にゃん、にゃん、わん
ライオン、トラと続いたので、次はヒョウかチーターか。はたまたサーバルキャットなんて可能性もあるのかしら。なんて一人で盛り上がっていたのだが、蓋を開けてみたら全然違っていた。
2匹の毛玉に案内された場所に居たのは、大きな大きな狼だった。
巨大な某ライオンさんや巨大な某トラさんよりさらに一回り大きな躰つきをしている。見た目はシベリアンハスキーというかアラスカンマラミュートというか、寒いところで元気いっぱいソリを牽いちゃう系の顔つきだ。但し大きさのせいか、狼はものスゴい迫力だった。特に目力がスゴい。
そんな圧倒的な生物を前に私はというと性懲りもなくビビっているのだった。これで巨大生物を拝見するのは3回目である。だというのに全く慣れる気配がない。当然今回も氷のように固まってしまった。
一人氷像となった私の傍では「狼、俺様ノ、仲間ダ」「自慢シニ来タ。スゴイダロ」と既知の毛玉共がやや挑発的ともとれる言動で狼を煽っている。止めてくれ。 オオカミさんが挑発を間に受けて「ウガー」と襲いかかってでもきてみろ、私なんて余裕で死ねるぞ。
しかしオオカミさんは、ややウザいレベルで元気にはしゃぐ2匹の毛玉を無視して、のっそのっそと私の目の前まで歩いてきた。そんなオオカミさんに対し2匹の毛玉達が抗議の声を上げた。
「ム、狼。食ベチャ、ダメダゾ?」
トラさん。もっと本気で止めてください。
「人間、俺様達ノ、仲間ニナッタ。今日ハ、見セル、ダケダ」
そしてライオンさん。「今日は」ってどういう意味ですか。今日も明日も明後日も見せるだけではないのですか。
全く頼りにならない2匹を心の中で罵倒しつつ、目の前までやって来て『お座り』したオオカミさんを見つめた。彼(でいいのだろうか?)もまた私をジッと見つめている。時々スンスンと鼻を鳴らしてにおいを嗅ぐ仕草はするものの、その間も私から視線を逸らす事はなかった。私は動けない代わりに心の中で「美味しくないですよ」とひたすら繰り返していた。本日何度目かも定かではないがあえて主張したい。私はまだ死にたくないのだ。
どれくらいそうしていただろうか。
私のにおいチェックを終えたらしいオオカミさんは、そのピンと立った凛々しい三角お耳をピクピクさせながら、とんでもない事を言い出したのである。
「人間、血ヲ、クレ」
味見的な意味ですか?私の脳は脊椎反射よりも素早く「嫌です」という回答を弾き出した。が、身体が固まったまま動けない。そんな私に代わり不機嫌そうな面持ちの2匹が答えた。
「ムゥ……。狼、食ベチャ、ダメダ」
「ソウダ。アレハ、俺様達ノモノ」
「問題ナイ」
いや問題だ。アナタにはなかろうが私にとっては大問題だ。何せ生きるか死ぬかの瀬戸際だ。だというのにオオカミさんがあまりにも堂々と言い切るもんだから「問題ナイノカ?」「ジャア、別ニイイノカ?」等と、少々オツムの弱い毛玉ちゃんたちが懐柔されかかっている。
そんな可愛く首を傾げ始めた2匹に向かって、オオカミさんは「ウム」と威厳たっぷりに頷くと
「少シ、血ヲ貰ウダケデ、良イノダ」
と、これまた威厳たっぷりに言い放った。
「狼、食ベナイ?」
「ウム、食ベナイ」
「狼、俺様、羨マシイカ?」
「ウム、実ニ、羨マシイ」
「狼、良イナァ、ッテ思ッタカ?」
「ウム、良イナァ、ト思ッタ」
「「ソウカ……」」
嬉しそうに、そして誇らしそうな様子で声を揃える2匹。デレデレと相貌を崩す2匹を見る限り、どうやら狼に対する猜疑心はすっかりなくなったようである。そうして「狼、警戒する必要なし!」と判断した彼らの反応は素早かった。
「狼、チョット、ダケダゾ」
「ソウダゾ。コノ人間、トテモ弱イ。ダカラ、ホントニ、チョットシカ、ダメダゾ」
若干上から目線で許可を出す2匹に、私はフラッと目眩を感じた。頼りにならなそうな2匹だとは思ったがここまでチョロいとは。
律儀に「ウム、感謝スル」と言って2匹に頭を下げるオオカミさんに向かって、私は何とか口を開いた。
「あ、あの……!私、困ります!」
「イヤ、問題ナイ」
「も、も、も、も、問題ありますッ!!」
オオカミさんに向かって両手を突きつけ「待った」をかける。が、そんな必死な私に向かってオオカミさんは小首を傾げながら言った。
「腕、カジッテ、イイノカ?」
良い訳ない。この腕はそういう意味で伸ばしたんじゃない。
「ダ、ダメです!カジったりしちゃダメですッ!!」
「ジャア、ドコナラ、イイノダ?」
「ど、どこもダメです!!だってそんな事したら――」
きっと大変な事になる。
考えてもみて欲しい。軽自動車とまではいかずとも大型バイクよりも遥かに巨大なオオカミにカジられて人が無事でいられるハズないのだ。私は「大惨事かなー?でもひょっとしたら大丈夫かもしれないしなー」なんて軽いギャンブル感覚で自分の腕の将来を決めるはない。
「チョット、ダケダゾ?」
しかしオオカミさんはなおも言い縋る。チョットでもダメだ。
「ダ、ダメです……!オオカミさんにカジられたら私の腕がモゲます!」
「加減スル」
「それでもダメです!だって私はオオカミさんの考える100倍は脆いんですから!だ、だからいくら手加減してもらったところでモゲちゃいますッ!!」
余りにも必死な様子の私に、流石のオオカミさんも目を見開く。そしてそれは静観していた他2匹も同じだったらしく「ヌゥ……」だの「100倍……」だのボヤき始めた。いいぞ。もっと揺さぶられろ。そして今一度、私の弁護人として戻って来てください。
「デモ、ソレダト、我ハ、血ヲ舐メレナイ……」
肩を落としてしょんぼりしてしまったオオカミさんがポツリと呟いた。チラッチラッとこちらの様子を伺っているようだが、生憎「そこまで言うなら少しだけ」なんて展開にはならないですよ?私はオオカミさんに深々とお辞儀をしつつ
「お願いしますから、そんな物騒な野望は捨てちゃってください」
「ヌゥ。ソレハ、困ル」
「私も腕がモゲるのは困ります」
「ヌゥ……。人間、ソンナニ、弱イノカ?」
恐らく1ミリたりとも諦める気はないのだろう。「グルゥグルゥ」と情けないような、甘えたような声で縋られ、私はハァと小さく溜め息を吐いた。しかしここで甘い顔をするわけにはいかない。
「はい、とてもとーーーーっても弱いんです。ですからオオカミさんが少しでも力加減を間違っちゃうと、簡単に私の腕がモゲちゃうんですよ」
「トテモ、トテモ、気ヲ付ケルゾ?」
「それでもです。オオカミさんが考えるよりずーーっとずーーーーーーーっと脆いんです」
「…………腕ハ、2本アルナ」
ちょっとそれはどういう意味なのかしら。
念の為、ホントに念の為に、主張しておくけど、左手は右手のスペアって訳じゃないからね。身体に2つ付いてるのはちゃんとそれなりの意味があって2つ用意されているのであって「片方がダメになっても、もう片方が残ってるから別にいいよね」なんてことにはならないんだからね。
まるで「良い事思いついた」と言わんばかりにグングン機嫌が良くなっていくオオカミさんの様子に、言い知れない不安を感じる。「出来ル限リ、気ヲ付ケルガ……」早まっちゃいけない。「デモ、少シクライ、ナラ……」オオカミさん早まっちゃいけないよ。「マァ、ヤッテミルカ」お願いッ!早まらないでッ!?
目が1つになったら遠近感が測れなくなるでしょ?耳が1つになったら音源がどこか分からなくなるよ?それと同じように腕が1本になっちゃったら満足にご飯が食べれなくなっちゃうでしょ?
そこまで考えて気づいた。恐らくこの巨大な毛玉さんたちは食事の際にお箸もお茶碗も使わないのではないかと。出した例が悪かった。これではいけない。
こういうのはもっと相手の立場に立って考えないといけないのである。が、今回の場合それが一番難しかった。だって人語を解する巨大オオカミの気持ちなどどうやって推し量れというのだ。そのような非常識な動物が登場する話は遠い国の神話でしか聞いた事がない。
「人間、安心シロ、何トカナル」
これほど安心できない「安心しろ」を私は聞いたことがない。
まるで憑き物がとれたかのようにウキウキしているオオカミさんの様子に背筋が冷たくなる。どうやら彼(喋り方からして間違いないだろう)は、私をカジる決意を固めてしまったようだった。万事休す。しかし諦める訳にはいかないのだ。
「ちょ、ちょっと待ってくださいッ!!血は1滴でいいんですか?」
再び両手を前に突き出し「待った」をかける。カジる決意を固めた彼に向かって腕を伸ばすのは自殺行為だったかもしれないが、咄嗟に身体が動いてしまったのだ。
いきなり挙動不審になった私をキョトンとした目で見つめながら、彼はコクリと頷いた。
「ウム、1滴デ、良イゾ」
「だったら私自分で血を出します!だからオオカミさんはそれを舐めるだけにしてもらいたいんですけど、それでいいですよねッ!?」
背に腹は代えられぬ。つまり私が出した提案は「自傷して血を出すから、どうかカジらんといて」という次善策だった。元々彼が求めていたのは私の血液だけなのだ。それも今の確認で分かった事だがたった1滴でいいらしい。であるならばわざわざリスクを背負ってまでオオカミさんにカジられずとも、少々痛い思いをしてでも自ら出血した方が100倍ましである。できれば無傷での勝利を収めたかったのだが、こうなっては仕方あるまい。
私はオオカミさんの返答を待たず、まるで崩れ落ちるようにしてその場に座り込んだ。右手をグッと握りしめ、出来た拳骨を床石の上に宛てがうと。
「それでいいですよね!?」
「ウム、ソレデ、問題ナイ」
おっしゃ言質はとれた。私は床石の上に置いた拳骨を勢いよくスライドさせた。
拳骨部分の硬い骨が床石に擦れ右手の先に鋭い痛みが走る。ほんの数十センチ程度の摩擦だったが、女子高生の柔な手を傷つけるには十分過ぎた。
ゆっくりと右手を上げ傷の状態を確認すると、擦れて白く変色した皮の奥からジワッと血が滲んでいるのが確認できた。よかった。血が出てないからもう一度なんて事にはならずに済んだようである。
私は2、3度右手をグーパーさせ動きに異常がない事を確認すると、目の前で『お座り』しているオオカミさんへと突き出した。さぁ舐めろ。しかし
「人間、オマエハ……何カ、病気ナノカ?」
「人間、俺様、助ケル、正直ニ、言エ」
「人間、俺達、信ジロ」
思っていた反応と何かが違っていた。何なのだろうこの反応。
「あの、私は健康ですよ?それよりホラ、早く舐めないと血が固まっちゃいますよ?」
血が固まったからもう一回。等という展開は勘弁して欲しかったので、改めてオオカミさんに血を舐め取るように促してみたのだが、やはり彼らの様子はおかしなままだった。
「人間、一ツ、聞キタイ事ガアル……」
「はい?血が固まっちゃうので、手短にお願いしたいのですが……」
「ウム、人間」
そこで一度溜め、改めて神妙な面持ちでオオカミさんは言った。
「何故、血ガ出タ」
「え……?」
殴ってやろうかと思いました。ええ。思いましたとも。
何故も何もアナタが舐めたいと言うから、「カジられるよりは……」と痛いのを我慢したというのに何たる言い草か。
「オオカミさんが舐めたいって言うから、頑張ったんじゃないですか!」
若干責める口調になったのは仕方がないとお目こぼしいただきたい。強気に出れる立場でないというのは重々承知の上だが、私とて人形ではないのだ。イラっとくれば感情も高ぶる。
「イヤ、ソウデハナイ。我ガ、聞キタイノハ、如何ニシテ、血ガ出タカトイウコトダ」
「え、見てましたよね?私が床石に拳をザザーッと滑らせたところ」
「ウム、ダカラ、聞イテル。ドノヨウニシテ、血ガ出タノカト」
「え、いや、だから、床石に拳を擦りつけたので、血が出たんですよ」
「ウム、ソレハ、承知シテル。我ガ聞キタイノハ、何故、血ガ出タノカト、イウコトダ」
「え……いや、だから……。その…………えっ?」
強烈な違和感を覚える。
何だろうこの感じ。
「ザラザラの石畳に思いっきり拳を擦りつけたから血が出た」そんな当たり前の事を説明しているだけなのに、どうしてオオカミさんは同じ質問を繰り返すのだろう。小首を傾げてしばし考え込んだところ、本来なら有り得ないような可能性に思い当たった。まさかもしかして
「あの……念の為言っておきたいのですが」
「ン、何ダ?」
「人間っていうのは、特に理由がなくとも、石畳で皮膚を擦れば普通に怪我しますからね?」
昼の後には夜が来る。夏が終われば秋が来て、優しくされたらホレてまう。もちろん石畳で擦れば血が出る。全て自然の摂理だ。至極当然の事であり、そこに何一つ不可解な点はないはずだった。にも関わらず
「ソ、ソンナ事デ、血ガ出ル、ノカ!?」
大きなお口をぽっかり開けてオオカミさんが驚愕している。そこからのぞく彼の牙は容赦なく命を噛み取る形をしていた。怖かった。直視したくなくて周りを見渡すと、オオカミさんだけでなく残りの2匹も同じように口をポカンと開け驚愕していた。当然彼らの牙も見えてしまった訳で、怖さが倍増した。
しかしこれでハッキリした。彼らの尋常ならざる驚き方を見るに、どうやら私の予想は当たっていたようだ。
「平手打ちを避け損ねて死んだ」というのは蚊の世界では常識でも、人の世界では驚くべき事である。それと同じ理屈で「石畳で擦りむいてケガした」というのは人の世界の常識であって、巨大獣さんたちにとっては、それはそれは驚くべき事だったのだ。大方「普通は石畳の方が剥げ落ちるだろ!?」とでも思っているに違いない。やだ怖い。どんだけ強靭なのかしらこの毛玉さんは。
「それじゃ改めてどうぞ。少し固まって来てますので、急いで舐めちゃってください」
疑問も解消されスッキリした気分でそう告げると、オオカミさんではなくライオンさんが反応した。
「人間、仲間ニ、嘘吐クナ!」
「う、嘘じゃないですよ。ホントに人間っていうのは些細な事で怪我しちゃう生き物なんです」
強靭な彼らにとっては悪い冗談に聞こえるかもしれないけど真実だ。どんなに納得いかなくともこればかりは了承してもらう他ない。しかしライオンさんが主張したかったのは別の事だった。
「違ウ。人間、百倍脆イト、言ッタ。百倍ナンテ嘘!」
まさかの倍率に対するダメ出しである。
よもやそんな所で抗議されるとは夢にも思わなかった。
「えっと……。ごめんなさい?」
「人間、脆イ。俺様ノ、百万倍脆イ。見栄張ルナ」
「ひゃ、ひゃくまんばいですか」
「ソウダ。チャント、自覚シロ。狼、人間、殺ストコダッタ」
「……え?」
「人間、脆イ。デモ、俺様、チャント、守ルゾ」
いや、その前に聞捨てならない事を聞いた気がするのだが。
「わ、私、オオカミさんに、こ、ころ、殺されかけてたんですか……!?」
「人間、嘘吐クカラダ。百倍、言ウカラ、狼、百倍抑エタ力デ、カジロウトシテタ」
でも実際の私は100万倍脆いわけですから、実際には100万倍抑えてもらわないとダメだったと。彼はそう言いたいのだろう。100倍と100万倍。その差は1万倍。つまりあのまま流れに任せてオオカミさんにカジられてた場合、私は許容量を1万倍程超えた一撃を食らっていたわけか。アカン。死んでまう。
「弱イ生キ物、己ヲ強ク、見セル。デモ、人間。俺達、仲間。仲間ニハ、嘘吐クナ」
「わ、わ、わ、わ、わ、分かりました」
トラさんからも念押しされ、震える声で了承する。座り込んだまま壊れたピストンみたいにコクコク頷いていると、『お座り』から『伏せ』に体制を変えたオオカミさんの顔が目の前現れた。
「人間、手ヲ」
「は、はい」
オオカミさんに促され、おずおずと右手を差し出すと、傷口の血はほとんど固まりかけていた。オオカミさんは前足を器用に使い、更にこちらににじり寄ると、他の2匹とは違う明るい空色の目で私の顔を見つめた。
いよいよか。思わず握りこぶしに力が入る。しかし、そんな私の予想を裏切って、オオカミさんはそれはもう嬉しそうな声で告げてきた。
「人間、我ハ、孤独ダッタ。猫ドモノヨウニ、互ノ身ヲ、寄セ合エル者モ居ナイ。我ニ、比肩スル程ノ、友モ居ナイ。我ガ、傅クニ足ル、強者モ居ナイ。ズット、長イ間、我ハ一人ダッタノダ」
声と語る内容がまるで合っていない。悲しい告白であるはずなのに、彼の独白は隅々まで幸福が満ちていた。
「ダガ、ソレモ、今日デ終ワル。人間、我ハ、ヨウヤク、我ガ、所属スルニ足ル、"群レ"ヲ、手ニ入レタノダ」
そこで唐突に言葉を切ると、オオカミさんはまるで撫でるように優しく私の右手を舐めた。傷口がピリッと傷んだが、その痛みもほんの一瞬の事だった。
「人間、我ラ獣トハ、異ナル、賢シキ、生キ物ヨ」
不意に音もなくオオカミさんは立ち上がった。そして私の横まで歩いて来ると再び音もなく『伏せ』の姿勢に戻った。いや、厳密に言うとこの体制を『伏せ』とは呼ばない。
「オ、オオカミさん……?」
まるで我が子を守る母犬のように、くるりと丸めた身体の内に囲われ、私は彼を呼んだ。初めて触れる彼の被毛はまるで極上のコートのように柔らかで温かい。
「今後ハ、オマエニ、従オウ」
「ちょ、ちょっと、オオカミさん……?」
「賢シキ者ニ、統ベラレル"群レ"ハ、勇猛ナ者ニ、統ベラレル"群レ"ヨリ、遥カニ、強イラシイゾ」
「あの、どうしちゃったんですか?」
「良キ名ヲ、頼ム。我ノ魂ヲ縛ル、素晴ラシキ名ヲ、ドウカ与エテ欲シイ」
「オ、オオカミさん!?」
私はそこまでニブくない。分かってる。彼の腹に抱かれ、蕩けるような声音で延々と囁かれたのだ。彼が何を考えているのか、そして私に何を求めているのか。そりゃもう手に取るように分かるんだ。
ただちょっと突然過ぎて受け入れられないだけで。
だって、つまり、オオカミさんが手に入れた"群れ"って、私もメンバーに入っちゃってませんか?いやメンバーなんて下っ端臭漂うポジションじゃなくて、オオカミさん私を頭に据えようとしてはおるまいか……?
それは余りにも急展開過ぎるってもんでして。「よろしくボス!」「OK!何か知らんけどまっかせなさーい☆」なんて展開は断じてありえない。私にも心の準備をする時間くらい与えられるべきだと思うのだ。
だからちょっと待って。急いで考えるから。
そんな蕩けるような視線で私を見ないで。ゴキゲンな様子でしっぽフリフリしないで。機嫌良さそうに「ガウガウ」喉鳴らさないで。あと部外者2匹にも言いたい。
「狼、群レ、欲シカッタノカ」
「ムゥ……。デモ、人間、俺達ノ、仲間」
私を無視して先進めんといて。
しかもどうやら仄かに波乱の兆し。
難しい顔のお猫様2匹と、蕩ける笑顔のワンちゃん1匹。私を挟んで対陣中です。
2015/3/22 字下げ修正




