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終端抵抗/未来モンスター・カリュド 10: 訓練 はい。教官!

   10: 訓練 はい。教官!


 さすがに弓削の財力は強力だった。

 弓削は自分専用の中規模コクーンを、首都のある大規模コクーンから数百キロ離れた地点に所有していたのだ。

 大規模コクーンで一つの小国家が形成されるのだから、いかに無人コクーンといえど、それを所有し運営する弓削の権力と財力の大きさが推し量れるというものだった。

 しかもあきれた事に、このコクーン内には、戦闘シュミレーション用のあらゆる地形が造成してあった。


 今、弓削私設軍の「第三部隊」は、市街戦を想定した地域に駐屯している。

 部隊全体は、東洋の神話に登場する四神・四獣から名前を借り、東の青龍・南の朱雀・西の白虎・北の玄武の四隊で構成されていた。

 獅子吼が、所属するのは「西の白虎」だった。

 白虎を除く青龍・朱雀・玄武三つの部隊は、既にコクーン内部に戻り実戦準備に入っているという。

 白虎の仕上がりが遅いのは、響児の融合完了を弓削が待っていたからである。


 その白虎の前に、市街戦のシュミレーション用に用意された街が広がっていた。

 街中に仮想敵を模した簡易生体ダミーロボットが、緩慢な動きで歩き回っている。

「良く聞け、ひよっこ共!お前らは、この三カ月、辛うじてだが、なんとか基礎訓練に耐えた。今日はその努力に対してのプレゼントだと思ってくれていい。」

 響児の隣に列んでいた男が、薄笑いしながら、彼の腹を肘で小突いて小声で言った。

 服装は完全な私服だ。

 それは彼一人ではなく、列を組む隊員達はすべてそうであり、兵隊らしい服装をしているのは、彼らの隊列の前に立つ数人の男達だけだった。

「俺達が、ひょっこなら、やっこさんは、戦争ごっこのガキ大将だぜ。」

 響児の隣に並ぶ男の名前は、BENTEN・ジャック。

 コクーンシティにいた頃は、ギャングになりそこねた自称「超一級」の半グレらしかった。

 ジャックは、映画人の獅子吼の感覚から言えば、耽美な「美少年映画」の主役にしたいような見てくれだったが、その実態は、息をするだけでこの世のあらゆる厄災を呼び込んで来るような危険極まりない男だった。

 どうやら対『時の矢の種族』殱滅部隊には、何時社会から消えて無くなってもおかしくない人間ばかりが、選ばれているようだ。


「・・・お前たちの存在意義は、お前達がいつこの世から消えても、誰も悲しまないって事だ。但し、そんな人間は、この世の中、掃いて捨てる程いる。つまり今ここにいるお前たちはゴミだが、多少はまだ使えるゴミだってことだ。せいぜい、きばってその力を伸ばす事だ。そうすれば、お前たちは、生き残って大金を手に入れる事が出来る。」

 隊列の前で怒鳴っていた指導教官・通称ダンボが、突然話を止め隊列に入り込んできて、ジャックの前まで来た。

 この指導教官の渾名を付けたのが、当のジャックだった。

 訓練兵達が初めて、彼の顔を見たとき、映画好きのジャックが、「ダンボみてぇだ」と呟いたのがきっかけだった。

 響児を除いて、訓練兵のほとんどが、あだ名の元になる「ダンボ」の意味を知らない。

 ただ、嘲りを微妙に含むその言葉の響きだけが、受け入れられたのだ。

「俺の話の続きが聞きたいか?ええ?ジャック。」

 ジャックは、不敵なニヤニヤ笑いで答えた。

 が、その瞬間、そのニヤニヤ笑いは、血塗れになっていた。

 ジャックが、倒れなかったのは、ダンボがそのストレートパンチを手加減したからだろう。

 ダンボは、屈強な男達が4・5人寄っても倒せないような屈強な男だった。


「見ろよ、お前ら。基礎訓練で一番優秀だった男が、このざまだ。実戦と訓練とは、これぐらい差があるんだ。お前達が、これからお相手をする奴らは俺の様に手加減はしてくれんぞ。」

 響児が、反射的にダンボの顔を睨み付ける。

「よせよ、もういい。」

 ジャックが、小声で響児に言った。

 響児が勇敢なわけではない。

 単に暴力による威圧が、根っから響児の性に合わないだけだ。

 響児が創りだしたクリーチャーも、大量の人間を銀幕の上で殺すが、暴力を背景にして人間の尊厳を打ち砕く様な真似はしない。正々堂々と破壊する。

 そういえば、この教官、古典ムービーの悪役専門の厳つい顔したJ・パランスという俳優に良く似ていた。

 ただしJ・パランスにしては、異様に耳が大きいが。

 それに映画では、訓練を終えた新兵達に対して、教官が涙を流す事になっているが、このダンボは、事が終われば弓削から支給された金を懐に、大笑いでコクーンシティに帰っていくのだろう。

 ダンボは根っからの戦争屋に見えた。


「本番では、怪物を一人殺す度に、報奨金が三千ギュールクレジット支給される。今からやるシュミレーションでは、その半分だが金が出る。良かったな、こんな美味い話は普通の軍隊では絶対ないぞ。ただし、殺りそこなったら、数週間、いや数ヶ月はベッドにくくり付けだ。判るな、この意味が?」

「はい。教官!」

 隊員の全てが、声を揃えて、そう答えた。

 その一人一人が、社会からこぼれ落ちたならず者ばかりだったのだから、この反応は驚異的といえた。

「お前らの目標は、簡易ダミーロボットの中に紛れ込んでいる。目標の口の中の赤いボタンを押してこい。武器はブロックバスターと高周波振動ナイフだけだ。ただし、ブロックバスターは空砲ではない。当たれば、身体ごと吹き飛ぶ。同士討ちに気をつけろ。この最終部隊は、余分に人数を入れてある。人間には、不足していない、判るな?この意味が?」

「はい、教官!」

「教官!質問があります!」

 部隊には女性が三名いる、その中でも最も優秀な愛鈴が聞いた。

 ダンボが好色そうな目付きで、愛鈴に向き直った。

「なんだバンビーノ、一仕事終わった後で俺に慰めて欲しいのか、お前は血を見た後、発情するらしいからな。俺なら今夜空いているぜ。」

 ジャックは鼻から流れ出て来る血を拭こうともせず、直立不動のまま、睨み殺す様な勢いで、ダンボのニヤケた笑いを凝視している。

 女と言うよりは少年に近い体型をした愛鈴と、ジャックは同郷という事だった。

 ジャックが、愛鈴に特別な感情を抱いているのかどうか、響児には判らなかった。

 この時代の女達は、気が向けば非妊処置をしないで誰とでも寝る。

 赤ちゃんは、本人が育児放棄しても人口を減らさない為にコクーンが公的に育てる。

 そんな女達に、性交渉がらみで本物の恋愛感情を見つけ出すのは、至難の技と言えた。

 サブリナのような女性の方が珍しい存在なのだ。

 けれど女に対する男の心理は、昔から変わらぬようだ。

 愛鈴は訓練が始まってから一週間目に、ダンボの平手打ちによって左耳の聴力を失っている。

 その時期から、ジャックのダンボ嫌いが激しくなっていたのは確かだった。

 しかし今、愛鈴とダンボが交わしたような、際どい会話は、部隊中どこでもやりとりされているものだった。

 勿論、響児は未だにそう言ったジョークに違和感を覚えていたのだが。


「そうでは、ありません。目標とダミーは、どうやって見分けるのでありますか?」

 愛鈴は顔色一つ変えず質問した。

「見分け方はない。おまえたちを殺そうとするモノが目標になるというだけの話だ。だが、相手の攻撃を待っているようでは、既にお前達は死んだも同然だ。それだけだ。しかし間違っても、ダミーを壊すなよ。ダミーと言っても案山子じゃない、バイオアップのロボットなんだ。ダミーの修理代は、おまえたちと俺の給金から差し引かれる。その意味が判るな?」

「はい、教官!」

 『その意味は充分わかるよ。ダミーを壊す度にお前さんの俺達へのいびりが増すって訳だ。』

 響児は、「はい、教官!」と怒鳴るように答えながら、腹の中でそう呟いていた。



 この「賞金付き」という異様な最終訓練で、響児はジャックとペアを組む事になった。

 響児自身の過去三カ月の訓練の成績は非常に悪かった。

 サブリナが言う所の「融合」がなければ、とっくの昔に体力的に脱落していたところだ。

 運動能力的には、それほど問題は無いのだが、幼い頃から夢想癖が強く、これと言ったスポーツに参加する事もなかったのが、災いしているのかも知れない。

 精神的に見ても『怪物と融合した本当の俺は強いんだ』という思いこみを、常にかき立てていなければ、この愚連隊生活の中で、響児はとっくにノイローゼになっていたかも知れない。

 恐らく軍上層部が、この部隊で最も優秀なBENTEN・ジャックと彼を組ませるのは、弓削の『響児を失いたくない』という考えに対応する為だろう。

 だが響児に融合した異形は、獅子吼の身体の中で安定はしたようだが、その本来の力は、未だに発現していない。


「おい映画屋、俺の足を引っ張るなよ。お前は、俺の後を付いて来るだけでいいんだ。」

 派手なアロハシャツをめくり上げて、ベルトに差し込んだブロックバスターガン・通称BBGのカートリジを点検しながらジャックが、兄貴風を吹かせてそう言った。

 年齢は響児より二つ下の筈である。

「豚小屋に帰ったら、フェリーニを見ようぜ。」

 アロハの胸ポケットからペパーミントガムを取り出して口に頬張りながら、ジャックはチックで撫で付けた頭髪の乱れを櫛で直した。


 このジャックは訓練の始まった頃から、劣等生である響児の面倒を良くみている。

 彼の心根が、優しかったからと言うわけではない。

 ジャックも又、映画をこよなく愛していたのである。

 響児にしてみれば、ジャックが町のチンピラにしては珍しく、古典映画の文芸作品が好きだという変わり者だった事が大きかったし、方やジャックにしてみれば部隊で共通の会話が交わせるのは響児しかいなかったという事が、二人の関係を円滑にしたのだろう。

「ああ、そうしよう。サテリコンあたりが良いかな、、。」

 響児は、ジャックに見習ってジーンズにぶら下げたホルスターのBBGを不器用に点検しなが彼に頷いた。


「ああ、そうだ!言い忘れたが、シュミレーションの終了は目標を全て殱滅してからだ。合図はこちらで送る。諸君らの健闘を祈る。生きて帰って来いよ。後始末が大変だからな!」

 背中からのダンボの大声に送られて、響児達は、思い思いの方向から、簡易ダミーロボットの犇めく仮想首都に侵入していった。




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