Ⅷ
「で? まだ何も決まってないんだよな」
歌とか実際に貰った訳じゃないし、まだ気が早いんじゃないかと……。
「お兄ちゃんはカッコいいし可愛いので、すぐに決まると思いますよ? それにどんなに無能で使えない奴がお兄ちゃんの魅力を引き出してくれなくても、お兄ちゃんなら絶対大丈夫ですもん。だってお兄ちゃんがこの世のものとは思えないほどに美しいから、誰もがお兄ちゃんのCDなんて言えば買うに決まっていますもんね」
ハイテンションで夏海はダーッと喋った為、途中から耳を閉ざしていて聞いていなかった。
何か夏海はちょっと言い過ぎな気がするんだよ。
褒められるのは嬉しいよ? 嬉しいんだけどさ……。
「確かに冬樹さんのCDなら、発売日に十億枚は売れて当然でしょう。むしろ持っていない人がいたら、それはもう生物と判断すべきではないものでしょうね」
ここも可笑しい気がする……。
まず、夏海と話が合っちゃってる時点でダメなんだよね。
「六十億人以上も生物じゃなくなるんだね」
あえて、十億枚売れるってところはツッコまないでおいた。
だって十億枚なんでしょ? で、一人で二枚とか買う人もいるかもしれないじゃん。何がしたいのか分からないけど。
ってことは、六十億人以上生物と判断すべきじゃないと。
「子供は仕方ありませんもん。親と子供で一枚しか持っていなくても、それだったら特別に許可します。それに可哀想にも、売って貰えない場所に住んでいる人だっていますから。だから発売日の時点では、少なすぎるのは分かってますが十億枚なんです。売り切れになってしまうことだって、有り得ないとは言えないじゃないですか」
なるほど、そんな細かいところまで考えていらしたのか。
でも特別に許可しますって。横島さんの許可がないと生物じゃないの? やっぱり夏海並みだな……。
こんなの二人の相手って、俺凄くない? 二人とも可愛いのは確かだけど、羨ましがられると困る。
大変だよ? 邦朗にも体験させてやりたいくらいだわ。
「お店が限界まで仕入れていても、お兄ちゃんだったらそれ以上に売れてしまいますからね。お兄ちゃんの人気を見れば、売り切れも有り得ることでしょう」
二人で楽しく語り合っている。えっと、俺はどうすればいいのだろうか……。
夏海みたいに自画自賛する気にはなれないし、でもここにただいるのもきついし。でも楽しそうに話しているのをやめさせるのもあれだし。
唯織さんやアリスちゃんとってのも疲れるけど、この二人とってのは疲れるな。




