Ⅲ
「夏海も着いて行きます。ダメですか? ねえ、お兄ちゃん」
まあ別に、着いて来たいってんなら着いて来てもいいか。どうせ関係ないだろうし。
「いいよ、勝手に着いてきな」
ちょっと冷たい言い方だった。自分で反省するくらいだったのだが、それでも夏海は喜んでくれた。
「お兄ちゃんのお部屋、入れて貰うの久しぶりじゃありませんか? お兄ちゃんったら、夏海の部屋に来るくせに部屋に入れてくれないんですもん」
そうかな。そんなつもりはなかったけど……。
「来るくせにって、嫌なんだったら別にいかな」
「来て下さい! 夏海はお兄ちゃん大好きです!」
ふざけて俺が言おうとしたのだが、言い終わる前に夏海は叫び出してしまった。
そして抱き締めてくる。しかしそれは予想通りだったので、俺はしっかり華麗に避けさせて貰った。今超綺麗に避けれたんだけど。自分でもそう思うレベルだったね。
「ちょっとぉ! お兄ちゃん酷いです。ほんとはお兄ちゃんも夏海のこと大好きなんでしょう? もっと素直になればいいと思います」
確かに夏海のことは好きだが、それはあくまで妹としてだ。
兄が妹を大切に思うのは当然である。だがしかし、妹と兄でいちゃつくのは当然ではない。非常識で、一般的には考えられないようなことなのだ。
「なつみーだいすきー、わーわー」
でも夏海が五月蝿いので、適当に適当なことを言っておいてあげた。
「もっと気持ちを込めて言って下さい。だってそれは、お兄ちゃんの本心の筈ですから。だってお兄ちゃん、演技はとっても上手ですもん。演技じゃないから、そんな言い方なんですよね? 可愛い夏海をからかう為なのでしょう? そうに決まっています」
いやいや、自分で可愛いはないでしょう。夏海が可愛いのは確かだが、自分で可愛いという人は好きじゃない。
まあそれも夏海はわざとやっている。夏海は自分のことを可愛いと思っていない。とっても可愛いのに、どうせまだ夏海なんてとか思っているんだろう。
だから否定したりはしない。夏海は一人で傷付いちゃうから……。表面上はずっと笑顔だけど、傷付きやすい繊細な心の持ち主だから……。
「うんうん、そーだねー」
適当なことを返しながらも、俺は先にやっておきたい宿題を片っ端から手に取った。
「お兄ちゃんったら、また照れちゃってぇ。可愛いんですからぁ。大好きです、大好きですぅ。永遠にお兄ちゃんのことを愛し続けることを誓います」




