鳥が飛ぶ、罵倒されても、尚も飛ぶ
今回は戦闘描写過多のためケモノさん達とのふれあいシーンが少ないです。
戦闘描写難しいです……orz
100億円の宝石を見せられたあとに1,000万円の宝石を見せられたとしよう。
恐らく私は1,000万円の宝石を見て、少し物足りなく感じてしまうのだろう。
しかしそれは前に見た100億円の宝石と比べるから見劣りするのであって、冷静になってもう一度見返してみれば、やはり1,000万円の宝石もとても素晴らしいものだと気がつくことができるのだ。
つまり何が言いたいかというと――鳥さん、メッチャ強かったのである。
鳥さんの爆弾発言の後、それでも鳥さんをパシらせたいウォルフが、突然こんな事を言い出した。曰く。「一匹デイイカラ、羽虫共ヲ、落トシテ来イ」
どうやら直接自分の目で、鳥さんの実力を確認したかったらしい。「俺様、マダ、ソンナニ強クナイ」と自己申告した相手に対して、中々の無茶をブッ込んだものである。暴君か君は。しかしながらいかに理不尽な内容であろうとも、鳥さんにしてみれば受ける必要がない命令である。私は「当然断るでしょ」と気楽に予想していたのだが、その予想は瞬く間に裏切られた。
あろうことか鳥さん。「分カッタ!俺様、頑張ルゾ」とか叫びながら、意気揚々と飛び出して行きやがったのである。それはそれは見事なロケットっぷりであった。もし効果音を付けるとしたら「バッビューン!」だろう。羽を広げたかと思ったらあっという間に大空洞に飛び込んだ鳥さんは、「見テロ!」と叫ぶなり、それまでバッサバッサと羽ばたいていた動きを止め、羽をピーンと張り出すように広げた。
ちなみに、ロケットスタートを切ってから、ここまでにかかった時間はおよそ2秒弱といったところである。まさに「バッビューン!」に恥じぬスピードであった。それ故に私は疑問に思ったのだ。
だって鳥さん。全く接敵する様子が見られないのだ。
あれだけ見事な韋駄天っぷりだったのだ。もう一度「バッビューン!」すれば間違いなく接敵するはずである。しかしそうはならない。鳥さんはピーンと羽を伸ばしたまま、器用に虚空でホバリングしていた。あれだけ威勢良く飛び出して行ったのだ。今更怖気付いた訳でもあるまい。となると、様子を見てるのかしら?そう訝った、次の瞬間。私は自分の勘違いを痛感させられた。
鳥さんが
「イクゾ!」
と、短く吠えるのと同時に、彼の前方にある空間に小さな『何か』が出現したのである。
よく見るとそれは淡い燐光を放つ羽のようだった。それも羽毛布団に使われるような柔らかい羽ではなく、羽ペンに使われるような立派な方の羽である。そんな羽がイキナリ鳥さんの目の前に現れたのである。一体全部で何枚あるのか、遠目からでは判断が難しいが、少なくとも数十枚はあるだろうか。それらは仄かな光を讃え、まるで鳥さんの号令を待つかの如く、空中で停滞しているのである。そう。まるで、的を見据え弦を引き絞った弓矢のような静謐さが漂っていた。
そして引き絞られた弓矢が迎える末路など、一つしか存在しないのである。
虚空でピタリと停止した光る羽を置き去りに、鳥さんがバサリと飛翔したのを合図に、それらはまるで大空洞の闇を裂くような勢いで飛んで行ったのである。
まさに弓矢の如き鋭さだった。獲物を目掛けて真っ直ぐに走る無数の矢弾。恐ろしい速度である。余りに速すぎて、私の目には羽が動いたと思った次の瞬間には羽虫達の身体に刺さったようにしか見えなかった。無数の羽矢の直撃を受け、その燐光に照らされた羽虫の姿が明らかになる。いくらか外してしまったようではあるが、恐らく大半は命中したのだろう。だって今まで暗闇に紛れて見えなかった羽虫の姿が、今ではこんなにもハッキリと見えるのだから。
離れた目。高枝切りバサミのような口。黒光りするボディ。小刻みに動く翅。6本の足。そしてグロテスクな腹。確かにデカい。ウォルフは私くらいと予想していたが、明らかに私の1.5倍はありそうである。そんな名状しがたい悍ましい生物が、鳥さんの攻撃を受け、藻掻くように6本の足をカサカサカサカサカサカサカサカサと小刻みに動かし始めたのである。
悪夢である。視界の暴力である。だって涙が出ちゃう。女の子だからである。
しかしまだ私には希望があった。何故なら、ケモノさん達の攻撃が命中したという事は、あの身の毛もよだつ羽虫も、そう長くは生きていられないと思ったからだ。これまで散々見てきたのだ。ウォルフが噛み付けば敵は死ぬのである。レオンが猫パンチしても敵は死ぬのである。もちろんティガの猫パンチでも例外なく敵は死ぬのである。つまりケモノさんの攻撃がヒットしさえすれば敵は死ぬのだ。今は景気よくカサカサカサカサカサカサカサカサ動いているヤツの足も、もう数秒もすれば停止し、力尽きたヤツは燐光をまとったまま大空洞の底へ落ちて行くのだ。さよならグロテスク。もう二度と出てくんじゃねーぞ。
しかしどうした事か、待てど暮らせど全くカサカサが止まらない。
遂には、それまでホバリングしていた鳥さんが停止し、再びカサつく羽虫へと追撃の羽矢を放つ展開を迎えたのである。
まさかまさかの二の矢である。
その上、まさかまさかまさかの、羽虫の反撃である。
二の矢を受け、更にカサカサを加速させていた羽虫が、あろうことか鳥さん目掛けてギュィィィィンと接近してきやがったのである。
ちなみに羽虫と、鳥さんと、私達は直線でつなげるようなポジショニングである。つまり最奥に居る羽虫が、中点辺りにいる鳥さん目掛けて近寄ってくるという事は、当然その直線上にいる私の方にも近寄って来ている訳なのである。
グングン大きくなる羽虫。遠目には分からなかったが、ヤツの目は8つだった。あと高枝切りバサミのような口からはゼリーのようなドロドロとした粘液が溢れ出している。まぁこちらについては遠くて見えなかったのか、鳥さんの攻撃のダメージで溢れ出してきたのか判断に苦しむところではあるのだが。まぁ、何にせよだ。より近くで見る羽虫は、それはそれは死ぬ程悍ましい姿をしていたのである。
アカン。もうアカン。
ギリギリで保っていた私の理性がブッ壊れた瞬間だった。
「う……っぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーッッ!!!!」
私は絶叫した。
あんな気持ちの悪いものを見せられてどうして冷静で居られようか。思わず手近にあったウォルフの首にしがみつく。どうにかして欲しかった。何だったら先程言っていたように、この辺り一面を瓦礫の山に変えてくれたって構わなかった。とにかく一刻も早く、あの悍ましい物体を視界から消し去って欲しかった。
だというのに、この駄犬。何を勘違いしたのかゴキゲンな様子でフンスッと鼻を鳴らし「ますたー、シッポモ、触ルカ?」と、まるでラッキースケベに遭遇したかのような浮かれっぷりなのである。違うのだ。君の首に抱きついたのは、そういうハレンチなイベントではないのだ。しかも嬉しそうなウォルフに触発されたのか、お猫様達までも微妙に、にじり寄って来る始末である。元々皆近くにいたのだ。その状態から更に接近されたという事は、今やおしくらまんじゅうの如き毛玉密度なのである。しかも、レオンはタテガミを押し付けるように、ティガは背中の模様を見せ付けるように、ポジショニングしているのが実に小賢しい。ここまであからさまな態度を取られれば、誰であろうと彼らの目論見に気がつくだろう。そう。つまり彼らも触って欲しいのである。このチャンス逃してなるものかと、ウォルフに続くラッキースケベを狙っているのである。本当にどうしようもない毛玉達である。
鳥さんと羽虫との戦いは、ますます激しさを増すばかりだというのに、何なのだろうかこのお気楽さは。
ウォルフは私を首にぶら下げたまま相変わらずゴキゲンだし、ティガは最早鳥さんの戦いそっちのけで背中を差し出してくるし、レオンに至ってはユラユラと身体を左右に揺らし、まるでそよ風にたなびく麦畑のようにタテガミを揺らして見せてくるのである。恐らく壁登りの件で私が言った「タテガミを揺らしながら登る姿はカッコイイ!」というセリフを、彼なりに解釈した結果であろう。壮絶な勘違いである。ああいうのは「壁を登る」というダイナミックな躍動感の中で振り乱すからカッコイイのであって、タテガミ単品をそよそよされてもピンと来ないのである。スポーツでかく汗は素敵だが、寝汗は全然素敵じゃないのと同じ感覚とでも言おうか。しかし、彼のひたむきな姿勢から感じる「ホラ!アナタの好きなタテガミが、こんなにもゆらゆらしてるよ!いつでも触ってOKだからね!」という無言のアピールには、不覚にも少々胸が高鳴った。目的が少々不純なのが珠に瑕ではあるが、こんなに健気な姿を見せられてしまっては、流石に照れずにはいられない。
そう。もちろんこの出来事が平時であったならばの話ではあるのだが。
正直、こんな切羽詰まった状況でそんな姿を見せられても、胸をキュンキュンさせている暇など微塵もないのである。
いいからアレを何とかしてくれ!
鳥さんと激しいドンパチを繰り広げている羽虫を見つめながら、私は心の中で絶叫した。
仮にも親分である私がこれだけ狼狽えているというのに、自称子分共のなんと悠々とした事か。壮絶に取り乱す私の周りで繰り広げられる「シッポ、触ラナイノカ?」「ますたー、タテガミ、ユラユラダゾ」「縞々、見エテル?」という欲望丸出しの毛玉さん同士の駆け引き。引き攣る頬に力を込め歪な笑顔を浮かべると、絞り出すように「そ、そんな事より……!鳥さんを応援してあげないと……!」と訴えてみたのだが、相変わらず彼らは悠々としたままだった。
「鳥、アンマリ、強クナイナ」
「ソウダナ。鳥、アンマリ、強クナイナ」
「攻撃ガ、軽スギル。セメテ、二倍ハ無イト、苦シイナ」
と、けんもほろろな酷評である。
どうやら本気で目の前のバトルに対して興味がないらしい。
「だ、だから応援してあげないと。鳥さん負けちゃったらどうするんですか!」
袖振り合うも多生の縁である。交わした会話は確かに少ないが、見知った人――じゃなくて鳥が負けるところは見たくない。それに万が一鳥さんが負けた後、怒り狂った羽虫がこちらへ突っ込んで来たらどうするのだ。考えたくもない。しかしいくら熱を込めて訴えても、毛玉さん達の反応は芳しくなかった。
「負ケル事ハ、アルマイ」
「ソウダゾ、ますたー。鳥、俺様ヨリモ弱イケド、羽虫如キニハ、負ケナイゾ」
「遠距離攻撃ハ、大禍時トハ、相性悪イカラナ……」
相性が悪い?最後にポソリと呟いたティガのセリフを頭の中で繰り返す。どういう意味なのだろうか。
「あ、あの……。という事は、ここって鳥さんと相性の悪い場所なんですか?」
恐る恐るそう尋ねると
「ソウダゾ、ますたー。大禍時ハ、魔素濃クナル。群レ集ッタ魔物、魔素啜ッテ、スグ回復スル。鳥ミタイニ、遠クカラ、攻撃シテモ、ナカナカ倒セナイゾ」
「ソレニ、アノ鳥、トテモ未熟者。俺様ノ半分クライシカ生キテナイ。アンマリ強クナイカラ、余計時間カカッテル」
「セメテ、後数百年程、修練ヲ積ンデオレバ、モウ少シマシナ戦イニナッタデアロガ、何トモ、無様ヲ晒スモノダ」
「ほ、本当に、鳥さん勝てるんですよね!?」
堪らずそう尋ね返すと、突然の大声に面食らったのか、ギョッとした表情でウォルフが答えた。
「モチロンダ、ますたー。ソロソロ羽虫モ弱ッテクル頃合ダロウ。ジキニ決着ガ付ク」
「でも魔素っていうのを啜って、回復するんですよね?本当に大丈夫なんですか?」
尚も詰め寄り、アゴ辺りの毛を掴んで引っ張ってやると、ウォルフは「グルルルルッ」とゴキゲンに喉を鳴らしながら
「大丈夫ダ、ますたー」
私の顔を見つめたまま、そう言ったかと思うと――急に鳥さん達の方へ視線を飛ばした。そして
「見ロ、ますたー」
その声に導かれるように、再び戦場に視線を戻す。
つい数秒前まで食い入るように眺めていたバトルシーンである。鳥さんが羽矢で一方的に攻撃している状況ではあったが、羽虫もしつこく鳥さんに襲いかかり、非常に心臓に悪い展開を迎えていたはずだった。繰り返すが数秒前までは、確かにそのような戦況だったのだ。だというのに
「え……?」
思わず呟く。
先程まで勢いよく鳥さんに襲いかかっていた羽虫が、何故か空中を不規則に飛び回っているのだ。まるで殺虫剤をかけられたコバエの最期のように無様に、藻掻くようにキリモミする羽虫。対する鳥さんにはこれといって変わったところはなく、彼は何度目かも知れない羽矢を用意すると、壊れたラジコンヘリのような動きを見せる羽虫へと投擲した。
その弾道は相変わらず速く、私の動体視力では発射した瞬間羽虫に突き刺さったようにしか見えなかった。その一撃をくらい、それまで不規則に動き回っていた羽虫の動きが止まる。
「鳥ノ、勝チダナ」
何の感慨もない声音でウォルフが呟く。
そして、まるでその声が引き金であったかのように、動きを止めた羽虫の身体から、翅がもげ、足がもげ、頭がもげ、ありとあらゆる箇所が部品に分解され、暗い大空洞の底へと落ちてゆく。
鳥さんの戦いの終わりは酷くあっけない幕切れだった。
羽虫との激戦を制した鳥さんは、まるで勝利の喜びを表すかようにグルリと壁沿いに大空洞を一周してから戻って来た。そうしてバッサバッサと羽ばたきながらストンとレオンの頭の上に着地する。人間的な価値観でいえば「他人に頭を踏んづけられている」状態であるからして、非常によろしくない気持ちになるのだが、当のレオンが全く気にする素振りを見せないので、取り敢えず私も放置する事に決めた。まぁそれに頭に鳥を乗っけて『お座り』するレオンという構図が、ちょっとだけ可愛く見えたというのも理由の一つである。もちろん口に出して褒めたりはしない。そんな事を言おうものなら、すぐさまにでも三つ巴の「鳥さん争奪戦」が始まるのは火を見るよりあきらかだからである。特にあの大人気ないお兄ちゃんの大暴走が懸念されるのだ。私は心の中でコッソリ萌えるに留めた。
可愛いなぁ……。ちょっと目力がありすぎて怖いけど、可愛いか可愛くないかの二択だったら、間違いなく可愛いなぁ……。等と暢気な事を考えながら観察を始め数秒が経過しただろうか。
って、ちょっと待てよ……。
いつの間にやら当然の如く此花ファミリーに参加している鳥さんに対し、私はようやく違和感を覚えたのだった。
何故、君がここに居るのか。君を子分にしたいという誤解は解けたではないか。それともまだ何か話があるというのか。思わず身構えてしまった私を無視して、どこか興奮したような様子で鳥さんは口を開いた。
「狼、俺様ノ、実力、ドウダッタ?」
なるほど。そういえば鳥さんはウォルフの無茶振りで戦場へ出かけて行ったんだったな。つまりウォルフのコメントが欲しくて、ここに戻って来たということなのか。まるで憧れの先輩の指導を受ける新入生のような雰囲気である。ここはケモノの先輩として、そして無茶振りした元凶として、ウォルフには是非とも気の利いたコメントを捻り出して欲しいものである。しかし
「全然ダメダナ」
あぁ!鳥さんのテンションが物凄い勢いでしぼんでいくのが見える!
余りにも心無いウォルフの一言に、鳥さんは羽をグダーッと下げてバランスを崩したようだった。その上「俺様、頑張ッタノニ……」とか「ヤハリ、俺様、ダメナヤツナノカ……」とかネガティブな独り言まで呟き始めている。不憫な話である。そしてウォルフよ。流石にその返答はどうかと思うのだが。
だってあんなにも頑張っていたではないか。そりゃ毛玉さん達とは違って、どれだけ攻撃しても全然敵を倒せなかったし、1匹倒すのに10分近い時間がかかったので効率も悪かった。ってダメじゃん。私まで貶しちゃダメじゃん。ここは毛玉さん達の親分として、子分達が傷つけてしまった鳥さんのフォローをするのが私の役目なのに。
な、何でもいいから褒めないと。
しかし焦燥感に駆られ、咄嗟に考えたものの「鋭いクチバシ素敵ですね」や「真っ黒い羽素敵ですね」や「立派なカギ爪カッコイイですね」やらと、外見的な褒め言葉ばかりしか出てこないのはどういう事なのか。今の鳥さんが求めているのはそういう褒め言葉ではないはずである。もっと強さというか逞しさというか、そういう腕っ節の方面で、褒めてやらねばいけないのだ。
何かないだろうか。鳥さんの身体能力的な長所が。
必死に考えた結果、一つだけ思い浮かんだので、私はよく吟味もせず思わずそれを叫んでしまった。
「は、ハヤい男の人って素敵だと思いますよ!」
最低である。最低の褒め言葉である。
もちろんそんな意味で言った訳ではないのだが、どう好意的に解釈したところでエロ方面での大暴露にしか聞こえない。しかもバツの悪い事に「ハヤい男」というのは一般的には褒め言葉ですらないのだ。つまり今の私は、自称恋するうなぎパイの忠告をガン無視して「男の股間に関する事について、みだりに口を出しまくった」馬鹿な女というポジションなのである。勝手に自爆しておいて何なのだが、私は今更ながらに赤面した。
幸いだったのは、4匹のケモノさん達にエロい意味が通じていない事だろう。それに、もし仮に『そういう』意味で伝わっていたとしても、むしろ野生動物にとっては素早く遺伝子を残すことが出来るので、それこそ本当に長所と――いや、うん。折角無事に乗り切ったのに、自ら傷口に塩を叩きつける必要もあるまい。
鳥さんは少し顔を上げると、まるで縋るような視線で私を捉えたまま「俺様、良イトコ、アルノカ……?」と非常に哀れみを誘う声音で、そんな事を尋ねてきた。まさかここで「はい。ハヤい男は素敵ですよ」と再び自爆する訳にもいかず、数瞬言い淀んでいると、まるで私の代わりを務めるかのようにレオンが口を開いた。
「確カニ、速サハ、十分スゴカッタゾ」
「俺様、ダメジャナイ……?」
「ウム、ダメジャナイゾ」
「ジャア、ジャア、俺様、チョットハ、スゴイ?」
「チョットダケ、スゴイゾ」
「俺様、嬉シイ。チョット、元気デタ……!」
「デモ、イシュドラ、取リニ行ケナイカラ、役ニハ立タナイナ」
「ッ…………!?」
何故だ。何故わざわざ一回持ち上げてから、叩きつけるように落とした。
素直さとは時に何よりも残酷である。「俺様……俺様……」と呟きながら打ちひしがれる鳥さんに向けて、尚も「オマエ、モウ少シ、強カッタラ、ヨカッタノニ」と言葉のナイフをブッ刺していくレオンに戦慄した。もちろんレオンに鳥さんを傷つけようという意図はあるまい。彼はただ思った事を素直に言葉にしているだけなのだ。しかしながら、この惨状を見せらてしまっては「まぁまぁレオンったら。素直過ぎて困っちゃうわ。ウフフ」では済ませられまい。
私は思案した。鳥さんを元気づける方法が、何かあるはずである。
ウォルフの無茶振りに付き合わせ、ウォルフの心無い一言で心を抉り、レオンの素直な褒め言葉でちょっとだけ浮上したものの、その直後、急転落下の大ダメージを与えてしまっている。本当に我が子分達がご迷惑をお掛けしまくっているのである。最早自分の足で立つ元気もないのかレオン頭の上で、フラフラし出した鳥さんを見て、私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
しかしそう簡単に妙案が浮かぶはずもなく。
取り敢えず今持っている情報を整理するため、ゆっくりと目を瞑った。
鳥さんが凹んでいるのは、ウォルフとレオンから実力をコキ下されたからである。つまりこの場合「鳥さんが強くなる」というのがベストな解決方法なのだが、それは私にはどうしようもない領域の話である。そもそも実力というのは一朝一夕に上がるものではない。よく探せば「飲むだけで強くなる!」みたいな薬があるのかもしれないが、過去「飲むだけで痩せる!」という薬に手を出し見事に失敗した私から言わせてもらば、そんなものは弱い心が見せる唯のマヤカシである。つまり、強くなりたいなら地道に努力するしかないのである。
と、ここまで整理したところで、私は先程見た鳥さんの戦い方を思い出した。
まるで瞬間移動かの如きスピードの飛翔。そして羽矢を使っての遠隔攻撃。高速で襲ってくる羽虫の体当たりを軽やかに避けていたところ見るにバランスも素晴らしく、動き回る敵に羽矢のほとんどを命中させていたところから察するに狙撃も得意そうである。
まるで毛玉さん達とは180度違った戦い方だった。基本的に毛玉さん達というのは、敵に飛びかかって牙なり爪なりで攻撃する、いわゆる近接攻撃担当ばかりなのである。常時聖なるパワーを垂れ流しているティガについては少々事情が異なるかもしれないが、そのティガでさえ敵を攻撃する時は肉弾戦しか行わない。
鳥さんを馬鹿にする訳ではないが、遠距離からチクチクとダメージを蓄積させるようなセコい戦い方ではなく、「当たれば勝ち」というか「一撃必殺」というか、とにかく鳥さんの羽矢等では比べ物にならない程、一撃が重いのである。一般的にゲームであれば、こういった一撃の重いヘビー級のキャラはその代償として、動きが鈍かったり、命中率が酷かったりするのだが、うちの可愛い子分達に限っては、動きは目で追えない程速いし、攻撃を避けられたところ等見たこともないくらい正確無比に敵にカジりついている。まさに正真正銘の接近戦のプロフェッショナルばかりなのである。少々小回りが利いて器用な立ち回りが出来る程度では、到底埋まらない圧倒的な実力差があるのだ。
つまり、毛玉さん達の戦い方から、何かを学ぼうと思っても、それは無理だって事よね……?
柔道の稽古を積んでもクレー射撃の実力が上がらないように、毛玉さん達と鳥さんとでは、あまりに戦闘スタイルが違い過ぎていて全く触れ合う点がないのだ。となると、鳥さんは鳥さんで、彼の持つ長所を生かした「戦い方」を模索する必要がある。そしてその「戦い方」こそ、鳥さんが強くなるための足がかりになるのではないだろうか。
鳥さんの攻撃方法は、見る限りでは例の羽矢だけである。一瞬で数十本の羽矢を出現させ、空間に固定し、狙いを付けて放つ。まるで弓そのもののような攻撃方法である――と、ここまで考えたところで、私は少しだけ違和感を覚えた。
そういえば鳥さんって……。
羽矢を放つ時、大抵遠くまで飛んで行ってたような……。
羽矢を放ってから飛び立つのであれば何も不思議ではない。しかしそうではなかったはずなのだ。確か鳥さんは、空間に羽矢を固定させたまま『自分だけ』遠くへ離れていたのだ。羽矢を弓に準えるとしたら、これはヒドく不自然な事だった。だってこの順番だと、弓に矢を番える、弓矢を置いて的場から離れる、その後残された弓から勝手に矢が撃ち出される、という流れになってしまうのである。これでは弓というよりむしろ「発射ボタン付きのミサイル」とでも例えた方がしっくりくるのである。
いや、あながち間違っていないのかも……?
まるで魔法のように次々と羽矢を投擲していたため、知らず知らずの内に私は「羽矢=魔法のようなもの」と勘違いしていたのかもしれない。通常よくあるゲームでの「魔法」といえば、火の玉を飛ばすファイヤーボールなんかが有名である。大抵の場合こういった魔法というのは、呪文を唱える、手のひらや杖の先に火の玉が現れる、敵へ目掛けて火の玉が飛んでいく、というのがお決まりの流れである。つまり言い方を変えると「火の玉を作り出す」事と、「敵へ向かって射出する」事とを切り離せない事が多いのだ。その印象が強くて、ついつい羽矢も『そういうもの』として認識してしまっていたのだが、そう仮定すると、鳥さんが飛び去った後もしばらく空中に固定されていた羽矢の説明が付かない。むしろ「羽矢を空中に固定する」事と、「固定した羽矢を投擲する」事を切り離す事が出来ると考える方が自然ではなかろうか。
つまり「発射ボタン付きのミサイル」である。
だとしたら、もしかしてだけど、ものすごく手っ取り早く鳥さんは強くなれるのではなかろうか……?
戦闘中の鳥さんを見て、ウォルフがこんな事を言っていた。
「攻撃ガ、軽スギル。セメテ、二倍ハ無イト、苦シイナ」
もし羽矢が本当に「発射ボタン付きのミサイル」と同じ性能であるならば、もしかして出来るのではなかろうか。
単純な話である。要するに、羽矢を作れるだけ作って空中に固定させ、たまりにたまった羽矢の「発射ボタン」を一斉にポチッとすることが出来るのならば、二倍はおろか十倍でも、もしかしたら百倍でも、威力が上がるのではなかろうか。
恐らく出来ないとは思うのだ。だってこんなにも単純な方法なのである。これまで鳥さんが行ってきたであろう試行錯誤の中で、こんな可憐な乙女ですら思いつくような戦法を試していないとは考えにくい。そして試した結果、タメ撃ちが出来るのであれば、それを活用しないハズがないのである。故に、極めて高い確率で、この案は「昔、試したけどダメだった」と突き返されてしまうだろう。
しかし……しかしである。どうもこの迷宮に生息するケモノさん達は、どこか抜けているというか、余りにも生まれ持った資質が高すぎて、努力やら試行錯誤やらを軽視しているというか、物凄く失礼なもの言いになってしまうが、そもそもそういう方法を思いつくだけの知恵が足りていないというか、たまにこちらがビックリするような常識外れな言動をとるのである。
となると、念の為、本当に念の為、鳥さんに「タメ撃ち」の事を打診してみてもいいんじゃないだろうか?
正直言って「親分として、子分の尻拭いをしちゃるけぇのぉ!」と啖呵を切ったはいいものの、全く良い案が思いつかず、苦し紛れの提案だったのは認めよう。このまま何のフォローも出来ずに、おめおめと引き下がれるかと躍起になっていたのも認めよう。つまり私としてはダメ元――いや、確実にダメであろうと確信した上での提案だった訳なのだが……。
遙々と大空洞を飛び回り、そこかしこに「羽矢」改め「羽ミサイル」をばら蒔きながら、鳥さんが吠える。「ィィィヤッフゥゥゥゥゥッッ!!」と。
まるで強風に攫われた桜の花びらの如く大空洞を埋める羽ミサイルの群れ。それぞれが燐光を放っているため、それはそれは桜に負けず綺麗な光景なのだが、ただ桜の花びらと異なりそれらは全く微動だしないのである。そう。大空洞を満たす羽ミサイルのほとんどは『空間に固定された』ままなのであった。右を見ても羽ミサイル、左を見ても羽ミサイル、上を見ても、下を見ても、斜め上も、斜め下も、とにかく羽ミサイルだらけなのだ。
私はその幻想的とも言える光景を、ただただ呆然と眺めていた。
もちろん考える事は一つである。
ちょっと上手く行き過ぎなんじゃないですかね……。
そう。ついつい毛玉さん達の強さに目が眩み、判断を誤ってしまったが、やはり鳥さんも超強かったのである。
今や大空洞は、タメ撃ちを完璧にマスターした鳥さんの独擅場なのだった。
やはり宝石というのは小粒であろうともキラリと美しい。
文章量も増えてきましたで、第一話の前に「目次」のようなページを投稿しようと思います。
『この話はこんな感じですよー。こういう感じのケモノ達が出ますよー』というゆるーいガイドマップですので、ここまでお読みくださった皆さんには今更な内容になるかと思います。スルーよろしくお願いしますorz
2015/3/22 字下げ修正




