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邂逅、二匹目の、毛玉

 さて大問題である。

 目的地と思われる場所に着いた途端。


 「人間、言エ」

 ライオンさんの口から飛び出した無茶振りにも程があるこの要望に私はしばし固まった。一体何を言えというのだろう。せめてヒントだけでもいいのでいただけないものだろうか。


 いや、この際その程度の理不尽は後回しにしよう。

 ライオンさん。是非ともご説明いただきたい事があるのですよ。


 私は目の前で『お座り』する巨大なホワイト"タイガー"を見つめたまま固まっていた。


 念を押しておきたいのだがホワイト"ライオン"ではない。証拠に私をここまでエスコートした彼は私の右隣で『お座り』しており、先程から私に無茶振りをブチ込んできている。「イエー。イエー」と連呼しているが別に盛り上がっているわけでもなかろう。


 つまり目の前にいるのは間違いなくホワイト"タイガー"なのである。つまり私をエスコートしてきた彼とは違う個体なのである。右隣にホワイトライオン、目の前にホワイトタイガーなのである。つまり2匹なのである。つまり非常識なサイズのお猫様2匹が『お座り』していらっしゃるである。


 どういう状況なのよコレ……。

 当然私は混乱した。


 「付イテ来イ」と言われ案内された目的地には泰然とした態度で寝そべっている巨大なホワイトタイガーが居た。「帰ッタゾ」というライオンさんの挨拶に「ムゥ……」と答え上体を起こすホワイトタイガーさん。どこか困惑しているように見える彼(彼女かもしれない)の視線は明らかに私を捉えていた。


 その疑惑に染まった目が訴えてくるのだ「お前は誰だ」と。「お前は土産なのか」と。そんな物騒な視線を向けられて冷静でいられる訳もない。私は必死に「お土産ではありません」と視線で訴え返した。否定しなければ「いただきます」される可能性があったからだ。


 しかしライオンさんは、そんな壮絶なメンチの切り合いを繰り広げる私たちの事をまるっと無視した。スゴい。このネコ科ホントにスゴい。こんな状況ですらマイ ペースを崩さないなんてスゴすぎる。そんな極めてマイペースな彼はそのマイペースさを遺憾なく発揮させ、お互いにガン見し合っている私とトラさんの事を徹頭徹尾余すことなく1ミリたりとも気にせず冒頭のセリフを宣ったのである。そう。なんの脈略もなく一言。「人間、言エ」と。


 そんな状況で混乱せずに対処できる人間などいるはずもなく。

 私はただひたすら目の前で寝そべっているホワイトタイガーを見つめたまま固まっていた。


 当然頭の中では数多くの疑問が、まるで壊れた洗濯機のようにグルングルン回転している。ただし洗濯とは違い、いくら回しても全然クリーンにならないのは困りものなのだが。「何を言えばいいのだ」「この巨大なトラさんはどこのどちら様なのだ」「こういう時はライオンさんが率先して仲立ちすべきではないのか」「まだ死にたくない」「私は美味しくありません」等など。正にカオスと呼ぶに相応しい乱れっぷりだ。


 しかも

 「人間、早ク言エ」

 この猛プッシュである。


 このままではいけない。私は意を決するとゆっくりと、右側で『お座り』しているライオンさんの方へ顔を向けた。但し目線はトラさんに固定したままで。おかげで実に首が痛い。


 何故そのような苦労をしているかというと、別に自分の首に恨みがあるという訳ではなく、昔TVで「野生の動物は目を逸した瞬間襲いかかって来る」と放送していた動物番組を見たことがあったからである。つまりトラさんの養分になりたくない私としては、ここは何としても視線を逸らせない場面なのである。まぁ、顔を向けても視線は合わせないというこの状況。ライオンさんに対して多少失礼ぶっこいている節はあるが、そこは平にご容赦いただきたい。


 「ラ、ライオンさん」

 「ドウシタ、人間」

 「えっと……私は何を言ったらいいんですかね?」


 恐る恐る尋ねると、ライオンさんは喉を「ググッ」と鳴らしながら上機嫌で言った。


 「人間、俺様、好キダロ?」

 「も、もちろん、大好きですよ」

 「ソレヲ、アイツニ、言エ」


 どういうことだろうか。それに何の意味があるのか私にはサッパリわからないのだが。


 しかしライオンさんが私に何を言わせたいのかは分かった。私は先ほどとは逆に、ライオンさんの方へ向けていた顔を、正面にいるトラさんへと戻すと、右隣におわすお猫様がご所望されている事を語った。


 「わ、私はライオンさんの事が大好きです」

 「ムゥ……」


 「真っ白なタテガミも、ぶっとい前足も、あ、あととっても強くて頼りになるところとかカッコいいと思います」

 「ムゥ……」


 「そ、それに、近くで見るとさらにキラキラしてて綺麗っていうか、その、とにかく最高に素敵だと思うんですよ」

 「ムゥ……」


 ごめんなさい。正直そろそろ限界です。


 思いつくままにライオンさんを褒めてみたものの、それに対するトラさんのリアクションが「ムゥ……」一色なのは辛い。いや、彼(ひょっとしたら彼女かもしれない)の気持ちは痛いほど分かるのだ。差し詰め「何言ってんだこの女」「それを聞かせてどうしたいんだお前は」とでも思っているのだろう。


 だがこれだけは主張しておきたい。私とて不本意なのだ。こんな浮気相手を牽制する彼女みたいなセリフ、誰が言いたいものか。故にこのような事態に陥った責任は全て、アナタの知人であるライオンさんにあるとご承知いただきたい。つまり私は悪くない。だから、お願いだから、そんな険しい表情で私を見つめるのは止めていただけませんでしょうかトラ様。


 内心汗をダラダラかきながら機嫌の悪そうなトラさんの出方を待っていると、彼(ひょっとすると彼女かもしれない)はのっしのっしと近寄ってきた。


 「ヒィ……!」

 手を伸ばせば届く距離まで詰め寄られ思わず悲鳴が漏れる。


 助けを求めるため小さく手招きしてライオンさんにサインを送るものの、気付いてないのか気付いた上で無視することにしたのかは不明だが、ライオンさんは全く反応してくれない。どこまでマイペースなのだこの猫は。


 そんな一人であっぷあっぷしてる私をジーッと見つめたまま、トラさんはゆっくりとその場で『お座り』した。


 そして

 「人間、俺モ、真ッ白ダゾ」

 と、見れば一目瞭然な事を宣った。


 故に

 「そ、そうですね」

 と言った私の返答は間違っていないはず――なのだが、私の返事を聞いたトラさんは突然不機嫌そうに「グッグッ」と喉を鳴らし始めた。私はこの音を知っている。これは彼らが何かを催促する時に出す音だ。


 ど、どういうことなの?


 トラさんが催促するものが何なのかサッパリ分からないのだ。どう行動すればいいかわからずオロオロしてると、再びトラさんが主張してきた。


 「人間、俺ノ前足モ太イゾ」

 「そ、そうですね」


 「俺、トテモ強イ」

 「そ、そうみたいですね」


 「デモ、俺、タテガミハ無イ……」


 若干しょげてしまったようだ。トラさんは恨めしそうに私の右隣――ライオンさんを睨みつけると、再び「グッグッ」と喉を鳴らし出した。と、ここまで来てようやく私にも彼(一人称が「俺」だからもう確定でいいだろう)の言いたいことが分かった気がした。


 ようするにこのトラさん、私に褒めて欲しいのかしら……。


 そう仮定するならば、先ほど彼が、真っ白の被毛。ぶっとい前足。強い力。の3つを主張した理由の説明が付くのだ。これらは先ほど私がライオンさんを褒めた時に使った言葉なのだ。つまり自分にもライオンさんと同じ「褒めるべきポイント」があるので「褒めろ」と催促した。と、そう考えられないだろうか。


 そして私がライオンさんのタテガミを褒めていたのを聞いて、自分にはタテガミがないとしょげてしまった。そう考えると全ての辻褄が合う。


 つまり今私の目の前にいるのは、褒めて欲しいのに褒めてもらえなくてしょんぼりしてるトラということか。


 な、何ていじらしい生き物なのかしら……。


 そう思うと居ても立ってもおれず、私は思わず、耳をペタッと寝かせてしょぼ暮れているトラに向かって叫んだ。


 「で、でも!よく見ると銀色の縞模様があって、トラさんもとても綺麗だと思いますよ!」

 そう。遠目には白一色に見えたトラさんの被毛だったが、こうして近くでみるとちゃんとキラキラした銀色の毛で縞模様が浮き出ているのだ。私はそれを素直に綺麗だと思った。


 「俺、綺麗カ?」

 「はい。とても綺麗だと思います。も、もちろんライオンさんと同じ真っ白な毛並みも、ぶっとい前足も素敵だと思いますよ!」


 そう追加で褒めてやると、彼は耳をピンッと立たせピクピクと動かし始めた。機嫌が上向きになったらしい彼は、しっぽをゆーらゆーらゆっくりと左右に振りながら


 「俺、素敵カ?」

 と嬉しそうにそんな質問をしてきた。もちろん私に向かっての質問である。だというのに


 「もちろ――」

 「オマエ、素敵、違ウ」


 私の返事を華麗にインターセプトするライオンさん。しかも口調から察するにどうやら不機嫌らしい。当然私は慌てた。そりゃそうだ。ようやくトラさんが放つピリピリオーラがなくなったのに、何てことしてくれるんだこのライオンめ。マイペースは許すが場の空気を乱すようなKYっぷりは断じて許すわけにはいかないぞ。


 私は抗議――やんわりと遠まわしに出来る限り優しい言葉を用い可能な限り相手を尊重した口調で抗議するため、ライオンさんの方へ振り向いた。のだが


 「……………………」


 「ガルルルルゥ」と歯をむき出しにしてトラさんを威嚇する姿を見て瞬時に沈黙することに決めた。これあかんやつや。予想していたより13倍程機嫌が悪い。正直怖い。そんなすんごい顔したライオンさんが唸った。


 「俺様、自慢スル為、人間、連レテキタ。オマエ、褒メル為、ジャナイ」


 そういえば言ってたなそんなこと。すっかり忘れていたが、確かに彼は出発前「俺様、アイツ、自慢スル」と言っていた。あれはつまりトラさんに私を自慢したかったって事だったのか。


 そういえば聞いたことがある。男というのは、新しい彼女が出来た際、男友達を集め「これ俺の新しい女」等と言いながらお披露目する生き物であると。


 今回の事例に当てはめて考えてみれば「コレ俺様ノ」と紹介した彼女 (つまり私)が、いきなり男友達 (つまりトラさん)に向かって「キャー!カッコいい!」とか言い始めた感じなのだろうか。そりゃ彼氏 (ライオンさん)も怒るはずだ。どう考えても私が尻軽すぎる。


 と、ここまで考えたところで私は猛烈な違和感に襲われた。


 ってアレ?そういう話だったっけ?

 何か大事な事を見落としている気がする。


 えーっと……そもそも私とライオンさんって付き合ってるんだったっけ?

 私の人生初の彼氏は大きな毛玉。そんな切ない過去はないはずである。いや2人目の彼氏ならOKという話でもないのだが。


 そうか。この話、前提からして尽く間違っているのか。


 ようやくそう思い至った私は、ライオンさんの誤解を解くため、彼に向かって手をパタパタ振った。


 「ラ、ライオンさーん」

 「何ダ」


 か、顔が怖いですライオンさん。


 歯剥き出しの表情のまま睨みつけられ鼓動がドクンと跳ねた。キャッ☆愛しの彼に見つめられちゃった☆とかそういう甘酢っぱい意味では断じてない。そうではなくもっと殺伐とした、こう「殺される!」的な意味で私の心臓は高鳴っているのだ。


 本音を言えば今すぐ逃げ出したいのだが、ここは踏ん張りどころである。私は彼氏面する白い毛玉に向かって震える声で聞いた。


 「ラ、ライオンさんは、そのー……何をそんなに怒ってらっしゃるんですか……?」

 「人間、アイツ、好キナノカ?」


 まさかの質問返しだった。

 「質問に質問を返すな」そんな事を言えるのは立場が上の者だけだ。つまり今の私には無理だった。


 「そ、そうですねー……。真っ白で綺麗だなーとか、強そうで素敵だなーとか思ってみたり……します……かね」

 「ツマリ、アイツ、好キカ?」

 「そりゃまぁ、好きか嫌いかで言えば好き……だと思いますが……」

 「ソウカ……アイツ、好キカ……」


 怖い顔がみるみる溶け消え、代わりにしょぼ暮れた表情を見せるライオンさん。彼はがっくりと肩を落としながら元気の無い声でビックリするような事を呟いた。


 「人間、俺様、好キ違ウノカ……」

 「えっ!?ちょっと待ってくださ――」

 「俺様、失敗シタ。自慢スル、ツモリダッタノニ、アイツニ、好キ、取ラレタ……」


 なんだこの昼ドラめいた展開は。想像の遥か上をゆく展開に唖然としていると、もう一人の主役――つまりトラさんまでもが参加してきた。


 「人間、俺、好キナノカ」


 ライオンさんのしょぼ暮れた声に対し、トラさんの声の何と嬉しそうな事か。彼は上機嫌に「グルルルルルッ」と喉を鳴らしながら


 「人間、俺ノ縞々、見テイイゾ」


 彼は『伏せ』の姿勢を取ると、額までしっかりと床に着けてうつ伏せた。まるで土下座のような姿勢なのだが、この姿勢に何の意味があるというのだろうか。


 ご自慢の縞々模様を披露してくれたトラさんには悪いが、今はライオンさんの誤解を解くほうが優先である。私は床にべちゃりとうつ伏せたままのトラさんに向かって告げた。


 「あ、あ、あ、あの!すいませんけど、今はライオンさんとお話をしてますので!と、取り敢えず顔を上げてください!」

 「嫌ダ、俺、頭上ゲナイ。俺、首ト腹ニハ、縞々ナイ。ダカラ、首ト腹、見セタクナイ」


 な、なるほど……。

 土下座スタイルにはそんな意味があったらしい。分かるかそんなもの。


 「で、でも、そのままっていう訳にもいかないと思うんですが……」

 「嫌ダ。人間、俺ノ縞々、ヨク見ロ。俺、モット、好キニナレ」


 私史上最大のモテ期到来なのだが全く嬉しくないのは何故だろう。「私のために争わないで!」というヒロインのみに許されたあのセリフも、今ならば許されるのだろうか。ってそれどころじゃなかった。絶賛落ち込み中のライオンさんの誤解を解かねばならないんだった。もうこうなったらベチャッと床の上で潰れているトラさんは無視する他あるまい。


 「ライオンさん!」

 「ナンダ……人間」

 「私、ライオンさんのこともちゃんと好きですよ」


 間違った事など何一つ言ってないのに、この胸から溢れ出す罪悪感はどういうことだろう。ああそうか。今の私のセリフまんま悪女みたいだったもんな。「私はどっちも好きなの!決められないの!」とは我ながら凄まじい小悪魔っぷりである。衝撃の事実に気がついてしまい私は地味に凹んだ。


 「デモ、人間、アイツ、好キト言ッタ……」

 「トラさん"も"好きって言ったんです!もちろんライオンさんの事も好きに決まってるじゃないですか!」


 「俺様モ、アイツモ、好キ……?」

 「そうです!二人とも好きです!だって二人共とっても素敵でカッコいいですもん!」


 「デモ、俺様、縞々ナイ……」

 「その代わりに、素敵なタテガミがあるじゃないですか!そのフワフワモコモコのタテガミとっても素敵ですよライオンさん!」

 「ヌゥ……ソウダッタ。俺様、タテガミ、素敵ダッタ」


 必死に褒めまくる事数分。ようやくライオンさんに活力が戻って来た。私は彼の誤解が解けたことに安心しホッと溜め息を吐いたのだが、実際には何一つとして問題は解決してはいなかった。


 ライオンさんはいそいそと『伏せ』の姿勢を取ると、額までしっかりと床につけ、まるで土下座のような姿勢になった。花輪のように広がった純白のタテガミが目に眩しい。それを見た瞬間、私は強烈なデジャヴに襲われた。しかしそんな私など完全無視してマイペースな彼はくぐもった声で元気に言った。


 「人間、俺様ノ、タテガミ、ヨク見ロ」


 まさかの展開である。


 正面を見れば土下座して愛を乞う巨大タイガー。右を見れば土下座して愛を乞う巨大ライオン。その中心でたった一人立ち尽くす私。しかもこの期に及んで「両方好きだよ!」等という二股宣言をしているわけで。状況だけで考えれば凄まじいレベルの悪女である。それこそ男の方から愛想を尽かされても仕方のない状況なのである。にも関わらず


 「人間、俺ノ、縞々、ヨク見ロ」

 「人間、俺様ノ、タテガミ、ヨク見ロ」


 毛玉2匹のなんと健気なことか。


 くぐもった声で、必死に相手にはないセールスポイントをアピールするその姿は、見ているだけで、こう、何とも言えない気持ちが湧き上がってくるのだ。しかも両者共に土下座スタイルである。恐らく彼らには「土下座=最上級の訴え」という認識自体ないのだろうが、それを見せられている私の目には、どうしても「どうか!この通り!お願いします!」と訴えられているようにしか見えないのだ。


 巨大な身体をペタリと地面に伏せ一生懸命訴える2匹の毛玉。その光景の視覚的な破壊力たるや凄まじく、心の中に微かに残っていた彼らに対する恐怖やら緊張やらがスッカリ消え失せた心地がした。私はふんわりと笑顔を浮かべると土下座している2匹へ優しく告げた。


 「縞々もタテガミも十分に堪能しました。ありがとうございました。今度は是非綺麗な青い目を見せてくださいませんか?」


 幸いにして2匹とも瞳の色は青だった。海の色より明るく空の色より濃い絶妙な青色。


 「ヌゥ、人間、イイダロウ」

 「人間、青イ目モ、好キナノカ」


 口々にそんな事を言いながら2匹が頭を上げる。そんな彼らの顔を交互に見つめながら私はさらに告げた。


 「私、ライオンさんもトラさんも両方とも大好きですよ」


 片方にだけ愛を囁くからもう片方が凹むのだ。ならば2匹いっぺんに好きだと言ってあげれば丸く収まるではないか。それが私の辿り着いた大団円の解決方法だった。


 「人間、俺様、好キナノニ、アイツモ、好キナノカ……」

 「両方好キ……。俺モ、アイツモ、好キ……」


 毛玉2匹も首を傾げながらではあるが私の言葉を理解しようと頑張ってくれている。しばらくムームー言いながら悩んでいたようだが


 「人間、俺様、大好キカ?好キ、減ッテナイカ?」

 「もちろん大好きのままです。トラさんを好きになったからといって、ライオンさんへの好きが減ったりしてませんよ」


 「人間、俺ト、アイツト、同ジクライ、大好キカ?」

 「はい。私はトラさんもライオンさんも同じくらい大好きですよ」


 「人間、俺様ノコト、ズット、ズット、大好キカ?」

 「ずーっとずーっと大好きですよ。だって私たちは友達じゃないですか」


 「ヌゥ……ソウカ」

 「友達カ」


 的な微笑ましい愛情確認が終わる頃には、2匹とも機嫌を取り戻したようだった。仲良く「ググッググッ」「グルルルルルッ」と喉を鳴らし合っている。


 やがて

 「ヌゥ……。人間、付イテ来イ」

 と、どこかで聞いたことがあるセリフと共にライオンさんが立ち上がり


 それに併せてトラさんも

 「仲間増エタ事、アイツニ、自慢スル」

 と、これまたどこかで聞いたことがあるセリフを口にしつつ立ち上がる。


 彼らは、寄り添うように隣り合うとそのままのっしのっしと歩き出した。私はそんな2匹の後ろ姿を眺めながらポツリと呟いた。


 「えっと……もしかしてまたお出かけですか?」


 するとまるで私の呟きに応えるように、2匹は首だけででこちらに振り返ると


 「人間、早ク来イ」

 「遅レルナ、付イテ来イ」


 これまた非常に聞き覚えのあるセリフを宣ったのだった。


2015/3/22 字下げ修正

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