1、イケメンと出会う前
バシンッ!
音と共に背中に痛みが走った。
「おはよー!真歩!」
「・・・おはよう、琴音。痛いよ・・・・」
背中をさすりながら痛みを訴える。元気すぎるほどに素敵な挨拶をしてくれたのは中学からの友達の水相琴音だ。相変わらず笑顔が眩しい。地味な私には眩しすぎる。
朝から元気ないねえ!とバシバシ背中を叩いてくるのだがそろそろ骨が砕けそうなのでやめていただきたい。痛い。強くて声もだせやしない。痛いよ。
私が苦しんでいるのに気付いたのか叩くのをやめた彼女は何かを思い出したように大げさに手のひらをあわせた。
「もってきたよ!例のブツ!」
怪しげな笑顔と共に発せられたその言葉に、私は目を輝かせた。
そう、例のブツとはアレである。皆大好き、「同人誌」である!!
今日は琴音にいらなくなったという、私の大好きな漫画の二次創作BL本をもらう約束をしていたのだ。大好きなアニメとはイケメンがテニスとはいえないテニスをして熱い戦いをみせてくれるとってもおいしい某漫画である。この日をとても楽しみにしていた。
琴音とは帰る方向が同じなので、放課後に受け取ることにした。お楽しみは最後にとっておくタイプの私。今日も一日頑張れそうだ。
琴音と廊下で別れたあと、自分の教室に向かった。教室に入りクラスメイトとあいさつを交わした後自分の席につき早く放課後がこないかと胸を躍らせた。
ーー放課後
待ちに待った放課後だ。私は血に飢えた獣のごとく荷物をまとめ教室を飛び出した。待っている。私の嫁達が待っている。
正確に言えば待っていたのは私の方なのだが、まあそんなことはどうでもいい。私はにやける顔を表情筋を駆使して抑えながら待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせた場所は人通りの少ない三階の北校舎にある技術室だ。この教室は機材等がおかれており、美術や学園祭などの時以外はほぼ使用しない。生徒は勝手に持ち出すことを禁止されているのでここに用はないのだ。それを良いことに私たちはよくここで同人誌の売買や貸し借りをしている。
技術室前につくと琴音が待っていた。こちらに気づいたらしく鞄の中を漁りだした。
「はい!ブツだよ!」
差し出されたのは袋に入ったブツ。丁寧に中が透けないように色の濃い袋に入れてくれていてかなり助かる。
「ありがとおおおお琴音ええええ!!!」
ヒャッホオォゥと踊り狂う私を見て満足な笑顔を浮かべた琴音は、彼氏が待っているからと小走りで帰っていった。
一緒に帰ろうと思って放課後選んだのに、チッ!!リア充かよ!!どうせ私はソロ充だよ!!と心の中で愛をつぶやいた後、私も帰るべく門へ向かった。