされた。

「それにしても、この横断列車が、満席になるなんて珍しいですわね。」

「惑星探査船トレジャーが二百年ぶりに帰って来るんですよ。このコクーンが抱え込んでいる大洋のど真ん中にね。知る人ぞ知る今世紀最大のビッグイベントだ。そこに何かおこぼれはないかと、それを目当てに有象無象がこのコクーンにやってくる。まあ何人かは、純粋にトレジャー帰還の瞬間を見たいと思っている物好きもいるでしょうがね。」

「、、有象無象って。そんな素晴らしいことなら、各コクーンで大々的に報道すれば良いのに。」

「現在のように科学技術が斑になる前の絶頂期に飛び立った探査船ですが、搭乗員とは連絡が取れていない。このタイミングで全員が冷凍睡眠に入ったままという事は考えられない、、つまり帰ってきたのは、探査船だけの可能性が高い、、。しかもこの船の出発そのものも、何かの事情で当時は秘めやかに行われたらしい。帰還を歓迎してやっていいのや悪いのやら、、今起ろうとしている事実自体は素晴らしいが、その背景は闇の中。みんなそれを知っている。つまり、ここに集まる人間も、有象無象なんですよ。」

 乱望は、有象無象と言ったが、それは違うと思った。

 どんな隠された背景があろうと、人間の歴史が輝いていた頃の生き証人が、例え主を失っていたとしても、遠い宇宙の旅から帰ってくるのだ。

 その事に多くの人々が祝福を与え、又その喜びを分かち合うべきだと、サブリナは思った。

 今のこの状況は、帰ってきた旅人を迎え入れるには、この星はすっかり変わってしまったと言っているようなものだ。


「でもコクーンの上に落下したら、探査船はコクーン生態フィールドの力場で、塵一つ残さずバラバラになってしまうのではありませんか?。」

「・・いや、算定された時刻に、一瞬、コクーンを仮死化して上空を解放することになっている。」

「コクーンを仮死化する!たとえ一瞬でも、そんな事をすれば、コクーン内の環境をベストな状態に戻すのに一年はかかるわ。」

「それを金の力を使って、無理矢理やらかそうと言うのが、ゴドーって訳ですよ。」

「『時の矢の種族』が、何故そんな事を!」

「さぁね。明日がゴドーの申し入れて来た会見の日だ。そこで全てが解る、貴方も付いていらっしゃい。響児君にも私の護衛として相席して貰うつもりだ。会見が終わったら、暫く彼と話をしてみるといい。」

 サブリナは、響児と言う名前を聞いて目を伏せた。

 響児は既に、サブリナに取っては負い目を感じさせる存在になっていた。

 それに最近とみに、彼は近寄りがたい存在になっている。

 彼は、もう昔のシャイで気むずかしいSFXの技術者ではなく、今や『時の矢の種族』に対する最も勇猛な戦士なのだ。

 それでもサブリナは、彼を最後まで見届ける義務が自分にはあると苦しい気持ちで、考えていたのだが、、、。



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