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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 19: 異端者 ゴドー

   19: 異端者 ゴドー


 人類は「移動」における暗黒時代を体験していた。

 コクーン外の制空権を失ってから二世紀に渡る苦渋の年月が経っていたのだ。

 人に、電雷雲と常に荒れ狂った予想不能の気流が支配する空を飛べる機械はない。

 いや「空」だけではない。

 汚濁し、海流という自らの秩序を破壊された「海」に漕ぎ出せる人間も又、いなかった。

 「斑文明」に陥った最大の元凶が、これらの「移動」における暗黒の到来だった。

 人々には、遠く離れたコクーン間の交通手段として、一カ月に一往復する大陸横断列車しか残されていなかった。

 その無為に長く見える一カ月という運休時間は、大陸を走る中で腐食し、黴だらけになった軌道列車の車体メンテナンスに当てられるのだ。


 響児たちを乗せた大陸横断列車の車窓から見える風景は、暮れ始めた何処までも続く低い緋色の雲だらけの空と、その光を反射しながらウネウネと続く黴と苔の大地だった。

 それらは夕日の赤と、地色の暗緑色とが相まって嘔吐感を覚えさせる色合いに染まっている。

「人間がコクーンにしがみついている訳がよく判るぜ。昔の映画に出て来る大地は、こんなんじゃ無かった。これじゃぁ、まるで泥絵の具で塗りたくった世界だ、、、。」

 BENTEN・ジャックが、味の無くなったガムをクチャクチャ遣りながら、車窓から隣の響児へ視線を移す。

「なあ、響児。今度の仕事、俺に回してくれないか?多分、いつものフォーメーションなら俺とお前が、最初にゴドーに接触する。判ってるさ、殺るのはお前の役目だ。だが今度は、俺がゴドーを殺りてぇんだ。」

 ジャックが響児に物事を頼んだのは、これが初めてである。

 そして相棒のジャックに物事を頼まれる響児の風貌も、以前とはすっかり様変わりしている。

 隊員たちに侮られる原因となっていた、響児の優しげな柔らかさがすっかり抜け落ちてしまっている。

 そして、美男子ぶりでは、部隊随一と言われるジャックに勝るとも劣らない容姿と、触れば切れるような凄みを、響児は身につけ始めていた。

 ただ何時も行動を共にしている隊員達には、その変化が解らない。


「愛鈴も確かそんな事を俺に言ってたな。乱望に言ってフォーメーションを変えて自分を一番にしてくれとな。君達はゴドーと何かあったのか?」

「俺が、こうなっちまったのは、自分のせいだ。その事に付いて理屈をこねようとは思わねぇ。だが時には『もしも』って奴を考えるのさ。」

「もしも?」

「もしも両親が薬中でなければとかだよ。そのあたりのもしもだ、、。」

 一瞬、ジャックは年相応の若者の顔になった。

「ゴドー、、、。奴は、俺達のコクーンにいたころにゃ、ダストキングと呼ばれていた。」

 東桃源コクーンの富豪王ゴドーの前身がダストキング、、、ちょっとした驚きだった。

 響児も少しはダストキングの噂を知っていた。

 薬の売り捌きのやり口が、余りにも酷いとシンジケートからさえ追放された男。

 、、シンジケートから追放される悪党?

 そんな人間がいるのか?

 その当時に『時の矢の種族』に乗っ取られたのか?

 それとも、、、。


「響児。俺が何故、BENTENと呼ばれているか判るか?」

「身体の彫り物だろう?」

 響児はシャワールームで見たジャックの背中一面に彫られた妖艶な弁天像を思いだした。

 ジャック自身は背中の彫り物の事を、ヒンドゥー教の女神であるサラスヴァティーだと言っていたが、「彫り師」が描いたのは紛れもなく妖艶極まりない弁天だった。

「表面はな、本当はそうじゃない。俺は背中のサラスヴァティーをゴドーに抱かれた。まだイキがって突っ張ってたガキの頃のことだ。、、奴を殺さなきゃ、俺はいつまで経っても本物の男にゃなれない。」

 ジャックの目が壮絶なまでに底光りした。

「、、まあ、考えとくよ。」

 響児は後頭部を背もたれにあて、軽く目を瞑った。

 勿論、ジャックにゴドーが殺せるなら、役割を変えてもいい。

 ジャック達は、まだ響児の融合の真実も、『時の矢の種族』の本質も教えられていなかった。

 ただ「変身できる奴」と「殺すべき相手」その程度の認識だ。

 それ以上の情報は、彼には必要がない。

 彼らは彼らに与えられた傭兵家業を、只、こなすだけの話だ。

 だが今回はゴドーを、すぐに抹殺するわけではない。

 ゴドーは、乱望にコンタクトを求めて来ている。

 ゴドーを抹消するかどうかは、乱望が決める事だった。


 響児は頭の中で、乱望の言った言葉を反芻する。

「君には先に言っておこう。ゴドーの正体は『時の矢の種族』で間違いはないが、まだ処断すると決定したわけではないんだ。ゴドーは経済的にも弓削氏とは対立関係にない。それどころか良好な取引相手でもある。支配圏のコクーンが違うというのは、それほど大きい事なんだよ。」

「俺達を殺しに来る連中の一員でも、弓削に利益を生み出す存在なら、放置するのか?」

「一員とは限ってはいない。初期には、ハリーハウンゼン氏に協力した『時の矢の種族』が何体かいた事を君も知っているだろう?それにゴドーは、弓削氏に自分の正体が知られているのを承知の上で、こちらに会見を申し込んで来たんだ。命乞いのなのか、何かの取引を持ちかけて来るのかは、まだわからない。我々は、ゴドーの真意を見極める必要がある。判断は弓削氏の名代である私がする。時間をかけるつもりはない。処断すると決めたら、すぐに実行に移す。その為に、君と部隊を連れていく。」

 響児には、まだ見ぬ東桃源コクーンの富豪王ゴドーが、あの軍事研究所で度重なる生体実験の末、ボロボロになっていた『時の矢の種族』の姿に重なって見えた。



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