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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 17: FUKUSUKE 良き後継者の技

   17: FUKUSUKE 良き後継者の技


 首都を含むコクーンの外縁に、へばり付く形で、一つの小規模コクーンがあった。

 侵攻敵国からコクーンを守るために設けられた前哨軍事基地の一つである。

 その基地内の警備にあたる軍人達は、一種のパニックに陥っていた。

 沢西将軍の基地視察に伴って設置された過剰なまでの警備網を、突如現れた様々な怪物たちが、突破していったからだ。

 しかし不思議な事に、この怪物達は、基地内部に入り込もうとはしなかった。

 怪物達の実力ならば、かなりの進度で、基地内に侵入できる筈なのだが。

 要所要所の警備施設を破壊し、硫黄臭い体臭を放ちながら、怪物達は反撃を加える為の討伐隊が出動する度に、姿を消していた。

 だが、攻めては退却を繰り返す怪物達の中で、二匹だけは他の怪物の動きを陽動としながら、着々と基地内に侵入を果たしていたのだ。



「狩谷少佐。このモニターを見て下さい!」

 狩谷は、ここまでの状況をすでに沢西将軍に伝えてあった。

 沢西将軍は、何故か、不思議なほど落ち着いていた。

 だがもちろん、この基地を預かる狩谷の心境は尋常ではない。

「なんだ!こいつは?急いで、兵を差し向けろ。」

 モニターは、半透明のティラノザウルスの様な怪物が、基地内の廊下を屈み込むような姿勢で移動する様子を映し出していた。

 怪物の薄く透けて見える皮膚からは、苦痛に喘いでいる人間の顔が幾つも朧気に見て取れる。

「怪物に、接触しました!」

 次いでモニターは怪物に襲撃をかけようとする一個小隊を映し出す。

 しかしどの兵達も武器の引き金を引く前に、恐怖に顔を引きつらせて次々と倒れて行く。

「どうしたんだ?」

「判りません!一種の音波兵器を使っているようです。」

「迎賓室までの防護壁を全て下ろせ。沢西将軍に、近づけてはならん。」

「駄目です!防護壁が降りません。動力ラインの供給電源が制圧されてしまいました。ここも、もうすぐやられます。」

「なに?誰がそれをやったというのだ!あれが有るのは、この基地の最深部なんだぞ。あれをすでに制圧したというなら、今の我々は、単に奴らに遊ばれているにすぎん!」


 この基地全体の電力をまかなうジェネレーターを制圧してのけたのは、響児のSFXと立体バーチャルを隠れ蓑として展開した弓削の殲滅部隊だった。

 そしてついに、管制室の騒々しいモニターとディスプレイが沈黙した。

 基地内の蒸気タービンの側で、象頭の四本腕の異形が、床に転がった警備員と作業員の間でつっ立っている。

『畜生、どういうつもりだ?映画屋の野郎。この扮装は、30分で溶け崩れるって話だろうが、俺にこんな格好をさせやがって。』

 不満げに異形は、自分の耳をいじくりながら、鱗の付いた短めの鼻を蠢かした。

 外側からはそう見えるが、実際には響児の同僚であるジャックが、インカムを使って響児と通話をしているのに過ぎない。

『響児、ふざけんじゃないぞ。』

『悪いなジャック、、。その話は、又、後でしよう。こっちは、いよいよ、将軍様とご対面だ。』


 迎賓室の分厚いドアが内側に弾け飛んだ。

 自分の身体の側をかすめ飛んで行くドアをものともせず、沢西将軍は皮張りの椅子に悠然と座っている。

 その怪物の巨大な身体に不釣り合いな、鈎爪の付いた小さな手が、まず最初に、迎賓室に入って来るのが見えた。

「もうその辺で良かろう。監視モニターも切れている。人間どもは、もうお前のまやかしの姿を見てはいない。」

 すっかり部屋の中に姿を現した半透明のティラノザウルスは、人間臭い笑い声を上げた後、その姿を爆発させた。

 爆発後に、黒いカリュドが美しい女神彫刻の様に立っている。

 沢西将軍は、煙草に火を付けた。

 一服した後、煙草の煙を暫く見つめている。

「人間どもが畏敬の念なしに、我々の真似をするのは、余り気持ちの良いものではないな。それに今更、『時の矢の種族』の存在をアピールしても意味はない。もう暫くすれば、我々の一斉侵攻が始まるのだからな。」

「君達は、個体として強力すぎる。人間は群れの動物だ。君達と戦う為には、我々は群れなければならない。とりあえず戦う相手を、我々人類同胞にはっきりさせておく必要があった。今日やった事が、遅かったのかどうか、、、それはまだ判るまい?」

「カリュドよ。すっかり人間臭くなったな。吐く息まで臭いぞ。」

「カリュドは、もう死んだ。」

「コンツェのデスメッセージは、どうやら本当らしいな。奴は後1カ月でトシュタット器官の代謝を終えるところだった。代謝を終えた時に、お前と出会っていれば、人間に乗っ取られたカリュド如きにむざむざと殺される事は無かった筈だが。奴も、さぞかし無念だったことだろうよ。」

 沢西将軍は煙草を、人差し指をバネにして響児に打ちだした。

 煙草はまるで金属の破片のように、想いもかけぬスピードで空中を飛び、カリュドの頬を掠めると背後の壁にめり込んだ。

 響児は自分の頬に鋭い痛みを感じた。

 この短時間で葉巻の組成まで変えたのか?

 こいつはエリザスとは違う。

 力が桁違いに強い。

 響児のカリュド融合によってもたらされた自信が、一挙に消え失せた。


「どうした、震えているぞ。『時の矢の種族』一の戦士に取り憑いたのは、どうやらとんでもない臆病者の様だな。さて貴様を殺すのには、どんなスタイルがいいかな?」

 椅子から立ち上がった将軍は、右手を掌を上にしてあげた。

 壁に掛けてあった飾り物のサーベルが吸い込まれるように将軍の右手に収まった。

「我らが教典に、過去に飛ぶ事の禁止がなければ、この様な戦いが常に楽しめる世界に行けたものを。つまらぬ事だ。」

 将軍の横に振ったサーベルが、大きくスウェイバックしたカリュドの胸先を掠める。

 カリュドの身体なら、地球上の物理攻撃などやすやすとブロック出来る。

 だがあの煙草は一瞬の内に変質し、スチール入りの壁を粉砕したのだ。

「逃げても無駄だ、地球人。この儂にトシュタット代謝の始まったからには、いかに一族きっての戦士との合いの子といえど、儂にかなうはずがない。」

 逃げ遅れたカリュドの黒い皮膚から赤い血液ではなく、きらめきを持った透明の液体が流れ出している。


『トシュタット器官だ。そいつが集中している部分を見つけるんだ。』

 響児はトシュタット器官が、将軍の右首筋に塊ってあるのを『見た』。

 それは医学事典の図版に記載されていそうな毛細血管が密集している形状だった。

 次の瞬間、カリュドは右腕を自分の盾にしながら捨て身の攻撃に出た。

 将軍のサーベルはいとも簡単に、彼に接近してきたカリュドの右腕を肘から切り落としている。

 カリュドは、それにかまわず将軍の首筋に牙を打ち込んだ。

 口腔に激しい電撃を感じたが、響児は新しい本能の命ずるままにトシュタット器官を噛みちぎり、それを飲み下した。

 将軍は信じられないような顔をしながら、床に崩れてゆく。

 相手のトシュタット器官を探し当てる能力は、『時の矢の種族』には、なかったのだ。

 それゆえの、同族を相手にした将軍の油断と、あっけない敗北だった。

 トシュタット器官を探し当てる能力、それは人間が、『時の矢の種族』に優位に融合した時のみに取得できる能力だったのだ。


 目を閉じた将軍の等身が、目に見えて変化しだした。

 頭部はもとの大きさの一・五倍程に膨らみ、身体は三分の一程に縮んだ。

 白目を剥きだした目の横に、異様に大きい耳朶が見える。

 顔の相は、膨らんだ頬の印象から童顔に見えた。

「FUKUSUKEか、、、。」

 カリュドは、床に転がった自分の右手を拾い上げ、腕の傷口に合わせながら、赤いペデキュアを塗った様な爪のある黒い足で、FUKUSUKEの頭部を踏み抜いた。

 カリュドの武器である踵から突き出すピンヒールのような突起物を出す必要もなかった。

 死に瀕したFUKUSUKEの頭部は思いの外、柔らかかったからだ。

 足の先から伝わって来る快感と、右腕の接合部の狂おしい痛みに、カリュドの身体中に散らばったトシュタット細胞が共鳴していた。

 響児は押し寄せる快楽を逃がしてやるために、長い咆哮をあげ続けた。



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