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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 13: 乱望 地獄の番犬ケルベロス

   13: 乱望 地獄の番犬ケルベロス


 対『時の矢の種族』殱滅第3部隊白虎は、3カ月の訓練期間を終了していた。

 筋肉強化剤の定期的な投与、部分的な身体のサイボーグ化、睡眠学習を利用した兵器類取扱いの学習。

 それらが実戦訓練と平行して行われている。

 もちろん、獅子吼響児の場合は、『時の矢の種族』との融合を配慮して、その身体への関与は一切ない。

 この時代に在って、一人の人間兵器を育てるのに、3カ月という期間は短いのか長いのか?

 殲滅部隊員に施した処置を、通常の軍で行えば、サイボーグ手術後の経過措置やケアなどがあって、とてもこんな短期間に、「兵士」は仕上がらない。

 ところが弓削軍の人間たちは、遅くてもサイボーグ手術の3日後には訓練に戻っている。

 弓削の潤沢な資金と、綿密なプログラムが、この異様な兵士急造期間を補ってくれていればいいがと、乱望はコクーンシティ管理センターに向かう車の中で考えていた。

 そして乱望が、何よりも気になるのは、獅子吼響児の力の発現時期である。

 第一から第三までの殱滅部隊でも、暫くは戦力になるだろうが、『時の矢の種族』と全面対決した時に、隊に獅子吼の力がなければ、戦局がどう動くのか予想が立たなかった。

 しかし弓削軍が戦闘を開始する時期は、コクーン軍部と一部右派の指導者層に融合した『時の矢の種族』が、徴兵制をゴリ押しする四月議会までに、と決まっていた。

 『時の矢の種族』との本格的な全面戦争になったとしても、正規の軍隊の兵力が、こちら側にあれば、彼らに対して人間がそれほど引けをとるとは思えなかった。

 その為にも、兎に角、今は人間社会に紛れ込んでしまった彼らを殲滅する事だ。

 『時の矢の種族』に、乗っ取られた二人の人物を、それまでに暗殺出来れば、弓削の影響力で、軍部もこちら側に屈服させる事ができる。

 既に左派は、ここ数日間の間で、弓削の支援を得て、急速に勢力を延ばし初めている。

 後は、我々が相手の頭を叩きつぶして、その残骸を左派の餌にくれてやる事だ。

 弓削の軍事顧問でもある乱望は、そう考えていた。


 コクーンシティ管理センターの広大な敷地の一角に殱滅部隊の臨時本部が設けられてあった。

 コクーン首都の心臓部である管理センターに、本部を設けたのは優れたアイデアである。

 管理センターを所轄する厚生省は、コクーン技術の基礎を作った弓削に頭が上がらない。

 だが位置的に言えば、この試みは、敵対勢力の真っ直中に、自軍の本部を置くようなものだ。

 コクーン運行の心臓部故の独立した警備体制、そして、管理センター内では、弓削系列の人間にはあらゆる便宜が効いた。

 そして軍部も警察権力も此処には手が出せなかった。

 まさに白虎殲滅部隊は、獅子身中の虫となったのだ。



 管理センターに急遽設置された臨時本部の会議室の演壇に、統括責任者として上がる乱望は、会場の雰囲気を見て、予想していたことながら、多少、失望していた。

 部隊の人間たちは、訓練を経たいまも、基本的に街のゴロツキと大差がなかったからだ。

「君達は、金で買われた傭兵部隊だ。私は君達の経歴を一人残らず把握しているつもりだ。君達はこのコクーンの中で最も金の残酷さと、金の有効性を知っている人間だ。多くは望まない。我々から支給される金額に見合った働きをしてくれれば、それでいい。ただ、君達は、その内に嫌でも気付く事だろう。この戦いが、金の為に在るのではなく、人類の存亡を掛けた聖戦である事を。君達が、君達の子孫に英雄として語り継がれる事を私は願っている。以上だ。」

 会場からヤジこそ飛ばなかったが、失笑が多数聞こえて来るのを、乱望は壇上から降りながら感じていた。

 弓削がコクーンシティの軍部さえ手中に治めていれば、正規軍の「忠誠心」と言う最大の戦力を得られたものを、、。

 今の状況では、自分の手持ちの戦力は、多過ぎる兵器だけを与えられたワンマンアーミーの寄せ集めだけだ。

 ・・・まあ、焦らずやるさ、と乱望は心を落ち着かせた。



 続いて演壇には、アンソニー・ワイエスが上がった。

 会場から明らかに失望の雰囲気が伝わって来た。

「おい見ろよ、あれはダンボだぜ。やっと彼奴から、おさらばしたと思ったのに、又、でてきやがった。」

 傷だらけのジャックの顔が獰猛に歪む。

 何時か闇に乗じて、ダンボことアンソニー・ワイエスを絞め殺し兼ねない表情だった。

「よう!皆、元気か?貴様らは、今日から俺の事を教官と大声で呼ばなくていい。なぁに、小声で部隊長と呼んでくれりゃいいんだ。残りの三人の部隊長は、おっつけソメリア・コクーンから一仕事終えて遣って来るだろう。三人とも昔からの俺の友達だ、よろしくやってくれ。そうそう始めにことわっとくが、四人の中じゃ、俺が一番、血と涙が濃いんだ。その意味が判るな?」

 思わず反射的に『はい。教官!』と答そうになりながら響児は隣のジャックに言った。

「ソメリアからやってくるだって? サイボーグ皆殺し部隊だ。本物の傭兵が、俺達を訓練していたのか?ダンボはコクーンシティの引退軍人だと言う触れ込みだったのに。」

 機械化兵。サイボーグ化が身体の5割を超えている。

 現在の「斑文明」下では2割が限界だ。

 機械化兵は、コクーン復興世紀の人間達が、前世紀より継承した数少ない文明の名残だった。

 彼らは、今はもう、その剰りにも強すぎる破壊力故に、いみきらわれ傭兵としてしか生きる道は無かった筈だが、、。

 それでも彼らは一時期、爆発的に増えたコクーン外の肉食型環境適用生物の驚異から人間を守り、人々の尊敬を集めた時期があったのだという。

 だがそんな彼らの生き残りは、数少ない筈だった。

 生体用パーツの補給は出来ても、彼ら専用の軍事用パーツを補給するだけの科学力はコクーン文明には残されていなかったからだ。


「かえって良かったじゃないか?コクーンじゃ、徴兵制が引かれるらしいぜ。兵隊に引っ張られても、俺達はしごかれと、戦闘のプロさ。気楽なもんだよ。」

 さきの壇上の乱望の言葉が、部隊の者に余り感銘を与えなかったのには、訳がある。

 響児を除いて、人類がどの様な局面に立たされているのか、訓練期間中から隊員には正確な所が教えられていなかったからだ。

 戦争屋ダンボは、どれくらい事実を知っているのだろう?

 響児が物思いに耽っている間にも、ダンボの話は続いていた。

「、、これが部隊の基本的な動きだ。映画屋!お前、俺の話を聞いていなかったな?俺の視力の良さを忘れたのか?まあいいさ。訓練は終わったんだからな。お前が、おっちのうと、俺にはもう関係ない事だ。ただし、部隊の足を引っ張る事だけはするな!第三部隊白虎は俺の部隊だ。お前が、俺の白虎の足を引っ張ったら、俺はお前の背中から銃弾をぶちこむぜ。第二、第三部隊はこれからすぐに第二会議室に移動だ。その他の部隊は、割当られた部屋で指示を待て。全員解散!」


 第二会議室への廊下を興奮気味に移動する隊員達の中で、ジャックが今までに見せた事の無い顔で響児に言った。

「映画屋。俺は今までお宅の面倒を俺なりに見てきたつもりだ。だが、これからは俺を当てにするな。俺は、やさしかぁない、もとからそういう人間なんだ。よく覚えておいてくれ。」

 ジャックには、今までの街の経験のおかげで、これからの任務が常に死に直面しているものであるのが、直感的に判るのだろう。

 死と隣り合わせになったとき、強く光輝く人間もいる。

 ジャックもその一人かも知れない。

 響児はとんでもない局面に自分が立っている事を、今更ながらに思い知らされていた。

 二十二年間の決して長いとは言えないが、それでも人生らしいものが響児にはあった。

 だが響児には死神と腕を組んで歩いた経験はない。

 更に死と直面して光輝く人間でもなかった。

 それでも、ジャックに途方に暮れた自分の気持ちを見すかされまいと響児は、こわばった笑いをジャックに向ける。

「今日まで、有り難う。」

 そう答えるのが精一杯だった。



 第二会議室には大型液晶スクリーンを背にして、乱望とダンボが座って隊員を待っていた。

 もう、隊員達の間には、ふてくされた様なポーズが失われており、静かに二人の口が開かれるのを待ち受けている。

 ダンボが、まず立ち上がり喋り始める。

 威圧効果を狙ってか、普段にない静かな口調だった。

「もう一度、我々の統括責任者である、エドガー乱望氏を俺から紹介して置こう。お前達は、一端の悪を気取っている様だが、俺が見る限り、お前達は人を見る目が全くない。一流の悪党は、一流の目を持っているもんだ。乱望氏は、トッポイ風体をしているが、俺の大先輩だ。お前達も、少しは知っているだろう?機械化傭兵の中でも、伝説となっている『地獄の番犬ケルベロス』、その人だ。」

 ダンボはそう言い終わると、サイボーグ化傭兵が目上の者にやる独自の敬礼を乱望に送り、乱望の言葉をそくした。

 兵士達に緊張が走る。

 何かの集会で最初に喋るような人間は、見てくれだけのへたれ野郎だと、思いこんでいる彼らの気持ちが、ダンボの『地獄の番犬ケルベロス』の一言で、一気に切り替わったのである。

「いやぁ、ダンボ君にそう言われてしまうと、私の年がバレてしまうな。」

 何と乱望は、自分の両耳を引っ張って、そう喋り始めた。

 ワイエス部隊長のダンボと言うあだ名は、その大き過ぎる耳から来ている。

 それを面と向かってワイエスに言った人間は、今までに誰一人としていない。

「それに私が、地獄の番犬ケルベロスと呼ばれたのは、単に運が良かっただけだと思っている。大変なのは、君達の方だ。君達は運が効かない戦いに出向くのだからね。詳しい話は、ダンボ君がしてくれる。私からは君達が、抹消しなければならない人物の名前だけを言っておこう。一人は、沢西将軍。もう一人はエリザス首相だ。我々のコクーンは地球上のどのコクーンと比べても安定している。内乱も、未だかって起こった事がない。平和すぎるほど平和なコクーンだ。従って、この二人に辿り付くまでの警備網は、比較的簡単に破れるだろう。問題は、彼ら自身の戦闘能力だ。」

 首相暗殺等という内容を、乱望はおどけた口調で述べた後、ゆっくりと目を閉じた。



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