Ⅸ
「夏海が作詞してもいいですか? いいですよね」
何を思ったか、夏海はそんな提案をしてくる。でもそれってさ、俺が決めることじゃないんじゃね。
「自分で歌う歌ならね。ただ、俺のはやめて」
それに、夏海が作った歌とか恐ろしさしか感じないから。もう、勘弁して下さいって感じ。
作詞することはいいんだよ? ただ、俺に提供しないで欲しいってだけで。
「どうしてですか! では、こんなのどうでしょう。夏海の歌はお兄ちゃんが作って、お兄ちゃんの歌は夏海が作るんです。雇わなくて済みますし、作詞の才能を見ることも出来ます。それにファンたちも最高に喜ぶと思いますよ」
メッチャいい提案した。さすがだろ。
みたいな感じにドヤ顔を決めている夏海。でもさ、俺はそんなのしないよ? 作詞とか絶対無理だし。作っても、歌ってるの聞いたら笑っちゃうもん。
「はい、少なくともあたしは大喜びします。冬樹さんとか、作詞みたいなのメッチャできそうですもん。夏海様により描かれた詩というのも見てみたいですね」
ファン代表のような感じに、ハイテンションな横島さんは言う。
でもメッチャできそうとか言われたって、やったことないもんそんなの。そんなんできないもん。
「でしょ? 夏海天才ですよね」
そんだけ言われたって、俺は絶対やんないから。
夏海が描いた歌詞で歌うとか恐怖だし、自分が描いた歌詞を歌われるとか恥ずいし。ほんと、シンガーソングライターとかは神だと思う。
「却下、勘弁して」
二人のハイテンションについて行くことは諦めよう。
ってことで、宿題やりながらも却下させて貰った。だってさ、恥ずかしくてしょうがないでしょ? 恥ずかしくなくても、夏海がまともなの描く訳ないし。
「何でですか! 最高にいいと思ったんですけど」
本気で最高にいいと思っちゃってるの? 何でとか聞くまでもないでしょうよ。
「嫌だ。絶対無理」
「何でそんな我が儘言うんですか! 夏海の最高の案に対して失礼でしょう」
絶対却下だからもう一度言ったのだが、かなりの即答で夏海に文句を言われてしまった。
いやいや、夏海の最高の案て自分で言うなし。失礼でしょうとか自分で言うなし。てか我が儘じゃないし。
「正式にそう頼まれたなら仕方がない。だけどさ、夏海に頼まれただけでしょ? そんなのさ、我が儘とか言われたって困るんだけど」
でもこれだとやっぱ、俺が子供みたいな感じだよね。
いやまあ、テンションを見る限りは夏海の方が子供だけどさ。でも言ってること、俺が本当に我が儘みたいじゃん。




