僕
久々に会った義妹は、以前より活力が戻ってきているように感じた。その昔はうまくいかないこともあったようだが、休息を経て、今は大学にも通っている。大学には高校までほどの息苦しさはないから、彼女も過ごしやすいのかもしれない。一番しがらみなく自由にできる時期なのではないかと思う。
僕は箱入りで世間知らずな義妹のことが心配だった。まさか大学についていってやることはできないが、久々に触れる外の世界が、彼女にとって暖かなものであればいいなと思っている。
「――そんなに嫌な夢だったの?」
「うん。好きな人に告白される夢」
「好きな人に? なら幸せな夢じゃないの?」
「ううん。夢の中では幸せでも、覚めてからすっごく虚しいの。だって現実じゃ、その人には恋人がいるもの。わたしじゃない人が」
義妹は目を伏せた。
「これって、叶わなかった現実を頭の中でねじ曲げて作っちゃってるってことでしょ。余計に悲しいし、ショックだったの」
「へえ……」
彼女にはこういう、変なふうに純粋なところがある。
――叶わなかった現実を力づくで叶えてしまった人もいるのに。例えば、君の姉さんみたいに。
その女は幼い頃から僕の許嫁だった。というより、彼女のために僕が用意されていたと言った方が正しい。夫婦の関係と呼べるものは今でも続いているが、実態はほぼはじめから崩壊していたに等しい。結婚は契約として割りきったものにしようという提案をしてきたのは向こうからだった。
今でも家族にさえ巧妙に隠しているが、彼女は病的なまでに恋愛というものを好む。もっとたくさん愛してみたかったし、たくさん愛されてみたかった――とはいつ言われた言葉だったか。抑制されて育った反動か、満ち足りるということを知らないらしい彼女は、いつもどこかで、僕の知らない誰か、または知っている誰かへ、その身のうちにあり余らせた愛を振りまいている。
僕はというと、それほどショックを受けなかったどころか、きちんと隠し通してうまくやる彼女の知恵だとか行動力には、他人事のように感心している。
彼女は僕が義妹に向けていた感情がどんな類いのものであるかも、たやすく見抜いていた。父さんと母さんには黙っといてあげる。だから、私の言うこと聞いてよ――あのとき、彼女は笑っていた。僕が心の奥底で誰を想っていようと、本当にどうだっていいのだろう。ただし、愛し合っているふりはお互いうまくやってきた。
「気にするほどのことじゃないさ、夢の中のことなんて」
――僕たちが仲睦まじいと信じて、君は会うたびに気の毒なほど傷ついていたね。それを僕がどんな気分で見ていたと思う? 頭の中で、君のことをどうしてると思う? それも無意識下の夢なんかじゃなく、全部自分の意思でしていることなんだよ。
君の夢の中の恋人が僕の知らない誰かじゃないことはわかっている。知り合ったあのときからもう何年も経つのに君はいつまでも、汚れきった僕への当て付けみたいに純粋だ。いつになったらここへ堕ちてくる?
「美味しいものでも食べて気をまぎらわすのがいい。さ、何か頼もう」
迷うなら、傷つく方へ進めばいい。僕を愛し傷つく君の慰め方なら、僕はよく知っているつもりだから。




